デタラメ戦法
「…馬鹿か?」
魔術師は、いろんな意味で驚愕してるみたいだった。
いきなり掌を返したゼビスさんにも。
いきなりテンションMAXになった、あたしたちの情緒不安定っぽさにも。
何より、この状況で笑っているあたしたち3人にも。
確かに、どう見ても自殺行為だろう。
彼らの視点で見れば、ね。
「魔法も使えない状きょ…」
「奥歯弾!」
最後まで言わせてると長くなる。
あたしの放った一発は魔術師の顔を掠め、暑苦しい髪を揺らして背後へ飛び去る。
我ながら、なかなかの精密射撃だと惚れ惚れ。
「な…何故だ。腕輪の効りょ…」
ガシャン!
指鉄砲のポーズのまま高く掲げていた腕から、件の腕輪がするりと抜けて落ちた。
もちろん、手首の組織を分解・再構成した結果だ。
たぶん魔術を用いないと外れない云々があるんだろうけど、そこはさくっと割愛。
バキンッ!
鈍い音に振り返ると、砕けた腕輪がタカネの手首から落ちるところだった。
察するに、左手の指の力だけで握り潰したらしい。見せ場を心得てるね、タカネ。
目を見開いた魔術師のリアクションに、ゼビスさんの大笑いが重なった。
キッと表情を厳しくした魔術師が、そんなゼビスさんを睨みつける。
「…貴様、小細工をしたな!?」
「は?」
「腕輪に細工をしたなと言っている!!」
「してねえよ。言われたとおり、渡して着けさせただけだ。」
「ふざけるな!なら何故…」
「もういいじゃない。」
言い合いに割って入ったのは、珍しくタカネだった。
「分かり切ってる事を、今さらあれこれ蒸し返さなくても。」
そうよね。
全面的に賛成。
ここへ来る前から、分かり切ってる事なんだから。
信じたか、信じなかったかの違い。ただそれだけだ。
あたしたちはラスコフの人間じゃないし、使っている力は魔法の類ではない。
昨日、ゼビスさんに問われた時、はっきりと答えた事実だ。
もちろんその場には、ラクティさんもいた。
ゼビスさんはその言葉を信じた。そしてそれに、自分の命をベットした。
ラクティさんはその言葉を信じず、あたしたちの力を魔法と決め付けた。
それだけだ。
さあ、茶番はここまで。
戦闘開始だ。
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どうやら、盗賊たちも交渉決裂の意志を固めたらしい。
それぞれの武器を取り出して携え、こちらに威圧的な視線を向けてくる。
みんな見事に装備がバラバラだ。だけど、弓やボウガンを持っている者はいない。
商隊を襲撃をする以上、いないはずはない。この場にたまたま来なかっただけか、
もしくは魔術師がその役を魔法で担っているという事だろう。
よっしゃ。
「タカネ。」
「うん?」
「今回は近接戦闘主体で行くよ。それと、できるだけ殺さない方向で。」
「分かった。」
「オイ、本気かよ!?」
隣に並んだゼビスさんが、頓狂な声を上げた。まあ、無理もないだろうね。
彼の武器は両腕のガントレット。言ってみれば、絵に描いたような近接戦闘用だ。
他の2人までそっちに特化したら、バランスが悪い事この上もないからね。
「悪いけど俺、魔術師の相手はできねえぞ?」
「そっちは任せて。」
タカネの返答は素っ気なかった。しかし、有無を言わせない響きだった。
「じゃ、行こうか。体形特化!」
言うと同時に、身長がググッと伸びる。もちろん見栄を張るためのものじゃない。
トップアスリート並みの身体能力を確保するための措置だ。
「人狼融合!」
そこにエヴォルフの動体視力と筋力・敏捷性を上乗せする。そして…
「神速手甲!」
昨夜思いついた新武器を追加!
ジアノドラゴンの鱗で組み立てた無骨なガントレットを、両手に現出させる。
「おいおい、お前さんもガントレットかよ。」
「まあね、先輩。」
と、言葉を交わしていた刹那。
いきなりあたしの背後から躍り出た影があった。どうやら、伏兵がいたらしい。
両手に持った釵のような刺突武器を、落下しながら突き立てようとする。
迎撃しようと、向き直った瞬間。
バガァン!!
とんでもない音と共に、相手の男はホームランボールのように吹っ飛ばされた。
すぐ隣に立っていたタカネが、フルスイングしたらしい巨大な得物を肩に担ぐ。
日の光の下で見ると、その美しさは別格だった。ひと言で言えば、巨大な宝石だ。
背の丈をも越える長さと鋭さ、そして鈍重さを兼ね備えた、刀の形の青い宝石。
名付けて竜の刃。
「…どっから出したんだ?」
「まあ、そこは気にしない方向で。」
あたしは苦笑交じりでそう言った。いやあ、インパクトで負けるなあ、こっちは。
「さて。」
魔術師や大多数の盗賊たちに向き直ったタカネは、空いている手をスッと伸ばす。
そして掌を上に向け、ちょいちょいと指を折って見せた。
おお、挑発か。カッコいいなあ。…って言うか、もうあたしは目立てないなぁ。
「かかってらっしゃい。」
あまりにも不敵な、タカネのそのひと言が合図だった。
あたしたち3人は、一気に地を蹴って跳び出した。
…いや「かかって来い」って言って自分から行くの?
