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骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第四章・捨てたもんじゃない世界
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問題

「へぇー、ラスコフですか。そりゃまた遠い所へ…」

「ええ、そうなんですよね。なかなか大変ですよ。」


大きな荷物を抱えたお婆さん相手に、和気あいあいと言葉を交わすタカネ。

確かあなた、この世界に来てまだ数日だったよね?

何なのその無駄に高いコミュ力は。


地球にいた頃からちょっとコミュ障気味だったあたしは、にこやかに語るタカネに

何となく嫉妬めいた感情を抱いていた。我ながら、子供っぽさ全開とは思うけど。

だって18歳だもん。プラス2863歳は忘れて下さい。


タカネがギルドで挨拶をした、翌日。

あたしたちは、乗り合いの鳥馬車で次の街を目指す旅に出発していた。

思えば、こういう交通手段を利用するのは初めてかも知れない。基本、自前だし。

狭い。固い。揺れる。騒がしい。蒸し暑い。

そして何より、ものすごく遅い。

と言っても、乗り心地に対する不平は、あってないようなものだ。疲労も腰痛も

エコノミー症候群も全てリセットされる体で、そんな事を言ってたら怒られる。

だけど、遅いのだけは辟易する。

ここまでは基本、自分の足で走破してきた。鳥馬融合(バリオフュージョン)ならとにかく速い。

1日80キロというノルマを物足りないと感じた事も、一度や二度ではなかった。

場合によっては、夜でもぶっ通しで走ったりしてたからね。


だからこそ、この乗り合い鳥馬車という移動手段の鈍足はかなり堪える。

夜通し走る新幹線から、各駅停車のローカル電車に乗り換えたみたいな感じだ。

具体的に急いでいるわけではないけど、とにかく速度そのものにイライラする。

ああ、走りたい!!


じゃあ、走れよって?

何でそんなものを利用してるんだって?


=====================================


昨日。

ギルドを後にしたあたしたちは、とりあえず食事を摂った。

何てこともない普通の定食だったけど、タカネのテンションはとっても高かった。

当然だろう。

自我を持ってから、初めて食べる食事だ。あたしとの感覚共有とはワケが違う。

頼もしく見えるし、実際にとんでもなく頼もしいんだけど。

彼女だって、この世界の初心者なのは同じ。その事実はちょっと嬉しかった。


まだ昼過ぎだったので、あたしたちはムジンカの街を終日ブラブラと散策した。

用事が済んだといっても、さほど急ぐ旅じゃない。なら、せっかく来たこの街を

少しは見ておきたいと思ったからだった。


坂道を登って下って、階段を上って下って、塔の上からランカ河の流れを望んで。

晴れ渡った空の下に広がるムジンカの街は、実に美しかった。

行った事もなかった地球の遠い異国に、ちょっと思いを馳せてしまうほどに。

本当は、最初からこういう事をしたかったんだよね。

しかも隣には、見聞を語り合える道連れもいる。


ベズレーメの街は今でも嫌いだし、二度と行きたいとは思わないけど。

ここは、またいつか来てみたいと心から思った。今度は、もう少しゆっくりと。



その夜は、宿を取った。

河越えの前はけっこう野宿の夜が続いていたから、実は久し振りだった。

出発は明日にしようという事で、せっかくだから上級の部屋を選んだよ。


体の疲れは秒単位でリセットできるけど、頭はそうは行かない。丸1日観光して、

気がつけば結構疲れていた。なので夕食は宿の食堂で頂き、早々に部屋へ。


「いやあー、歩いたね。」

「お疲れさま。」


あんまり必要ないんだけど、あたしは大きく伸びをした。

で、あっち向いてこっち向いたら。

無骨な戦士っぽいスタイルだったタカネが、秒速でジャージ姿になっていた。

その早着替えのテクニックも凄いけど、顔立ちと服装のギャップはもっと凄い。


「あれ、服は?」

「分解した。」

「へ?だって、この世界に出して固定を解いた物質は、制御から外れるんじゃ…」

「いや、あれは()()()()()()()()()()()で出来てるからね。」


え?

どういうこと?

どっからどう見ても、普通の服にしか見えなかったんだけど。

つまりあれって、ジアノドラゴンとかの生きた細胞で作られてたの?


