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骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第四章・捨てたもんじゃない世界
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街の午後・1

結局、ガタゴトガタゴトで3日間。

特に何かを打開したわけでもないまま、次の街・ユージンカに辿り着いた。

すっかり話し友達になったお婆さんは、タカネに上等のドライフルーツをくれた。

孫と話してるみたいでとても楽しかったわ…と言いながら、笑顔で去って行った。

お婆さん。

その孫みたいな女の子は、少なく見積もってもあなたの30倍は生きてますよ。


というわけで、街の中央部にある鳥馬車のターミナルに降り立ちました。

ここはロドーラでも屈指の大都市のひとつらしく、人の数が半端じゃなかった。


そうか、人の姿があまりないのがムジンカで、たくさんいるのがユージンカね。

なるほどなるほど、よく分かりました。

…すみません。ちょっと疲れてるかも知れませんね、あたし。


ムジンカの建物は、どちらかと言うと木造が多かった。表面に防腐処理をして、

色とりどりに塗っているのが大きな特徴だった。

それに対し、このユージンカでは石造り、レンガ造りに近い建物が多い気がする。

地理的な事情とか材料の調達とか、いろんな理由で違いが生まれたんだろうね。

やっぱりレンガ造りの建物が多いと、大都市なんだという実感が強くなる。

あと、ガラス窓がある建物が多いのも目につく。

透過性で言えば日本で見ていたものとは比べるべくもないけど、実にオシャレだ。

さすがはロドーラ、街ごとの建築を見るだけでかなり楽しめるよ。


「さて、どうしようか。まず…」

「お昼食べよう。」

「うん、そうね。」


わずか数秒で次の行動が決定してしまった。

タカネはけっこう、食欲旺盛だ。食餌という行為に興味があるのかと思ったけど、

どうも純粋に食べるのが好きらしい。あたしも別に異存ないからいいです。

街並みに活気があって、歩いているあたしたちも自然とテンションが上がった。

お昼時はちょっと過ぎていたけれど、それでも飲食店はどこも混雑している。


とある食堂の前を通った時、あたしのテンションは爆上げになった。


「しょ、食品サンプルだ!!」


思わず声に出してしまった。

まぎれもない作り物のお料理の見本が、いくつか店先のテーブルに飾られていた。

もちろん、メイドインジャパンと比べればシンプルな作りではある。と言っても、

蝋か何かで丁寧に作られたその造型は、日本出身のあたしのハートを撃ち抜いた。


「ここにしよう!!」

「うん。」


あっさり賛成したタカネの、そのリアクションの薄さが何とももどかしく悲しい。

この感覚を分かってくれる人と、少しでいいから話がしたい…!

