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骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第十七章・もうひとりのクラスメート
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非常事態まったなし

3人分の足音が、静まり返った教室にかすかに響いている。

何とも不条理であり、しかも息が詰まる時間だ。誰か何か喋って欲しいよ。


『予想通りだけど、やっぱり誰も歩いてはいないな。』


こちら側の空気を察したのか、対の輪を持つ分身ジャンが低い声でそう告げた。

呪縛が解けたような感じで、みんなもホッと息をつく。


「教室はどうだ?」

『同じだよ。育成クラスの生徒も教員も、ぜんぜん姿が見えない。』

「どこの教室もか。」

『通った限りはな。』


ウストの問いに答えるその声が、向こうの空間でかすかに反響しているのが判る。

毎日配置が変わる実働クラスと違い、育成クラスの教室の場所はほぼ据え置きだ。

どこが空きでどこが空きでないかくらい、大体憶えている。


予想はしていたけど、輪の向こうに満ちる静寂は嫌でも不安を募らせる。

やだよもう。こういうの嫌いだよ。…まだ着かないんだろうか?


『教員室が見えた。とにかく行ってみる。』

「頼むぜ。気をつけてな。」

『ああ。』


やっとか。



まだ気を抜く段階でないのは十分承知してるけど、それでもあたしはホッとした。


=====================================


『失礼します。』


おそらく服のポケットにしまったのだろう。輪の視界が閉ざされると同時に、

分身ジャンの言葉が少しくぐもって聞こえる。音から察するに、入口の扉を開けて

中に入ったらしい。ポケットに入れた事で、逆にあたしは心音や呼吸音が拾える。

やっぱり、分身ジャンもそれなりに緊張しているらしい。


『…………』


沈黙と静寂。

かすかに聞こえてくるのはやっぱり彼自身の体の音と、他の2人の足音だけ。

嫌な予感がする。教員室に入って、こんなに長い間ひと言も話さないってのは…

と、そこでいきなり音が鮮明になった。それと同時に、輪の視界も復旧する。

待ちかねたように、ウストが問いかけた。


「どうだ!?」

『誰もいない。』

「…は?」

『ひと通り見て回ったけど、誰一人いないんだよ。もちろんザリエル先生も。』

『ねえちょっと!』


そこでガウバーの声が割り込んできた。


『これ見てよ。』

『…これってまさか…』

『大きいよね。』

「おい何だよ!何か見つけたのか!?」


向こうで何かの検証が進んでいる事に焦りを募らせたウストが、大声で問う。

気持ちは凄く分かるけど落ち着こう。


『悪い。ちょっとヤバいものを見つけたんだよ。』

「何だ?」

『大規模魔法の術式に使う触媒だ。等間隔で教員室の壁際に設置されていた。』

「触媒?…まさかもう使われた後か?」

『どうやらそうみたいだな。』


告げる分身ジャンの声が、明らかに厳しくなる。


『詳しくは分からないけど、これ見てみろ。』

「ペイロン、オズ、頼む。」


こんな状況でも、割とウストは冷静だ。背後に控えていたペイロンを呼び寄せ、

彼に輪を渡して覗かせる。意図を察したペイロンは数秒だけ輪の向こうを凝視し、

オズが形成した防壁にそれを大写しにした。これなら一人ひとり輪を覗かなくても

分身ジャンが見せたいものをみんなで共有できるからね。


焦げついたような色に変色した壁に、複雑な文様が浮かび上がった画像だった。


「…なるほど、隠し魔方陣ってわけね。」


あたしたちの中ではこういう術式に造詣の深い、カミラード級長がそう呟いた。


「壁の表面に判らないように塗り込んでおいて、発動と同時に見えるようになる。

 周到に準備しておいて、気づかれないように瞬間発動したんでしょうね。」

「それってつまり、教員室で何かの大規模魔法が使われたって事?」

「たぶん。」


思わず問いかけたあたしの言葉に、級長は短く重く答えた。

その意味を考えたであろう皆の顔に、これまで以上に深刻な表情が浮かぶ。


昨日まで、不穏な気配は全くなかった。先生方は普通に仕事をしていたはずだ。

それが今の時点において、何らかの魔法が行使された事により全員行方不明。

生死すら定かでない。



認めざるを得ない。

いよいよシャレにならない事態になってきている。


=====================================


「とにかく一旦戻って…」

『おい!?』


オズの言葉は、輪の向こうの叫び声で遮られた。


『どこ行くんだ2人とも!!』


ガタガタという激しい音と共に、輪の視界が激しくぶれる。


「おいジャンどうした!!」

『ガウバーとゼーラがいきなり…』


音がうるさくて聞こえにくいけど、どうやら教員室の外に飛び出したらしい。

彼の言葉をそのまま解釈すれば、ガウバーたち2人がどこかに…


『えっ!?なに』



唐突に、そこで音が途切れた。

と同時に、接続が切れたらしい輪の視界がただの穴に戻る。

あわててウストが印を指でこすったけど、輪の接続は2度と起動しなかった。


「…ダメだ。魔力が途絶してる。」

「破壊されたって事か?」

「この感覚は、たぶん。」


そのやり取りを耳にした全員の視線が、ザッと一斉にこちらのジャンに集まる。

誰かに言われるまでもなく、ジャンは分身との情報共有のために集中していた。


あまりにも永い十数秒ののち。


「…くそっ、向こうの俺との意識共有ができない。」

「それって…」

()()()()のか?」

「断言はできない。だけど、少なくとも完全に意識が落とされてるのは確実だ。」

「……」


皆、等しく絶句した。


ただ事情を訊きに行っただけのはずが、あっという間に3人とも生死・消息不明。

分身ジャンはともかくとして、他の2人は一体どうしたっていうのだろうか。

まさかここまで事態が切迫しているなんて…


「!?」


あたしの困惑は、そこで強制的に断ち切られた。

開きっ放しにしていた音の警戒網が、聞いた事もないような異音を捉えたからだ。


「どうしたのラス!?」


自分では全然分からないけど、よっぽど切羽詰った表情になっているんだろう。

すぐ近くにいたゾノスが驚いたような声をかける。


「…何か来る。近づいてきてる。」

「何かって!?」

「何かよ。」


我ながら間抜けな返答だけど、そうとしか形容のしようがない異様な接近音だ。

無数の細かい何かが、四方八方からズルズルと等間隔でこの部屋に近づいている。

明確な意思を持って。


「…気をつけて。」

「分かった。」


そう答えたのはリータだ。

メガネのフレームを操作し、すばやく周囲を見回して告げる。


「みんな離れないで。互いの死角に注意して。」

「敵か?」

「たぶんね。」


何かをメガネで捉えたのだろう。小さく頷いたリータが、もうひと言告げた。


「ここはお姉さんに任せなさい。みんな、冷静にね。」

「ああ。」


オズが答えて頷くと同時に、みんなも小さく頷いた。もちろんあたしもね。


「ラス。」

「うん。」

「引き続き注意してね。」

「分かった。」


嘘のように怯えは収まった。

もちろん危機感は高まる一方だけど、自分でも信じられないほど冷静になれた。

何であれ、初めて状況が()()()()()()()()んだ。


さあ、来るなら来い!

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