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骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第十七章・もうひとりのクラスメート
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明かされた策謀

一旦落ち着こう。

状況を整理しよう。


簡単なようで難しく、それでいて単純な話だ。

結局のところ、今の俺たちにできる事なんてただの一つしかないんだから。

最終的に受け入れられるかどうか。要はそれだけだ。

目の前にいるタカネとリータ。

彼女たちに事情を訊くしかないって事なんだよな。


それは2人もよく分かってるだろう。

ただし、訊けば後戻りはできなくなるかも知れない。

だけどこのまま、何も知らないでいるってのは絶対に願い下げだ。


「タカネ。」

「ん?」


「話してくれるか?」

「ええ。」


俺は腹を括った。

多分、みんなも。


「あいつは誰なんだ?」

「あいつって?」

「メルニィだったあの子だよ。名前を教えてくれ。」

「荒野拓美。」


俺はそこでちょっと黙った。思いのほか、タカネがあっさり教えてくれたからだ。

アラヤ・タクミか。

それがあいつの名前なのか。

チラッと見回せば、黙って聞いている面々もその名前を反芻しているようだった。


「…じゃあ、もう少し教えてくれ。」

「何を?」

「あのタクミって子は、何者なんだ?」


重い質問だと、口にしてあらためて思った。

答え次第で、もう俺たちの”あいつに対する立場”は決まってしまうかも知れない。

返答までの一瞬が、途方もなく永く感じられ…


「あたしの恋人よ。」


…………………………………………………………

…………………………………………………………


うん?


いや、そういう答えを待ってたんじゃなくて…

あれっ?

訊き方を間違えたのか?