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あたしとゼビスさんはともかく、タカネの跳躍に盗賊たちは度肝を抜かれた。
あんな重そうな刀を肩に担いだまま、一気に岩場の半ば辺りまで跳び上がるとは。
相手が反応する前に、タカネは竜の刃を大きく横薙ぎに振るった。
目の前の岩が切断され、上に立っていた盗賊の一人が慌てて飛び降りようとする。
しかし、タカネの目の前で無防備な姿を空中に晒すのは、明らかな悪手だ。
刃を寝かせた状態でもういちど振り抜いたその青い刀身は、飛び降りた盗賊を
これまた盛大に地面まで吹っ飛ばした。
そのさまは、もはやハエ叩きにしか見えない。
ガァン!
あまりにも派手なタカネの剣戟に気を呑まれていた盗賊の一人が、懐に飛び込んだ
ゼビスさんのガントレットで顎を砕かれたらしい。抵抗らしい抵抗もなく倒れる。
「いやはや。」
その体をひょいとかわしながら、ゼビスさんは呆れたような声を出した。
「あっちの嬢ちゃん、武器のセオリーが全く通用しねえな、オイ。」
はい、それは同意します。
あんな重くて馬鹿でかい刀を持って、こんな高低差のある岩場で接近戦って。
何もかも常識外れですよね。
あの刀は、彼女がムジンカのギルドを単身訪問する直前にでっちあげた代物だ。
やっぱり武器を持って行った方がいいよ…と言ったら、あんなとんでもないものを
一瞬で作り上げた。
要するに、あれはジアノドラゴンの鼻先のツノの一部だ。
知っての通り、タカネは体組織の素材を圧縮して現出させる事だけはできない。
体を得て以来、組み換えや変形に関してはかなり自由度が高くなったらしいけど、
この圧縮・変質という部分だけはクリアできなかったんだとか。
なのであの刀も、鉄のように金属として鍛錬をしたわけではない。ただ単純に、
ツノの一部分だけを薄く鋭く、刃物のように部分形成しただけだ。
同じ事はあたしの骨でも可能らしい。しかし人間の骨で武器を作ったとしても、
それは打製石器にも劣るようなお粗末なものになるだろう。強度が全く足りない。
しかし、そこはジアノクオリティである。
あの青いツノは、ジアノドラゴンの体の中で最も硬い部位らしい。その強度は、
牙と比べると2倍。そして何と、鱗のほぼ6倍。
そのまま3Dプリントしても、刃物としての強度は桁外れなのであります。
もちろん、途方もなく重い。
今のタカネは、自身の体重を通常の数倍まで重くしているはずだ。それにより、
刀に振り回されないバランスを維持している。当然、それを機敏に動かせるだけの
筋力も上乗せしているわけであり…
やめよう。
あたしとゼビスさんの地味さが浮き彫りになって、無駄にテンション下がる。
「このガキ!!」
いい感じに襲い掛かって来る盗賊がいた。おお、空気を読んでくれるね。
ハルバードのような長い得物による一撃を、あたしは体を捻って難なく回避した。
それでも、間合いはまだ開いている。
構わずに右手を正拳で構え、狙い一発。
「音速拳!!」
ドゴン!
比喩ではない、音速のパンチが相手の冑にクリーンヒットした。
グシャッという音と共に冑がひしゃげ、鼻と口から血を噴き出した相手が倒れる。
続けて襲い掛かろうとしたもう一人が、気を呑まれて一瞬立ちすくんだ。
その油断、イタダキ!!
倒れた男を跳び越えたあたしは、虚空に身を躍らせたまま次の一発を放つ。
「音速拳!!」
空中で失速しかけたあたしの体は、パンチと共に不自然なほど一気に加速した。
狙い過たず、今度は相手の胸元にヒット。これまた鎧を凹ませ、相手はそのまま
糸の切れた人形のように倒れ伏した。
ヒューッと、ゼビスさんが口笛を吹いた。
「こっちもなかなか無茶苦茶な事しやがるなぁ。」
すみません、確かに無茶苦茶です。それも、あなたの想像以上に。
そしてこの技、あなたの戦い方を見て思いつきました。
言うまでもなく、あたしには膂力が足りない。ジアノドラゴンを圧縮したような
タカネとは異なり、一般的な人間として現出しているからだ。いくらアスリートの
身体能力を付与しても、それでこの世界の男性と互角に渡り合えるとは限らない。
かと言って、あまりにも人間離れした獣の姿で戦いたいとも思わない。
そんな時、ゼビスさんのガントレットを見て閃いた。
要は、スピードのあるパンチを相手に叩き込めればいいのである。結果が全て。
このガントレットの内側には空洞がある。握った拳の指と、ナックル部分の間だ。
パンチを撃つ直前、この空洞に水の球を作り出す。握った指のすぐ先の空間だから
座標は一瞬で特定できる。
そしてその水の球を、目の前の標的目掛けて音速で飛ばすのである。
するとどうなるでしょう?
当然、逃げ場のない水の運動エネルギーは、ガントレットを勢いのまま引っ張る。
相手目掛けて。
結果的に、それは音速に近いパンチとなるのである。
あたしの筋力はいっさい必要ない。むしろ脱力するのがポイント。
当然、一発撃てば肩も肘も手首も全部脱臼する。その結果、リーチが伸びる。
インパクトの瞬間、指の骨も折れる。
だからどうした!
痛みは遮断してるし、次の瞬間には完全に直っているのである。
カッコつけるには、それなりに体を張らなきゃいけないんだよ!
「デタラメな奴らだぜ。」
…しみじみ言われちゃったよ。




