姉のような、妹のような
今回で100話目でございます。
ここまでこられたのは間違いなく読者の皆様が居てくださったおかげです。
これからも『記憶喪失から始まる青春』をよろしくお願いします。
それでは続きをお楽しみください。
-side 田島友恵-
土曜日。文化祭準備期間に入って以来、初めて迎える週末である。今日は珍しく部活も無いし、お昼までのんびりしようかなー、なんてことを考えつつ、現在私はベッドの上でゴロゴロしながら暇を持てあましている最中だ。
そんな、柄にも無いことをしている時だった。
「え、誰だろ...」
まだ休日の8時であるにも関わらず、田島家のインターホンが鳴った。
「うーん、この時間に来るとしたら咲さんあたりかな」
まあ、誰が来ていようが私が一階に降りて玄関まで行くしかないんだけどね。母さんはパートに行ってて家に居ないし、グータラ兄貴はどうせ昼まで寝てるだろうし。
「さて、ちょっと面倒だけど、降りるとしますか」
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「お、おはよう、友恵ちゃん...!」
やっぱりというか、予想通りというか。玄関の扉を開けて私の目の前に現れたのは、お隣の家の娘さんだった。
「あー、おはよう咲さん。どしたの? こんな朝早くから。兄貴はまだ寝てるけど?」
「い、いや、今日は亮に用があるわけじゃなくてね! そ、その......今日は友恵ちゃんにお願いしたいことがあって!!」
「ん? 私にお願い? まあ、私にできることならなんでも聞くよ」
まあ十中八九、恋愛相談っていうパターンだと思うけど。
「え、えっとね、私ね!」
うんうん、咲さん分かってる分かってる。そんなに緊張しなくても大丈夫だから。兄貴がヘッポコだってことに変わりはないけど、私は咲さんの恋を応援してるよ。だから遠慮せずに何でも言ってみて。
なーんてことを考えながら私は1つ年上の可愛い幼馴染のことを微笑ましく眺めてたんだけど......
「き、今日は友恵ちゃんにおいしいクッキーの作り方を教えて欲しいの!!」
どうやら今日の咲さんは恋愛モードではなく、お料理モードになっていたようです。
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田島家のリビング内。その一角の、大きくもなく小さくもないウチの台所にて。
「せ、先生! 今日はよろしくお願いします!!」
今、私の隣にはフリフリのピンク柄のエプロンを着た咲さんが立っています。どうやら気合は十分のようです。
「ねぇ、咲さん? まあクッキー作りを教えるのは全然構わないんだけどさ、どうして今日にしようと思ったの?」
「あ、いやー、ほら、最近って皆文化祭の準備をしてるじゃない? で、私のクラスはコスプレ喫茶にすることになってね...」
「え、咲さんってコスプレするの?」
「ち、違うよ! コスプレなんて恥ずかしいから私は断ったの!! ま、まあ、断ったから厨房係になっちゃったんだけどね.....」
「あー、なるほど。だから文化祭のお店で出すメニューを作れるようになるために、私に頼ってきたってことね」
「そ、そういうことです...」
ふむふむ、なるほど。まあ咲さんらしい理由ではあるわね。
「でも去年のバレンタインでは兄貴に手作りチョコクッキーあげてたよね? 作ろうと思えば自分で作れるんじゃないの?」
「い、いや、アレは全然納得できる味じゃなかったの! でもどうしても2月14日の間に渡したかったから去年は泣く泣く、あのクッキーを亮に渡すしかなくて......」
あー、だから去年はあんな夜遅くにウチのポストのとこまで来てたのね。まあ、ポストに入れようとしてるところを偶然兄貴に見つかっちゃって、すごく恥ずかしい思いをしたみたいだけど。
「わ、私不器用だからさ。自分で何回やっても全然納得できる味にならなかったのよね。だから実はちょっと後悔してるの。もしかしたら亮の口に合わなかったんじゃないか、って」
ねぇ、咲さん、ちょっとやめて。その『恋する乙女オーラ』は私には眩しすぎるの。なんか見てるこっちがムズ痒くなってくるの。
「ふふ、ごめんね友恵ちゃん。なんか暗い話になっちゃって」
「いや、全然謝ることなんてないって。ていうか、そもそも兄貴は咲さんのクッキーをメチャクチャ喜びながら食べてたんだから。口に合わなかったなんてことは無いんだよ」
「ほ、ほんとに!?」
あらやだ、なんて眩しい笑顔なのかしら。なんか『パァーッ!』ていう擬音が顔から出てきそうなくらい明るい顔してるじゃないの。
「ね、ねぇ、友恵ちゃん、それ本当なの!?」
「ほんとほんと。大体さ、人から手作りで贈り物を貰って嬉しくない人なんて居ないんだよ。別に味なんて関係無いの。気持ちがこもってればそれだけで嬉しいのよ。むしろ上手くできていない方が『味』があっていいんじゃない? 手作りなんて完璧じゃないくらいがちょうど良いんだよ」
......と、私は思う。
「そ、そっか! 確かにそうかもしれないね! そっかそっか! 良かった...喜んでもらえてたんだ...!」
ふふ、咲さんったら相変わらず健気で可愛いわね。兄貴の前でもそんな感じでもっと素を出せばいいのに。
「よし、じゃあ咲さん。ガールズトークはこの辺にして、そろそろお菓子作り始めよっか」
「うん! さすがに文化祭のお店で出すクッキーを下手っぴに作るわけにはいかないもんね! じゃあ、先生! 今日はよろしくお願いします!!」
そう言いながら、ピシッと私に敬礼をしてきた咲さん。さながら、その様子は新人自衛官のようだ。まあ自衛官にしては可愛すぎる気もするけれど。
「よし、任された!!」
そして私も咲さんの気合いに乗せられ、ピシッと敬礼を返す。こんなのは私の柄じゃないんだけどね。まあ咲さんと居る時くらいは少しふざけてもいいんじゃないかしら。
「「あはははは!!!」」
そして互いに背筋を伸ばして敬礼をしているのがなんだかおかしくなった私たちは、気づけば寝ている兄貴のことなど気にもせずに、大きな声で笑い合っていた。
--さあ、楽しい『お料理教室』を始めましょうか。
亮「え!? 100話目なのに出番無し!?」
次回は友恵&咲回の後編です。
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