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骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第二章・ベズレーメの街
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リータさん

かの聖徳太子は、10人の人間の言う事を同時に聞き分けられたという。


あたしは、聖徳太子の側近も務まらないと思う。

たった2人相手の副音声でさえ、こんなに苦痛なんだから。


=====================================


「骨相学というのは、簡単に言えば人の性質や特徴を顔の骨で見極める学問です。

深く究めれば、顔を見ただけでおおよその事が判るようになるんです。

昔からそこそこ素養のあった私は、ひたすらこの骨相を看る目を磨き上げました。

占い師になった方が稼げるという人もいましたが、私はもっと科学的な事のために

この技能を活かしたかった。だから検死を行う捜査官になったのです。

誰にも負けないこの技能で、こつこつと実績を積み重ねていたんです…」


『骨相学というのはさすがに盲点だったわね。地球では、ずっと昔に大脳生理学に

 駆逐されて廃れちゃった学問なんだけどさ。それがそのまま発展した世界なら、

 確かに拓美が目を付けられたのも納得だわ。』


微妙にリンクしている内容の話を、頭の中と外で同時に喋るのはやめて欲しい。

内容の処理だけでなく、顔に出さないようにするのも必死なんだから。


(…分かったから。とりあえずタカネ、今はあなただけでも黙ってよ。)

