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骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第五章・暮らしのアイディア改革
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快適な暮らし・8

「さてと。」


男の所持品の中にあったロープで、全員の手を雑に後ろ手で縛り上げた。


「とりあえず、武器を全部没収しよう。」


手分けして2人ずつ所持品を漁り、あれやこれやさまざまな武器を探り出す。

暗器を含めると、かなり豊富なラインナップが並んだ。けっこうな手錬みたい。

まあ、もう寝てるけど。


「じゃあ、これ全部溶かしちゃおう。タカネ、頼める?」

「分かった。…あ、ちょっと待って。」

「?…あ、うん。」


何か思いついたらしく、タカネはほんの少しの間、目を閉じていた。

待つこと、およそ10秒。


「お待たせ。」

「どうするの?」

「ちょっと下がって。」


言われるまま、あたしとリータは少し後ろに下がった。


「じゃあ、やってみるね。」


その言葉と同時に、タカネの2mほど前方の空間に大きな水の球が出現した。

ほぼ無色透明だけど、かすかに黄色がかっているのが判る。


「何これ?」

「近づかないで。気をつけてね。」

「え?」


そんなヤバいものなの、それ?


「何の球?」

「10倍濃縮版の竜の遺産(ジアノ・レガシー)よ。」

「…は!?」


そんなぶっちぎりでヤバい代物かよ!!

よく見ると、地上1mほどの高さに浮いているにもかかわらず、真下に生えている

草が黄色く萎れ始めている。ヤバい。これ、めっちゃ怖い。

って言うか…


「あなた、成分の凝縮はできないんじゃなかったの!?」

「できないのは、鉄分みたいな固形分子の凝縮と変質よ。液体成分を濃縮したり

 希釈したりは機能の中にある。場合によっては、肉体の修復に必要だからね。」

「…分かったような分からないような話だけど、そういう線引きなのね。」

「そう。だから、消化液の濃度を変えるのも可能。この10倍が限界だけど。」

「あのう、それで…」


置き去りにされたリータが、遠慮がちに割って入った。


「すっごい危険な液体だってのは判るよ。これだけ離れてもちょっと目が痛いし。

 で、それを出してどうしようと?」

「ああうん、ゴメン。」


ちょっと恥ずかしそうに言ったタカネは、積み上げられていた男たちの武器から

大振りなダガーナイフを選んで手に取った。それを、ポンと山なりに放り投げる。

ねらい過たず、投げられたそのナイフは、中空に浮かぶ危険な球に吸い込まれた。


ジュッ!


まさに一瞬だった。

触れるか触れないかの刹那、ダガーナイフはまるで霞のように消えてなくなった。

仮にも金属でできていたはずなのに、その消滅速度は常軌を逸していた。


怖い!!


「うん。思った以上よね。」


完全にドン引きしているあたしたち2人を横目に、タカネは満足そうだった。

どうするつもりですか、タカネさん?


まさか、これを使って6人を…


怖いぃ!!


「じゃあ、包丁を。」

「え?…あ、ハイ。」


言われるまま、あたしはまな板の上にあった青光りする包丁をタカネに手渡す。

迷いなく、タカネはそれをダガーナイフと同じように放り投げた。


ジューッ!!


今回は、盛大に煙が上がった。そして、ジアノドラゴンのツノで作られた包丁が

ぐずぐずと溶けて消滅していく。

下まで突き抜けて落ちる前に、包丁は完全に形をなくしていた。


え、つまりこれって…


「…鍋もお皿も処理できちゃうってこと?」

「そう。」

「「うわぁお。」」


思わず出た変な声が、リータと綺麗にハモった。


ジアノドラゴンの体で最も硬い部位も、10倍濃くした胃液で溶けちゃうのか。

って事は、これをぶちかませば本家もひとたまりもない…って話になるのね。


いや。



…怖いよ!!


