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骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第十七章・もうひとりのクラスメート
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不穏と不安

「おい、あれ何だ?」


不意に、窓際の席にいたペイロンが声を上げた。

皆の注視には構わず、左から3番目の窓から外を指し示す。


「何?」

「どうしたよ。」


ほぼ全員が窓に殺到したけど、もちろんそんなに大勢が一度に覗けるわけがない。

あぶれた数人が、左右の並びの窓を開けて視界を確保する。あたしもその窓から、

ペイロンの指す方に目を凝らしてみた。


「…?」

「どっか出かける気か?」


広い中庭を挟んだちょうど向こう側に、十数人の学生が集合しているのが見える。

それぞれが手荷物を持っている点から察するに、学外研修にでも行くのだろうか。

…しかしここ数日、そんな事前告知はどこの掲示板でも見た事がない。というか、

ある意味で非常事態ともいえるこの状況で、呑気に実習なんか行くものだろうか?

いや、もしかすると。

()()()()()()()()()、学校を離れようとしているのか。


「…こんな時にクラス全員でお出かけって、どう考えても不自然だろ。しかも、

 今はもう夕方だぜ。この時間から出てどこへ行こうってんだよ。」


マゾーの指摘はもっともだった。学外研修と言えば、朝から行くのが鉄則だろう。

何と言うか、非常に嫌な予感がする。


「ってか、あいつら何組だ?…育成クラスじゃないってのは判るけどよ。」

「遠いな…」

「もたもたしてると行っちゃうわよ。」


「おいラス」

「えっ!?」


同じように窓から見ていたあたしに、いきなりマゾーが声をかけてきた。

まったくの不意打ちだったから、ちょっと返答の声が裏返ってしまった。


「な、何?」

「あいつらの声って拾えないのか?何を話してるかが判れば…」


ああ、そういう事ね。


「ごめん、無理。」

「見えてるのにか?」


怪訝そうな表情で食い下がられたけど、出来ないものは出来ないから仕方ない。


「確かに可視領域だけど、あそこまで遠いと可聴領域からは外れちゃってるよ。

 せめて個人が判別できるくらいの距離じゃないと、声は拾えない。」

「そうか…」


ご期待に添えなくて本当に申し訳ない。あたしだって可能なら…

と、その時。


「近ければ拾えるのよね?」


そう言ったリータが、あたしの答えを待たずに何かをポケットから取り出した。

何なのかすぐには判らなかったけど、どうやら一対の小さな灰色の輪らしい。


「ウスト、お願い。」


言うが早いか、リータはその輪をすぐ傍にいたウストに投げ渡した。

輪を彼に渡して”お願い”する事なんて一つしかない。ウストは特に何も言わずに

受け取った輪に魔力を注ぎ、空間接続機能を付与してそのままリータに投げ返す。


「ありがと!」


こういう時、リータの行動は早い。

受け取った手の親指で印をこすって空間接続を起動させ、もう一方の手を開く。


GD-FX(ドラゴンフライ)!」


そう呟くと同時に、上に向けられた手のひらに羽虫のような物体が現出した。

音もなく飛び上がったその虫モドキが、細い腕か脚で輪の一つを掴み上げる。


「あんまり近づくと勘付かれるから、視認できるギリギリまで接近させるね。」


言い終わる前に、虫モドキは窓から飛び出していた。もともとかなり小さいため、

ちょっと離れただけでもうどこにいるのかがほとんど判らない。携えている輪が

辛うじてチカチカ見えるくらいだ。


「ラス、これを。」


一心に虫モドキの影を探していたら、リータから当然のように対の輪を渡された。


「聞こえるところまで到達したら言って。そこで停めるから。」

「あっ、うん。」


そうだった。もともとこの作業は、あの集団が何組なのかを探るためだったっけ。

試しに輪を覗いてみると、思った以上の速度で飛んでるらしい。飛行主観が怖い。

