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骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第十七章・もうひとりのクラスメート
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疑念の夜

日が暮れると、学校の広さというものが際立つ気がする。

夜の闇の中に沈む校舎はどこまでも静かで、たった一つの明かりさえ見えない。

遠目に見ても、光が漏れている窓はここだけなんだろう。


もちろん、全ての教室の窓を一望できているわけじゃない。

1組や2組の生徒たちは、きっとここからは見えない教室にいるんだろう。


そうとでも思わないと、不安で押しつぶされそうになる。


寒い夜だった。


=====================================


もうかなり遅い時間になっているけど、さすがに全員が起きている。

ランプは節約したいという事で、ウストの輪とウーバの発光魔法の併用によって

間接照明の光が点されていた。こういうのって、グゾント討伐課題の時以来かも。

あの時は今よりもっと大変な状況だったけど、何だかとっても楽しかったっけ。


あの時は、メルニィもいたもんなぁ。


そこまで考え及んだ途端、涙がこぼれそうになった。慌てて顔を上げて堪える。


「どうしたのラス。…何かあったの?」

「いやいや何でもない。ちょっと考え事をしてただけ。」


隣に座っていたラグジが心配そうに声をかけてきたけど、あえて明るく流した。


あたしは今、操音魔法を連続使用している。異常がないか常に確認してる状態だ。

誰かに言われたわけではなく、もちろん強要されているわけでもない。ただ単に

自分でやろうと思ったからやってるだけ。ウーバの明かりのような必要性もない。

別に発動している事を宣言してもいないけど、まあ判る人にはすぐ判るんだよね。


何でそんな事をやってるんだと問われれば、返答に詰まる。


用心のため?

何に対する用心なんだ。


2組の人に連れて行かれたジェラ?

消息が分からなくなったメルニィ?


それは用心するべき相手なのか。

近づかれたら困るような確執でもあったのか。


そんなもの、ないよ。


ジェラはかなり長い間学校に来なかったけど、それは本当に個人の事情のはずだ。

あたしたちの誰かと喧嘩したからとか、そういう理由は決してなかった。

確かに攻撃魔法の強さでちょっと調子に乗るところはあった。でもだからと言って

あたしたちを見下したりするような子じゃなかった。それははっきり憶えている。

いくら特殊な事情があったとしても、あたしたちと敵対する理由はないはずだ。


メルニィは。

いや、タクミは。


素性を隠していたのは事実らしい。本物のメルニィがもうすでに死亡していると

タカネから聞かされた時には、しばらく体の震えが止まらなかった。

だけど、あの子を怖れる気にはどうしてもなれない。他のみんながどう思おうと、

あたしはあの子に会いたい。会って、そしてちゃんと話がしたい。

変な言い方だけど、今のあたしはそれで一番安心を得られるような気がしてる。


違うんだ。

あたしは、間違ってもあの2人を怖れてるわけじゃないんだ。

きっとみんなもそうだ。


いや、そうであって欲しい。


=====================================


「明日の朝の食料は足りないわよね。」


ガサガサと支給品を確かめていたガウバーが、低い声でそんな事を言った。


「夜が明けてもこんな状況が続けば、いろんな意味でしんどくなるわよ。」

「いや、食べ物ならあたしが出すから…」

「そうじゃなくてさ。」


取り成すようなディリカルの言葉を少し強い口調で遮り、ガウバーはその視線を

まっすぐタカネに向けた。


「あなた、あの子をすぐにでも捜し出せないの?」


鋭い視線を向けられたタカネには、それでも特に動じる様子はなかった。

そして、答える言葉にも迷いの響きは感じられなかった。


「その気になれば、居場所の見当をつける事はできるよ。」

「……」


淡々としたその答えに、周りにいるみんなの空気が少し硬くなるのが分かる。


やっぱり判るのか。

だったら、何ですぐにでも捜しに行こうとしないのか。

あえてガウバーも口にはしないけど、大半のみんなの目がそう問いかけていた。

音に表れなくても、そこに浮かんだ疑念はあたしにもはっきり感じ取れる。


タカネは強い。途方もなく強い。そして途方もなく万能だ。


分からない事だらけだったグゾント討伐の時も、彼女は何よりの心の支えだった。

慣れない野宿も戦力の乏しさも、彼女が後ろに控えているだけで乗り越えられた。


だけど、今のこの状況は違う。


あの時のように、明確な脅威が目の前にドンと存在しているわけじゃない。

何を警戒しているのか、あたし自身にもさっぱり分からない。文字通り闇の中だ。

ここにタカネがいるという状況は、決して心強さを抱くだけで済まない気がする。

やっている事に確証が持てないタクミの事を、何よりも優先する人物なんだから。


もしも状況が変わって敵対する事になれば、あたしたちは全員ひとたまりもない。


ああ、そうなのか。

あたしの漠然とした不安は、やっぱり目の前のタカネから生じているものなのか。


…本当にそうだろうか?