=====================================


もちろん、タカネはこれを武器にするために出したわけじゃない。

それは、あたしにもリータにも理解できた。

…できても怖いのに変わりないけど。


というわけで、調理器具一式を慎重に放り込む。

世界を変えてしまうかもしれない至高の芸術品が、ジュウジュウと嫌な音を立てて

溶けていく。野菜の切れっぱしとかが付いたままで。


何と言うか、ちょっとしたデカダンスだね。

稀少品コレクターとかが見たら、恐らく発狂するくらいにぶっ飛んだ光景だろう。

何度でも作れるというシステムを知っているリータでさえ、表情が消えていた。


「さて、これでオッケー。」


ハンバーガーショップでトレイのゴミを処理したような軽さで、タカネが呟いた。

どっちかと言うと価値観が彼女寄りなあたしも、当然のように頷く。


「手荷物にならなくてよかったよね。」

「…そう、ね。」


さすがにリータの声はぎこちなかったけど、まあそのうち慣れるって。


「じゃあ、ついでに。」


そう言って、タカネは残りの押収武器を片っ端から放り込んでいく。もちろん、

どれもこれも爽快なくらい一瞬で消滅した。最後の剣が虚空に消え去ると同時に、

危険極まりない球体は音もなく消滅した。あたしとリータは、ホッと息をつく。

真下の草は完全に枯れ果て、露出した土も赤黒く焼け付いていた。


「…竜の遺産・十倍(ジアノレガシー・テン)って感じかな。」

「やっぱり名前付けるんだ。」


まあね。

これ、かなりの最終兵器かも知れない。

使う機会なんか、間違っても来て欲しくないけど。


さて。


お昼ご飯の片付け、終了!


=====================================


「じゃあ移動しようか。今日のキャンプは、もうちょっと別の場所にしよう。」

「え?」


立ち上がってリュックを手に取ったあたしの言葉に、リータが驚いた声を上げる。


「この連中は?」

「もちろん、放っとくよ。」

「近くの街のギルドまで…」

「連れて行かない。」


そんな面倒な事、やってられるかっての。


「だけど…」

「縛ってるけど、立てなくも歩けなくもない。協力すればすぐ解けるわよ。」


そう言ったのは、ゆっくりと立ち上がったタカネだった。


「だったら、自分たちで何とかすればいい。」


淡々としているけど、取り付く島のない意志が感じられる口調だった。


ここで野宿していても、獣は半径50m以内には決して入って来なかった。

何もいないわけじゃない。谷への移動中、エヴォルフの姿もチラッと見かけた。

何故か?

多分、タカネがここにいたからだ。

おそらく彼女は、ジアノドラゴンに似た生物的気配を常に放っているのだろう。

だから、弱い力しか持たない獣だと怖れて近づこうとしない。先日のドラゴンは、

半端に力を持っていたから猛ったのだと思う。

そんな彼女がこの場を去れば、どうなるかは未知数だ。

やっぱり、残り香を怖れて近づかないかも知れない。タカネに体臭はないけど。

お昼ご飯の残り香につられて、我先にとやって来るかも知れない。


どうなるかは分からない。

どうでもいい、とタカネの目が言っていた。

もちろん、あたしだって同じだ。


何事もなく帰って行くかも知れない。

懲りずにまた、ケチな盗賊稼業に精を出すのかも知れない。

あるいは、そうじゃないかも知れない。


何もかも、それぞれの責任だ。

彼らが盗賊をするのも、今この場に丸腰で転がっているのも。

彼らが標的とする人たちが、己の身を守れるかどうかも。



「でも、こんな所じゃ…」

「あのね。」


なおも何か言おうとするリータの肩を掴み、あたしはグッと顔を寄せた。


「タカネが矢を止めてなかったら、あなたはとっくに死んでた。分かってる?」

「え…」

「そして、あの状況で()()()()()()()()()()()()()()()()。それも事実よ?」

「……」

「その一線を越えてしまった相手に、あたしたちは必要以上の温情はかけない。

 そういう相手の命の重さを、あなたの命と等価には考えない。絶対にね。」


あたしたちは、聖人じゃない。

悪に染まる気はもちろんないけど、だからって慈悲に溢れた道を選ぶ気もない。

人の命を奪った者、奪おうとする者には、相応の覚悟があると見なす。

文句は言わせない。

()()()()()()()()()()()()()ってやつだ。


「分かってくれた?」

「…ええ。」


リータも、それなりに悟ってくれたらしい。

未練を切り捨てるように、その表情は落ち着きを取り戻していた。

やがて、その子供っぽい顔に、歳相応の不敵な笑みが浮かぶ。


「あたしもそこそこ、あなたたちに染まらないとって事よね。」

「さすがリータ。」


あたしも、つられるように笑う。


そう。

あたしやタカネと共に行くというのは、そういう事。


彼女はあたしたちが人らしく生きるための道標であり、かけがえのない友人だ。

だけど、すべての倫理や道徳を彼女に一任するというわけじゃない。

落としどころは、ゆっくり探っていくしかない。


これが、一蓮托生だよ。


=====================================


「んじゃ行こう!」


ちょっと予定は変わったけど、やる事は変わらない。

食の事情はいろいろ劇的に改善した。だけど、まだまだ問題は残っている。

次は何に手をつけようか。


さあ、まずは新たなキャンプ地を…


「ちょっと待って。」

「ん?」

「横っぱらが痛い…」


ああ、そういや食べたばっかりだったよね。

ゴメンゴメン。

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