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骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第十七章・もうひとりのクラスメート
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行動開始に至るまで

学校が始まらない。


始業時間になっても、育成クラスの人間が一人も登校してこない。

1組の人間も2組の人間も姿が見えない。もちろん、3組もまだ帰って来ない。

そして、その事について学校から何の連絡も届かない。


ついでに、タカネも戻ってこない。


「…いよいよもって、じっとしてる訳にはいかなくなった感じだな。」


窓の外を窺いながら言ったオズのその言葉が、事実上の意思決定だった。

硬い動作で頷くみんなの表情が、今この瞬間の決意の重さを嫌でも実感させる。


目指すところが見えないという現状は、夜が明けた今でも大して変わっていない。

だけど、疑念と不安に囚われたまま動けなかった昨夜よりはだいぶマシだ。

決意というのは、自分たちで思う以上に力をくれるものだから。


「ラス。」

「うん。」


だから、まず声をかけられても驚いたり戸惑ったりはしなかった。


「言うまでもないと思うが、音の警戒はしておいてくれよ。」

「言われるまでもなく了解。」


敬礼しながらそう切り返したら、オズもみんなもちょっと笑ってくれた。

うんうん、やっぱりみんなには笑顔がいいよね。


あたしも笑おう。

こんな時だからこそ、ね。


=====================================


とりあえず、みんなで現状を整理した。


メルニィ・リアーロウことタクミは、今もなお行方不明だ。

それを探しに行ったタカネからも、今のところは連絡が来ていないらしい。

彼女に同伴者がいたという事実は、あたしが言うまでもなくリータが皆に告げた。


現在、ここにいるのは15人。

4組全18人のうち、メルニィとタカネ、そしてジェラの3人を欠いた面々だ。

デタラメ戦力を持っているのはリータただ1人。編入組3人の中で残ってるのが

彼女というのは、果たして良いのか悪いのか…。

ジェラも行方不明だけど、模擬戦の場に現れた2組の人間が保護しているらしい。


そしてその模擬戦以降、明らかに学校は通常運営をしていない。さらに言うなら、

非戦闘員系の生徒が多い3組を唐突に学外に連れ出してしまった。


今日になって、いよいよ育成クラスの授業も休みになっている。という事は現在、

学内にいるのはあたしたち4組と1・2組、そして教員のみだ。


「…捉えようによっては、どんな解釈もできてしまうよな。」

「そうね。」


オズとカミラード級長が、そんな言葉を交わした。


教室から出てはいけないと言われている以上、現状に関する情報が得られない。

あまりにも前例のない状況であり、確かに考え方次第でどうとでも想像できる。

だけど、おそらく間違いない事実がひとつ。


この状況のきっかけとなったのは、タクミの失踪だ。

さらにその引き金となったのはジェラだけど、彼女は所在がはっきりしている。

タクミがどこで何をしているかが分からないからこそ、こんな状況になっている。


考えようによっては、これは学校を挙げての迎撃態勢と言えなくもないだろう。

昨日の今日だからプロの魔術師とかはさすがに来ていないものの、1組と2組が

同時に相手をするとなれば、学校を揺るがす凄絶な戦闘になるのは避けられない。


どうにも、悪い方への想像は天井知らず…もとい底なしだった。


「そんな事にはならないから心配するな…って気休めは言わないよ。」


意見を求められたリータは、動じる様子もなくそう言った。


「だけど、ひとつだけ約束する。」

「…何を?」

「タクミは、絶対に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って事を。」


=====================================


「………」


誰も何も言わなかった。

その沈黙の理由は、あたしにもハッキリと分かった。


みんな分かってるんだ。

タクミという子が、どういう人間なのかを。


隠し事をしていたのは事実だ。タカネもリータも、今さらそこは言い繕わない。

あたしたちが全然知らない事実を、タクミは他にもまだ持っているかも知れない。