誰かが派手に噴き出す声が、張り詰めた空気を丸ごと台無しにした。

それを合図にしたかのように、みんなはいっせいに笑い出していた。

俺はどうすれば…


「あれ?あたし何か変なこと言ったっけ?」


俺も噴き出した。

笑うしかないと言うか、今ここで笑わなきゃ何かを損すると思ったからだった。


久々に笑った気がした。

まだ事態の急転から半日しか経ってないのに、ずいぶん久し振りなように思えた。

こんな風に笑ったのは。


かなわないなあ、ホントに。

何だか、肩の力が抜けちゃったよ。


=====================================


別にタカネは、露骨に笑いを取ろうと思ったわけじゃないんだろう。もちろん、

答えをはぐらかそうとしているわけでもない。事実、嘘は言ってないだろうし。

要するに、俺の訊き方がまずかったってだけだ。…まあ結果は悪くないけどな。


だったら、いっぺんに答えてくれそうな質問に切り替える。


「タクミとメルニィはどういう関係だったんだ?確かメルニィ・リアーロウは、

 ベズレーメの有力者の三女だったよな。さすがに、そこは嘘じゃないんだろ?」

「ええ。」


頷いたタカネが、チラッとリータに目を向けた。一応の確認を求めているらしい。

黙って聞いていたリータも、同じように小さく頷く。言ってもいいって事だろう。

あらためて、俺は背筋を伸ばした。


「あたしと拓美がローカフで見つけた時には、メルニィはもう死んでいたのよ。

 無惨な姿だったけど、後で調べて謀殺されたんだという事が分かった。」

「…いきなり殺されてたの?」


カミラード級長の声は、かすかにうわずっていた。

淡々とタカネの口から語られる話の重さに、何人かが息を呑むのが見て取れる。

()()姿()()()()()()()()()()()()()()()なんて、そりゃゾッとしない方がおかしい。

しかし、タカネもリータも落ち着いていた。


「彼女の亡骸を見つけた時に、拓美自身が決めたのよ。」

「何をだ?」

「メルニィを殺した人間を見つけ出して、その罪をちゃんと認めさせるって事を。

 そのために、あたしたちはメルニィの姿を借りた。」

「…で、その殺した人間っていうのが…」


遠慮がちな級長の言葉の末尾を、俺はあえて引き受けた。


「ジェラの父親って事か。」

「そのとおり。」

「…何か、酷い話ね。」


耐えかねたように、ゾノスがそんな言葉を漏らした。


確かにそうだよな。

シュニーホに来れば娘の親友になったかも知れない少女を、手にかけたってのか。

メルニィにとってもジェラにとっても、それはあまりにも酷過ぎる因縁だ。


「だけど、メルニィはもともと自分の姉から命を狙われていた。ジェラの父親は、

 その企てに便乗したって事。」

「姉?」


怪訝そうな声を上げたのはジャンだ。


「じゃあ、ジェラの親父はその姉に雇われたって事になるのか?」

「大体それで合ってるけど、本人に訊いたらもう少し事情があった。」

「本人に訊いたってのはつまり…」

「もちろん戦って叩きのめしてからよ。」

「…なるほどな。」


もう、今さらジャンもそこを深く訊こうとはしないらしい。

いざという時のタカネたちの容赦のなさは周知の事実だから、気にしたら負けだ。

要するに、ジェラの父親を殺しはしなかった…って事なんだろう。それでいい。


「その事情って何だ?」

「ジェラのお父さんは、ラスコフの王家の君命を受けてメルニィを殺しに赴いた。

 どうして留学の決まっていた彼女が暗殺対象になったのかについては、彼自身も

 推測しかできない感じだった。命じられた以上はやるしかない。細かい理由など

 知る由もない。ただ祖国の命令に従っただけ。そう言ってたわね。」

「………」

「彼自身は悔いていた。年端も行かない娘を無惨に死なせた事を。ひょっとすると

 己の娘(ジェラ)に重ね合わせてたのかも知れない。今となっては、そんな風にも思う。」

「…………」


しばし、誰も何も言えなかった。こんな話を聞かされれば当然だろう。



しかし俺は、別の事を考えていた。


=====================================


王家の君命か。

命令としては、実際にそういう形で下されたものなのだろう。そこは疑わない。

しかし、「魔法国」としての今のラスコフのトップは、間違っても王家じゃない。

事実上のトップはこのシュニーホの学長、オズレン・ホルトだ。それは誰もが知る

公然の事実だ。他国の有力者の息女を、オズレン学長の許可も得ずに王家の人間が

勝手に殺そうとするとは考え難い。もし明るみに出たら、それこそ大問題になる。


ある意味、この国の支配構造はかなり歪んでいる。

いくら実力至上主義がまかり通っていると言っても、それなりに由緒正しい王家を

差し置いて、出自の怪しいオズレン学長がトップに君臨しているんだから。

「魔力に覚醒した者の未来に貴賎はまったく関係ない」というのは確かな事実だ。

貧乏人だろうが貴族だろうが、魔術師の素養さえあれば成り上がる事ができる。


とは言うものの、それはあくまでも魔術師に限っての話に過ぎない。国民全体の

比率で言えばほんのわずかしかいない魔術師だけの話であり、王家の威厳自体は

「国の長」としてしっかり存在しているのだから。

だったら、どうしてオズレンが実質的な国のトップに君臨し得ているのか。

事情を知る人の話では、これはオズレンが政治に興味を持っていないかららしい。

実力や権力といった面では王家を凌駕していながら、国の運営という点に関しては

ずっと王家とその一派に一任している。だからこそ、王家の人間もオズレンに対し

明確な不満を表明しないのだ。現在に至るまで、その奇妙な均衡が保たれている。


唯一の国営魔法学校を運営し、実質的に国の正当な魔術師をほぼ掌握している。

そんな絶大な力を持っていながら、これといった行動を起こさないオズレン学長。

彼の真意を知りたがる人間は多いものの、それで国が上手く回っているのも事実。

わざわざ余計な波風を立てる必要はないというのは、国全体の風潮でもある。


だったら…


「オズ、大丈夫?」

「え?…あ、ああ。」


気づけば、級長が心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。

どうやらよっぽど深刻な顔をしていたらしい。…我ながら判りやすいんだな。


事実、俺は背筋が寒くなっていた。

メルニィ・リアーロウがタカネの言うとおり、()()()()()()()で殺されたのなら。

下手をすればタクミの行動は、これ以上ないほどの波風を立てる事にもなり得る。

もしメルニィが、何かしらオズレン学長の危険な部分に抵触していたとすれば。


そこからの話は、もう俺の推測なんかを遥かに振り切ってしまう。

シュニーホそのものを揺るがすような事態になっても、何の不思議もないだろう。


どうする?

ただの推測なんだから、黙っておくべきか?

いたずらに不安や混乱を煽るような事を、軽々しく言うべきでは…



本当に、難しい話ばっかりだ。

今日という日を、俺は一生忘れないだろうな。


これからも続く、明日があればの話だが。

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