表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第三章・魔法国を目指して
52/816

目覚めろジアノドラゴン

あれから、どのくらい経っているのか。


まだ相手は8人しか倒せていない。場所が分かってるだけでも、残り10人。

攻撃パターンはさすがに少しずつ分かってきたけど、それは向こうも同じだろう。

遠目にでも、今までの被弾が首から下だけだという事はおそらく気付かれている。

もはや、樹上に置いてきた女性3人がどうなったか考える余裕もない。


「タカネ。…木に登れば少しは相手が狙えない?」

『いい的になるだけよ。向こうからこっちは見えてるだろうから。』

「じゃあ、頭蓋跳躍(スカル・ホップ)で高度を取れば…」

『狙撃主が狙っている限り、どんな形であろうと高い位置に出れば終わりよ。』


どんどん、打てる手が削られているのが嫌でも判る。

やっぱり甘く見ていた。

どんなならず者でも、あたしなんかには想像もつかないほどの対人戦闘のプロだ。

びっくり人間レベルの能力で、挑んではいけない相手だった。


あたし、やっぱりここで死ぬのかな。


『伏せて!!』


声に体は素早く反応する。すぐ後ろに屹立する木の幹に、特大の痕が穿たれた。

どれほど精神が疲弊していても、体のコンディションだけは相変わらずベストだ。

回避指示への反応速度が上がっている事実だけが、あたしの命をつないでいた。

だけど、それももう限界だ。

相手の弾薬が尽きる前に、あたしは絶対に殺される。

しかしその奇妙な確信が、かえってあたしの精神に落ち着きをもたらした。


それで、どうなの?

このまま嬲り殺しにされて、それで本当にいいの?

もう、出来る事は何もないの?


極限状態の精神の中に、そんな問いかけの言葉がぽっかりと浮かんでくる。


いいわけないでしょ。

こんな悲惨な死に方をするために、あたしは全財産をつぎ込んだんじゃない。

3000年近くもかけて、こんな場所まで来たんじゃない。


なけなしの負けん気が、死に魅入られそうな自分を無理やり引き戻した。

何かないのか。

何でもいい。この窮状を打破できる、とっておきの一手はないのか。


こんな所で、負けたくない。


「タカネ。あれ、まだ出来てないの?」

『あれって?』

「竜人融合のデータよ。」

『やっぱり、それ?』


問われる事は分かっていたらしい。タカネの言葉に、何やら感情が混じった。


『進捗率は、78%ってところよ。』

「そこまで行ってるの!?」

『左!!』


危ない。

またギリギリで弾丸をかわすも、とうとう左の袖が全て剥落した。


「じゃあ、そこまででもいいから融合で強化してよ!そうすれば…」

『未完成のデータをこんな悪条件の中、それもぶっつけ本番で使えると思う?』


やっぱり、この状況でもタカネは頑として譲らなかった。


『下手すれば、無茶な肉体変化のショックであなたの精神は壊れてしまうわよ。』


どうしてそんなに難しいんだろうか。

エヴォルフやランカコウモリなんかは、本当にあっという間に適応できたのに。

何より先にデータを入手したはずのジアノドラゴンに、何故そこまで苦戦する?


言ってもしょうがない。

タカネが、しかもこんなまずい状況の中で、出し惜しみをするとは考えられない。

やっぱり、竜人融合は使えないまま。


タカネを責めるのは、完全なお門違いだ。

まだ出来ていないのを知っていながら、こんな絶望的な喧嘩を始めたのはあたし。

むしろ、このどうしようもない状況を詫びるべきだろう。


それに。

どっちみち、竜人化したから勝てるという保証だってないのが現実だ。

仮にジアノドラゴンがここにいたとして、この重装備の傭兵団に勝てるだろうか?

たぶん、無理だ。

ジアノドラゴンが無敵を誇れるのは、この世界の人間に対してだけだ。

こんな大口径で掃射されれば、あの怪物だっていつかは倒れ伏して終わりだろう。

生物である以上、兵器には勝てない。

これほどの銃火器に対して、飛び道具もないジアノドラゴンの力を得たとしても…


……………………………………………………………………………………

………………………………………………………………………………


うん?