『あ、ゴメンゴメン。ちょっと興奮しちゃって。』


何で声がちょっと嬉しそうなのよ。


副音声から解放されたあたしは、ようやくリータさんの話に集中する。

あらためて聞くと、ヤバイ内容だった。


「少し前に、衛士が『証の聖鱗』をギルドに持ち込んだ少女を殺害した…という

 おぞましい事件がありました。あたしは、その少女の検死を担当したんです。」


ハイ、それあたしです。


「で、次の日の夜。…場所を口にするわけにはいかないんですが、とある場所で

 闇オークションが開かれまして。そこでもう1枚の聖鱗を出品した身元不明の

 女性が、やはり同じ衛士に殺害されたんです。衛士はそこで捕まりました。」


ハイ、その女性もあたしです。


「そっちを調べに言った時、私は信じられないものを目の当たりにしたんです。」

「…何を?」


ズバリ言い当てたら、ちょっと驚かせられただろうな…などと考えつつ、あたしは

何もわからない態を装って聞いた。だって、それ以外にどうしろと言うのよ。


「…先に言った少女の死体。それにここで殺された女性。ひと目見て判りました。

 どちらも、まったく同じ頭蓋骨の形をしていると。」


”でしょうね”という言葉を、必死で呑み込んだ。


「…あまり、驚いてませんか?」


怪訝そうな表情を浮かべるリータさんに、思い切り首を振ってみせる。

いや、大いに驚いてるんだよ。

ネタの割れた怪談話にではなく、あなたのその常人離れした鑑識眼に。


「もちろんそんな話を信じる同僚はいません。人相がまるっきり違いましたから。

 でも、私には判ったんです。どんな風に肉がついてようと、骨の形は隠せない。

 あれは同一人物だ、と。…でも、それを証明する術はありませんでした。」


そりゃあ、そうだろう。

腑分け(解剖)という概念は、気の遠くなるほど長い医学の発展の中で、様々な

葛藤の末に確立されたものだ。この世界では、なおさら禁忌に相当するだろう。

ましてや単純な開腹などではなく、顔の組織を全て削ぎ落として頭蓋骨を完全に

露出させるなどという蛮行は、間違っても口に出来ないに違いない。


つまり、彼女の言葉を立証する手段は無い…という事だ。


「取り乱した私は、休んだ方が良いと言われたんです。疲れているのだろうと。

 そんな事はない。万全の体調だったんですとは言えませんでした。」


うわぁ。追い込んじゃってるなぁ、あたしとタカネ。


「けど、緊急事態という事で召集を受けました。それで急いで向かったんです。」

「…ちなみに、どこへ?」

「ジアノ草原でした。」


あ。

決定的にダメなやつだ、それ。


「同僚たちは、ジアノドラゴンの死骸の検分に夢中になっていました。でも私は

 その周囲に散らばっていた無数の骨片を見て、正気を失ってしまいました。」

「…それは、つまり…」


「バラバラに砕けたものばかりでしたが、見てすぐに判りました。そのどれもが、

 例の女性2人の頭蓋骨と同じだったんです。100個以上はあったであろう、

 草原に砕き散らされた頭蓋骨が、です。」

「怖い。」


本心です。

この人の鑑識眼の精度の高さも怖いけど、その時のこの人の心情を想像してみると

恐怖という言葉しか浮かばない。

今こうして、理路整然と説明できているその精神力も、ある意味怖い。


そこまで説明したリータさんは、視線を下に向けてため息をついた。


「…すみません。」

「何が?」

「あらためて自分の言葉で説明してみて、どれだけ荒唐無稽な事を口にしてるかを

 思い知った気がします。やっぱり私、どうかしてたんだと思えてきました。」


そんな事はありません。

あなたは、何もかも正確に見抜いているんです。


見抜いている事実そのものが、あまりにもデタラメ過ぎるというだけなんです。


『どうするの?』


タカネの問いかけに、あたしは答えが見つけられなかった。


リータさんは、きっと根はとってもいい人だ。

ちょっと残念な部分はあるけど、分別を備えた立派な大人だ。


まだこの話は本質、つまり「その骨があなたと同じなんです」という部分には

至っていない。正直、そんな馬鹿げた話をあたしにするのも嫌なのだろう。

荒唐無稽過ぎる以上に、不愉快な思いをさせたくないから。


言われたとしても、意味が分からないとトボけてしまえばそれで済む。

何ひとつ証明する手段が無い以上、それ以上あたしが詰め寄られる心配はない。


あたしは、迷った。


この人になら、あたしのチート能力を明かしてもいいんじゃないかと。

でも。

あたしはこの力を使って、殺人事件をでっち上げている。

あの衛士が許せなかったからという理由はあるけど、やった事は罪の捏造だ。


他所の星から来たとはいえ、罪は罪だろう。

犯罪を暴く仕事に就いていた彼女が、そこを看過するとはあまり思えない。


(タカネ。)

『ん?』

(この人、あたしがどんな姿になっても…例えばメルニィに擬態したとしても、

 すぐに見破ると思う?)

『おそらくはね。拓美のバリエーションはいろんな体格で設計してるんだけど、

 筋肉や神経、骨格とは違って、脳の形を変える必要は無かったのよ。同じく、

 頭蓋骨の形状もほぼそのまま流用してきた。脊髄との接続部分だけ調節すれば、

 機能自体はちゃんと連動できたからね。』

(どんな姿になろうと、顔の骨は同一タイプのコンパチだったって訳ね。)

『そう。だからその部分から設計をし直さないと、たとえどんな顔を構築しても

 彼女はすぐに見破るでしょうね。』


やっぱり、そうなのか。


迷う。


この人は、あたしのやった事に呪われている。

あたしに責任があるとは思いたくない。でも、この人の人生を変えてしまったのは

他でもないこのあたしだ。それは、紛れもない事実だ。


ありのままを説明すれば、この人はきっと呪いから解放されるだろう。

そうすべきなのも分かっている。


だけど…


「ごめんなさいね。」

「え!?…な、何が?」

「変な話をして、悩ませてしまって。」


どうやら、あたしはかなり難しい顔をして考え込んでいたらしい。

心配そうに覗き込んでいるリータさんの表情は、どこか柔らかくなっていた。


「あの、それで、その…」

「もういいですよ。」

「え?」


意外なひと言に、あたしは思わずきょとんとなった。

もういいって、何が?


