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骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第三章・魔法国を目指して
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ギルドにて・2

ギルドは、まさに街のど真ん中の目抜き通りにあった。

さすがにここまで来ると、それなりに人も多くなる。ただやっぱり、若い女性は

ほとんど見かけないまま。…どうして?


ちなみに今のあたしは、腰に一振りの短剣(ダガー)を携えている。

ギルドへ向かう道すがら、タカネとの雑談の中でふと思いついた。もしかすると、

こんな色気のない実用性オンリーの服を着て丸腰なのが、奇異に見えるのではと。

考えてみれば、この上なく当たり前の話だ。

何かあっても出来る限り、自分で自分の身を守らなくてはならない厳しい世界。

老若男女を問わず最低限の武器を携行しているのは、言うまでもない必然だろう。


アバンギャルドな飛び道具に慣れ過ぎて、そんな当たり前を忘れてた我々、反省。

リサイクルショップみたいな品揃えの店で、古いけど少し上等なものを購入した。


まあ、あんまり使う機会は無さそうだけどね。


そんなわけで、いざギルドへ。


=====================================


小さな街に相応しく、ギルドの建物もそれほど大きくは無かった。その代わり、

複雑な格子を組み合わせた外壁デザインが実にカッコいい。ちょっと好みかも…。

ゆっくりと入口の扉を開け、少し薄暗い室内へと足を踏み入れる。


今のあたしは、いささか装備は頼りないけどハンターに見えなくもない格好だ。

問題がそこだったなら、もうさほど人から変な視線を向けられる事は無くなり…

ませんでした。

その場にいた人たちが、やっぱり一斉にあたしに怪訝そうな視線を向けてきた。

相変わらず、敵意の類は感じ取れない。とにかく珍しいもの、危なっかしいものを

見るような目だ。

ああもう。人気者はつらいね。

ここまで来たら開き直ろう。あたしは、ちょっと足早にカウンターへ向かった。


「あの、ちょっといいですか。」

「どうぞ。いかがされました?」


おお、第一街美人発見!!

ようやくここに至り、イメージしていた通りの長身の女性が応対してくれた。

何だか、ものすごくホッとする。態度も表情も優しげだしね。

ただ、やっぱりどことなく挙措が固い気がするけど。

ちらりと見れば予想通り、他の面々も聞き耳を立てているのが判る。


こういう時。つまり致命的に現状に関する情報が不足している時に、無理をして

嘘を並べ立てるのは悪手だ。下手に言い繕おうとするたびに泥沼にはまっていく。

だから、正直な話を小出しにするのが一番。多少おかしな奴と思われたとしても、

少なくとも悪い印象にはならない。


「えと、ちょっと旅をしてまして。この街には今日辿り着いたんですけど…。」

「ムジンカへようこそ。お疲れじゃないですか?」

「あ、はい大丈夫です。ありがとう。」


ううん、まるで日本のホテルみたいな対応じゃないか!観光都市っぽいなあ!!


「それでその…この街でしばらく滞在した後で、向かいたい所があるんですよね。

 で、先にそれらについて聞いておければいいなと思いまして。」

「つまり、この街の見所の紹介と、目的地へのおよその道案内って事ですね。」

「そうそう。そうです。」


一番知りたいのはそこじゃないんだけど、まずは無難な取っ掛かりからだ。


「ちなみに、次に向かわれる目的地というのはどちら?」


まあ、先にそれを聞くよね。

日程と行程を聞いてからでないと、観光案内に変な無駄が生じるだろうから。

やっぱりこのお姉さん、いろいろとプロだなあ。ちょっと憧れる。美人だし。

だけど、目的地か…

最寄りの街の名前も判らないんじゃ、ざっくりと言うしかないよね。


「ラスコフです。」

「え?」


にこやかだったお姉さんが、そこで初めてちょっと目を丸くした。

まずい。何かヤバい地雷踏んだか?

