表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第三章・魔法国を目指して
60/816

来訪者・1

本日、2本目の投稿になります。

ギルド内の空気は、何とも言えない独特のものになっていた。

言うまでもなく、昨日の出来事のせいだ。

そしてこれから出発する、3人への複雑な思いのせいだ。


昨日の午前。


方向音痴な、旅の女性がやって来た。

見た目よりずっと幼い印象の、可愛い子だった。


だけど、長くは話せなかった。

いきなり、森の魔術師がやって来たから。

まともな準備をする間もなく、あたしはみんなの手で隠し扉の中に押し込まれた。

事情を聞かされないまま、旅の女性もあたしと一緒に押し込まれた。


生きた心地がしなかった。

怖かった。

体が動かなかった。


だけど。


あたしを庇って、ディーンさんが殴り倒された。

言葉も分からない子供の頃から、父親のように慕っていたディーンさんが。

あたしを庇って、ニッシュさんが魔法で傷つけられた。

冗談半分にあたしに求婚しては、いつも大声で笑っていたニッシュさんが。


体が動くようになったのがわかった。呪いが解けた。

これ以上誰かが傷つけられる前に、あたしは出て行こうと決めた。

怖くて死にそうだったけど。

ここで出て行かなければ、心が死ぬと思ったから。


だけど結局、出て行く事は出来なかった。

なぜか、体が動かせなくなっていた。


一緒に隠れていたあの黒髪の女性が、代わりに出て行った。

意味が分からなかった。

この街の人間でもないあなたが、何故そんな馬鹿な真似を?

彼女はあたしに、困ったような笑みを浮かべていた。


「任せて。きっと、何とかするからさ。あたしを信じて。」


根拠も何もない事を言い放ち、およそ女の子らしくないポーズを取って。

彼女は、あたしの前から姿を消した。

あの、魔術師たちと一緒に。


あれからギルドで、激しい議論が交わされた。

有志を募って、すぐにでもあの子を救いに行くべきだと主張する人たち。

伝令を送って、橋の街ドージカから兵を派遣してもらうべきだと主張する人たち。

だけど、意見はまとまらなかった。

ニッシュさんの怪我を目の当たりにした人たちが及び腰になってしまったのを、

誰が責められるだろうか。

みんな、あの女の子を案じていた。無事を祈らずにはいられなかった。

だけどそれは叶わない。そのくらい、あたしにだって分かる事だった。


どうにもできない、重苦しい空気が流れていた頃。

遠くの方から、音が聞こえ始めた。何かが弾けるような、断続的な機械音。


ギルドにいた、誰かが言った。


あれは、森の魔術師たちの魔術の音だと。少し前に、聞いた事があると。

あの恐ろしい魔術の音が、こんなにひっきりなしに聞こえてきているの?

どうやら、森の方かららしい。

誰が、何をやっているというのだろうか。

誰にも分からない。


あたしたちには、どうにも出来なかった。


その日の夕方。

信じられない出来事があった。


ロネ、エピ、ライズの3人が、自力で歩いて帰って来たのだ。

誰もが目を疑った。

生きて帰って来るとは、誰も思っていなかったから。


変な服を着た3人は、思っていたよりも元気だった。

だけどさすがに、みんなで質問攻めにするのははばかられた。


だから、あたしが代表していろいろ質問した。


だけど、あんまり要領を得なかった。

あの森の魔術師たちに連れ去られ、相手をさせられていたのは事実だったけど。

なぜ逃げて来られたのかは、今ひとつはっきりしなかった。

何でも、いきなり外が大騒ぎになったので、それにまぎれて脱出してきたらしい。

やたら肌触りのいい珍妙な服は、魔術師たちの根城で手に入れたらしい。

あの女の子の事は、3人とも分からないと口を揃えた。

だけど、あたしには分かる。

3人とも嘘をついてる。あるいは、何かを隠してる。


とは言え、さすがにここで問い詰めるわけにはいかなかった。

気丈に振る舞っているけど、彼女たちだって深い傷を心身に負っているんだ。

とにかく、休ませないといけない。場の全員の意見に、あたしも異論はなかった。


落ち着いたら、ちゃんと聞こう。

だけど、それじゃ間に合わないのも分かっていた。


3人が無事に戻ってきたという朗報と、あのひっきりなしに聞こえていた遠い音。

とにかく明日の夕闇に紛れて、誰か斥候を出そう…という事で話は落ち着いた。


そして、今日。


あたしを含めて、ギルドの職員も常連も、いつになく早くから顔を揃えていた。

頬に張った膏薬が痛々しいディーンさんも、やはり厳しい顔をしていた。

午後になったら、昨日の内に志願した3人の男が、森へ向かう事が決まっている。

もっと多くの志願があったけど、大勢で行っても懸念が増すだけだという事で、

精鋭3人が選ばれた。その内の1人、最年長のベルゴさんは、エピのお兄さんだ。


今さら行ったところで、あの子が無事だとは思えなかったけど。

それでも、何も無かった事にはしない。それはあたしを含めた、ギルドの総意だ。

誰よりもあたしが行きたかったけど、さすがに皆から止められた。


もうすぐ出発の時間だ。

誰の顔も、緊張で強張っていた。

多分あたしも。


そして、すっかり日が高くなった頃。


ひとりの女性がやって来た。


=====================================


扉が開いた。


あたしは、ハッと目を向けた。

いつもの面々は、もうとっくにここに集まっている。なら、今さらこのギルドに

足を踏み入れる人は誰だ。


もしかしたら、昨日のあの子が戻って来たのかも知れない。

そんなあり得ない想像は、呆気なく覆された。


そこに立っていたのは、見知らぬ女性だった。

背が高く、そして整った顔立ち。思わず見とれてしまうような立ち姿だった。

定位置に座っていたなじみの面々も、その視線は釘付けになっていた。


だけど、釘付けになっている理由は1つではなかっただろう。

入ってきた彼女は、あまりにも異様な刀をその背に携えていた。


とにかく長い。湾曲しているとは言え、その刀身は子供の背丈を超える長さだ。

そして何よりも、美しい。と言っても、装飾の類は一切ない。むしろ作り自体は

非常に質素で、まともな鍔さえ取り付けられていない。ひとつの塊の如き代物だ。

それは目の覚めるような、青い宝石を思わせる湾曲刀だった。


誰も声をかけられない中、彼女はゆっくりとこちらへ向かってきた。

恐怖は感じないけれど、圧倒されている自分がいた。それでも何とか平静を保ち、

背筋をピンと伸ばす。

カウンターの前まで来た女性は、そのままの姿勢であたしをじっと見ていた。

近くで観察すると、背中の刀は恐ろしく重そうに見える。しかし、女性はそれを

下ろそうともしなかった。よく姿勢を保っていられるなあと、ぼんやり思った。


と、次の瞬間。


「いいですか?」

「はい!」


裏返りそうな声を何とか整え、あたしはぎこちない笑みを浮かべた。


「ようこそ。何かご用命でしょうか?」

「ちょっと、聞きたい事があって。」


涼やかな声の持ち主だった。背中の得物が、何ともアンバランスだけど。


「何でしょう?」

「ユロスさんって、あなた?」


……………………………………………………………

…………………………………………………


「ハイっ!?」


今度こそ、声が裏返ってしまった。

あたしにご用命ですか!?


ギルド内の空気が、目に見えるほど張り詰めるのが感じられた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