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骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第四章・捨てたもんじゃない世界
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狂気の籠

やばい。いくら何でも相手だってカカシじゃない。

このまま距離を取られたら、こっちからの手は届かない。もう終わりだ。

それなりに人数は減らしたが、残りはあと3人だ。


焦りが、足元への注意を疎かにしたらしい。

倒れ伏した魔術師のローブが足首に絡み、ほんの一歩、たたらを踏んでしまった。

すぐに立て直したが、その一瞬で相手は間合いの外に逃げてしまった。


ここまでか。


ここまでやったんだからという達成感と、ここまできて終わりかという無念とが

胸の中でない交ぜになっている。どう思えばいいんだろうな、こういう時。


それでも、最期まで足掻く。

そう腹を括り、目の前に立つ赤毛の女魔術師に向けて足を踏み込んだ刹那。


真横から駆け込んだ影が、その女魔術師を殴り飛ばした。衝撃で俺までのけ反る。

おそらく女は、自分が死んだ事すら自覚できていなかっただろう。

パンという甲高い激突音のみを残して吹っ飛んだその小柄な体は、1秒も経たずに

岩壁の染みになっていた。


「お待たせしました。」

「おう。」


急停止して俺の前に降り立ったのは、背の高い方のバケモノ嬢ちゃんだった。

まあ、予感めいたものがあったから驚きはしなかった。

あのデカイ竜の翼はすでに背にはなく、代わりに例のチビちゃんを背負っていた。

いや、背負っているというか、ヒモで縛ってるというか…ひょっとしてそのヒモ、

背中から生えてないか?

当のチビちゃんは白目剥いてアワ噴いてるから、どっちでもいいんだろうけどな。


「残りの連中はあたしが片付けます。ゼビスさんは、他の人の確保を。」

「分かった。…アラヤちゃんはどうした?」

「ドラゴンを殲滅するそうです。」

「そうか。じゃ、こっちは任せたぜ。」

「了解。」


それだけ言い交わして、俺は捕虜たちが固まってる方へと勢いよく駆け出した。

傍らには盗賊の残りがまだ何人かいるが、構う事はない。気を呑まれているらしく

ほぼ棒立ちだ。こんな異常な場で、人質を取ったりまで気が回らないんだろうな。

いや、別にそれで普通だと思うぜ?

ここで冷静に行動できる奴がいたとすりゃ、かなりの大物だ。

今の俺だって、()()()()()()()()を経験したからこそ動けるしな。


背後から、鈍い音が何度かかすかに聞こえた。

振り返る気にはならなかった。

アラヤの嬢ちゃんが独りで戦っているらしいドラゴンも、見る気にならなかった。

まあ、どうにかするんだろう。

結果を疑わない己の感覚が麻痺しちまってるのか、それとも()()()()()()()のか。

今さらもう、どっちでもよかった。


とにかく、やる事をやるだけだ。


=====================================


睨み合いの時間は短かった。

ドラゴンが相手なら、()()()()()()は気にしなくてもいい。

先手必勝!


竜牙弾(ファング・バレット)!!」


言い終わると同時に、マッハ1の牙がドラゴン目掛けて殺到した。その数20発。

さすがにここまで的がでかくて近ければ、外す方が難しい。全弾、見事に命中!


しかし。


「ゴアァァァツ!!」


叫び声と共に、ドラゴンはブルッと全身を振るう。その勢いで、命中させたはずの

竜牙弾(ファング・バレット)がほとんど払い落とされる。かすかな血が飛び散ったけど、ドラゴンは

意に介さずといった体だった。

次の瞬間。


「!!」


一気に突進してきたその巨体を、あたしは足場の骨を垂直射出する事で回避する。

ここまで平らだと、バランスを取るのも簡単だなあ…って言ってる場合じゃない。

猛スピードで突っ込んだドラゴンは、あたしの背後にそびえていた断崖の直前で

器用にブレーキをかけた。勢いを殺すために着いた前足が、岸壁を削り取る。

そのまま壁面を駆け上るように、ドラゴンは再びこちら目掛けて突っ込んできた。

新たな足場(ドラゴン・ロード)を橋状に組んだあたしは、その上を走って逃げる。

こういう時、頭蓋跳躍(スカル・ホップ)のように跳んで移動をするのは悪手だ。ランカコウモリに

奇襲を受けた時に思い知った。虚空に身を躍らせると、どうしても無防備になる。

多少効率が悪くても、こうやって地(?)に足を着いている方がいいのである。

それに。

いきなり頭上に現れた細い橋に戸惑ったのか苛立ったのか、ドラゴンは大口を開け

橋ごとあたしを噛み砕こうと襲って来た。気付いたあたしは、あえて立ち止まる。

やってみな?


