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骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第三章・魔法国を目指して
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背負うもの

「落ち着いた?」

「うん。」


ようやく落ち着いた。まだちょっと恥ずかしいけど。

でもそれは、取り乱した事に対してだ。別に、顔が見られないなんて事はない。

あたしは、勢いよく立ち上がった。タカネもそれに合わせ、ゆっくり立ち上がる。

立つと、身長差が浮き彫りになった。あたしなんて、タカネの胸くらいしかない。


「ちょっと。」


思わず、不平が口を突いて出た。


「あたしにはやたら規制かけてくるのに、自分のスタイルは随分と盛ったのね。」

「そりゃあ、当然でしょ?」

「何で。」

「ここはグラマラス美人大国なんだから。」


納得できるか!


「まあ、それじゃ納得できないわよね。」

「…って、自覚はあるのね。」

「もちろん。」


そう応えて、タカネは自分の胸元をポンポンと指で叩いた。


「あなたと同じ体形や年齢に設定すると、どう見たって2人旅には不自然過ぎる

 組み合わせになっちゃうでしょ?」

「まぁ、それは…うん。」

「かと言って、あなたの見た目をそのためだけにこっちに寄せるのも無理がある。

 第一、その2人旅も悪い意味で目立つでしょ?…変なのが寄って来そうだし。」


「…分かった。」


確かにこの組み合わせなら、タカネは単なる保護者にしか見えないだろう。

ちゃんと考えられてる。正直、納得するのはちょっと悔しかったりするけど。

でも、もうしつこく食い下がらない。

タカネはともかく、あたし自身のこの姿に関しては。


今はもう、タカネがこの姿を弄るのを嫌がる理由も、はっきり分かるからね。


=====================================


いつの間にか、すっかり明るくなっていた。

目を向けてみれば、キャンプの残骸がその枯れた様をあたしに見せつけてくる。


頑丈な金属でできていたコンテナや車両などは、かろうじて形を残していた。

それでももう、崩れ去るのも時間の問題だろう。

そこにある全てが、もう終わっていた。


「とりあえず、一旦ムジンカに戻ろうか、拓美。」

「え?…あ、うん。」


見入られそうになっていたあたしに、何気ない口調でタカネが提案してきた。

深く考える事もなく、その提案を受け入れる。


何だか、ちょっと調子が狂う。

今までは、相談をする事はあっても、最終的に「動く」のはあたしだけだった。

連れもった誰かが提案し、それに従って行動する…というのがものすごく新鮮だ。

そう言えばこの星に来てから、()()()()()ずっと一人だったからね。

そんな事を考えているうちに、タカネはさっさと歩き出していた。

慌てて後を追おうとしたあたしは、向かう先に目を向けてちょっと足を止める。


「タカネ。」

「ん?」

「…森を突っ切るの?」

「そうよ。」

「忘れてたけど、まだトラップがそこそこ残ってる。撤去しとかないと…」

「大丈夫。」


即答したタカネは、森の方をざっと指差した。


「あなたが起きる前に、残らず撤去しといたから。そこは心配しなくていいよ。」

「そう…ありがと。」

「それとこれ、はい。」

「え?」


手渡されたのは、すっかり存在を忘れていたリュックだった。

ずしりとした重みから察するに、ぶちまけた金貨もぜんぶ回収したのだろう。

言うべき言葉が特に見つからず、あたしは黙ってそのまま受け取った。

そして、本来のサイズの皮服に着替える。


「じゃ、行こうか。」

「うん…。」


できればもう、通りたくない場所だ。

タカネも、それは分かっているだろう。その上で、行こうと言っている。


だったらあたしも、正面突破だ。


=====================================


朝の森は、木漏れ日も実に美しかった。

だけど、昨日の爪痕はどこにでも見つけられた。

目を凝らせば、薬莢が落ちているのもチラホラと確認できる。さすがのタカネも、

そこまで根こそぎ回収する気はなかったらしい。

やっぱりここは、死闘の舞台だった森だ。


しばらく、黙って歩を進めたのち。


「やっぱり、まだ気にしてるよね。昨日の傭兵の事。」

「………」


いきなり、まったくオブラートに包まない言葉が投げられた。

何となく視線を足元に向け、あたしは沈黙を返す。遠くの鳥の声が聞こえた。


「気にするな、なんて事は言わない。あなたならきっと、あの連中の命をずっと

 背負い続けていくんだろうなと思うよ。それはそれで、大事な事だろうし。」

「………」


通り一遍なその言葉に、あたしは返事をする気になれなかった。

まさか昨日みたいな暴言を吐く気はないけど、それでもチリチリと心が焦げた。


「でもね、拓美。」


と、そこでタカネは足を停めた。

視線を逸らしたまま、あたしも黙って歩みを停める。


