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骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第三章・魔法国を目指して
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挟撃

迂闊だった。

あたしもタカネも、水に潜む生物にばかり気を取られていた。

まさか、上から不意打ちされるとは。


「こ、コウモリ!?」


これが!?

ちょっとした翼竜くらいの存在感がある。

加えて、あたしの体を抱えて飛んでいるにもかかわらず、風切り音もはばたく音も

ほとんど聞こえないステルス仕様。夜襲に長けた文字通りの化け物だ。

ますます肩に食い込む足の爪は、どう抗っても振り解けるような代物じゃない。


「とにかく離れないと…!」

『仕方ない。()()()()わよ!!』


言い終えると同時に、あたしの両肩から腕にかけての体組織がドット分解された。

空を掴む形になった相手の爪から体が離れ、あたしはそのまま自由落下を始める。

ちなみに、1m落ちる間に両腕は再構成されていた。

だが、危機はまだ去っていない。

姿勢を立て直す間もなく、コウモリがまっすぐに突っ込んできた。いくら何でも、

そんな無茶なターンが出来るはずがない。つまり…


「もう一匹か!!」


おそらくは雌雄のつがいなのだろう。

すぐ近くを滞空していたらしい別個体が、示し合わせたように襲ってくる。


奥歯弾(トゥース・バレット)…」

『威力が足りない!!』


叫ぶかのようなタカネの声に合わせ、2つの頭蓋骨が出現した。何か言う間もなく

向かってくるコウモリめがけて射出される。


「なに!?」


しかし、その頭蓋弾(スカル・バレット)は呆気なく回避された。

この至近距離。しかも予兆もなく放たれた時速600kmの頭蓋骨を、コウモリは

まるで予期していたかのような急旋回でかわしてみせたのだ。


「…超音波か!!」

『そうみたいね。』


どうやら地球のコウモリと同じく、高精度の超音波ソナーを備えているらしい。

それにしてもあの小回りは信じ難い。そこだけ見ればジアノドラゴンを凌駕する。


とはいえ、相手を一瞬でも追い払えたのは事実だ。

新たに出現した5つの頭蓋骨の上に着地し、あたしは迎撃の態勢を整えた。

2匹のコウモリは、あたしを中心にしてグルグルと威嚇するように旋回している。


「…むやみやたらに突っ込んで来る気はないみたいね。」

『そうね。』


2匹の動きに目を向けながら、あたしはタカネと言葉を交わす。


『どうやらアレは、拓美の体が宙に浮く瞬間を狙っていたみたいね。あそこまで

 気配が無いと、いつから狙われていたのかは分からないけど。』

「なるほど。」


だから、加速をつけるための自由落下の瞬間に襲われたって訳か。


「つまり、うかつにここから移動できないって事よね。」

『そうね。跳躍はどうしてもその瞬間が無防備になる。頭蓋弾(スカル・バレット)で牽制しても、

 2匹に連携されるんじゃ厳しいわよ。』


つまりは膠着状態だ。


「そういえば、どうして奥歯弾(トゥース・バレット)は威力不足だって判ったの?」

『もちろん走査(スキャン)したからよ。』

「…掴まれた時?」

『そう。あれだけ深く爪が食い込めば、かなり細かい部分まで調べられたわよ。』


実に抜け目ないね。

わざとじゃないのは確かだけど、いきなりのピンチでさえ利用するしたたかさは

本当に大したものだ。転んでもただでは起きないって、こういうのを言うのかな。


『もちろんジアノドラゴンとは比較にならないけど、それでも充分頑丈な生物よ。

 頭蓋が分厚いのに加えて、毛の密度も高い。多分、鮮血頭蓋弾(スカーレットバレット)を何発か当てて

 やっと砕けるってところかな。』

「厳しいわね。」


思わず舌打ちしそうになった。

生物としては、ジアノドラゴンよりもはるかに下に位置するのは確かだ。

だけど、あたしにとっての強者・捕食者である事は変わらない。そもそもの話、

ジアノドラゴンを倒した事が度の過ぎた大金星だったんだから。


一発当てる事すら叶わない頭蓋弾(スカル・バレット)を、連発で当てないとダメって難度高過ぎる。

しかも相手は連携の取れた2匹。今のあたしにとっては、天敵に等しい存在だ。


「どうする?頭蓋骨で壁を作って離脱するとか?」

