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骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第四章・捨てたもんじゃない世界
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谷の竜

ようやく、運が向いてきたような気がした。


ギルドで絡んだ相手がゼビスさんだったのが、あたしたちの最大の幸運だった。

脳筋だとか噛ませキャラだとか、あれこれ失礼な事を考えて本当にゴメンなさい。

確かに、あたしたち2人と比べればぜんぜん弱い。それはある意味、当たり前だ。

だけどこの人は、とことん大人だ。あたしたち2人に、足りてないものの権化だ。

社会に関する、当たり前の常識。

大人としての、思慮と振る舞い。

そして、さまざまな知識と情報。


感謝します。


何ひとつ欠けても、間に合う事は絶対になかっただろう。

きっと、彼女が死んだ事すらも知らないまま、のうのうと旅をしていただろう。

この場に至り、あたしは本当に心からそう思った。


とんでもない所に放り出して、本当にゴメンなさい。

だけど、信じているからこそです。

接近戦にさえ持ち込めば、ゼビスさんならきっと魔術師にも負けないだろう、と。

ほんのちょっとだけ、持ち堪えて下さい。


=====================================


「わぁお。」


タカネに抱えられて滞空したまま、あたしは眼下の現状に思わず声を漏らした。

別にカッコいい登場とかは考えてなかったけど、我ながら間抜けなひと言だった。


目もくらむようなか細いキャットウォーク。

その真下で、ゴリゴリと音を立てながら咀嚼している灰色のドラゴン。

長槍を携えた男。


そして。


意外過ぎる不意打ちで、すぐ傍らにいた男を地獄の奈落に落としたリータさん。


まさかあの人が、こんな思い切った事をやるとは思わなかった。

やってのけたのもビックリした。


いや。

今さら人殺しがどうのとか、あれこれ言う気は微塵もないよ?

お前が言うなと総ツッコミが襲い来るだろうからね。


ただひたすら、意外だと言いたいだけ。

ちょっと諦観した人なのかと思ってたけど、なかなかどうして。

生きる事にしぶとい人間らしい。


そういう人、あたしは好きです。

本当に、間に合ってよかった。


「さて、あの男はどうすべきか…」


と、その刹那。


「ゴアァァァァァァァッ!!!」


とんでもない咆哮を上げたドラゴンが、飛び込み台の支柱に体当たりをかました。

おそらく、そんな事態は想定していない作りなのだろう。

支柱は一撃で大きく傾き、直上のキャットウォークは凄まじい揺れに見舞われた。

端に近い位置に立っていたリータさんの体は、なす術もなく虚空に投げ出される。


「キャアアァッ!」


もちろん、急降下したタカネが見事にキャッチした。男の方は長槍を手すりの間に

器用に引っ掛け、何とか踏み止まっている。


しかし視界の利かないリータさんは、自分が助かった事も把握できないのだろう。


「いやぁ落ちるうぅぅぅ!」

「いや、大丈夫だってば…痛っ!!」


宥めようとする間もなく、バタバタと振り回す手が隣のあたしの顔にヒットした。

柔らかい手のひらが、ぐにゅっとあたしの頬を押しつぶす。


「!?」


途端に、リータさんはピタリと騒ぐのをやめた。

振り返る前に、反射的に声を上げる。


「…頭蓋骨さん!?」


何だその呼び名は!

だけど、大正解!!


実はあたし、ここへ到着する直前、こっそり人相と体格を変化させているのだ。

魔術師がたむろしているなら、顔を憶えられたくない…というのが理由の半分。

もう半分がこれ。リータさんが、あたしという存在をひと目で見破れるかどうか。


さすがはリータさん。

メガネもかけず、こちらを見もせずに看破しちゃったよ。


こんな非常時にもかかわらず、あたしは無性に嬉しかった。


=====================================


ドゴォン!!


