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骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第十四章 亡き者たちの残滓
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古株のムルク

死神と呼ばれる事に、今さら特別な感情なんか湧かない。もう慣れっこである。

実際、あたしは物心ついた頃からずっと、誰よりも死を身近に感じていたから。

むしろ、これ以上に相応しい呼び名はないかも知れない。


だけど、怖れられるのは心外だ。

今まで何人を死に至らしめたかと問われた時は、殴ってやろうかとさえ思った。


死ぬ事と殺す事を、一緒くたにして考えるのはやめろと言いたい。

死は、誰にでも訪れる運命だ。それはあくまで平等であり、絶対的な概念である。

しかし殺人は違う。

そこには人の意思や都合がベッタリとまとわりついており、大抵の場合は醜い。

ある意味、死とは対極にあるものかも知れない。少なくともあたしはそう思う。


第一、あたしに人を殺せるだけの力なんて微塵もない。ただ死の影を見るだけ。

2組に所属している人間が全員、戦闘能力に特化しているわけじゃないんだよ。



すぐ隣を歩いている、オルラ・ベステュラみたいにはね。


=====================================


あたしの名前は、ハームルクス・トレモ。

トレモと呼ばれるのは嫌いだから、略す時にはムルクと呼ぶようにいつも頼む。

背が低くてかなり童顔。いつも新入生と間違われる。だけど、実年齢は22歳。

見た目との落差は自信があったけど、最近もっと凄いのが編入して来たらしい。

まあ、それはどうでもいい。

実は、シュニーホ魔法学校に入学してもう8年にもなる。在学年数はトップだ。

何の自慢にもなりゃしないけど、とにかく14歳の頃からずうっとここにいる。

最初は育成クラスで入学し、3年後に今のクラスに昇級した。もはや懐かしいね。


理由は簡単。他に行く所がないから。


実家はそこそこ裕福な地主だった。兄弟は多かったけど、みんな仲も良かった。

ただし半分以上は妾腹だったし、あたしもその中の一人だった。とは言っても、

魔力に覚醒しただけで追い払われるって事もなかったと思う。


ただ、あたしの魔法はあまりに不気味だった。ほんの小さかった頃は大人たちも

夢見がちな子として気に留めてなかったけど、これが本当の力だと判ったとたん、

皆から怖れられるようになってしまった。そうなりゃ仕方ない。あたしは自分から

ラスコフへ、シュニーホへ行くと宣言した。親は、明らかにホッとしていたっけ。


もちろん、支度金も紹介状も過分なほど手厚く用意してくれた。出立の日には、

母は泣いていた。父も深々と頭を下げてくれた。その配慮には感謝したけれど、

もう帰って来ないでという無言の意思も感じ取った。


だからこそ、あたしは今までずうっとシュニーホに居座り続けている。

偏見を解くのは面倒臭いし、後輩の世話をするのは割と好きだ。となれば当然、

このまま教員の道を進むという選択がベストだ…と思うようになる。

実際、学校もそこそこ了承してくれているしね。


まあ、しばらくは古株の在校生を続けるつもりではいるけど。

家族は元気にしてるかなあ。


=====================================


さて。


今回、あたしはオルラ・ベステュラ、ミロス・ソートンの2人に同行している。

オルラが派遣された時点で、荒事になる可能性はそれなりに高い。これまでにも、

彼女はけっこう危険な任務を単独、もしくはミロスと一緒にこなして来ている。

だったら今回、どうしてあたしが同行する事になったか?


国境を越えるからだ。


突出した戦闘力を持っているとは言え、オルラはまだ在籍1年にも満たない学生。

ラスコフの外での活動は原則的に認可されない。いつもは、国内の不穏分子などを

相手にしている。いくら強いと言っても、線引きはきちんとしないとね。


しかし今回、どうしてもルネリオに出向しなければいけない事案が発生した。

本来であればプロの魔術師を派遣すべきなんだけど、あまりに内容がきな臭い。

中途半端な大ごとにするよりは、学生でありつつプロ以上の実力を誇るオルラに

やらせた方がいい…という話になったらしい。それに彼女もルネリオ出身だし。


ただしそのためには、国境を越える資格を持った人間が随行する必要が生じる。

自分で言うのも何だけど、あたしはそれなりに学校からの信頼が厚い。2年前に、

その手の資格はまとめて授与されている。使う魔法も、危険な代物じゃないしね。


というわけで、あたしは彼女たち2人のお目付け役兼サポート役になったのだ。

寒い時期の遠出はちょっと憂鬱だったけど、まあこの2人ならいいかって感じ。

同じクラスでさえ、オルラの力を恐れている者がいる。でも実際に喋ってみれば、

割とあっけらかんとしている子だ。あたしの事も気味悪がらないし、一緒にいても

けっこう楽しい。相方のミロスもいい子だからね。


そんなわけで、あたしたち3人はシュニーホを出発した。

目指すはルネリオの都市、バスケン。場合によってはもっと先の村や街にも行く。


もう、冬休みに入って6日も経っている。特命が下ったため、あたしとオルラは

休みがお預けになってしまっていた。ミロスは自分の意思で同行するらしいけど。


あたしも出向は初めてじゃないから、何となく分かる。

ちょっと長引くかも知れないって事がね。



北へ向かうんじゃなくて、本当に良かったよ。

さ、張り切って行こうか。

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