「よくできてたでしょ?」


そう言って、タカネは自慢げに胸をそらせた。


「横隔膜とか筋繊維とか、そういうのを組み替えてデザインしたのよ。それと、

 色はランカコウモリの遺伝子に体色変化系機能があったから、それを応用した。

 体と融合してればそのまま制御できるし、この通り消す事もできるってワケ。」

「そ、そうなんだ…」


ちょっとだけ、ジアノドラゴンやコウモリが不憫になった。


あれ?…待てよ?

あの服が生体組織、つまり体の一部だったとすれば、あの姿のタカネって…


「あ、ひょっとして見えない部分は手抜きしてたんだろう、とか思ってる?」


しげしげ見てしまっていたあたしの視線に、タカネはちょっと口を尖らせた。


「そこはちゃんと作ってるよ。あくまでも融合は一部分だけなんだし、実際には

 衣服の着用とそんなに変わらないんだからね。…疑うんなら見てみる?」

「え?…ってちょっとちょっと!!」


言葉の意味を理解する前に、何を思ったかタカネはジャージの胸のファスナーを

下ろし始めた。あたしは、突き出した両手を全力でブンブン振りながら訴える。


「いらないいらない!そんなの疑ったりしてないから!見せなくていいって!!」

「そう?」


なおも口を尖らせたまま、タカネはファスナーを戻した。…なんでそんな渋々?

そんなもの見せられたら、こっちがどういうダメージを受けるかが想像できない。


と言うか。

目まぐるしい一日だったし、タカネの態度もごく普通だったから忘れてたけど。


今朝あたしはタカネに告白され、事実上、それを受け入れてるんだった。

お互いがあまりにも特殊過ぎて、それを告白と定義していいのか自信がないけど。

だとすると、この現状はちょっとマズイのではないだろうか。

まともな恋愛経験がほとんどないあたしは、根拠の乏しい焦りが逆に加速する。


「ええっとですね。その、つまり…」

「もう遅いし、寝よっか。」

「え?」

「寝よ寝よ。明日も早いよ?」

「…あ、ハイ。」


あれこれ考える前に、2人並んで寝床に就いた。

絵的には、まったくもってお母さんに寝かしつけられる娘さんだ。

だけど、やっぱりあたしの頭はグルグルと忙しく高速思考回転を続けていた。


寝るって言ったけど、そもそもタカネに睡眠って必要なの?…ってか、眠れるの?

眠らない場合、一晩中どうしてるの?

自己進化(アップグレード)の中に、三大欲求の構築っていうのはきっちり含まれてたの?