=====================================


「気持ちは分かるけど、あんまり気を張らないで。」


緊張した空気の中に言葉を放ったのは、ずっと黙っていたリータだった。

どういうわけか、あたしもみんなもリータに対してはあまり脅威を感じない。

見た目がアレだという事も大きいけど、彼女にはどこか安心できる気配がある。


語弊を承知で形容するなら、彼女は「あたしたち側」の人間であると感じるんだ。

やる事のスケールとか実力とかはタクミとタカネに比肩するレベルなんだけど、

それでも根幹の部分であたしたちと同じ存在なんだと思える。自分で言っていて

訳が分からないけど、とにかくそういう感じ。


場の空気が、ほんの少し緩んだ。

こんな状況になってもなお、リータの声は張り詰めた気持ちを和ませてくれた。


「隠し事をしていたのは事実だし、今さらその事をあれこれ言い訳する気はない。

 タクミを捜しに行かないあたしとタカネの事を、疑うのは当然でしょうね。」

「そうよ。」


なおも納得できない表情のガウバーが、さらに低い声でそう答える。


「あたしだって信じたくないわけじゃない。ならせめて、少しは安心させてよ。」


その言葉には、深い実感のようなものが込められていた。


ああ、そうだよね。

今の4組で「戦える人間」として認識されているのは、実質的にほぼ彼女だけだ。

ゼーラは能力には長けているけど、決して戦闘要員ってわけじゃないんだから。

ジェラが不在の長い間、彼女はそんな望みもしない肩書きをずっと背負ってきた。

編入生3人のおかげでやっと下ろせたその肩書きを、今この瞬間だけで考えれば

以前とは比にならない重さで背負い直してるんだ。


もしここで敵対するような事態になれば、自分が真っ先に挑んで死ぬ事になる。

覚悟はしてるんだろうけど、そんな緊張にさらされ続ける夜は耐え難いんだろう。



いくら強いといっても、ガウバーだってまだ学生なんだから。


=====================================


「分かった。」


そう言ったリータは、かけていたメガネをゆっくりと外した。そしてそれを、

目の前に立つガウバーに差し出す。


「とりあえず、これをかけてみて。」

「え?」


毒気を抜かれたような間抜けな声だったけど、みんな心中同じ声を上げただろう。

あまりにも予想外の申し出に。


「…何で?」

「前にもかけた人はいるから知ってると思うけど、このレンズには画像が映せる。

 で、今ここにタクミの姿を映し出した。昼間に見せたあの姿と、いざという時に

 変身すると思われるいくつかの姿をまとめて、ね。」

「つまり、人目をごまかすために化ける姿って事?」

「そう。」

「……」


ガウバーは、しばし押し黙っていた。その気持ちはあたしにもよく分かった。


これもまた、裏付けのない事と言ってしまえばそれまでだろう。

だけどリータは、仲間であるタクミの情報の一片を開示すると言ってくれている。

それを拒んでしまうのは、求めた安心を自ら放棄するのと同じ事だろう。

ガウバーだってそこまで意固地じゃない。あたしには、確信に似たものがあった。


ほら、やっぱり。


ためらいつつ、ガウバーはゆっくりとメガネを受け取ってかける。…似合わない。

数秒ののち、彼女はまたゆっくりとメガネを外した。そのままリータに返す。


「いい?」

「…うん。」


やっぱり納得はしてなさそうだけど、表情の険はかなり取れているように見えた。

にっこりと笑ったリータが、そのまま傍らのゼーラに向き直る。


「せっかくだから、他のみんなもかけて確認しておいて。」

「え…」

「あたしたちだって、このまま何もせずに終わるだろうなんて思ってないからね。

 夜が明ければきっと事態は動く。その時に困らないよう、情報は共有して。」

「…分かった。」


確かにリータの言うとおりだ。今は待つだけでも、明日になれば何かが動く。

だったら、やれる事はやっておくべきだ。信頼なんてものは、最低限あればいい。

意を決したらしいゼーラを皮切りに、みんなでリータのメガネをかけていくという

ちょっと不思議な展開になった。傍目に見ていると、何だかおかしな光景だね。


もちろん、中ほどの順番であたしもかけてみた。


画像とは思えないほど立体的に、タクミの上半身がくっきりと視界に映る。

それはほんの数秒で、いくつかの姿へと変わった。…って、男にもなれるんだ。

つくづく多能者なんだなぁと、変に感心してしまった。

最後はウーバだった。よほど興味を惹かれたのか、けっこう長く見ていたよ。

まあ、彼女はもともと何をするのもゆっくりだけど…


何か意味のある事をすれば、それなりに気持ちは前を向く。

長く不安な夜は続くけど、どうにか乗り切れそうな気になってきた。



眠れるかどうかは、まったく別だけどね。

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