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骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第三章・魔法国を目指して
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死地

有名な、ゾンビ映画の撮影中のエピソードだったと思う。

スタジオで大きな事故が起きて、大勢のエキストラが重軽傷を負った。

だけど駆けつけた救急隊員は、その場の有様に困り果てたという。

負傷したエキストラはみんなゾンビ役だった。当然、みんなメイクをしていた。

つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が判別できなかったらしい。

笑えない笑い話だ。


今のあたしには、なおさら笑えない。

きっと、こんな有様だったのだろう。



頑丈だったはずの皮の服は、もはや形を保っているのが信じられないってくらい

ズタズタの孔だらけになっていた。もちろん、そのほとんどは大口径の銃創だ。

被弾した時に飛び散った血も、いたるところにべったりと染み付いている。


どこからどう見ても、原形を留めてない死骸が着ているべき服だ。

だけど、あたしにはもちろん、傷ひとつ残っていない。

撃たれては修復し、撃たれては修復しの過酷なループを繰り返している。

痛みも損傷も疲労も、秒単位で修復。

だから今、呼吸が荒くなっているのは息切れが原因じゃない。


精神的な磨耗。そして、恐怖だ。


人間の肉体を、遥か遠くから撃ち砕く重火器。それも20近く。

森の中に逃げ込んでから、もう何度撃たれたか数える気にもならない。

あまりにも、分が悪い戦い。

もちろん、手も足も出ないわけじゃない。何人かは仕留めている。


だけど。


あたしは今、死の危機に直面していた。


=====================================


「エコーロケーション!」

『布陣把握。…やっぱり、素早いわね。』


タカネの言葉に、あたしは唇を噛み締めた。


森と言っても、それほど草木が密生している場所ではない。反響定位はしっかりと

機能するし、相手の位置もかなり正確に把握できる。


だけど、それが打開に繋がらない。


最初の4人を鮮血頭蓋弾(スカーレットバレット)で仕留めた直後、あたしはもう一度森へと逃げ込んだ。

さすがに、開けた場所で姿を晒しながら、あの人数とは戦えないと思ったからだ。

怒りに任せて追って来てくれれば、対処できると考えていた。


それが甘かった。そして、認識が浅かった。


誰も、すぐには追って来なかった。

誰も、頭に血がのぼってはいなかった。

彼らに、そんな感情的な仲間意識は存在していなかった。


彼らは復讐ではなく、ハンティングという認識であたしを追い始めた。

冷静に、理路整然と、そして()()()()に。


闇雲ではない、戦術的な展開。

おそらくは勝手知った場所である、この森でのゲリラ戦。


あたしは最初から、追い込まれた獣でしかなかった。


=====================================


『右!!』


聞こえると同時に、頭蓋骨が幾重にも並ぶ。考えるより先に体をひねった。

一瞬ののち、盾として並べたはずの頭蓋骨がまとめて粉砕される。

あたしもタカネも、銃器に対する知識はまるっきりだ。だけど、実感で判る。

あれは絶対、人間をそのまま撃つためのものじゃない。あまりに威力が高過ぎる。

全員が使っているわけじゃないけど、それ以外の弾丸も凄まじい大口径ばかりだ。

どこかしらに直撃を食らうたび、その破壊の大きさに戦慄する。


得体の知れない能力の持ち主だと、警戒しているからこその大盤振る舞いだろう。

とんだ買いかぶりだ。


あたしは、確かにどんな傷も一瞬で修復される。たとえ下半身を吹っ飛ばされても

心臓を抉り出されても、次の瞬間には元に戻っている。

だけど、何をしても死なないわけじゃない。

頭部の破壊。これは、絶対に避けなければいけない致命傷だ。


タカネいわく、脳はその他の臓器と比べて修復に時間がかかる。もちろんその差は

ほんの数秒単位らしいけど、あたしにとってその数秒は文字通り、命取りだ。


もしも、何らかの方法で頭をまるごと破壊されてしまったとしたら。

おそらく、修復が終わる前に()()()は死んでしまうだろう。


もちろん、それは完全な存在の消滅にはならない。

あたしの本体は、今も宇宙の虚空に静かに浮かんでいる。それを失わない限りは、

何度でもリロードする事ができる。そう、技術的には。


しかしそれは、どうしても避けなければいけない。


かつて、このナノ制御によるアバターボディが実用化されて間もなかった頃。

