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骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第五章・暮らしのアイディア改革
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快適な暮らし・4

「ただいま。」


仕留めたケルクァ鳥を片手で掴んだタカネは、何事もなかったように帰還した。

遠目ではあまり判らなかったけど、ケルクァ鳥って本当にデカイ。サイズで言えば

ダチョウくらいはあるだろう。羽自体が長いから、なおさらその巨大さが際立つ。


「お疲れ。」

「警告アリガトね、拓美。」

「ああ、うん…。」


実際、タカネならあの局面でも大丈夫だったんだろうな…とは思うけどね。


「いやあ、ケルクァの殺したてって初めて見た。やっぱり綺麗ねぇ。」


興味深そうなリータに、やっぱり元検死官なんだなと勝手な納得をしてしまう。


「こんなところに生息している上に警戒心も逃げ足も飛び抜けてるから、とにかく

 狩るのが難しい鳥なのよね。だから単価も高い。高級レストランでも、なかなか

 定番メニューには入れられないらしいから。」

「ほほう。それはそれは。」


いい事を聞いた。


「…だけど、やっぱり大き過ぎるわよね、これ。」


我に返ったような表情になったリータは、少し残念そうに呟く。


「暑い季節は過ぎたけど、それでも何日ももたないわよ。新鮮なうちに料理して、

 食べられるだけ食べて、あとは燻製とか…」

「まあ、まずはいただきます。」

「え?…ってちょっとぉぉ!?」


途中で絶叫に変わったリータの訴えには目もくれず、タカネは当たり前といった

涼しい顔でケルクァ鳥に噛み付く。血抜きはおろか、まともに羽さえ毟っていない

文字通りの鳥の死骸であるにもかかわらず、その手羽の肉を力任せに噛み千切る。

野趣溢れるとか何とか、そういうレベルを遥かにぶっちぎっている蛮行だった。

血の滴る生々しい肉片を、タカネは表情ひとつ変えずにそのまま丸呑みする。


誰が見てもドン引き&トラウマ必至の、スプラッター極まるビジュアルである。

さっきの翼竜モドキ瞬殺ですでに引いていたリータは、半分白目になっていた。


「そ、そのう。やっぱり調理してから食べた方が…」

「調理しちゃうと、体細胞情報が壊れちゃうのよ。」

「はい?」


ああ、とあたしはすぐ察した。

良かった。変なスプラッター趣味に目覚めたってわけじゃなかったのね。


「それ、もうタカネ本人ができるようになったんだ。」

「そうよ。体があるって事は、スキャニング能力も丸ごと引き継げるって事。」

「いやあ助かるわぁ。もう、あれやらなくていいと思うと…」

「拓美のスキャニング能力も有効だから、交代でやる?」

「遠慮します。」

「…あの、何の話?」


ふと目を向けると、リータの表情はこれ以上ないほど強く現状説明を求めていた。

ゴメン、そりゃそうだよね。


「タカネ。もうできる?」

「ええ。」

「じゃあ、手羽先を出してみてよ。」


言い終わらないうちに、目の前にピンク色の物体が音も無く現出した。

それを目の当たりにしたリータが、両の眼を限界まで見開く。


「これって…」

「そう。ケルクァ鳥の手羽先よ。」


虚空に浮いているのは、みずみずしい色をした鳥の生肉の一部だった。血は一滴も

付着しておらず、皮も羽も全て取り除かれた状態になっている。


「え、つまりその…たった今摂取した肉を参考にして、これを再現したって事?」

「そう。拓美のテロメア情報を適当に組み込んで、制御下のデータに追加したの。

 肉だけ、骨だけ、血だけ、羽だけ。何でもリクエストに応えられるよ。」


そう言い終えたタカネのすぐ脇に、鮮やかな緑色の羽が何枚も並んだ。

実に綺麗だけど、そういう演出をするならちゃんと血を拭こう。ギャップが怖い。


「…便利な能力ね。」


スプラッターショックも忘れ、リータは感心しきりといった表情でそう言った。

ようやく冷静に戻ったらしいその顔に、さらに知的な興奮の色が浮かび始める。


「え?って事は、いつでも新鮮なケルクァ鳥の肉が、それも必要な部位の肉だけが

 いくらでも無制限に出せるって事なのよね!?」

「そう。」

「じゃあこの一羽の犠牲だけで、これ以上狩る必要も無いと。」

「その通り。」

「なんか、すっごいわね!」


嬉しそうにそう言ったリータは、にっこりと顔いっぱいの笑顔を浮かべた。


「本物とほぼ同じ生き物の肉を、無から作り出せるなんて素晴らしいじゃない!

