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骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第四章・捨てたもんじゃない世界
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打開策

「ヒゲ面さん!」

「あぁ?俺の事かよ!?」

「そうそう。ちょっと詳しく話聞かせてよ!」


あたしは、なおもあたしを睨んでいるヒゲ面さんにまくしたてた。

やっと見つけたチャンス、ふいにしてたまるか。


「ラスコフの魔術師が混じってる盗賊がのさばってるんでしょ?」

「だったらどうだってんだよ。」

「会ってみたいと思ってさ。」


……………………………………………


どっと笑われるかと思ったけど、予想より空気は険悪だ。どっちでもいいけど。

よほど腹に据えかねたのか、あたしたちを取り巻いていた男の一人が口を開く。


「ガキが何えらそうにほざいてやがる。よそ者風情がよ。」

「よそ者がどうなろうと、別にどうでもいいでしょ?」

「はぁ!?」

「どうせその連中、かなり賞金が懸かってるんだよね?だから横取りされるのが

 気に入らない。そんなとこじゃないの?」


……………………………………………


そこでようやく、どっと笑いが起こった。

おお、やっとウケたよ。


「なかなか面白いガキじゃねえか。あいつらに勝つつもりみたいだぜ?」

「おいおい姉ちゃん。お前一体どんな躾してるんだ?お前の飼い犬だろうがよ。

 もうちょっと吼え癖は直した方がいいぜ。」


いいねいいね。やっと場が和んだ。

もはや、あたしがラスコフの魔術師かもという疑念はきれいに吹っ飛んでるよ。

ただのイタい厨二病ガールと思ってくれたらしい。まあ、3割くらい当たってる。

侮ってくれるのはホントにありがたい。変に警戒されるよりよっぽどいい。

ちなみにこういう時、タカネは完全無視モードになる。

あたしに対する侮辱の言葉がいかに飛び交おうが、風のように聞き流してくれる。

()()()()()()()()()()()()()と、ちゃんと理解してくれてるからね。


ひとしきり馬鹿にされたところで、あたしはもう一度ヒゲ面さんに声をかけた。


「うん。じゃあ、そろそろ教えてよ。その盗賊って、どこ行けば会えそうなの?」

「お前、しつこいな。」

「心配してくれるの?」

「フザけてんのか?」


いや、普通に交渉してるだけですけど?


「よそ者が出しゃばるなって言われてんの、何でわかんねえんだよ。」

「だったら、あなたたちは何で出張らないのよ。」


そのひと言で、場が凍りついた。


「結局、そいつらが怖いだけなんでしょ?いや、別に現地まで案内してくれとか

 そんな無茶は言わないよ。魔術師って怖いもんねぇ。」


ほどよく燃料投入。

今度は凍りついた空気が煮えたぎり始める。

あたしも、場のコントロールが上手くなってきたなあ。…煽ってるだけだけどね。


「あたしたちの心配なら無用。賞金をかっさらう気もないよ。もし何だったら、

 後から来てくれればいい。そっちが欲しそうなものは残しとくからさ。」

「待て。」


そこでようやく、受付の痩せ男が声を上げた。


「ギルドに依頼されている案件を勝手に語るな。ハンター登録をしている者が、

 しかるべき手続きを踏んでから受ける決まりだ。それを…」

「あんたには用はないよ、枯れ枝さん。」


痩せ男の顔色が、さっと変わるのが判った。怒るならご勝手に。

失礼はお互いさまだからね。


「さっきも言ったけど、あたしはその盗賊団の中の、魔術師に会いたいってだけ。

 討伐だの何だのには興味ないし、それに…」


言いながら、痩せ男の視線を真っ向から見返す。


「この程度の男に受付が務まるようなギルドに、わざわざ登録する気もないし。」

「なっ…!」


バァン!!


痩せ男の顔が歪むと同時に、とんでもない音が空気を震わせた。

ビクッと振り返ると、ヒゲ面さんがカウンターの天面を思い切り叩いた音らしい。


あぁ~、ビクッとしちゃった。締まらないなぁ、かっこ悪いなぁ、あたし。

クールに決めたかったんだけどなぁ…

微動だにしなかったタカネの、生温かい視線がちくちくと刺さる。

しょうがない。ここは取り繕わずに素直に行こう。


「ビックリしたぁ。何?」

「お前、ギルドを馬鹿にするってのが何を意味してるか分かってんのか?」


おお、ビクッとしたのはスルーしてくれるのね。ありがたや、空気読める人だ。


「え?えーと、所属してるハンターをまとめて馬鹿にする事…かな?」

「分かっててやってんのかよ、くそガキが。」


当たり前じゃん。

何のために、あたしがせっせと煽ってると思ってんの?空気読めるなら察してよ。

こういうのって、泥臭く男臭くやるもんでしょ?