ズタボロになって倒れ込み、泥のように眠りこけたのは昨夜の事だったはずだ。

何なんだろう。このあまりにも劇的な状況の変化は。

昨日と今日で、1年分くらいの情報を叩き込まれ、そして無理やり呑み下してる。

頭が全然それに追いついてないよ。


でも、やっぱり疲れていたのだろう。

ほどなく、あたしは眠りに落ちていた。


翌朝、あたしはまだ明け切らない時間に目が覚め、そして跳ね起きた。

恐る恐る傍らを見ると、タカネは熟睡していた。間違いなく、本当に寝てた。

あたしの方がちょっと変な気を起こしそうになるくらい、無防備に眠っていた。


後から聞いたんだけど、こっちのタカネは本当の意味で「睡眠」するらしい。

単なるデータ管理ではなく、実際の肉体を動かしているために生じた機能だとか。

もちろん、彼女の疲労はあたし同様にリアルタイムでリセットされる。なので、

疲労回復のために眠るんじゃない。「眠る事ができるようになった」って話だ。

ちなみに、眠っている間の周囲のサーチは宇宙(ソラ)タカネに丸投げしているらしい。

何だその格差は。そりゃ確かに、交代制にしないと内乱が起こるよ。


ってわけで、何事もなく朝を迎えました。あれこれ考え過ぎた自分が恥ずかしい。

もっとも。

昨日予告された「お目覚めのくだりの繰り返し」でのタカネの表情を見る限り。

あながち考え過ぎとは言い切れない気もする。何だか、時間の問題のような気も。

でも、その時はその時だ。

あたしだって、後悔するとは思ってないし。


宿を引き払ったあたしたちは、街を出る事にした。

ここで話はようやく、始めに戻る。


=====================================


あたしたちが使った河沿い街道は、本当に「通ってはいけない危険な道」だった。

あんな傭兵たちがすぐ近くにキャンプを設けたんだから、当然と言えば当然だ。

ユロスさんが教えてくれた、次の街へ向かう中央街道。

ここは本当に賑わっていた。道幅も広いし、左右にいろんな店が立ち並んでるし、

何より往来する人の数が凄い。あらためて、ここが「街」なのだと実感させる。


ここをまっすぐ道なりに行けば、次の街・ユージンカに辿り着けるって事らしい。

鳥馬車を使い、およそ3日の道のりだ。途中の宿で2泊する。

もちろん、歩いて行けるような距離ではないとの事。

うん。理想的なガイダンスだ。さすがはユロスさん。

およそ、ケチをつける要素は何もない。()()()()()()()()()()()()()()()


実はあたしたちは今、ちょっとした問題を抱えてしまっていた。

昨日の死闘のゴタゴタの中で、すっかり流してしまっていたんだけどね。

あの金髪リーダーに、拳銃で撃たれた時。

胸元に入れていた魔術師のナビ水晶に、1発目の弾丸が見事に命中していたのだ。

そのおかげで致命傷にならなかったけど、水晶はその時に割れてしまっていた。


後で、あたしたちはその事実に頭を抱えた。

何だそのいらない演出は。安っぽいアクション映画じゃないんだからさ。

胸を撃たれるくらい、あたしには何でもない。どうしてそんなカッコよく庇った?

しかもその直後、あらためて2発目を心臓に撃ち込まれてる。つまり完全な無駄。

金髪リーダーもちゃんと狙ってくれればよかったのにと、理不尽に思った。


というわけで現在、あのナビが使えなくなっているのだ。

もともとかなりふわっとしたナビだったから、仕方ないかと思っていたんだけど。

大切なものって、無くしてから価値に気がつくんだよ。

「致命的な間違い」だけを指摘してくれたあの水晶ナビは、実はこの上もないほど

あたし向けのシステムだったのだ。


問題はズバリ、人目。


あたしはここまでずっと、人間離れしたスピードと持続力で旅を走破してきた。

もちろん、そんな姿をむやみに人に見せられるわけがない。だから可能な限り、

無人のルートを選んで進んできた。おそらく、かなりの遠回りもしていただろう。

スピードが速い上に持続力無限な身に、多少の遠回りなど何の問題にもならない。

だからこそあたしは、ナビを頼りに「ひと気の少ない」道を迷わず選んできた。


「まあ、大丈夫だよ」という、その場その場のファジー極まるナビだったけど。

実のところ、あたしの旅には非常にありがたかったのだ…と思い知った。


ユロスさんの案内は非常に的確だ。だけど、融通が利かない。脇道の情報がない。

指定されている街道を、指定どおりに進んでいくしかない。

しかも、案内は次の街までで終わりだ。もらった地図も、その辺までしかない。

おそらく、そこから先の詳しい事はユロスさん自身も知らなかったのだろう。

交通機関の発達していないこの世界で、それを責めるのはこの上ないお門違いだ。


だからこそ、こうして乗り合いの鳥馬車に揺られるしかなくなったのである。


ちなみに、今のタカネは竜の翼を使って空を飛べるそうです。わあ、凄い。

じゃあ、空から行けばいいじゃないかって?

ロドーラの地理を知らないのに、空から行ったってどこに何があるか判らないよ。

ここまでは、ランカ河に沿っての北上という単純なルートだった。

だけどここからは、小さいとは言えひとつの国を横切らなければならないんだ。

それは、言うほど簡単な事じゃない。

異議があるって人は、全くの手ぶらで隣の県まで歩いて辿り着いてみて欲しい。

もちろん地図もない・携帯もない・ネットもない…って前提でね。

世界というのは、そんな単純で狭いものではないんです。


他の乗客と呑気に語らうタカネの姿に、理不尽と思いつつもイライラが募る。

この地味で切実な悩みは、どう解決すべきなのだろうか。



ガタゴトガタゴト、のどかに進む鳥馬車の中で。


あたしは、何度目になるかも分からないため息をついていた。

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