 この能力があれば、生態系への影響もほとんど心配ない。それに…」

「大儲けできる?」

「そう!…って、そうじゃない!!」


勢いで肯定してしまったリータは、逆ギレ気味に否定した。


「この先、食料を持ち運ぶ必要がないって事よね!?」

「その通り。…あ、あらためて考えると確かに凄いかも!?」


今さらながら、この能力の便利さに気付いたあたしもテンションが上がった。


そうだ。

今までは自分の体のパーツを、武器や移動手段に応用するばかりだった。

ジアノドラゴンの体を駆使できるようになってからも、基本は戦いに使っていた。

食事の時はいつも調理済みのものを頂いてたから、そっちに発想が行かなかった。

食材となる生物を()()()()()()()すれば、それだけで食料を無限に作れるんだ。


本当に今さらながら、その事実に圧倒される。

食べなくてもいいという性質を無条件に甘受していた頃は、考えもしなかった。

食べずに済ませるか、もしくは店で食べるか。その二択しか頭に浮かばなかった。

やっぱりあたしには、()()()()()()()()()()()()()()()んだ。

たからこそ、こんな簡単な応用にすら気付かなかった。


―人間らしく毎日を楽しみな。


ゼビスさんのアドバイスが、あらためて胸に蘇る。

きっとそれは、こういう事なのだろう。


チート能力を否定する必要はない。身ひとつでこんな遠い世界へ来たのだから、

それは大いに活用すべきだ。

だけど、それで人間らしさまでオミットしてしまったら、何にもならない。

ただ目の前の目的を果たすためだけに生きる、寂しい存在に成り果ててしまう。


だからこそ彼は、リータとの同行を強く奨めたんだ。

ようやく、本当に分かった気がする。

彼女は、ただの人間だ。骨相を読めるし知識も豊富だけど、特別な力は何ひとつ

持っていない。むしろ人間の不自由や面倒臭さを、当然のように背負っている。

そんな彼女といるからこそ、気付ける事が山ほどある。


それは問題の解決という名のハードルであり、また楽しいゲームでもある。

クリアして行くごとに、きっとあたしたちは豊かになれる。

この世界で生きる事を、()()()()()()()()()()ようになるだろう。



思い返せば、あたしはこの世界でのスタートがハードモード過ぎたんだ。

いきなりジアノドラゴンとの死闘なんか始めちゃったから。

いきなり、首だけになった少女の亡骸と出会ったりしちゃったから。


この世界に対し、気楽に接する事ができなくなってしまっていた。

出会う相手は敵ばかりという気構えが、本当に敵を呼び寄せていたかも知れない。


…すいぶんと、しんどい回り道をしちゃったなぁ。


あたしは、思わず笑い出していた。


「…ど、どうしたの?」

「大丈夫?拓美…」


心配そうな2人の顔を見比べるほどに、ますます可笑しさがこみ上げる。


何をやってたんだろうな、あたしは。

おじいちゃんも、きっと呆れているだろうな。


「ゴメンゴメン、大丈夫!」


そうだ。

あたしは、こういう事をするためにここへ来たはずだ。

忘れていた何かを、やっと手にした気がする。


だからって、今までのあれこれが無駄だったなんて思わないよ。


死に物狂いで倒したジアノドラゴンの力は、あたしたち2人の最大の拠り所だ。

戦いや旅の中で編み出した能力と技が、今のあたしたちを支えている屋台骨だ。

すべてに感謝した上で、ようやく人間らしいスタートラインに再び立つ。


こんなに気持ちが晴れ晴れとしたのは、いつ以来だろうか。


ありがとう昨日まで。

そして、頑張ろう今日から!


「さあ、ガンガン行こう!!」

「え?あ、うん。」

「そうね。」


よく分からないままに笑う2人に、あたしも思いっきり笑顔を返す。



まずは食料!!


そして今日のお昼は、美味しい手作り料理と行こう!!

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