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骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第十九章・決意と決戦
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狙撃者の正体

「あらぁみっともない姿ねぇ。大丈夫?」


問いかけるラッシュの口調は、内容とは裏腹に実に楽しげだった。


「生きてる人間って不便よねぇ。どんなに勇ましい台詞を口にしていたって、

 体のどこかに穴でも開けられればすぐに泣き喚いて無力になるもの。それに…」


あんまり結果は期待しないけど、ちょっとだけ小芝居を入れてみる事にする。

右手を足首の傷の上にかざし、それっぽいゴニョゴニョを適当に呟いてみたのだ。

もちろん何にも意味などはない。だけど、同時に貫通痕は跡形もなく消え去る。


「…え?」


弾みをつけて立ち上がったあたしの姿に、さすがの病み女も一瞬言葉を無くした。

そりゃそうだろう。足首に穴なんか穿たれたら、どんな人間でも苦痛に苛まれる。

だけど、あいにくあたしたちには通用しない。傷の深さは問題にもならないから。


「ほほぉ…回復が早いな。」


気を呑まれたラッシュとは対照的に、オズレン学長は興味深げに眉を吊り上げる。

二階堂さんは相変わらずの無表情。反応は三者三様だ。


「だが、治癒魔法というわけではなさそうだ。」

「どうしてそう思いますか?」

「私とてシュニーホの学長だ。そこに魔力があるかどうかくらいは判るって事さ。

 君のその能力は魔法の類ではない。違うかね?」


やっぱり魔法学校のトップ相手に、チャチな小芝居は通用しないって事か。

だけど正直、そっちはどうでもいい。あの正体不明の攻撃を解明する方が重要だ。

と、次の瞬間。


バシュッ!!


かすかな音と共に、タカネの右肩を貫いてレーザーのような蒼炎が飛び出した。

正面からの狙撃じゃない。明らかに背後の死角から狙って放たれた一撃だ。

射角を読んでパッと振り返った先は、壁際の柱の影。確かに何かがそこにいる。

同じように振り返ったタカネが一気に跳躍し、肩を撃ち抜かれたはずの右腕で

その柱を思い切り殴りつけた。


ドゴォン!!


頑強そうに見えた柱は脆くも砕け散り、影になっていた背後部分が露わになる。

そこには誰もいなかった。しかし()()はいた。素早い動きで天井へと這い上がる。


「何とまあ、そっちの彼女も自力で回復できるのか。驚いたな。」


相変わらず、場に相応しくない落ち着いた口調でオズレン学長が呟く。


「…ずいぶんとズルいのねぇ。」


気を取り直したらしく、ラッシュもまたそんな事を粘っこい口調で言い放った。

だけど、そっちは本当に相手にしてもしょうがない。まずはタネを見破らないと。


あたしとタカネを狙撃したのは二階堂さんの蒼炎だ。それはほぼ間違いない。

しかし、彼女は依然としてただ突っ立っているだけである。ミロスの説明によると

魔力はほぼ無制限に使えるため、彼女の魔法の発動にはタイムラグがないらしい。

素振りを見せないのはそれでまあ説明できるとして、どうすればこんな死角からの

オールレンジ攻撃ができるのだろうか。


考えられるのは、学長が転移系魔法か何かを使って発射点をずらしているとかか。

しかしその仮定はあんまり現実的じゃない。「もしも」の要素が大き過ぎる。

と言うか、それだとラッシュがこの場において完全に不要になってしまうだろう。

病んではいるけど、この女の学長への忠誠心は本物だ。あたしたちみたいな存在が

目の前に迫っているのに、二階堂さんと学長に丸投げというのはしっくり来ない。


戦っているのは、やはり二階堂さんとラッシュの2人。多分それは間違いない。

しかし2人の魔法の組み合わせでは、どうしてもこのコンボ技は成立しない。


あたしは焦りを隠せなかった。

見てのとおり、この攻撃はあたしとタカネに対しては致命傷とはなり得ない。

たとえ頭や心臓を打ち抜かれたとしても、この程度の穴ならすぐに修復できる。

だけど、ミロスはそうはいかない。一発でも急所に当たれば即死はまぬがれない。

完全に操られている二階堂さんに、ミロスへの手心を期待する考えは甘いだろう。

今の時点で彼女が攻撃されていないのは、ただひたすら脅威度が低いからだ。

とは言っても、病み女の良識なんてものは欠片も信用できない。


蒼炎レーザーはとにかく速い。矢とか銃弾のような瞬間的な防御は非常に難しい。

手元から放たれるものなら、何とかタカネは反応できる。しかし死角からの狙撃は

回避も防御も間に合わない。自分でも無理なのに、ミロスへの攻撃を防ぐとなると

不可能だろう。正直、こんな形の危地は予想してなかった。…あたしも甘いなぁ。

何か取っ掛かりはないのか。この危険な手品を見破るための…


「…指輪。」

「え?」


不意に、傍らに立つミロスがそう呟いた。


「指輪がどうしたの?」

「タマキは指輪なんて着けない。蒼炎の熱に耐えられないから。」


そう言って凝視する彼女の視線を追うと、確かに二階堂さんの右手の指3本には

黒い指輪がはめられていた。言われてみれば、高温の炎を手から放出する人間が

わざわざ装身具なんて着けるわけがないだろう。つまりあれが…


「そこ!!」


いきなり叫んだタカネが、あたしとミロスの斜め前にある椅子の影を狙撃した。


ダダダン!


着弾と同時に破片が飛び散り、射線がずれたらしい蒼炎レーザーが天井を穿つ。


「あ!?」


思わずあたしは頓狂な声を上げた。

破壊された椅子の影から小さなトカゲが素早く這い出し、壁際まで走ったからだ。

一瞬だったけど確かに見えた。トカゲの背に()()()()()()()()()()()


「あらぁ、バレちゃったァ?」


ラッシュの耳障りなひと言と同時に、あたしはそのトリックの正体に気づいた。

まさかそういう事か。コンボ技の隙間を埋めていたのは…


「…リサ・ルドレか!」

「ご名答ぉ!!」


わざとらしい拍手をしたラッシュが、二階堂さんの肩を抱いて言い放った。


「リサちゃんは負けちゃったけど、ちゃあんと置き土産を残してくれたのよぉ。

 あなたたちも散々あれこれ使っていた、オモチャをね!」


相変わらずの煽り口調だけど、そんなものはどうでもよかった。

倒したはずのリサ・ルドレの底知れなさを痛感する。


彼女がコピーしたのは、間違いなくウストの魔法だ。

”レパートリーは1・2組の人間の魔法だけ”という先入観に囚われていた。


彼女はウストと同じ空間接続魔法の輪を生成し、ラッシュに預けていたのだろう。

あれは生成してしまえば誰でも使えるから、本人が不在でも問題ないって事だ。

それを二階堂さんが、指輪に見立てて右手の指にはめている。…じゃあ対の輪は?

考えるまでもない。さっきのトカゲが持っている。


いや。

正確に言えば、()()()()()()()だ。


ラッシュ・リーズナーは屍を自在に操る。


今さらながら、あたしはその恐るべき多様性に戦慄した。

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