だけど。

少なくともあたしたちは、彼女の人となりについては十分に知っている。

腕っぷしが強いのに口喧嘩が下手で、そしてとにかく泣き虫で優しくて。

あれが偽りの姿だと本気で思う人間は、この場には一人もいないはずだ。

いくら素性が知れてしまったと言っても、それだけで彼女が学校に牙を剥くとは

到底考えられない。結果はどうであれ、戦いを仕掛けるとしたら学校側からだ。


疑念はまだ残るものの、リータの言葉にはそれだけの説得力があった。


「だとすれば、だ。」


何か吹っ切れたような口調で、マゾーが皆に告げる。


「タカネがタクミの元に向かった以上、そっちに関して俺たちにすべき事はない。

 ただ信じるだけだ。雑な言い方になってるのは承知だが、それでいいよな?」

「…ああ。」

「ええ。」

「そうね。」


ためらいながらも、みんなは頷いた。もちろんあたしもね。

いろんな意味で超越している力を持っている以上、これは当事者同士の問題だ。

だったら、あたしたちはあたしたちのやるべき事をやるまでだ。


つまり、まずは学校の動向を調べる。


=====================================


あたしたちは別に問題を起こしたわけじゃないし、軟禁されてるわけでもない。

出ようと思えばいくらでも出て行ける。ただ、待機という指示に従ってるだけだ。


しかし今に至ってもザリエル先生は姿を見せない。これはどう考えてもおかしい。

とにかく、事情を訊きに行くくらいは何の問題もないはずだ。理屈で考えればね。


「って事で、誰か教員室に訊きに行こうぜ。」


至極まっとうな提案である。別に危険な任務ってわけでもない、ただのお使いだ。

もっとも、行けばどういう事になるのかはまったく予想できないけど。

こういう時の適役は…


「…まあ、やっぱり俺だよな。」


全員一致。ジャンの分身に頼むのがもっとも堅実な選択だ。もちろん本人も承知。

ただし彼の情報共有は一定時間を置かないと発動しないので、中継ができない。

そこはやはり、ウストの輪を持参して補う事になった。これなら会話ができるし、

視覚情報もある程度まで共有できるからね。


「そんなに無理はしなくていい。様子がおかしければすぐに引き返せ。いいな?」

「言われなくてもそうするよ。心配するなって。」


ウストに輪を渡されたジャンの分身が、そう言って小さく笑みを浮かべる。

彼の心境だけは、どう頑張っても誰にも想像できないんだよね。ホント不思議だ。


自分が2人いるって、どんな感覚なんだろうなぁ。…まあ今はどうでもいいけど。


「それじゃあ…」

「待って。」


出て行こうとした分身ジャンを呼び止めたのはガウバーだった。彼女だけでなく、

その隣にはゼーラも並び立っている。


「危険かも知れないから、あたしたちも行く。」

「えっ?」


さすがにジャンだけでなく、他の面々も驚きの声を上げる。だけど2人の表情は、

翻意するとは思えない意思に満ちていた。ああ、多分これ止めても無駄だろうな。


それに、確かに2人なら同伴者としては適任だ。どっちも機動性に優れているし、

自分を守る力は十分持っている。残酷な話だけど、万が一ジャンに何かあった時の

保険としては申し分ないだろう。そして、ここの守りにはリータがいるからね。


「…分かった。じゃあ頼む。」


分身ジャンの言葉に頷いた2人が、足を踏み出そうとしたその時。


「ねえ、2人とも。」


そう言って歩み寄ったリータが、そっと両の手を2人に差し出した。

何を意味するかは明白だ。少し戸惑ったものの、2人も手を出して軽く握り合う。


「色々と迷うところはあると思うけど、できればタクミとタカネを信じてあげて。

 あたしが願うのは、みんなの無事だから。」

「…分かった。」

「うん。」


どこまで気持ちで歩み寄ったのかは分からないけど、あたしも信じたかった。

とにかく、何とかしてこの状況を打開しないといけないのは同じだからね。


「…そろそろいいか?」


分身ジャンの言葉を合図に、リータたちはゆっくりと手を離す。


「よし。じゃあ頼んだぞ。」

「ああ。」

「任せて。」

「うん。」


短い言葉を残し、3人は迷わず教室を出て行った。


頼むよ。

何でもいいから、安心できる情報を見つけてきてよ。



ようやく日の光が、教室全体をいつものように照らし始めていた。

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