次の瞬間。

居心地が悪いほど静まり返っていた場の人々から、いきなりどっと爆笑が湧いた。

どうやら踏んだのは、いや打ち上げたのは笑いのバクダンでしたか。


「おいおい嬢ちゃん!あんたどれだけ方向音痴なんだ!?」


何だかカッコいい形にヒゲを剃り込んだおじさんが、笑いながら隣に立った。

目の前のお姉さんは苦笑顔だ。何となく場が砕けたので、一歩引いたのだろう。

タチの悪い絡みにはならない雰囲気なので、あたしも困ったような笑みを返す。


「いやあの…。ええ、そうみたいです。方向音痴って、自覚が無いですからね。」

「違ぇねえ!よく言った。自分を分かってるじゃねえか、なあ!?」


パンパンとあたしの肩を叩き、おじさんは愉快そうに声を上げた。周りの人たちも

つられたようにあらためて笑う。


やっぱり、敵意も排他的な感情もなかったんだ。

あたしの(マヌケな)話し振りに、大いにホッとした、という印象だった。

ホッとしたのは、あたしも同じなんだけどね。まあ、空気に乗ろう。


「恥ずかしい話なんですけど、でもホントです。あっちに…ちょっと知人がいて。

 お使いと言うか何と言うか…。急ぐ旅ではないんですけどね、全然。」

「そうかそうか。」

「それにしても、全力で見当違いに来ちまったもんだなぁ。」

「まったくだぜ。ある意味尊敬するよ。」


隣のおじさんだけでなく、他の人たちも返答してくるようになった。

この人たち、ハンターだろうか?

ベズレーメの時よりも、全体的に年齢はやや高い。そしてこれも今気付いたけど、

男性もイケメンが多いね。いわゆるナイスミドルの見本市だ。


…いやいや。見るべき、知るべきはそこじゃない。

あたしも大概に迷走してる。自覚を持とう。


ちなみにこういう局面で、タカネはほぼ口を出してこない。

脳内会議をしながら会話すると、テンポがおかしくなってしまう。加えて言えば、

言動がバラバラになってこちらのキャラクターが不自然にぶれる危険もある。

大勢が相手だと、なおさら怪しむ人が出てくる。だから、欲張らず自然体で行く。

人の会話なんて、本来そういうもののはずだからね。


「ラスコフって、そんなに遠いですか?」

「遠いも何も、まるっきり反対方向じゃねえか。」


相変わらず笑いながら、隣に立つオシャレヒゲおじさんが指でカウンターの天板を

ざっとなぞる。どうやら、国土の形を表現しているらしかった。


「こっちがランカ河で、ラスコフはこっち側。そんで…」


指の軌跡で形作った地形の左と右を指し、おじさんは左側、ギリギリ内側の一点を

トントンと強く指先で叩いた。


「現在地はここだよ。念のため聞くけど、ローカフに行きたいんじゃないよな?」

「ええ。違います。行きたいのはラスコフです。」

「おいおい…。」


皆、等しく呆れ顔になったのが判った。


まあ、そうなるよね。

北東に向かえと言われて、まず限界まで北上した。そこからは当然、ただひたすら

東に向かうだけだ。その間に横たわる国は、まるまる東西へ横断。誰にでも分かる

地理的な必然だよね。

大雑把な旅の中、要所要所でこういう笑いを取ってしまうのは致し方がない事だ。


正直、ここへ来て人と言葉を交わし、あたしはちょっと気持ちを切り替えていた。

来た時に感じた空気は、確かに気になった。でもギルドへ来て、少なくとも自分が

怪しいと思われたり妙な敵愾心を持たれたりしていないのははっきり分かった。


だったら、あんまりあれこれ聞いて回る必要もないのかも知れない。

方向音痴のポンコツという不名誉なレッテルを貼られちゃったけど、悪意はない。

この街の人たちには、ベズレーメの連中のような相性の悪さは感じない。


ここは大人しく観光して、美味しいものを食べて、そのまま次の街を目指そう。

国の特色なんだから、美人さんたちは他の街で探してもいいだろう。

四六時中、トラブルメイカーでいる必要はないよね。


「そういえば嬢ちゃん。」

「はい?」

「そもそもあんた、どっから来たんだい?」


うん?