「背負うものの重さは、自分で決めても構わないでしょ。それに…」

「それに?」

「あたしも、半分背負ってるんだから。」

「何でよ。」


思わず、きつい口調の言葉が口を突いた。逸らせていた視線を、タカネに向ける。


「言葉だけでそういう風に決め付けてもらいたくない。どういう根拠があるの?」

「根拠、って…」


睨みつけながら放った言葉に、タカネは視線を泳がせていた。

深く考えずにそういう事を言われるのは、いくらタカネでも受け入れられない。

そういうの、一番いらない。


「…言わない方がいいと思うけど。」

「いいよ、言ってよ。」


言える根拠があるならね。

どうなのよ。


「その…」

「言って!」


そのひと言に、泳いでいたタカネの視線が、あたしに向いて止まった。

何とも言えない微妙な表情を浮かべながら、タカネは遠慮がちに口を開く。


「だから、さ。」

「何よ。」



「…いくら技名をカッコよく叫んでも、実際に撃ってたのはあたしなんだから…」



……………………………………………………………………

……………………………………………………………


「あああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁッ!!」


あたしは、思いっきり絶叫した。

またしても血が上った頭を抱え、思わずその場にうずくまる。

のた打ち回りたい衝動は、死に物狂いで押さえ込んだ。



痛い痛い!

痛い!!


()()()()()()()()()()()()()()()()()


恥ずかしいぃぃぃぃぃ!!



そうだった!!!


そうだったぁぁ!!!


あたしとタカネはずうっと、そういう二人羽織やってたんだった!!



技名を考えていた時の自分のテンションが、まざまざと思い出される。

一緒に考えてくれていたタカネの優しさが、今になって羞恥の炎に薪をくべる。


「まあ、そういうわけで…」

「ごめんなさい忘れて下さいタカネさん!!!!」

「いや、それは無理。」

「許してくださぁぁい!!」


声の限りの絶叫に、近くにいた鳥が全部逃げてしまった。


同時に、胸の中のアレやらコレやらも盛大に吹っ飛んでしまっていた。


=====================================


戦場だったエリアはもうすでに抜けたらしく、森の様子は穏やかになっていた。


あたしとタカネは、しばし無言で歩き続けていた。

タカネは、特に変わらない様子で。

あたしは、顔を上げられないまま。


限界を振り切った羞恥心は、それ以外の感情をかなり塗り潰してしまったらしい。


とにかく、タカネの言うとおりだった。

無理やりカッコよく言うなら、あたしが指揮官(コマンダー)、タカネが砲手(ガンナー)という感じだ。

ただしあたしたちの場合、砲手は指揮官に絶対服従ではなかった。撃てと命じても

拒む事はいくらでも出来たわけだから。

人間の感覚で言えば間髪を入れない発射だったとしても、彼女の処理速度で見れば

それなりに検証も葛藤もしていたはずだ。その上で彼女は、あたしの指示した通り

獣を撃ち、人を殺してきた。


背負うものが半分ずつというのは、詭弁でも何でもない。単なる事実だった。


だから気が楽になったかと言われると、それはちょっと微妙だけど。

ブラックホールもかくやというくらい、漆黒の黒歴史が心に刻まれたけど。

とりあえず、前を向く気にはなれたと思う。


だからタカネさん。

できれば、もう触れないで下さい。

あたしの黒歴史には…


「そう言えば、さっきの技名を叫ぶって話についてなんだけどね。」

「忘れて下さい!!」


思わず、裏返った声を上げてしまった。

一瞬目を丸くしたタカネは、ちょっと生温かい視線をあたしに向ける。


生温かいけど、その視線は針千本です。


「いや、大事な事だからちゃんと聞いて。」

「ひょっとして、まだ何か怒ってる?」

「違うってば。」


とうとう、タカネは笑い出した。

()()()()()()()()()という、昨日までは想像すらできなかった目の前の光景に。

あたしは、ちょっとだけ冷静さを取り戻した。


「…何でしょう?できれば、お手柔らかに…」

「あたしがここに来た事とも関連する、重要な設定変更よ。」

「設定変更?」


何だか、聞き逃してはいけないワードが出てきた。


「実を言うと今この瞬間、あなたとあたしのリンクはほぼ切れてる状態なのよ。」

「えっ!?」


さらっととんでもない事を言われた。

ずっと内側から聞こえていた声が外部入力になったせいで、意識していなかった。


「どうして…」

「そろそろ、あなたも自立してもいいんじゃないかと思ってさ。」

「じ、自立!?」


自立ってなに!?

と言うか、あたしがそれをタカネに提案されてるの!?

…あなた、あたしのお母さんか何かでしたっけ!?


昨日とはひと味もふた味も違う、衝撃的な情報の容赦ない乱れ撃ち。



朝から、振り回されっ放しだった。

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