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骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第十七章・もうひとりのクラスメート
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夜明けを待ちながら

楽しいキャンプには程遠い、不安だらけの夜だ。

賑やかに騒いだり話し込んだりといった気分には、とてもじゃないけどなれない。


ひと通りの議論が尽きれば、あとは時間の経過を待つだけ。夜明けを待つだけ。

身も心も寒々しく、そして何とも単調で陰気な時がただ無意味に過ぎていく。

こうなれば、やっぱり誰しも避けられない当然の欲求がある。


眠い。


=====================================


「夜明けまではまだ少しあるから、眠った方がいいよ。」


リータの提案は至極もっともだった。だけど、はいそうですかと寝られるような

気楽な雰囲気には至っていない。寝たら負けみたいな感覚がドンと居座っている。

実際のところ、”眠ってはいけない”明確な理由は特に思い当たらない。

危険な地に赴いているわけでもないし、はっきり誰かに狙われてるわけでもない。

理詰めで考えれば、寝てしまっても全然かまわないのである。ましてやここには、

寝ずの番を得意とするタカネだってちゃんといるんだから。


彼女に対する疑念のようなものが完全に無くなったとは、もちろん思わない。

ガウバーたち数人は、今もなおタカネの事をそれなりに警戒しているんだろう。

だけど、そんなガウバーたちでさえも認めざるを得ない「確信」がひとつある。


タカネほどの実力者が、わざわざ寝込みを狙って何かするとは考えられない。

正々堂々が基本である彼女の性格も併せると、どうにもイメージと合わないのだ。

本当に何か狙ってるなら、起きてようが抵抗されようが気にせず押し通すだろう。

タカネって、間違いなくそういう人だ。


拭い去れない疑念が残っていたとしても、みんなその点の認識だけは揺るがない。

よっぽどの憎しみや悪意でも抱かれていない限り、ここで寝ても何も問題はない。

これはもう、疑う余地もない事実だろう。


だからこそ分かる。

みんなが無理して起きているのは、本当に単なる意地でしかないんだろうなと。


=====================================


最年少のあたしだからこそ、こういう時の次の展開はだいたい分かる。

意地を張るのをやめて現実に戻るのは、いちばん大人っぽい人なんだとね。


「ゴメン、あたし寝るね。ちょっともう限界。」


そう言ってゴロンと横になったのは、やっぱりウーバだった。


「光量はちょっと絞るけど完全には消さないから。じゃ、おやすみ。」


宣言どおり少し明かりが暗くなり、やがてウーバはかすかな寝息を立て始める。

意識が落ちても持続できるあたり、省力魔法の使い手ならではって感じだ。

この状況で真っ先に寝られる胆力が、彼女の彼女たる所以と言えるかも知れない。


「……」


みんな、何となく気まずい表情で目を泳がせている。しかしウーバが眠りに就き、

明かりまで暗くなってしまってはそれも続かない。誰の顔にも眠いと書いてある。


「それじゃああたしも。みんなも無理しないでね。」

「え!?」


次に寝たのがリータだった事には、少なからず驚きの声が上がった。正直言って、

あたしもちょっと驚いたよ。だけどそんな声にはお構いなしに、リータもすぐに

かすかな寝息を立て始める。呼吸音や心拍音を聞いても間違いない。もう寝てる。


しかし、ここでリータが寝てしまうというのはどうなんだ。傍に座るタカネには、

欠片も眠そうな様子は見られないのに。

…とは言っても、その行動自体には何の不思議もない。タクミやタカネとは違い、

リータは遠征の時も普通に寝ていた。どっちかと言うと、寝ずの番は嫌がってた。

さらに言えば、彼女にはタカネを警戒する理由が何もない。むしろこの上もなく、

頼もしい存在なんだろう。無理して起きている必要なんて、何もありはしない。


どうすればいいんでしょう、残りのあたしたちは。


=====================================


しかし、そんな不毛な意地は長く続かなかった。

リータが寝入って間もなく、それまでもあった眠気が耐え難くなってきたのだ。

一人また一人と、力尽きたように寝落ちしていく。それもリータの近くの人から。

いくら何でも少し不自然じゃないだろうか。そう思ったあたしは、眠気に耐えつつ

操音魔法を展開した。と、かすかに変な呼吸音のようなものを捉える。他でもない

リータの背中あたりから。

…いや、背中で呼吸って何?当のリータの呼吸音はちゃんと聞こえてきてるのに、

どうしてそんなものが重なってるんだろうか。しかも、さらに意識を集中すると

