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骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第十四章 亡き者たちの残滓
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先立つもの・1

う~ん、どうしましょう。

今のこの状況。


確かに勝手知ったる故郷へ向かうとはいえ、一人旅は嫌だけども。

2人が一緒の方が心強いと、間違いなく思ってましたけども。


だけど、これはいかがなものか。



ほとんど強盗じゃないですか。


=====================================


ローカフを東西に横切るランカ河。それはやがて北へ向きを変え、ロドーラとの

絶対の国境を成す。その際、まったく逆方向に分岐した支流をアーグリ河という。

この河もまた再び流れを東向きに戻し、ルネリオへと入り込んでいく。

このアーグリ河を渡ってしまえば、ベズレーメへ向かうには一番の近道になる。


しかし問題がひとつ。

宗教的な禁忌らしいけど、とにかくルネリオの人たちは「渡河」を徹底的に嫌う。

河を渡るという行為そのものが、何らかの悪い意味を持っているらしいのである。

だからルネリオを西向きに横切り、河を渡ってローカフに入国…というルートは

ほぼ絶望的だったりする。そこまでの道はむしろ楽なんだけど、最後で阻まれる。


だから手間と時間はかなりかかるけど、北の方にある街からロドーラへと入国し、

そこからランカ河を渡ってローカフに入国するしかない。これ、旅の基本。


なのでとっととバスケンまで戻り、そこから報告書をシュニーホ宛に送付した上で

ロドーラに入ろうと思っていたんだけど…


「いやあ、やっぱ追加資金が必要でしょ。3人でベズレーメまで行くとなると。」

「う?…いや、まあ、それは…」


オルラの言葉に何となく嫌な予感がしたけど、否定し切れないのもまた事実だ。

冬休みを返上してこんなハードな任務をこなしてるんだから、もちろん必要経費は

全て学校に請求する。何があるか分からないから最初に多めに支給してもらうし、

不足分はロドーラ国内であればギルドで引き出せる承認証(カード)も預かっている。


ただし実はこれ、ラスコフから遠い街のギルドになればなるほど、信用が下がる。

うまく行けば決められた限度額まではすぐに出してくれるんだけど、運が悪いと

「本物かどうか確認する」となる。そうなればもう、とにかく時間がかかるのだ。

さらにローカフまで行ってしまえば事実上、これでの資金追加は出来なくなる。


「…何かあてがあるの?」

「もちろん!」


聞いたのが間違いだった。

オルラとミロスの悪い顔を見て後悔したけど、まさに後の祭りだった。


=====================================


というわけで、現在。

あたしたち3人は、バスケンのすぐ西に位置する第四都、コルに来ている。

もうちょっと具体的に言うと、そのコルに居を構える貴族・ベステュラ家の屋敷。

さらに細かく言うと、その中央にある本邸宅の執務室。

もっと言ってしまえば、さらにその中央に置かれた主の椅子のちょうど真ん前。

顔を引きつらせている、ベステュラ家の当主さまの目の前である。


つまり、オルラのお父さんの前って事ですね。


つくづく思う。

何でこんな事になっちゃったんだかなー…。


=====================================


「…まさかお前たち2人の顔を、再び見る事になろうとはな…」


殺意すら感じさせる声でそう言われたけど、当の2人はいたって平然としていた。

ニッと笑みすら浮かべ、オルラは目の前の父親に明るく声をかける。


「どうもお久しぶりです。お元気でした?ベステュラ様。」

「お前に父などと呼ばれるいわれはない!!」


怒鳴り声がビリビリと響いたけど、さすがにあたしもその言葉に首をかしげた。

え?


「いや言ってませんよ。ちゃんと聞いてました?」


臆面もなくそう切り返し、オルラは大げさに肩をすくめる。うん、確かに。

いろいろ事情は察するけど、落ち着こうお父さん。


「あたしはあなたを父とは微塵も思ってませんから、どうぞご心配なく。」

「…何だと?」

「あたしの父は二階堂(いさお)です。あなたじゃないって言ったんですよ。」

「……」


うわぁお。さらっと煽るなあ。ってか、そのニカイドウイサオさんって誰だよ。

見た感じ、ミロスは委細承知してますよって顔してる。知らないのあたしだけ?

ますます不安になるなあ。貴族って、こういう煽り方されるとどう思うんだろ。


「…何を言っとるのか理解に苦しむが、まあそれならいいだろう。」

「どうも。」


いや、それでいいんかい。親子関係ってものが言葉ひとつで終わってしまうのね。

そっちの方が理解に苦しむけど、怒りが収まったんだから良しとすべきなのか。

貴族って不思議な生き物だ。


「それで、今さら何をしに来た?」

「お金が欲しくて。」


えっ。

いきなりそう切り出すんですかオルラさん。いくら何でもそれは…


「…無関係だと言いつつ金の無心か。つくづく貴族の誇りも何もない愚か者だな。

 だからお前なんぞ…」

「いや、いきなり父親ヅラしないでくださいよ、未練がましいと思われません?

 と言うか、あたしに貴族の誇りなんてものはありません。そんなもん持ってても

 一銭にもならない。とっくの昔にドブに捨てましたから。」

「……」


容赦ないなオルラ。

そこまで徹底的だと、価値観否定されまくりのベステュラ氏が気の毒に思える。

ほら、怒っていいのかどうか、本人も分からなくなってるじゃん。

オルラの何が悪質かって、ギリギリのところで()()()()()()()()()()って点だ。

貴族をバカにしているんじゃなく「自分がそれに合わない」と言ってるだけだし、

ベステュラ氏に対する暴言も「もう親子じゃない」って線引きをしてるだけだし。


聞けば聞くほど、本当にオルラには肉親の情がないんだな…と確信が深まる。

何があればここまで割り切れるんだか。


「ええっと、話の途中でしたね。聞いてますかベステュラ様?」

「聞いとる。」


ああ、ちょっと憔悴してる。いくら何でもいじめ過ぎだぞオルラ。


「しかし貴様には、充分な支度金をくれてやっただろうが。」

「確かにそうですけど、あれで御者にあたしたちを殺していいと命じたんでしょ?

 もしかしてお忘れですか?」


そこで初めて、ベステュラ氏はビクリと肩を竦ませた。

あたしも身震いしそうになったよ。何気にすごい闇深い過去話を聞かされて。


「あの御者はぶった切ってエヴォルフの餌にしましたから、まぁおあいこですね。

 支度金はありがたく使わせてもらいました。で、今は今の話です。」

「………」


いやいやオルラさん。いい加減、その容赦のない言葉の暴力を控えましょうよ。

いろんな意味で、ベステュラ氏の精神がもたないよ。


「言いそびれてますが、何もなしで金を出せと言ってるわけじゃないですよ?」

「…何だと?」


すっかり老け込んでいたベステュラ氏が、そこで顔を上げた。


「どういう意味だ。」

「短期バイトをさせてくれと言ってるんです。」

「は?」


は?

ベステュラ氏の困惑の声が、あたしの心の声と見事に重なった。



…あのねオルラ。

いくら何でも、意味不明な言葉をここで使うのはどうかと思うよ?

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