「馬鹿にされるのが嫌なら、力ずくでねじ伏せればいいじゃん。出来るでしょ?」

「死にてえのか、お前?」

「試してみれば?」

「…いいだろう。来い。」


押し殺した声でヒゲ面が言うと同時に、周りの面々がパッと下がった。

いつの間にか背後のテーブルが脇へどけられ、そこそこ広い空間が作られている。

その手際の良さに、ちょっと感動した。荒くれてるなあ、このギルド。


ヒゲ面は、ゆっくりとその空間に足を向ける。あたしは、すぐには追わなかった。


「最初に決めておくよ。あたしが勝ったら、盗賊の出そうな場所の情報をもらう。

 何だったら連れて行ってもらう。いいわよね?」

「ああいいぜ。」


腰に手を当てたヒゲ面は、不敵な笑みを浮かべた。実際、かなりカッコいいよ。


「その代わり、俺が勝ったらそっちの姉ちゃんをもらうぜ?」

「いいよ。ご自由に。」


周囲から、下卑た口笛と歓声が上がった。


「つくづく救えねえガキだぜ。あの女も良く付き合ってるもんだな。奴隷か?」

「意外とそんなもんじゃねえか?」

「おいゼビス。俺たちにも回してくれよ?」

「ああ、考えとく。」


ヒゲ面さん、ゼビスって名前だったのか。


それにしてもギルドの人間、放任し放題だな。まあ、それで円滑なんだろうけど。

ムジンカの街の、侠気にあふれたナイスミドルたちが懐かしい。ユロスさんも。


小さく息を突き、あたしはゆっくりとゼビスさんの向かいに歩み寄った。


「やめるなら今だぜ?…まあ、あの女は置いていってもらうが。」

「お気遣いありがとう。」


そう言って、あたしはじっとゼビスさんの目を見据えた。


「念のために言っとくけど、負けたからって数を頼みに踏み倒すとかは無しよ?

 ちゃんと情報はもらう。そのへん、二言はないわよね?」

「勝つつもりかよ。恐れ入るぜ。」

「真面目に言ってるのよ。」


そう、いたって真面目に。


「もしも約束を反故にしたら、その時は()()()()()()()()()よ?」

「あの姉ちゃんがかよ。怖ええ怖ええ。何されるんだかな。なあ?」


肩を竦めたゼビスさんの言葉に、笑い声がそこかしこから漏れた。

うん、分かった。


「タカネ。」


ドゴォン!!


重厚な轟音と共に建物が揺れ、梁からパラパラと埃が舞い散った。

無造作に叩きつけられたタカネの拳が、カウンターを完全に破壊した音だった。

天板は折れてくの字になり、土台を成していた大きな石がまるごと陥没している。


死のような静寂が、場を支配していた。


うん。今回はビクッとしてないよ。ビビリの汚名返上!


「……」

「怒ったらこんなもんじゃないよ。そこらの人間なんか、形も残らないからね?」


ゼビスさんの顔は、土気色になっていた。

ちょっとビビらせ過ぎたか。


「あ、心配ないよ?あたしはあんな事できない。タカネの方がずっと強いから。」

「お、お前ら…」

「分かった。こうしよう。あたしは攻撃はしない。」

「あ?」


手のひらをヒラヒラさせ、あたしはニッと笑いながら煽った。


「そっちから攻撃して、もしあたしを倒せたらそっちの勝ち。倒せなかった時は

 あたしの勝ちって事よ。それならいいでしょ?」

「馬鹿にしてんのか?」


お、元気になってくれたね。そういう点、脳筋は助かるよ。

タカネの一撃でノーゲームなんて、そんなパッとしない結末は面白くないからね。


「やってやるよ。その減らず口、二度と叩けないようにしてやる。」

「いいわよ。で、今言ったハンデは?」

「いらねえよ。遠慮なく攻撃して来い。」


あらためて向き合い、あたしは片手を差し出した。

お先にどうぞ、の合図だ。


今回、衆目があるからバリエーションボディは使えない。素体のままで挑む。

だけど、全くのそのままじゃないよ。


人狼融合(エヴォルフュージョン)。」


動体視力だけを向上させ、金色の目で相手を睨み据える。


さあ。


いってみようか。

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