「聞いてもらったおかげで、何となく気持ちが軽くなりました。」

「え、でもあたし、聞いてただけですけど…」

「うん。それがちょっと嬉しかった。聞いてくれてありがとう。」


そう言うと、リータさんはにっこりと笑った。

幼く見え過ぎる顔立ちだけど、やっぱり笑うと歳相応の包容力が感じられる。


「いつも謙虚であれ。自分はまだまだという事を忘れるな。」

「え?」

「あたしの父の言葉です。ちょっとここしばらく、忘れてたかも知れない。」


ゆっくりと語るその目は、どこか遠くを見ていた。


「…やっぱり、ちょっと驕りがあったのかもね。骨相を看るという技能にかけては

 誰にも負けない。これで分からない事なんてない。そんな風に。」


いや、それは考え過ぎだと思います。

あなたは、見当違いな事を言ってる訳じゃないんですから。


「とても理解できない、不思議な事なのは確か。だけど、いつか理解できる日が

 来るかも知れない。いや、むしろ理解できるようにもっと見識を広げないと。

 自分はまだまだだという事を、いつも忘れずにね。」

「リータさん。」

「はい?」

「あなた、立派な人ですね。」

「はえッ!?」


その言葉に、彼女は真っ赤になって手をわちゃわちゃと振った。

おそらく、思いもかけない言葉だったのだろう。


でも、あたしは本心からそう思った。


常識では考えられない出来事。

自分の理解の範囲を、はるかに超えている出来事。

そういったものを目にした時、人はしばしば耳目を塞ぐ。

安心を求めて、自分の理解の範囲内に物事を無理やり収めようとする。

安定を求めて、説明できないものから目を背け、さらに排除までする。


そんな人たちばっかりの世界になったから、あたしは地球を飛び出したんだ。


未知に挑む心を、忘れたくなかったから。


リータさんは、その心を持っている。

正気を失いそうなほどのデタラメを目にしてなお、それに挑もうとしている。

折れてしまった自分を、自力で立て直して。


こういう人、あたしは尊敬するよ。


「あらためて、ご迷惑をおかけしました。」


そう言って、リータさんはスッと立ち上がった。

思わず、あたしは声をかける。


「あの。」

「はい?」

「どうするんですか?これから。」

「そうねえ。」


目を泳がせて考える姿に、悲壮感は無かった。どちらかと言うと、これからの

自分の未来を楽しんで選んでいるような感じだと思った。


「ベズレーメには、もういられないと思う。だから他所の街か国か、とりあえず

 新しい拠点を目指してみるよ。そこで、特技を生かしたお仕事を探すかな。」

「人相占いとか?」

「やっぱり、それもアリかもね!」


楽しそうに語るその顔に、もう陰も迷いも感じられない。

きっとこの人なら、何をしても大丈夫だろう。

そう思わせるのに、充分な笑顔だった。


=====================================


「いろいろアリガトね。ごちそうさまでした。」


食事代を受け取らなかったあたしに、リータさんはそう言って頭を下げた。

ちっちゃいけど、この人は間違いなく大人だ。あたしも、深々と頭を下げた。


「じゃ、元気でね。」

「リータさんもね。」


地球式のバイバイを交わし、その小さな背中は迷いなく歩き去っていく。

どこか大きく見えてしまうくらいの、頼もしさを感じさせながら。


『拓美。』

「うん?」

『彼女なら、友達になれたんじゃないの?』

「そうだね。」


異論はない。あたしも、心からそう思った。


『話しても良かったんじゃないの?』

「そうかも知れない。…だけどね。」


そこであたしは言葉を途切れさせた。

何だか、言葉にするのは難しいような気持ちがあった。


あの衛士のやった事を許す気はない。罪を被せた事への悔いもない。

だけどリータさんが、それをどう思うのかは分からない。

じゃあ、失望されたくなかったって事?


それも、ちょっと違う。

後ろめたさがない以上、あたしがあの人に負い目を感じる事はないから。


そういう、倫理的な話じゃないんだと思う。


そうか。

あたしは…


「もしかすると、ちょっと運命というのを試してみたくなったのかも。」

『運命?』

「そう。」


あの人は、どんな大勢の中からでもあたしを見つけ出せる。

もちろん恋愛的な意味はないけど、これは紛れもなく特別な絆だろう。

だったら。


ここで別れても、またいつかどこかで会えるかも知れない。

もしその時、あの人があたしをあたしと分かってくれたら。


その時、全てを話そう。

特別な、そして大切な友達として。



『…なるほど。』

「何がなるほど?」


『拓美も、意外とロマンチックなところがあったのね。』

「意外と…ってのは心外だなぁ。」

『ちょっと嬉しいかも。』


「あ、そう。」



素っ気なく答えたのは、照れ隠しじゃないよ。


うん。


…たぶん、違うと思うよ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 焦る拓美に素の部分が感じられてちょっとホッとしています。 [一言] ホネまで愛して!
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