寝相の悪い相方
「パートナー」のちょっとした後日談になります。
時刻はほぼ正午。
「お昼になっちゃったね。とりあえず、さっき見つけたお店で…」
「…………」
…あれ?
返事がない。
「タカネ?」
仰ぎ見たその顔には、表情と呼べるものがなかった。完全に抜け落ちていた。
こちらに全く目も向けず、ただただ機械的に歩いている。
こんな姿を見たのは、初めてだった。
「あ、あの、タカネ?…何か怒ってる?」
「……」
「ね、何か言ってよ。…もしかして昨夜のあれ?あれが気に障った?」
「……」
「ねえってば!…ご、ゴメン!余計なこと言っちゃって!でも…」
「あ、ゴメン。何?」
唐突に、タカネの意識がいつも通りに戻った。
ガラにもなくうろたえていたあたしは、慌てて正面に向き直る。
「な、何でもない。…何ボーッとしてたの?」
「?…ああ、ゴメンね。ちょっと、宇宙タカネとの交代をしてたもんだから。」
「え?」
意外な言葉が返ってきた。
「交代ってつまり、前に言ってたやつ?」
「そう。」
「こんな時間にやるんだ。」
「よほど手が離せない状況になってない限り、毎日、正午4時に交代してるよ。
安全を考えると夜中の方がいいんだろうけど、大抵そっちは寝てるからね。」
へえぇ、それは知らなかった。と言うか、全然気付かなかった。
正午に話をしてた事って、結構あったと思うんだけどな。
「互いの記憶を共有って言っても、たかだか1日分だからほんの一瞬で済むのよ。
今日はちょっと長引いたけどね。」
「どうして?」
「そりゃあ…」
グッと身を乗り出したタカネは、あたしの顔を上から覗き込む格好になった。
「抑制の解禁があったから。」
あ。
そうだった。地雷踏んじゃった。
「ええっと、その…」
「まあ、そのへんをちょっと細かく意見交換してたからね。いわゆる自分会議。」
その内容で自分会議ですか。
議題のメインであろう人間としてはちょっと不安なので、議事録が見たいです…。
と言うか。
「あのさ、ちょっと疑問に思ったんだけど。」
「うん?」
「宇宙タカネって、あたしの記憶やリアルタイムの感覚にはリンクしてないけど、
あなたとのリンクは常に維持されてるのよね?」
「そう。だから記憶の共有っていうのはむしろ、向こうの状況把握がメインよ。
あっちの仕事はかなり余裕だけど、こっちは結構不慣れな部分もあるからね。」
「…で、あなた自身の状態チェックも、宇宙タカネが常時やってると…。」
「そういう事になるわね。」
「寝てる間も?」
「むしろそっちがメイン。」
うーん…
という事は。
「じゃあ、寝ぼけてる時もちゃんとチェックしてるのよね?…今朝みたいに。」
「そう。」
そう、って。
あっさり認めるなあ。
「何で起こしたりしないの?」
「そりゃあ、起こしたくないからでしょ。」
「え?」
意外な返答にキョトンとしたあたしの顔を、タカネは笑いながら見つめた。
「想像しにくいかも知れないけど、宇宙タカネもあたしも同一の存在なのよ?
考える事も同じだし、求めるものも同じ。寝ぼけてあなたに抱きついたのなら、
それは止めたり咎めたりする事じゃないのよ。だって、自分がしたいんだから。
もしそれを止めちゃったら、交代した後の自分も止められてしまう。そんなの、
あたしにとっては何のメリットもないからね。」
「…そ、そう…なのね。」
なるほど。言われてみればその通りだ。
チーム内の別メンバーみたいに思ってたけど、「タカネ」は本来ひとつの意思だ。
一方が一方を否定する事態は起こり得ない。両手でやる一人ジャンケンにおいて、
偶然の勝敗が生まれないのと同じだ。
うん。
そういう事だ。大体分かった。
つまり…
「今朝の目覚めのくだり、明日もう一回やるから。よろしくね。」
やっぱりそうなるんかい!!
って言うか、明日だけで終わる保証あるんかい!
「抑制の解禁、よね!」
いかにも楽しそうに笑うタカネの表情に、ほんのちょっとだけ魔性を見た。
やっぱりあたし、早まったんじゃないかなぁ…
ま、いいや。
「お昼食べに行こっか。」
「はーい!」
連れもって歩き出すあたしたちの影が、足元に濃く映っている。
ゆっくり歩いていこう。
これからも。