ガゴン!!


凄まじい音と共に閉じられた大きな顎は、しかし橋を噛み砕く事はできなかった。

激突の際にあたしの立っている箇所の両脇だけ、鱗を追加して橋の拡幅をした。

その鱗を噛み砕けなかった顎が、まるで欄干のようにあたしの左右に立っている。


悪趣味な人間が手抜きで作った、安物のキャットウォークと同じと思うなよ?

こっちはジアノドラゴンの鱗でできた橋だ。百人乗っても大丈夫!!

ようやく口を離したドラゴンは、怒りの咆哮を上げた。そして鋭角にターンし、

橋の脇から上へと飛び出そうとする。


そうはさせるか。

もう、あと少し上へ行けば断崖が終わってしまう。もしも空中へ飛び出されたら、

おそらく捕捉できなくなる。タカネと違って、あたしに飛行能力はないんだから。

だったら、やる事はひとつだ。


いま自分が立っている橋と交差するように、もう1本の橋を一気に組み上げる。

上から見下ろせば、ちょうど谷に大きな×の字が描かれたように見えるだろう。

さらに、それに重なるように1本。隙間を埋めるようにもう1本。また1本。


ほんの数秒で、谷は丸ごと鳥籠(バードケージ)と化した。怒り狂ったドラゴンが何度も何度も

強烈な体当たりを仕掛ける。しかしもちろん、頑強なフレームはびくともしない。

人食いの獣への対応は、まず隔離。基本だよね。


だけどもちろん、これでは終われない。

このドラゴンは馬鹿じゃない。きっと、断崖を砕いての脱出を思いつくだろう。

完全に閉じ込めてしまえばその心配はなくなるけど、リスクの割に意味がない。

ジアノドラゴンの鱗をずっと固定しておくわけには行かないし、イセカヤの谷は

まったく人が立ち入らない秘境というわけでもない。いずれ発見されてしまえば、

厄介な事態になるのは目に見えてる。


だから、ここで仕留める。


鳥籠(バードケージ)の上に立つあたしは、ほんの少しだけ考えた。

このドラゴンに、竜牙弾(ファング・バレット)は致命傷にはなり得ない。

理由は単純。重さとパワーが足りていないからである。

もしもこいつとジアノドラゴンが戦ったなら、多分ほんの数秒で勝敗は決する。

頭を噛み砕くか喉笛を喰い破るか、あるいは力に任せて(くび)り殺すか。

噛み付いた時点で勝負ありとなるだろう。

竜牙弾(ファング・バレット)は、このドラゴンの鱗に完全に弾かれたというわけじゃない。

顎の力と重さが乗っていないせいで、体の奥深くまで届かないだけなのだから。


鱗を弾丸に見立てて何十発も撃ち込めば、おそらく殺す事はできるだろう。

だけど、それは正直やりたくない。

残酷だからとか何とか、そういう安っぽい綺麗事が言いたいんじゃない。

「殺す」と言ってる時点で残酷は確定だ。悪いけどその辺、もう割り切ってる。

どれだけ撃ち込めば死ぬか判らないのに、そんな悪趣味な事したくないってだけ。

問題は残酷かどうかではなく、()()()()()()だ。


いまだ体当たりの振動がビリビリと伝わる中、あたしは考えた。そして決めた。

そして迷う事なく、隙間から鳥籠(バードケージ)の中へと身を躍らせる。

なおも飛び立とうと抗っていたドラゴンから、最も距離を取った岸壁の際へと。


虚空に浮かぶ骨に降り立った小さな音に、ドラゴンは敏感に反応した。その瞳に、

これまでとは比べ物にならないほどの殺意が宿る。


でしょうね。あたしでも怒ると思うよ。


じゃあ、かかって来な。


竜牙弾(ファング・バレット)は、文字通り歯が立たない。知ってるでしょ?