飛び道具?


…ジアノドラゴンとの融合?


ちょっと待って。



ほんの一瞬、あたしは現実を忘れた。

すべての感覚が、刹那の間だけ現実から離脱した。


待って。


答えって、そんなに難しいものなの?



ひょっとして、もう、ずっと前に…



『拓美!!』


鼓膜を破らんばかりのタカネの声が、あたしの意識を無理やり引き戻した。


『ボーっとしてると死ぬわよ!!』

「あのさ、タカネ。」

『何よ!』


切羽詰まった声で怒鳴られながらも、あたしは自分でも信じられないほど普通に

質問の言葉を連ねていた。


「ずっと融合に苦心してたけどさ、そもそもそんな悩む必要、本当にあったの?」

『はぁ!?』

「あたしの体とのマッチングが難しいってのは分かるよ。十分過ぎるほどにね。

 だけど、だったら別に無理して融合しなくてもいいじゃない。」

『何を言って…』

「だからさ。」


窮状を忘れ、あたしはひと言ひと言に力を込める。


()()()()()やればいいじゃん。パーツ別に外に現出させればいいじゃんって話。

 ジアノドラゴンの体組織データにあたしの遺伝子情報か何か適当に書き足して、

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()可能なんじゃないの?」

『あ。』


あ、って。


その瞬間。

これまでにないほど近い距離で、一発の銃声が轟いた。

まずい。

今までの被弾経験からして、決定的にまずいタイミングだと判ってしまった。


話していたせいで、タカネの弾道捕捉が遅れた。

どっちによければいいかが判らない。


当たる。

死ぬ。


スローモーションのような引き伸ばされた意識の中で、あたしは死を覚悟した。

どこからかは判らないけど、間違いなく来る。

コンマ数秒後の終焉が。


ここで終わりなのか。

ひょっとしたらという希望が、致命的な隙を産んでしまったせいで。


ああ、残念だなあ。

もっと…



ガキィン!!


重厚な金属音が、スローモーションな臨終からあたしの意識を戻した。

いつの間にか閉じていた目を、まさに弾かれたように見開いた、そのすぐ先に。


何かが浮いていた。

金属音は、その何かから生じたらしい。


「…え?………何これ?」

『ごめん、拓美。』


はい?

何の謝罪?


『後で百回謝ります。とにかくゴメンなさい。』

「えっと、何が?」


『思いつきませんでした。こんな簡単な発想が、あたしからは出ませんでした。』

「それって、つまり…」


今になってようやく、あたしはまだ生きているという現実を認識した。

そこを起点に、パズルのピースのように目の前の事象が頭の中でつながる。


「これ、ジアノドラゴンの鱗ね?」

『そう。』

「あの一瞬で、もうデータの上書きができたの?」

『今までやってた融合ボディの設計は何だったのかと思うくらい、簡単だった。』

「ちょっと落ち込んでる?」

『ちょっとじゃないかも知れない。』

「そう。…で、とりあえず現状は?」

『もう、一発も当てさせない。全部防いでやるよ。』

「そっか。」


あたしは、勢いをつけて立ち上がった。

同時に飛んできた弾丸は、新たに現出した鱗に弾かれ、甲高い音を立てた。

視線を向ける必要すらなかった。


「任せていいの?」

『もちろん。』


さらに一発。また一発。

楽器の演奏のように、あたしの周りで金属音が何度も弾ける。


『相手の位置はもう、嫌ってほど判ってる。それぞれの弾道も、全部把握してる。

 エコーロケーションもやったから、一発残らず防ぐよ。』

「そうですかぁ。」


何だか変な言い方になってしまったけど、まあいいや。

相変わらず鱗が軽快な金属音を奏でている只中で、あたしは大きく伸びをした。


答えなんて、案外簡単なところにあるもんだね。



さて。



ここらで、攻守交替と行こうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