これはちょっと、地味に厄介な質問だね。

まさかラスコフだとは言えないし、ローカフだと言うのもまずい。それなら大橋を

渡って来るはずだから、この街に立ち寄るってのは地理的におかしい事になる。

いくら何でも、それを方向音痴のひと言でごり押しするのは無理があるだろう。

近隣の国の名前を気安く出すのは、言うまでもなくもっとアウトだ。


ここはひとつ、質問の規模を無理やり縮小して切り抜けましょう。


「ランカ河に沿った街道からです。」


うん。嘘じゃないよ。実際に歩いたのはほんのちょっとだったけどね。

これなら…


「…何だって?」


しかし、またしても変な地雷を踏んだらしい。

にこやかだったナイスミドルさんたちの表情が、一斉に強張るのが感じ取れた。

ふと目を向ければ、受付のお姉さんの顔色も少し青くなっているのが判る。


何?あそこから来るの、そんなに変な事だったの?

確かにサルとかモグラとか厄介なのはいたけど、それは夜だけの話だろうから…


「女ひとりの旅で、よくあそこを無事に抜けて来たもんだな。」

「え?えっと、何か、危険な獣でもいたんですか?」

「獣?」


オシャレヒゲさんは、苦々しい表情を浮かべて視線を上に向けた。


「…ああ。あれは獣と言ってもいいだろうな。だが、見てくれは間違いなく人だ。

 得体の知れない力を持った、獣よりもタチの悪い魔術師の集団だよ。」

「魔術師の集団?」


いきなり、聞き流せないパワーワードが飛び出した。

これは僥倖か、それともヤバい話なのか。


「集団って、どれくらいいるんですか?」

「正確な数は知らん。が、少なく見積もっても20人近くはいるだろうな。」


苦々しげなその言葉に、他のおじさんたちも強張った表情で頷く。


「得体の知れない力と言うと、炎を出すとか…」

「そんなありきたりなもんじゃねえよ。」


あたしの問いに対し、角刈りのおじさんが食い気味に言葉を返してきた。


「魔法を使える奴こそいねえが、ここはラスコフの隣の国なんだぜ。俺だって昔、

 中央の街で旅の魔術師の魔法を見た事はあった。だが、あいつらは全く違う。」

「ああ。あんなヤバイのは聞いた事もねえ。」


すぐ隣にいたスキンヘッドおじさんも、首を振りながら同調する。


「大抵の魔法ってのは、()()()()()()()()だ。それを攻撃手段にするかどうかは、

 使う奴次第って話だよ。知り合いがいるんなら、嬢ちゃんにも分かるだろ?」

「もちろん。」


実感として分かるあたしは、強く頷いた。


「だが、あいつらの使うやつは違う。ありゃあ絶対、最初から人を傷つけるため、

 あるいは殺すためだけに存在してる代物だ。恐ろしくってしょうがねえよ。」


ますます、場の空気は重くなる。

聞けば聞くほど、その魔術師集団の存在は僥倖とは言い難かった。

もしかすると、街の空気はその連中が元凶なのだろうか。


「嬢ちゃん見なかったか?森の向こうの灯りを。あれが奴らの寝床なんだがよ。」

「そう言えば…」


あの灯り、そういうものだったのか。

真夜中に煙も出さずにあれだけ光らせるのは、ちょっとおかしいと感じていた。

仮に輝光石を使ってたとしても、あそこまでの照度を得ることは出来ないだろう。

だが、魔術師が居たというなら納得だ。


「とにかく、幸運だったのは間違いねえ。くれぐれも、そっちから街を出ようとは

 考えない方が利口だぜ。でないと…」


でないと?

嫌な予感がするけど、もしかして、街に女性の姿が見えない理由に…


しかし、続きを聞く事は叶わなかった。

甲高い笛のような音が、どこか遠くから連続して聞こえてきた。それと同時に、

場の全員の顔に緊張の色が走る。

特にカウンター越しのお姉さんの顔は、さっきまでより更に真っ青になっていた。


「まずい。奴らだ。」



のんびり旅を思い浮かべていた、ほんの数分前が懐かしい。

やっぱり、トラブルは否応なしに押しかけてくるらしかった。

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