まあ、それは置いといて。


店の中は、外から見た予想よりもかなり明るかった。どうやら、屋根に明り取りが

たくさん設けられているかららしい。飲食店の中が明るいのって、いいよね。

背の高い女性が注文を聞きに来たので、表の食品サンプルと同じやつ!と即答。

半笑いで引っ込む女性の顔が、引っ掛かったわねオノボリさん…と言っていた。

いいんです。心動かされたんだから。


よく内容を確かめていなかったけど、出てきた料理はかなり独特な代物だった。

例えるなら、あれだ、ホラあれ。ええっと……そう、湯葉!湯葉で野菜を包んで、

そのまま蒸し上げたような感じ。実に日本人好みのヘルシー食です。

見た目より味付けは濃いけど、全然オッケー。ロドーラの食べ物は大好きです。

タカネもあたし以上に気に入ったと見えて、目を見開いたまま黙々と食べている。


いやあ、タカネと一緒にお料理を楽しむ日が来るとはね。人生って分かんないね。

だって、ここへ来た最初の日なんか…



不意に涙がこぼれた。


もぐもぐ口を動かしながらこちらを見たタカネが、ぎょっとますます目を見開く。


「もごひたほ?」

「何でもない。あと、口にモノを入れて喋らないの。」


泣き笑いになったけど、あたしは務めて明るくそう応えた。


そうだった。

ウキウキしながらやって来た、この世界での初日。

ドラゴンに半身を喰われ、崖から突き落とされ、自分の体が噛み砕かれるのを

下から見上げさせられ。

誰もいない夜の河原で、希望の見えない涙を流し。

誰もいない夜の川で少女の亡骸を抱き、悲しみの涙を流したんだった。


誰もいない世界なんじゃないかと、深過ぎる絶望を味わったのを思い出した。


今。

日本を思わせる食品サンプルに感動し、ヘルシー食に舌鼓を打っている。

明り取りから午後の日差しが柔らかく差し込む、騒がしいレストランの席で。

ずうっとあたしを守り続けてくれている、優しい相棒と共に。


こういうのをやりたくて、おじいちゃんの遺産を一気に吹っ飛ばしたんだった。

賞味期限の切れかけた地球で賞味期限の切れかけた人生、いや余生を送るよりも。

しんどい思いをしてでも、自分だけの新鮮な人生を送ってみたかった。

まあ、予想を遥かに超えるほど、しんどい思いの連続だけど。

踏み止まった結果、あたしはここにこうして座ってる。


この世界に、来てよかった。


はっきり感じたのは、もしかして初めてかも知れない。

このお料理が、すごく好きになりそうだった。


=====================================


「いやあ、食べた食べた。…さてと。」


おかわりまでしてすっかり満腹になったあたしたちは、通りを流していた。

ここには、いくらでもいらっしゃいます。ロドーラ美人さんたちが。噂に違わない

グラマラス美人の見本市でございます。華やかだなあ。

彼女たちに比べれば、今のあたしはかなりのチンチクリン小娘です。認めます。

でも、それはもういいんです。

そんなロドーラ美人さんたちでさえチラチラと二度見する、連れがいますからね。

その連れが、この姿がいいと言ってるんです。だからいいんです。

だけどね。


「じゃあ、服を買いに行こう。」

「そうね。」


あたしは、このロドーラの街で服装を変える事を、到着前から決めていた。

いま着てるのはとにかく頑丈なので、それほど目立った損傷などはできていない。

同じ仕様の大人サイズは原形留めぬほどボロボロにされたけど、あれは仕方ない。

お色直しの理由はいくつかある。


1:着心地が固い

 当たり前じゃんと言われそうだけど、あたしは蒸れようが擦れようがすぐ直る。

 だから問題ない…と思ってたけど、傷が出来たりかぶれたりする前でも充分に

 不快なんだよね。ずっと着続けて、それは実感した。

 汗をかかなくても老廃物が出なくても、着心地の悪さは変わらないのよ。

2:耐久性の重要度低下

 旅の道中、何が起こるかは全くの未知だった。あたし自身は何があってもすぐに

 修復できるけど、服はそうはいかない。だから、可能な限り丈夫なのを選んだ。

 だけど今では、あたしの完全な上位互換であるタカネがいつも一緒にいる。

 そういう意味では、少なくともあたし自身の負担はかなり減ってるからね。

3:伸縮性がない

 この世界の服にそれを求めるな?…はい、ごもっともです。

 だけど、あたしはバリエーションボディを使う時点でけっこう体型が変化する。

 ここまで固い服では、そもそもそれに全く対応できないのが問題。

4:釣り合いが取れない

 …あまりにも地味すぎて、タカネと並んだ時にものすごくアンバランスになる。

 いや、ルックスやスタイルで勝てないのは当然だ。そこは仕方ないと思ってる。

 でも、下手にコンセプトが似てるのが問題なのです。もっと違う服にしないと、

 当社従来品と新製品の比較みたいになってしまってる。


うん、買い換える理由としては充分。

充分過ぎる。

充分過ぎて、ちょっと切なくなってくる。



さあ、服屋へレッツゴー!

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