ツンデレ同盟の企み
続きでございます。
-side 田島亮-
現在時刻は12時ジャスト。いつものように休日昼起床を果たした俺は、ちょうどいい具合に腹も減ったので、適当に友恵に昼飯を作ってもらおうかと思い、リビングの扉の前まで来たのだが......
「ん? 何か良い匂いがするな」
何やら扉の向こうから甘い匂いがする。
「ん? なんだ? 友恵のやつ、まだ飯も食ってないのにお菓子作ってるのか...?」
あー、うん。でもなんだろう。めっちゃ良い匂いだ。昼飯はまだだけど、なんか普通にお菓子食べたくなってきたわ。
というわけで俺は友恵が作っているであろう菓子をつまみ食いするべく、リビングの扉を開けて中に入ることにした。
「やあやあ、おはよう友恵さ......ん!? な、なんで咲がウチに居るんだ!?」
「あ! お、おはよう亮! そ、その! お邪魔してますっ!!」
え、なんなの。なんなのこの光景。なんでウチの台所にフリフリピンクエプロンを着た幼馴染が居るの。そして咲がエプロンを着てるのに、なんで友恵はエプロンを着てないの。どうせならエプロン着て2人で並んでてよ。どうせなら2人で俺の目を幸せにしてくれよ。
「なーにが、おはようよ。もう昼だっつーの」
まるで姉妹のような2人を眺めて和んでいると、突然友恵の辛辣な声が聞こえてきた。どうやら我が妹はグータラ兄貴であるこの俺に少々呆れているらしい。
「え、てかなんでお菓子作りなんかしてんの。って、うわ。すごい量だな。お前らどんだけ作ったんだよ」
いつも田島家が食事をとっているテーブルの上には、クッキーやら、マフィンやらが大量に皿の上に置かれて並べられている。一体何事であろうか。まさかお菓子パーティーでもするつもりなのだろうか。
「まあ、朝からずっと作ってるからねー。私は十分おいしくできてると思うからもう作らなくていいと思うんだけど、咲さんがなかなか味に納得できないらしくて」
「うっ、ご、ごめん、友恵ちゃん......で、でも、文化祭のお店で出すなら出来る限りおいしくしたくて......」
「あはは、相変わらず咲さんは真面目だね。まあ、私は咲さんが納得できる味になるまで付き合うから。時間とかは全然気にしなくていいよ」
「う、うん! ありがとう、友恵ちゃん!」
あら、やだ。なんて尊いやりとりなのかしら。ウチの妹ったら随分イケメンなことを言うじゃないの。一体誰に似たのかしら。
「よし! じゃあ、咲さん! もうちょっとだけ頑張ろうか!!」
「はい! よろしくお願いします、先生!!」
「あ、あのー、すまん。水を差すみたいな感じになって大変恐縮なんだが、お二人さんはこの大量に余ってる菓子の処理はどうするつもりなんだ?」
「「あ、それは......」」
「あー、うん。OK、とりあえず考えなしに作りまくったってことだけは分かった」
「「うっ.......」」
はは、この2人面白いな。2人で同時に肩が『ビクっ!』ってなってやんの。息ピッタリじゃん。なんかかわいいな、オイ。
「あー、まあ、分かったよ。じゃあ、とりあえず3人で食うか。3人で食えば、まあ全部完食できるだろ」
「な、なんかごめんね、亮......私のせいで無理矢理お菓子食べさせる感じになっちゃって......」
「いや、気にすんなって。腹が減ってたからちょうどいいくらいだ」
むしろタダで女子の手作り菓子を食えると考えれば、これはご褒美ではなかろうか。
うーん、でもまだメシ食ってないからな。さすがにメシを食わずに菓子で腹を満たすのは抵抗あるし、健康上よろしくない。さて、どうしたものか。
..........あ、そうだ。良いこと思いついた。
「なあ、友恵、咲。お前ら昼飯はまだ食ってないよな?」
「うん、私も友恵ちゃんも食べてないけど......急にどうしたの?」
「あー、いや、もしメシ食ってないんだったら、そろそろ食った方がいいんじゃないかと思ってな」
「あー、それは確かにそうかもね。でもご飯は誰が作るの? そ、その、私は友恵ちゃんみたいに料理が得意じゃないから遠慮したいんだけど......」
「うーん、私も咲さんとぶっ続けでお菓子作ってて疲れたしなぁー。今からご飯作るのはちょっと......」
「ふっふっふ。お二人さんよ。俺は別に君たちに昼飯を作ってもらおうとしてるわけではないぞ?」
「「......え?」」
はっはっは、2人とも目を丸くしてキョトンとしやがって。どうやら君たちは俺が全く料理を出来ない思っているようだな。
