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骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第三章・魔法国を目指して
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未練

それでも。


それでも、あたしは最後まで諦めたくなかった。

地球という言葉に対する、安っぽい感傷だと言われればそれまでだ。


だけど、タカネはそんな事は言わない。

だからこそ、あたしはタカネに言った。


「もう少しだけ、やらせて。」

『わかった。』


あたしの言う事に、ただ無条件に盲従してるわけじゃない。

彼女は彼女なりに考えて、そしてあたしの選択を支えてくれている。

その確信が、あたしに最後の力をくれる。


信じる力を。


「…血霧(ブラッディ・ミスト)!」


言い終わる前に、目の前に大きな赤い球が出現した。もちろん、血の球だ。

間髪入れず、蝙蝠融合(ランカ・フュージョン)で変化させた喉から、強大な超音波を放射。

その直撃を至近距離で受けた血の球が、凄まじい勢いで気化する。

一瞬で、周囲は赤い霧に覆われた。


「うおッ!?」

「何だ!?」

「鉄臭ぇ!!」


唐突に視界を遮られた傭兵たちから、そんな言葉が上がる。あたしはその前に、

次の行動を起こしていた。


合成獣融合(キメラ・フュージョン)!」


1秒もかからず、肉体が変化を果たす。

エヴォルフの足と爪。バリオの脚力。そしてランカコウモリの強靭な指。

目の前に座り込んだ女性3人の体を、それこそ一瞬で無理やり手繰り寄せた。

そのまま踵を返し、彼女たちを両手で掴んだまま、一気に森へ向かって疾駆する。

次の瞬間。

赤い霧の向こうから、一発の銃声が轟いた。

左の肩に命中する。が、痛みをこらえ、一瞬で修復。被弾部位の組織を分解して、

めり込んだ銃弾は置き去りにした。

よかった。

盲撃ちの弾とは言え、女性たちの誰かに当たっていたら取り返しがつかなかった。

森の側には血霧は来ていない。迷わず茂みに飛び込み、さらに疾駆する。


「あの女どこ行った!」


しょせん、人工的に作り出した霧だ。晴れるのも早い。

怒号を上げながら、傭兵たちが押し寄せてくる。

だけど、もう遅い。あたしは3人を連れたまま、森への遁走を果たした後だった。


『拓美、ストップ!』

「!?」


考える前に、無理やり足を停めた。

それによって、視界のあちこちに細い糸の存在を捉える事ができた。


「…ブービートラップ?」

『あっちこっちに色々あるみたいよ。』


やっぱり、相手は戦闘のプロだ。

これまでのような力押しでは、今のあたしには勝てない。


とにかくエコーロケーションで、周囲の物体を可能な限り精査してみた。しかし、

それだけでは自然物と人工物の判別には限界がある。

逃げ切れる状況じゃない。と言うか、それは最初から可能だと思っていない。


「…とにかく、一本でいい。安全そうで葉の多い木。それを探して。」

『分かった。…とりあえず、右手の奥に見えてる大きな広葉樹。あれなら大丈夫。

 トラップも無さそうだし、枝の広がり方も大きい。』

「ありがと。」


短く礼を述べ、あたしはその場でジャンプした。

もちろん、いくら脚力を上げていると言っても、女性3人を抱えたまま樹上まで

跳べるはずもない。稼げる高度はほんの少しだ。だけど、それで何とか事足りる。

タイミングを見計らい、すぐ足元に頭蓋骨が3個出現した。それを踏み台にして、

さらにジャンプする。いつもより過重負荷が高いので、頭蓋がミシリと音を立て

ジャンプと同時に大きく陥没する。限界ギリギリの頭蓋跳躍(スカル・ホップ)だ。


それでも、何度かのジャンプで何とか枝の上まで到達する。同時に腕に力を込め、

まず1人目の女性を放り出した。その痩せた体は、枝の上にあらかじめ敷いていた

小腸ベッドの上にどさりと倒れ込む。空いた手で太い幹を掴んだあたしは、続けて

他の2人も無理やりベッドの上へと放り投げた。状況を理解できない彼女たちは、

そのままの姿勢で怯えた目をあたしに向ける。


体のあっちこっち獣と化した女の子が、小腸と血で作ったベッドに匿ったのです。

などと説明して、納得出来るはずがない。第一、細かく説明する時間なんか無い。

だから簡潔に言った。


「ここで待ってて。絶対に動かないで。下を覗いたりもしないでね。」


返事を待たず、手を離して一気に飛び降りた。

説明不足ですみません。けど、連れていれば殺されるのは火を見るより明らかだ。

「きっと助ける」という気休めは言えなかった。あたし自身、どう切り抜けるか

見通しも立たないんだから。


ここからは彼らへの、あたしの最後の意地だ。

意を決して、あたしは来た道を一気に駆け戻った。


=====================================


いきなりの悪趣味な演出に、さすがに気を呑まれたのか。

焦って追わなくても、森を無事に抜けられるとは思っていないからなのか。

あるいはその両方か。


