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骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第十八章・戦慄の隷縛呪法
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永き者たちの謀

200年以上だ。

無駄な血が流され続けた期間は、それ以上細かく憶えておく気にもなれなかった。


私はただ、それを諦めと共に傍観し続けてきた。

今回もまた、同じ事が繰り返されるのだろうか。



未来ある若者の血が、醜い謀のために流されるのだろうか。


=====================================


「首尾よく戦い始めたようですぜ。」


意識を集中させていた、浅黒い肌の小男―コルベノ・カトスがそう告げる。

彼の魔法は「遠視・遠聞」。標的として定めた相手の”声”か”姿”のいずれかを

どこまでも感知・中継できる能力だ。人によって精度が著しく異なる能力であり、

彼は存命の者の中では最高の一人といってもいい。ただし、この魔法自体は決して

珍しいものではない。どの世代にも必ず覚醒する者がいる代物である。

言うなれば、いくらでも替えが利く人材だ。ここにいるのはそこそこ口が堅く、

余計な事を詮索しないその性格が理由の全て。恐らく本人が認識している以上に、

その存在価値は軽い。

だからこそ、もう私には分かってしまった。


「しかし妙な話をしてましたな。チキュウだのニホンだの、何の事でしょう?」

「ああ、そうだな。妙な話だ。」

「ええ。それ…」


何を言おうとしたのかは判らないし、これから先も判る事はないだろう。

まったく自然な動作で、コルベノは両手を己の首にかけて締め上げ始めていた。

声を上げる間もなく、困惑に満ちたその表情から命の気配が抜けていくのが判る。

ドサリと倒れ伏した彼は、すでに骸と化していた。


「運の悪い男だな。聞かなくてもいい話を聞いたばかりにこれとは。」

「ですよねぇ。アタシも心が痛むなぁ。」


どう聞いても心が痛んでいるとは思えない声でそう言ったのは、20歳そこそこの

派手な娘だ。酷薄な笑みを浮かべるその顔には、年相応の無邪気さが表れている。


もちろん、そんなものはまやかしだ。

この女の実年齢はすでに、90に届こうかというところまで重ねられている。

他人の体を乗っ取る事により、体だけはいつまでも若い老婆。

名をラッシュ・リーズナーと言う。

世に言う多能者だ。


倍以上生きている私から見ても、その姿はどこまでも美しく、そしておぞましい。

何よりも、歪み果てたその魂はすでに、人のそれとは異なるものになっている。

コルベノを殺したのは、まぎれもなくこの女だ。

こんな風に人の命を嬉しそうに絶つ姿を見るのは、もう何度目になるのだろうか。


同じオズレン・ホルトの忠臣の中でも、この女の立ち位置は他とは全く異なる。

長年に渡って寵愛を受け続けているのは、借り物の美しさだけが理由ではない。


底知れぬ残虐性が、どこまでもオズレンの好みに即しているからだ。


しかし、羨ましいなどとは間違っても思わない。

そのような寵愛など、受けたいとも思わない。



私は、ひたすら諦めの中に己を沈めている。


=====================================


「オズレンよ。」


私の問いかけに、当人ではなくラッシュが鋭い視線を向けてきた。

呼び捨てにする事が気に入らないのだろう。しかし、今さらあらためる気はない。

もっとも付き合いの古い人間として、そのくらいの無礼は押し通す。


「何だ、ハンナ・ニーディエップ?」


わざとらしく私のフルネームを言うあたり、もはや何も期待していないのだろう。

一向に構わない。彼の寵愛など、まとめてラッシュに売り払いたいと本気で思う。


「どれだけ死なせれば気が済むんじゃ?」

「君にそれを問われるのは何度目だろうな、永き友よ。」


私だって、もう憶えていない。そして数えてもいない。

この男との因縁については、もはや数を数えようと思う事すら虚しい。

それでも、問うのをやめる事だけはしなかった。それが私の最後の矜持だから。


「必要な事だといつも言っているだろう。」


オズレン・ホルトの言葉には、澱みも迷いも一切感じられない。


「ましてやあの娘。そう、メルニィ・リアーロウだ。」

「あの娘が何じゃ。」

「知らぬ態は止すんだな。死んだはずの人間が、時を隔てて我が学び舎に現れた。

 しかもあらためて、ジェラ・ギブンですらも凌駕する力の片鱗を見せたのだ。

 別人であるなら、この機に徹底的に見極める事は重要だろう。違うか?」


都合のいい事を理路整然と語る。何十年経とうと、この男の本質は変わらない。

ただし、やる事は本当に強引で自分本位だ。


彼女が転生者らしい事については、それほど重要視しないつもりなのだろう。

この男にとって、魔法とはそのまま暴力だ。実力至上主義の根幹は、この男の中に

どす黒く渦を巻く本質に他ならない。


そういう意味では、すでにオルラ・ベステュラという逸材を手中に収めている。

厄介事を持ち込んだ人間の生死など、心底どうでもいいのだろう。

だからこそ殺し合わせる。

恐らくは召喚者であろう、あのタカネという娘と。


「どっちが生き残っても、それはなかなか貴重な戦力となり得るだろう。」


楽しげな笑みを浮かべながら、オズレンはそう続ける。


「だが2人は要らん。結託されると厄介だ。どちらかが死ぬのがちょうどいい。」

「そうですよねぇ。」


ニヤニヤと笑いながら、ラッシュが口を挟んできた。


「なぁんか生意気そうだし、あたしはあのちっちゃい子に死んでもらいたいかな。

 オズレン様はどうですかぁ?」

「奇遇だな、私も同じだよ。…あまり幼い子は、相手するのが疲れそうだ。」

「キャハハハ、確かに!!」


聞くに堪えない。


自分もこの2人と同じなのだと思うと、何度目かも知らない吐き気に襲われる。

どうする事もできない自分に対する嫌悪感も、吐き気をさらに強くする。


「心が痛むな、永き友よ。」


私の心を見透かすように言ったオズレンの視線に、ふと危険なものを感じた。

老いさらばえた私にも、まだそんな感覚が残っていたのかと今さら驚く。しかし、

時すでに遅しだった。

いつの間にか、自分の体が自分のものではないかのような感覚に襲われている。

先ほどのコルベノも、こんな感覚の中で息絶えたのだろう。


しかし今の私には、もう魔力も気力も残ってはいない。

もっと早く危機を察知したとしても、結果は大して変わらなかっただろう。

悲しい確信だ。


「いつまでも苦しむ姿を見るのは忍びない。何度目になるかはわからないが、

 もう一度機会をやろう。そろそろ強情を張るのは止めにするんだな。」



やっぱりか。

どこまでもこの男は容赦ない。



どうにかならないのだろうか。

今まさに殺し合っているであろう、若き2人の魔術師。

彼女らの無事を人知れず祈る事すら、罪深い我が身には許されない。



あるのはただ



絶望のみか。

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