何かの粒子が排出されているような音さえも聞こえてくる。

…もしかしてこれ、ヨドミタケの乾燥微粒子?それを背中から教室に散布して…

ダメだ眠い。リータから距離があるからまだ何とか意識を維持できているけど、

それも長くは持たない。そして意識を保ったとしても、あたしには何もできない。


ううぅ、耐えろあたし。ここは何とか…


と、その直後。

不意に教室の外から聞こえてきた、誰かのかすかな足音を操音魔法が捉えた。

こういうのはわずかでも眠気を打ち消し、落ちそうな意識を引き戻してくれる。

あたしは必死で感覚を戻し、音に集中した。

もちろん寝ていなかったタカネは、あたしと同じように足音に気づいたらしい。

そっと立ち上がり、足音を立てないように入口の方へと向かって歩いていく。

扉を開ける時にかすかな軋み音が鳴ったけど、誰も目を覚まさなかった。


足音の重さからして、相手はあたしくらいの人間だ。当然、学生の誰かだろう。

今この学校にいる学生と言えば、1組か2組の人間に他ならない。…誰だろう?

戦いが起こったりする気配もない。全く聞き取れないけど、タカネとその人物が

廊下で言葉を交わしているのが判る。


判る…んだけど……


ダメだ。


限界。


=====================================


翌朝。


窓から差し込む光で、あたしは目覚めた。身を起こすと、すでに半数近くが同様に

目を覚ましていた。…どうやら、何事もなく朝を迎えられたらしい。

意識がはっきりすると同時に、あたしはハッと視線を向ける。く、首が痛い…!

もちろん、タカネを確認するためだ。誰と話していたのか…


いない。

教室を見渡してみても、タカネはいなかった。

キョロキョロしているあたしに、先に目覚めていたらしいリータは歩み寄る。


「おはようラス。」

「お、おはよ…」

「よく眠れた()()()?」

「う、うん…うん?」


”でしょ”って何?どうしてそこまで言い切れるの?

視線を向けると、リータは意味ありげにニコッと笑ってみせた。


ああ、やっぱりそうだったのか。その笑顔で、あたしの中の疑念は氷解した。

きっと昨夜のあれは、あたしの予想通りヨドミタケの散布による眠りの誘発だ。

だけど見た感じ、誰か何かされたという様子はない。じゃあどうしてやったのか?

難しく考えるから分からなくなるんだ。

要するに、ちゃんと寝ておかないと翌日に悪い影響しか出ないという配慮だろう。

リータほどの人間なら、たとえ寝ていても何か起これば必ず対処できるって事だ。

だとすれば、何かが起こるであろう今日のために睡眠は絶対に必要だった。


楽観的過ぎると言われるかも知れないけど、あたしはそれで納得できたからいい。

それより…


「タカネは?」

「夜のうちに、タクミを探しに行ったよ。」

「えっ!?」


いつの間にかみんな起き出し、あたしたち2人の周りに集まってきている。

事もなげなリータの言葉に、さすがに驚きを禁じ得ない者は少なくなかった。


「ど、どうしてよ!?」

「夜中に誰か訪ねてきたみたいね。あたしは寝てたから、誰かは知らないけど。」

「寝てたんならどうして判るんだ!?」


マゾーの質問に対し、リータはメガネのフレームをトントンと叩いて答える。


「連絡があったのよ。相手が誰なのかは伝えてこなかったけどね。」

「あなたにも伝えなかったの?」


信じ難いという語調のゾノス。気持ちはよく分かる。あたしだって信じられない。

だけど、リータはあくまでも落ち着いていた。


「多分だけど、今はまだあたしたちは知らない方がいいって事なんだと思うよ。」

「で、でも…」

「メルニィの事やジェラの事。今のあたしたちにはほぼ探りようのない謎がある。

 きっとタクミもそれを知りたいと思ってる。訪ねてきた人間が誰であるにせよ、

 謎を明かすためには同行するのがいいとタカネも思ったんでしょう。」

「……」


みんな、それ以上の追及の声を上げる事はなかった。

確かにリータの言うとおりだ。

あたしたちだけであれこれ議論していても、問題の解決にはほど遠いだろう。

だとすれば、多少怪しくても関係者であるなら接触すべきなのかも知れない。

もしもそこに罠があったとしても、タカネなら単独で全て突破できるだろうし。


あれこれ考えても仕方ない。

この状況で無理に信じる必要もない。


いよいよ夜が明けた。


これから何もなければ、あたしたちは動くよ。

気持ちを強く持って…



その前に、トイレと朝食だね。

うん。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 放置された?4組、という場面が延々と続いていますが全く飽きずに毎回楽しめています。 [気になる点] 今更ですが… 「ゼーラ」が、ところどころ誤変換なのか「ぜーラ」になってしまっています。 …
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