快適な暮らし・7
「いやはや、揃ってるねえ。」
そう言って笑い声を上げたのは、左から3人目の男だった。角度から考えると、
リータ目掛けて矢を撃ったのはこいつだ。
「美味そうな匂いがすると思ったら、女3人でお食事中とはな。用意がいいぜ。」
「まあ、ガキが一人混じってるのが余計だけどな!」
そんな侮辱の言葉と共に、どっと爆笑が巻き起こる。
当のリータはと言うと、特に怒っている様子はなかった。もはや言われ飽きていて
何とも思わない系のネタなんだろう。ただひたすら、警戒の表情を浮かべている。
やっぱり、犯罪捜査の仕事をしてただけあって、怯えの色は全く見えない。
「そっちの金髪姉ちゃん、絶品じゃねえか。なあ、俺の相手してくれよ?」
「いやいや、俺だろ?」
「俺の方が太いぜ?」
何がだよ。
男たちが笑いながら近づいてくる中、タカネがあたしにちらりと視線を向ける。
やがてその視線がスッとさがり、自分の手に向いた。それを目で追ったあたしは、
一度だけ小さく頷く。ああ、そういう事ね。
よっしゃ。
今回は、あたしがやろう。
「分かってると思うが、つまらん抵抗するなよ?その方が…」
「ちょっといいですかー!」
テンプレっぽい脅迫の文句を遮り、あたしは大声で言った。
怪訝そうに立ち止まった6人に笑顔を向け、さらに明るい口調で続ける。
「あたしたちがドタバタ抵抗すると、この食べ物がひっくり返っちゃいますよね?
それはもったいないんで、まずは皆さんでお召し上がりになりませんかー!?」
「…何だと?」
「作り過ぎちゃったんですよ。だから、よろしかったどうぞ!って話です!」
意外過ぎる提案とあたしの能天気な口調に、男たちは互いに顔を見合わせている。
まあ、そりゃそうだよね。危機に陥ってる人間の言い草じゃないし。
だけど、嘘は何も言ってないよ。
暴れたら食べ物が台無しになるのは目に見えてるし、作り過ぎたのも事実だし。
助けてくれるならありがたい。きっとお口に合うと思うよ?
注意が逸れた隙を見て、テーブルに足を付け足す。浮いてちゃマズイからね。
「捕まるのも体を差し出すのも、まず食事をしてから…って事でどうでしょうか?
もちろんあたしたちは逃げませんし、食事が終わった後は好きにしてもらって
構いません。いかかでしょう?」
「ずいぶんと聞き分けがいいじゃねえか。」
「命は惜しいですから。」
「そっちの姉ちゃんはどうなんだ?」
「あたしも、その提案に従います。」
「本気か?」
「もちろんです。」
「ほほう。…じゃあ、決まりだな。」
いや、リータには確認しないのかよ。
とことんまで子供扱いするんだね。
「その代わり、約束ですよ。食事が終わるまでは何もしないで下さい。ね?」
「ああ、分かった分かった。だが、妙なマネはするんじゃねえぞ?」
「もちろんです。」
にこにこと笑いながらそう応え、あたしは立ち上がって席を空けた。同じように、
タカネとリータも男たちが座れるスペースを作る。
「ハハッ。賢い嬢ちゃんたちだぜ。」
愉快そうに言いながら、男たち6人は我先にとテーブル周りに腰を下ろした。
手で促されたあたしたちも、おとなしく2人ずつの間に座り直す。
何ともシュールな構図だけど、まあ当然だろうね。
「じゃあ、召し上がれ。」
そのひと言を合図に、男たちは一斉に料理に手を伸ばした。
お箸は使わず、基本的に手づかみ。行儀が悪いとか言ったら怒るだろうなあ。
「おぉ、久々にまともな食いもんだぜ。こりゃあいい!!」
「聞き分けのいい奴らだぜ、気に入った!…可愛がってやるから待ってな!」
それぞれ勝手な事を言いながら、がつがつと食べ漁っていく。
ある程度のお触りなどは覚悟してたけど、6人とも食べるのに夢中だった。
どうやら、かなり空腹だったらしい。