『時間がかかり過ぎるわね。相手は馬鹿じゃない。モタモタやってたらきっと、

 何かしらの隙を突かれると思う。』

「よね。」


確かに、そういう受け身の手を打つとジリ貧になるだろう。

ここで何とか仕留めないと、おそらく先送りにするほどに状況は悪化する。


『来るわよ!!』

胃酸散弾(ストマック・ワイド)!」


言い終わる前に、周囲に無数の胃酸の球が出現した。一気に射出されたそれらは、

お互いにぶつかる事で全方位に飛沫を飛び散らせる。

臭いで危険を察知したのだろう。コウモリは、それぞれターンして距離を取った。

何滴かは体や羽に付着したものの、やはり機動力を奪うような傷にはならない。


「苦し紛れとしか言いようがないわね。」

『決め手に欠けるわね。』


真ん中にいたあたしも、当然胃酸の洗礼をかなり受けた。特に、まともにかかった

右手の甲の皮膚が大きく爛れてしまった。言うまでもなく、秒で修復されたけど。


まずい。

とにかく、状況を整理しよう。


敵は2匹の巨大コウモリ。

ここはランカ河のど真ん中の上空およそ30m地点。あたしは一歩も動けない。

もしも落水したら、おそらく何かしらの生き物に食われて一巻の終わりだろう。

水の中では体のパーツは出せない。攻撃の手段がない以上、どうしようもない。

つまり、何とかしてコウモリを追い払うか、殺すしか打開の手はない。

相手の頑丈さから推察するに、頭蓋弾(スカル・バレット)、それも鮮血頭蓋弾(スカーレットバレット)の連打でなければ

致命傷を与える事はできない。そして相手は、超音波ソナーで頭蓋弾(スカル・バレット)をたやすく

回避する事ができる。


言いたくないけど、かなり詰みに近いな。


『拓美。』

「うん?」

『万一の時は、デコイで相手の気を逸らせば』

「分かってる。だけど、それはホントに最後の手段でね。」


囮の拓美(デコイ・オブ・ミー)

あれを使って離脱するのは、どうにも形容し難い敗北感があって嫌だ。

どうして、ご機嫌を取らなきゃいけないんだという腹立たしさもある。

勝手と言われても、嫌なものは嫌なんだからさ。


「他に何かないの?」

『こういう時は、拓美が考えてよ。』


え?

まさかの丸投げ!?


『別に、丸投げするわけじゃないよ。』


バッチリ思考を読まれた。


『こういう時のアイディア的なブレイクスルーは、絶対に拓美にしかできない。

 あたしから、そういうものを捻出できるとは思わないで。』

「どうしてよ。」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。』


傷つける?

首をひねりかけて、すぐにその言葉の意味が分かった。


瞬間修復ができるからこそ可能と言える、体の損傷をほとんど気にしない戦い方。

それは、あたしだからこそ発想できるものなのだ。

()()()()()()という絶対的な指針を持っているタカネにとって、それは禁忌だ。

彼女にそれを求めるのは、いくら何でも酷だ。



考えろ。


ジアノドラゴンが倒せて、こいつらが倒せないなんて道理は認めない。

どんな無茶苦茶な手でもいい。とにかく、勝てればいいんだ。

あたしには、無限に等しい修復というチート能力があるじゃないか。

とにかく、当てさえすればいいんだ。なら、少しだけでも動きを止めれば…

………



「あ。」

『何か思いついた!?』


待ちわびたようなタカネの声に、今の窮状をあらためて思い知る。

そう。だからこういう時こそ、あたしのアイディアの独壇場じゃないか。


「可能かどうかは、あなたにしか分からない。よく聞いて。」

『なに!?』


じっと動かないあたしに、またコウモリがじりじりと旋回の輪を狭めてくる。

持久戦狙いで、もう勝ったつもりか。


冗談じゃない。あたしたちを、あんまりなめるなよ。


「どう、出来る?」

『よくそんな事、考え付くわね。』

「出来るの?」

『理屈は分かった。たぶん可能だと思う。だけどね。』


ほんの少し、タカネは間を置いた。


『いくら痛覚を遮断しても、痛み以外でけっこうキツイと思うわよ?』

「望むところよ。」


答える言葉に、もう迷いも躊躇も込めない。

あたしがどれだけチートでいられるかは、あたしの覚悟次第なんだから。


『分かった。じゃあ、やろう。』

「頼むわよ。」


さあ。


身の程知らずなコウモリに、鉄槌を下してやろう。

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