さいわい、彼らはまだ森の中までは侵攻してきていなかった。

出会い頭にならないように、大きくジャンプして無人のポイントへと着地する。

もちろん、合成獣融合(キメラ・フュージョン)は解除した状態だ。

予想通り、一斉に視線と銃口が向けられた。同時に、あたしは両手を上に上げる。


「戻ってくるとはな。簡単には逃げられないと察したか?」


ゆっくりと近づきながら、金髪リーダーがそう言った。


「でもまあ、もう一度俺たちの前に姿を見せた度胸は褒めてやるぜ。」


少し離れた場所で、彼は足を止めてあたしをしげしげと観察する。あれだけの事を

やってのけた直後だ。さすがに、警戒されないとは思っていない。


「で?…なかなか面白い芸当を持ってる事は分かった。だが、俺たちの持ち物を

 勝手に持ち去った事は見過ごせねえぜ。そこはどう申し開きする気だ?」


持ち物って、あの女性たちの事か。

湧き上がりそうになる怒りを、どうにか抑え込む。


「…独断だった事は認めます。その上で交渉させてもらえませんか。」

「交渉だと?」

「ええ。」


そう言って、あたしはゆっくりとリュックに手をかけた。場に緊張が走るものの、

撃たれる気配はまだ無い。あくまでもゆっくり、リュックを下ろして紐を解く。

二重になった袋を開け、中身の金貨を地面に残らずぶちまけた。


あたしを凝視している全員の目が、大きく見開かれるのがはっきりと判った。


「それなりの金額はあります。これで彼女たちと、あたしの解放をお願いします。

 できれば、街へももう行かないで下さい。」


どうせ、ジアノドラゴンの鱗で儲けたあぶく銭だ。惜しいとも思わない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()とさえ思う。


あちこちから、正気か?…という呟きが聞こえた。

確かに、どう見ても正気の沙汰じゃない。

だけど、あたしは最後まで意地を通したい。もしも馬鹿げていると言われても、

道があるならそれを探りたい。


呆れてるんだろうなぁ、タカネは。


「すげえな。さすがに驚いたぜ。」


無精髭の目立つ顎をこすりながら、金髪リーダーは短くそう言ってため息をつく。


「その大金もそうだが、あんな傷物にそこまで肩入れする馬鹿さにも驚きだな。

 正直言って、そういうのは嫌いじゃないぜ。なあ?」


彼の顔は、本当に嬉しそうだった。

かすかにでも、希望が見えた?


一瞬でもそう思ったあたしは、やっぱり愚かだった。

自分でも分かっていたけど、どうしようもなく未練がましかった。


銃声が轟き、あたしの胸の真ん中に命中する。

鈍い衝撃と共に、何かが砕けるような音がした。


皮の胸当てに開いた穴から、パラパラと微細な結晶の破片が落ちる。

まさか…


確かめる事はできなかった。


もう一発の銃声と共に、今度こそ心臓を撃ち抜かれた。

思わず仰け反ったあたしの脇腹に、駄目押しの一発がもういちど突き刺さる。


衝撃で吹き飛ばされた体は、そのまま仰向けに転がって止まった。



「だけど悪いな。やっぱり金の方がもっと好きだ。その辺は分かってくれるよな?

 それだけのモノをくれるんなら、お前がいなくなったとしてもお釣りが来るぜ。

 まあ、俺は損得勘定が苦手だからよ。悪いが、それで取引成立としてくれや。」

「いやいやウォーレン。さすがにその取引はメチャクチャだぜ?」

「どれだけ根こそぎなんだよ。ちょっと引くわー。」



男たちは、そんな軽口を言い合いながら笑っていた。





うん。


分かってたよ。


馬鹿だと言われても、何も反論できないよね。


つまらない意地だとかエゴだとか、どう言われても言い返せないよ。



だけどね。


それでも、信じたかったんだよ。

地球という懐かしい言葉に、あたしは最後まですがりたかったんだよ。


つまらない未練だよ。


あたしは、どうしようもない馬鹿だよ。


どうしようもなく未練がましい、弱い人間だよ。



そう思うでしょ?



タカネ。





『絶対に思わない。』




ありがとう。


本当にありがとう。



もういいよ。


馬鹿げた未練に文句も言わずに付き合ってくれて、本当にありがとう。



じゃあ。


あたしも、腹を括るね。




ヘルメットを被ってない、至近距離の4人。


同時に仕留める。

確実に。


行くよ。


『分かった。』

鮮血頭蓋弾(スカーレットバレット)!!!」


声を限りの叫び声に、反応する間は与えなかった。


金髪リーダーと、その周りで言葉を交わしていた3人。

それぞれの真上から、時速600kmで死神が舞い降りる。


断末魔の声すらも無かった。


鈍い音を伴う激突。

砕け散る8つの頭蓋骨。

糸が切れたように倒れ伏す、4体の血まみれの骸。


立ち上がったあたしに、もう迷いは許されなかった。


地球人同士?


ちがう。

それは都合のいい詭弁だ。

この世界に居るのならば、この世界の視点で自分たちを語れ。



これは宇宙人と異世界人の


殺し合いだ。

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