酔わないように慌てて目を逸らし、音だけに集中する。ほどなく向こうの空間から

大勢の声がかすかに聞こえてきた。


「いいよ。」

「オッケー。」


答えたリータがメガネを触ると同時に、輪の向こうの光景もピタリと停止した。

それを確認し、あたしはすぐ隣に立っていたカミラード級長に輪を渡した。


「確認してみて。」

「あ、うん。」


意図を察した級長が輪を覗き込み、今しも出発しようとしている集団を確かめる。

密閉されてはいないから、級長が覗いている状態でも向こう側の音は充分拾える。

術を起動させると同時に、部屋の中に話し声が聞こえてきた。


『…れにしても何なんだろうな、いきなり泊りがけの研修だなんて。』

『そうだよねー。この寒い時期に。』

『せめてもうちょっと、準備に時間かけさせて欲しかったよねぇ。』


どうやら、当人たちにとってもかなり突然の話だったらしい。

聞こえてくる声は、どれもこんな感じの文句ばかりだった。


「どうだ級長。」

「…やっぱりそうか。」

「判ったのか?」

「ええ。」


そう答えた級長は、ようやく輪から目を離して向き直った。


「あれは3組よ。遠目だけど全員見えた。引率も担任のファリスン先生みたい。」

「間違いない?」

「ええ。」

「分かった。2人ともありがとう。GD-FX(ドラゴンフライ)を戻すね。」


その言葉と同時に、級長の持っている輪の向こうの光景が再び動き始めた。

どうやら、怪しまれる前にさっさと虫モドキと輪をここに戻してしまうらしい。


ほどなく虫モドキはリータの手に戻り、輪だけを残して音もなく消失した。


=====================================


「予想はしてたけど、やっぱり3組だったのか。」


オズの口調は淡々としていた。

正体が判明した集団は、すでに見えない。多分もう学校を出ている頃だろう。


「1組と2組はどうなんだ?」

「今のところ、気配はないみたいね。」


マゾーの問いに、窓の外を窺いながらディリカルがそう答える。

学校の構造上、どこの教室にいたとしても学外に出るためには中庭は必ず通る。

時間的にも、まともな宿泊をしようと思えばさっきの3組までがギリギリだろう。

この先、他のクラスが同じように出て行くとはどうにも考え難い。


「…つまり、今この校内に残ってる実働クラスは俺たちと1・2組って事だな。」

「そうなるね。」


オズと級長の交わす言葉に、言いようもない重さがこもる。

みんなも黙り込んでしまった。


3組は、あたしたちと1・2組の中間といってもいいクラス編成になっている。

戦闘に特化した魔法の使い手は半分もいない反面、有用だと目される生産魔法の

使い手がそれ以外を占めている。要するに、卒業したらすぐにお金を稼げそうな

稀有な人材が揃っているのだ。

そのクラス()()を、かなり強引に学校から遠ざけるという措置。


「これ実質的に、あいつらを避難させたようなもんじゃないのか。」


ジャンの言葉はどこまでも容赦なく、そして的確だった。


=====================================


間もなく、放課の時間となった。

ぞろぞろと他の生徒たちが寮に戻るために出てきたのを、全員で窓から観察する。

はっきりと断言はできなかったものの、恐らく間違いはないだろう。


育成クラスの人間は帰っていった。けど1組と2組の人間が誰も出て来ていない。

その意味するところは何か。


「…どうなるんだよ、これ。」


苦々しげに呟いたマゾーが、少し乱暴に窓を閉めた。

寒い上にもう暗くなり始めており、開けていてもこれ以上の展開はほぼ望めない。

他の窓から外を窺っていた面々も、同じように閉めて席に戻る。


すっかり薄暗くなっていた教室に、級長とオズがランプを点す。

こんな時間まで寮に帰らずみんな残っているというのは、滅多にない事だった。



もうすぐ日が暮れる。

不安な夜が来る。



あたしは、なぜか無性に会いたかった。

メルニィに。


いや、タクミに。


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