再び、凄まじい轟音が谷に反響した。ドラゴンの体当たりらしい。

ついに耐え切れなくなった支柱が、スローモーションのように倒れ始める。


ハッと視線を向けた先、長槍の男が駆け出すのが見えた。もちろんもと来た方へ。

あの位置なら何とか間に合うかと思った刹那、いきなり大きな影がその足元から

湧き上がるのが見えた。

あっと思う間もなく、男の姿は砕かれた足元ごと消えた。悲鳴さえなかった。

真下から一気に飛び上がったドラゴンが、か細いキャットウォークごと男の体を

噛み砕いたのだった。

駄目押しとも言えるその強烈な一撃により、キャットウォークは完全に崩落した。


「馬鹿な!!まだ飛べるはずが…!!」


視界の隅に映る、仲間と思しき男がそう叫ぶのが聞こえた。

どうやらこのドラゴン、なぜかいきなり急成長を遂げたらしい。

バラバラと建材の破片を撒き散らしながら、危なげない羽ばたきで滞空している。

鮮血にまみれた口元を歪め、こちらを睨みつけながら。


「…何?妙にテンション高いわね。別に腹ペコってワケでもないでしょうに。」

「そうね。ずいぶん興奮してるみたい。」


あたしの問いに答えたタカネは、わずかに滞空高度を上げた。

それに合わせ、目の前のドラゴンの視線も動く。間違いなく、こっちを見ている。


「…ひょっとすると、あたしの存在に反応してるのかも?」

「何で?」

「あたしの体の組成は、()()()()()()()()()()()()()()からよ。」

「…ああ、なるほど、ね。」


もっともな説だ。

タカネは、ハイブリッドな竜人だ。普段は嫌味なほどの美人そのものの姿だけど、

場合によっては肉体を部分的にドラゴンのものに換装する。今のこの翼のように。

おそらくその存在への認識は、相対する生物によって大きく異なってくるだろう。

たとえばエヴォルフなどであれば、姿が見えるより前に遁走するのかも知れない。

…揉み手しながら近づいてきた服屋の店員さんが、命知らずなバカに思えるね。


そう考えると、このドラゴンの興奮と敵意は本能的なものなのだろう。

怯えてると言えなくもないけど、追い込まれた獣が危険なのは万国共通の常識だ。

怯えさせたつもりはないと言っても、現実が全てである。


「…あのう!誰か現状の説明を!!怖いぃ!!」


ちょっと存在を忘れていたリータさんが、超の付くド正論を叫んだ。

その声に呼応したように、ドラゴンはグッと首を下げてこちらを窺う。

ひと目で判る。もはや飛びかかる気満々だ。

彼我の実力の差が明確ではなく、このドラゴン自身が若過ぎる故の危険な現状。


あたしは、即断した。


「タカネ。」

「うん?」

「リータさんを連れて、すぐに戻って。それで、彼女と他の人たちを守りながら

 ゼビスさんをサポート。盗賊と魔術師を殲滅して。今回は手加減なしでいい。」

「拓美は?」

「あたしは、こいつを仕留める。」

「分かった。」


言うと同時に、タカネはあたしの体をパッと離した。

落下が始まるより前に、あたしの体は自分で出していた足場に音もなく着地する。

ジアノドラゴンの、羽の付け根にあたる骨の上に。


「敵味方の人数が多いけど、しっかり頼むわね。」

「任せて。」


短いやり取りの後、タカネの体は一気に加速。あたしを残して飛び去った。

いいねえ。

あたしは、肌があわ立つような感覚に満たされていた。

恐怖じゃない。武者震いでもない。

ただ、嬉しいだけだ。


余計な事はひと言も言わない。こちらを振り返りもしない。

命令遵守をプログラムされているAIが、無謀な命令に盲従してるんじゃない。

()()()()()()()()()からこそ、ためらわないんだ。

彼女は、あたしという人間を決して見損なわない。

過大評価も過小評価もせず、ただ理解している。


タカネのこういうところ、本当に大好き。



さあて。


鮮血頭蓋弾(スカーレットバレット)!」


向かって左側の虚空を目掛けて飛ばした一発が、ドラゴンの側頭部を直撃した。

()()()()()()()()()()()()()()()という予想の弾道が、見事にクリーンヒット!

もちろん頭蓋は木っ端微塵に砕け、中に詰まっていた血液が盛大に顔にかかった。

ジアノドラゴンほどの大物じゃないけど、やっぱりこれじゃノーダメージらしい。

顔の左半分を鮮血で染めたスプラッターな顔で、ドラゴンはこちらを睨み据える。


そうそう。あなたの相手はタカネじゃない。目の前のこのあたし。

やっと分かってくれた?


闇雲な興奮に満たされていたドラゴンの気配が、少し変わったのが感じられた。

スッと目を細めたその顔に、明らかな殺意が宿る。


凄むねえ、若いの。

人間で言えば中二くらいかな?


バカな連中の道楽に利用された事情は察するけど、同情なんかしないよ。

あなたの存在は、きっと災禍を生む。だったらここであたしが止める。

巣立ちを迎えたなら。

そしてこの窮屈な谷を、飛び立ちたいと思うなら。

あたしをねじ伏せてみろ。

見事、食い殺してみろ。


言っとくけど、あたしは強いよ?



猛り狂った咆哮が、頼りなく崩れ残ったキャットウォークの残骸を震わせる。


人狼融合(エヴォルフュージョン)。」


さあ。

手加減なしの勝負と行こうか。

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