タカネは平然としているけど、リータはかなりホッとしている感じだった。
いや、あなたの場合は…
って、やめとこう。親しき仲にも礼儀ありだよ。
「いかがですか?」
「美味い!」
「大したもんだ!!」
「あっちも期待してるぜ!?」
食べかけを口から飛ばしながら、男たちは語彙の乏しい賞賛を次々に述べる。
「ありがとう。」
笑顔で返したあたしのお礼は、決して嘘じゃなかった。
頑張って作ったお料理だ。褒めてもらえるなら嬉しくないわけないよ。
皆で「おいしい」を共有するのって、楽しいよね。
たとえ、相手が悪辣な略奪者だったとしても。
たとえ、ほんの束の間の共有だったとしても。
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「…いやあ、よく食ったぜ。」
いくらも経たないうちに、大皿や鍋に残っていた料理は全て無くなっていた。
今さらながらその輝きの美しさに気付いた男たちが、興味深そうに器を手に取る。
やっぱり気になるよね。
あなたたちって、やっぱり盗賊だろうからね。
それなりに価値は判るのだろう。ちょっと目が据わってきているみたいだし。
「さあて。それじゃ…」
「いや、最後にとっておきがありますよ。」
そう言って、あたしはタカネに視線を向けた。
合図に応えてにっこりと笑顔を浮かべたタカネが、どこからか取り出したもの。
それはみずみずしい色を湛えた、6個の大きなトールニーだった。
「…うん?トールニーだと?」
「そうです。」
「バカにしてんのか?…それとも時間稼ぎか?」
いささか不機嫌になったあの矢の男の言葉を受け、あたしは大げさに首を振る。
「いえいえ。まずは割ってみて下さい。」
「ああん?」
ますます怪訝そうな表情を浮かべつつ、男はタカネの手から1本のトールニーを
摘み上げた。そして乱暴に皮を剥き、パカッと無造作に割る。
「!?」
「どうですか?」
「おいどうなってんだ。種が一粒もねえぞ!?」
「そうなんですよ。あたしたちもびっくりしました。」
「どういう事だ!?」
「この森に生えてるトールニーの木には、種のない実がなるらしいんです。」
「ホントかよ…?」
そんなやり取りの間に、残りの5人も先を争って実を手に取った。その誰もが、
果肉の美しさに言葉を失う。
まあ、無理もない。生まれて初めて見る、奇跡みたいなものなんだろうからね。
「ちょっとした食後の贅沢です。どうぞ召し上がって下さい。」
「こりゃすげえや!!」
歓声を上げた6人は、宝石のような色を湛えたトールニーを一気に頬張った。
「美味え!」
「こりゃ最高だ!」
「たまんねえ!」
「本物だぜ!」
「ああ!こいつは…」
「…」
「……………」
相変わらず語彙の乏しい感嘆の叫びは、途中で途切れた。
極上の味に舌鼓を打った6人は、そのまま糸が切れたように倒れて昏倒する。
後に残ったのは、空っぽになったお皿とあたしたちのみ。
実に呆気なかった。
「ええっと…」
壁のように左右を塞いでいた男の体が前と後ろに倒れ、間に挟まっていたリータが
あたしに目を向ける。何となく、どうやったかは察しているような顔だった。
「つまり?」
「お察しの通り。」
事もなく応えたあたしは、何事もなかったように座っているタカネに目を向けた。
「たねなしトールニーの果肉に、ヨドミタケの毒素をたっぷり混ぜた特別仕様よ。
成分を調整してあるから、完全な睡眠薬になってる。」
「…なるほどね。そのくらいはすぐできるってわけか。」
今さら驚かないよとばかりに、リータは納得顔で頷く。
さっきまで騒いでいた6人は全員、鼾もかかずに泥のように眠っていた。
食べてすぐはあまり運動しちゃいけませんって、よく親に言われてたからね。
お料理が無駄にならなくて、本当に良かった。