ああ、確かに俺は料理が上手いというわけではないさ。でもな、俺には簡単かつ、美味く作れる得意料理が1つだけあるんだよ。
「よし、まあとりあえず2人は台所を開けてくれ。今日の昼飯は俺が作るからよ。まあお前らはソファーにでも座って休憩しててくれ」
「......え!? 亮って料理できるの!?」
いや、そんなに驚かなくてもいいじゃん。
-side 市村咲-
田島家の台所から聞こえてくる『ジュージュー』というフライパンの音。さらに香ばしい匂いも台所から少し離れている私たちの方まで漂ってきていて......今この瞬間、私の食欲はチャーハンを作っている亮に刺激され続けている。
「ていうか......亮って料理できたんだ。私、全然知らなかったよ」
亮に勧められてソファーに座った私は、今にも空腹で『グーッ』と鳴ってしまいそうな自分のお腹を抑えつつ、隣に座ってる友恵ちゃんに語りかけた。
「まあ、チャーハンしか作れないみたいんだけどね。それに普段は母さんか私しかご飯作ってないし。まあ咲さんが知らないのも無理はないかもね」
「な、なるほど......」
と、友恵ちゃんに返答しつつ、私はチラッと台所に居る亮のことを見てみる。
「......」
「ふふ、料理してる兄貴はカッコよく見える?」
「え!? い、いや! それは、その......う、うん。まあ、それなりに?」
「それなり、ね。ふふ、咲さんったら相変わらず素直じゃないんだから」
「えぇー、友恵ちゃんにだけは言われたくないよぉー」
「え? なんで?」
「だって友恵ちゃんも本当はお兄ちゃんが大好きなのに普段はツンツンしてるじゃん。ふふ、私知ってるんだから」
「は、はぁ!? べ! べべべべ別に私は兄貴のことなんか全然っ!!!!」
「おーい、友恵ぇー。何デカイ声出してんだー? なんかあったのかぁー?」
思わず大きくなってしまった友恵ちゃんの声に反応して、亮が台所から友恵ちゃんに呼びかける。
「おーい、友恵ぇー。まさかとは思うが、もしかして咲と喧嘩でもしてるのかぁー?」
「う、う、うっさい、バカ兄貴! べ、別になんでもないから! 兄貴は料理に集中しなさいよ!!」
「え、なんで俺キレられてるの? 俺なんもしてないのに。さすがにちょっとヘコむんだけど。ああ、分かったよ、もうチャーハン出来るまで黙っとくよ......」
「え、あっ、いや、その、別にそういうつもりじゃなくて......う、うぅーー......」
すると友恵ちゃんは『またやってしまった』といわんばかりの表情を浮かべ、力ない声を出しながら頭を『コツン』と私の肩に乗せてきた。
「ふふ、友恵ちゃんって本当にかわいいよね。私の妹にしたいくらいだよ」
私は友恵ちゃんを慰める意味も込めて、彼女の頭を撫でながら言った。
「ふふ、私ももっとかわいくなれれば良いんだけどね...」
「いや、なに言ってんの。咲さんはもう十分可愛いじゃない。それ、私以外の人には絶対言っちゃダメだからね? 多分イヤミだと思われちゃうから」
「そんなつもりはないんだけどなぁ...」
「咲さんがそのつもりじゃなくても周りはそう思っちゃうの! 咲さんはもっと自分に自信を持たなきゃダメなの!!」
「でも......亮の周りに居るのは皆かわいい子ばっかだし......私なんて、そんな......」
あぁダメだ。私、ネガティブになっちゃってる。亮のことが1番好きなのは私だっていう自信はあるし、絶対誰にも負けないつもりだって思ってきたはずなのに。もう誰が相手であろうと弱気にならないって決めたはずなのに。
はぁ、やっぱり中学生の時に失敗しちゃったのがトラウマになってるのかなぁ......
と考えて、少し憂鬱になっていた時だった。
「よし、咲さん。ちょっとこっち来て。今から私が咲さんに自信を持たせてあげる」
突然私の手を取ってソファーから立ち上がった友恵ちゃん。なにやら謎の笑みを浮かべてるみたいだけれど......一体何を考えてるのかしら。
「と、友恵ちゃん? 私に自信を持たせるって、一体何を......」
なんとなく不穏な気配がしたので私は友恵ちゃんに、そう尋ねてみる。
すると彼女は目を輝かせながら私に向かって、こう言い放った。
「ふふ。今から私が咲さんを、とびっきりかわいくメイクしてあげるから。一緒に兄貴を驚かせちゃお♪」
「......」
えぇ!? メ、メ、メイク!? ていうか、そもそも友恵ちゃんってメイクできるの!?
なお、亮はチャーハン作りに集中し過ぎていて、このやり取りには気づいていない模様。