あたしはここまで降りてきた。千載一遇のチャンスでしょ?

まっすぐに向き合い、あたしは右手を差し出した。そして、タカネと同じように

手のひらを上に上げ、チョイチョイと指を折る。


「かかってらっしゃい。」


言い終わる前に、ドラゴンは突進してきた。

爆発的な加速によって、灰色の砲弾と化して。


あたしは、回避しなかった。

わずが1秒ほどの突進を、真っ向から睨み据えた。


次の瞬間。


竜牙鋲(ファング・スパイク)!」


叫ぶと同時に、目の前の空間に竜牙弾(ファング・バレット)がズラリと並んだ。

真ん中だけをぽっかりと空けた、横並びのスパイクだ。

飛ばしたりはしない。そのまま固定させておく。

確かに、()()()()()()が足りない。

でも、それはどこにも存在してないわけじゃない。

あなた自身が、()()()()()()()()()()()なんだよ。


ドゴォン!!


突進してきたドラゴンの体は、そのまま牙の列に激突した。

首だけを通した格好で、だまし絵のように虚空に縫いとめられた。

そう。

こっちに重さとパワーがないなら、相手にそれを用意させればいいだけだ。

虚空に固定された竜牙弾(ファング・バレット)は、突進されたぐらいでは決して砕けない。

そして巨体の突進による重さとパワーは、体深くまで牙を刺すには充分だった。


怒り狂ったドラゴンは、首をいっぱいに伸ばしてあたしを噛み砕こうとする。

やっぱり致命傷じゃない。このまま暴れれば、肉を引き裂きながら逃れるだろう。

そして、ますます暴虐に猛るだろう。


だから、止めを刺す。


ガチガチと牙を鳴らしながら、こちらに向けていっぱいに開けられた大きな口。

狙いはその奥。


「必殺。」


いつになく古めかしい口上と共に、あたしのすぐ隣の空間に液体の球が出現した。

あまり意味はないけど、もう一度右腕を上げてまっすぐドラゴンの口へ向ける。

これで最後だ。


竜の遺産(ジアノ・レガシー)!!」


叫びと同時に、その球は射出された。

もちろん、マッハ1なんて速度じゃない。いつもの水弾(アクア・バレット)同様の、鈍足弾だ。

まっすぐに飛んだその一発は、狙い過たずドラゴンの口へと吸い込まれていった。


ずっと谷を震わせていた咆哮が、その瞬間に途絶えた。

口を開けたまま、ドラゴンの目が大きく見開かれていく。殺意の光が消えていく。

いや、消えていくのは命の光だ。

やがて、変化が訪れた。

虚空に縫い止められていた体に、ずぶずぶと音を立てていくつも孔が開き始める。

加速度的に拡がるその溶けた孔は、やがて融合して大きな体の欠損となっていく。

バラバラと鱗を舞い散らせ、ドラゴンの肉体は早回し映像のように自壊する。

こちらに向かっていっぱいに伸ばされていた首もまた、ぐずぐずと崩れ始めた。

臓器と筋肉が溶解した体が、骨と化していく。手足や翼までは溶けなかったけど、

その重さによって骨格の形は呆気なく崩れ落ちた。

無数の牙が刺さっていた肉が自壊した事によって、溶け崩れたその体はバラバラと

谷底へ落ちていった。


最後の一片が落ちたのを見届けたあたしは、頭上を覆う鳥籠(バードケージ)を消した。

遮られていた陽光が降り注ぎ、谷底まで明るく照らし出す。


喰い散らかされた犠牲者たちの、衣服の切れ端や装身具。

喰い残したと思われる、血まみれの手足や骨。

その上に重なるように落ちた、巣の主たるドラゴンの骨と肉。

狂気の残滓。


どうしようもなく狂った人間たちの、どうしようもなく狂った行いへの。



これが、あたしなりのけじめだった。

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