「死の克服」という技術革新に熱狂した人々の中に、実践してみようと考える者が

現れるのはごく当然だった。

今のあたしと同じように本体を休眠させ、アバターボディに人格を移植。そして、

何らかの方法で命を絶つ。本体が死ぬわけではないから、さほど賛否の議論もなく

注目の中でそのチャレンジは実行された。


何事もなかったように目覚めたその人たちは、月着陸を果たした宇宙飛行士並みに

時の人となった。本人たちもいたって嬉しそうだった。

しかし、数週間も経たないうちに。

彼らはひとり残らず、信じられない方法で自らの命を絶った。

家族を皆殺しにした後、その臓器を喉いっぱいに詰め込んで窒息死した中年男性。

ウエディングドレスを着て、業務用全自動洗濯機の中で細切れになった女子大生。

皆、完全に死に魅入られていた。


蘇生のシステムそのものには、何の問題も見つからなかったらしい。

本体の脳は無事であり、記憶もちゃんと同期できる。だから、死から蘇生までの

意識の途絶が問題とは考えられない。言わば、ちょっとした気絶のようなものだ。

最終的に、人々はこう結論付けた。


意識が途切れる事が問題なのではない。

むしろ、途切れていると思っていた瞬間の記憶こそが、その人を壊したのだと。

他でもない、()()()()だ。


人の死は、生涯に一度しか訪れない絶対の終焉だ。

その向こうというものは決して見えないし、見てはいけないものなのだろう。

だからこそ、人は生きていられるのだろう。

その向こうの記憶を持ち帰ってしまった人は、()()()()()()()()()()


いくら技術が進歩しようと、死の記憶からは逃れられない。死ねばたぶん壊れる。

死ぬ以外であたしが本体に戻って目覚める方法は、ほぼ無いに等しい。


だからこその、絶体絶命だった。


=====================================


『一人、左手から接近してる。』

「分かった。」


相手の人数と配置は、エコーロケーションによってほぼ把握できる。だからこそ、

今までギリギリでヘッドショットを回避できている。

だけど、ジリ貧は変わらない。

いくら相手の位置が判っても、あたしの飛び道具は決定的に威力に欠けている。

速度も遅ければ、貫通力も乏しい。相手が撃ってくる弾丸と比べれば玩具だ。

その気になれば、相手のすぐ近くに出して不意撃ちする事は出来る。だけど現状、

不規則に動き回る対象に、それも有視界外からヒットさせるのはほぼ無理だ。


何とか近づいてきた瞬間を狙う。それ以外に、この場を凌げる方法はない。


『足元にトラップ!』

「…ッ!!」


ワイヤーをかわそうとしたあたしは、そこで逆にそのまま突っ込んだ。


『拓美!?』

「ガードして!!」


言い終わると同時に、足がワイヤーを引っ掛けて手榴弾のピンを飛ばす。

至近距離で爆発が起こり、あたしは派手に吹き飛ばされた。思わず悲鳴を上げる。

左脚の肉が盛大に抉れ、骨が露出していた。


「よっしゃ、引っ掛かったぜ!」

「そっちのトラップだな!?」


歓声と共に、茂みから2人の男が姿を現した。どっちもアジア系の顔立ちだった。


「油断するなよ。まだ息があるかも知れねえ。」

「どっちみち動けねえだろ、これじゃあな。さ、トドメと行こうぜ。」


近い。これなら行ける。


鮮血頭蓋弾(スカーレットバレット)!」


言い終わる前に、2人の頭のそれぞれ左右に頭蓋骨が出現。視認する間を与えず、

そのまま同時にぶつけた。

グシャッという鈍い音が響き、血の雨と共に2つの骸が倒れ伏す。

爆発によるダメージは即座に修復した。と同時に、タカネの怒声が頭に響く。


『こんな無茶はやめてよ!』

「ゴメン。でもこれで…」

『伏せて!!』


一瞬、反応が遅れた。

右肩を貫いた弾丸が、そのまま鎖骨と肋骨を砕いてあたしの体を吹き飛ばす。

想像を絶する衝撃が全身を苛み、意識が飛びそうになった。


『拓美!』

「だ、大丈夫。」


数秒を待たずに体は元に戻っていたものの、脳震盪のようなダメージが残った。


『しっかり!』


弾丸が飛んできた軌跡を逆算したらしいタカネが、自分の意思で頭蓋を撃ち出す。

しかし、距離が遠過ぎる上に遮蔽物も多い。対象に届く前に失速して落ちた。


「…狙われたわね。」


何とか意識を立て直したあたしは、ジグザグに走ってその場から距離を取る。

恐怖心すらも、磨耗した心から抜け落ちるような感触だった。


トラップにわざと引っ掛かる事で、不用意に接近してきた2人を仕留めたけど。

その展開自体が、他の傭兵にとってはトラップだったのだろう。

あまりにも冷徹なプロ意識が、あたしの心を追い詰めていくのが判る。



このままじゃ、絶対に死ぬ。


それはあたしが初めて目の当たりにした、容赦の無い現実だった。

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