表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第二章・ベズレーメの街
35/816

詰問

もう、夕方が近かった。

もともと宿を取る予定ではいたけど、ベッドを占拠されるとは思ってなかった。

窓からの日差しの色が、少し変わってきた頃。


「うう…ん…」


哲学タックルのちんちくりんは、ようやく目を覚ました。

もうそろそろ、叩き起こそうかと思ってたところだよ。

それにしても、メガネが無いと全くの別人に見えちゃうなあ。


「あれ…メガネメガネ…」


地球のクラシックなギャグはいいから。

粗末な木のテーブルに放り出していた彼女のメガネを掴み、あたしは腰を上げた。

いささか雑な感じでかけさせると同時に、レンズの向こうの焦点が一気に合う。


「あ!!…あなたは…そう!!どうして…!!」


まくし立てようとした言葉は、途中で止まった。

それを丸ごとひっくり返すかのように、彼女のお腹が大きく鳴ったからだ。

中途半端なポーズで縮こまるその姿に、あたしはため息をついた。


=====================================


「ちょっとは落ち着いた?」


「おはげはまへ」


口いっぱいに頬張りながら喋るんじゃないよ。

どこの子だ、この子は。


「家出でもしてきたの?お母さんきっと心配してるよ。」

「ひがひまふ!!」


口から飛ばすなってのに。

さすがに粗相に気付いたか、メガネ少女はもぐもぐと無理やり口の中の食べ物を

飲み下した。

そして、何だか恨めしげな目であたしをあらためて睨み据える。


「…あの…」

「何よ。」

「ごちそうさまでした。」

「…ああ、ハイ。」

「それと、取り乱してすみませんでした。」

「…ああ、ハイ。」


意外と礼儀を知ってるんだな、このちびっ子。


「意外と礼儀を知ってるんだな、子供の割に…とか思いましたよね?」

「えっ」


ズバリ言い当てられ、ちょっと焦った。


「人の顔色を読むのは得意なんですよ。」

「…そうなんだ。へぇー」


ちっちゃいのに、随分と年寄りじみた特技だね。苦労してそう。


「小さいのに変な特技だな。随分苦労してきたのか?とか思ってます?」

「…」


マジで読心術師なのかよ。


「読心術じゃないですよ。」

「いや、その…」

「あと、あたしはちびっ子じゃないです。多分、あなたより年上ですよ。」

『「それはない。」』


思わず漏れた即答が、タカネのそれと見事にハモった。


「こう見えて、あたし24歳なんですよ。年上でしょ?」

「2けた足りない」

「え?」

「何でもない。…うん、確かに年上ですね。失礼しました。」


その言葉を聴いたメガネ24歳は、ちょっと胸を反らした。

自分でも分かるくらい無表情になりながら、あたしは淡々と言葉を発する。


「それで。白昼の往来でタックルしてきて、意味のわからない質問だか何だかを

 一方的に言った直後に白目を剥いてぶっ倒れて、相手が借りた部屋のベッドを

 占拠して昼寝した後、相手の買ってきた食べ物をモグモグ食べている24歳の

 大人オーラ溢れるお姉さんの、目的は何だったんでしょうか?」


かすれた声でうめきながら。

お姉さんは、羞恥の沼の中にずぶずぶと撃沈していった。


=====================================


ようやく本題。

我ながら、随分と辛抱強く付き合ってるなと思う。

まあ、気になるってのがあるんだけどね。


「で?…あたし、前にお会いした事ありましたっけ?ええっと…」

「リータ。リータ・ドルニエスです。」

「リータさんね。」


あらためてかしこまるメガネのリータさんの自己紹介を、軽く流す。

さすがに、こんな不審人物に名乗る気にはなれなかった。


「お会いした事は、その…」

「あるの無いの?」

「あるような、無いような…」


どこまでも要領を得ないが、かと言ってそれほどイライラはしなかった。

態度と表情を見る限り、彼女は悪意を持って答えをはぐらかしている訳ではない。

多分、自分でもイマイチ明言できないような事なのだろう。

仕方ない。ここは、きっちり腰を据えて向き合おう。


「ええっとね。とりあえず、あたしの名前は拓美。」

「タクミさん、ですか。」

「ちょっと聞き方を変えるね。あたし、あなたと話した事あったっけ?」

「それは無いです。今日が初めてです。」


それは即答で断言できるんだ。

つまり、いわゆる面識というのはないのか。

じゃあ、やっぱりあたしの記憶からは答えは出てこない。


地雷かも知れないけど、あの謎ワードから聞き出すしかないって事ね。


「…じゃあ、もう聞いちゃうけどさ。あたしが生きてる事の、何が疑問なの?」


出来るだけ何気なく聞いたつもりだったが、相手はビクリと肩を竦ませた。

あからさまに、表情に怯えの色が浮かぶ。


「いや、責めてる訳じゃないよ?ただ、意味が分からないだけで…」

「……あたしにも、よく分かりません。」

「そう…か。」

「と言うか、言葉に出すと正気を疑われるのが分かり切ってるんです。あたし自身

 狂気の沙汰だと思ってるんですから。」


じゃあ、怯えてるのはあたしに対してじゃなく、その胸に秘めた何かの事象にか。

うかつに根掘り葉掘り聞いて、また取り乱されても困る。


こんな時は、話題を変えよう。


「ところで、リータさんってどんなお仕事をしてるの?」

「失業したばっかりです。」


何でこんなニッチな地雷を踏むかなぁ。


「そ、そうなんだ。…どうして?」

「原因はあなたです。」

「は!?」


いや、そんな地雷はさすがに納得できんわ!!


いささか声を荒げたあたしに、リータさんは縮み上がった。


「す、すみません。でもその…」

「もういいよ。」


当たり障り無く聞いても、訳のわからない地雷を踏むばっかりだ。


「変な話には慣れてる。だから、最初からきっちり説明してよ。正気を疑ったり、

 笑ったりしないからさ。」

「ホントですか?」

「遠回しに探って変な地雷ばっかり踏むの、もう嫌になった。」

「ジライって?」

「そこは流してください。」


あたしが真面目に言ってるのを、顔色で察したのだろう。

リーアさんは、メガネをかけ直して大きく息を吐いた。

あらためてこちらを見つめる目に、今まで見た事がないような思惟が宿る。


初めて、実年齢と顔立ちが一致したような感じだった。

おそらく、これが彼女のお仕事モードなのだろう。


「数々のご無礼、今さらですがお詫びします。」

「あ、いえ、別に…。」

「では、あらためて自己紹介させて頂きます。」

「ハイ。」


この人、確かに年上だ。

居住まいを正され、あたしは今さらながらに実感した。


「現在は失職中ですが、私の職業はベズレーメ総代所属の犯罪捜査官でした。」

「!?」

「と言っても、荒事の担当ではありません。専門は検死です。」

「検死?」


ふと、嫌な予感がした。


「何か嫌な予感でもしました?」


どうして分かる。顔に出したつもりはないのに。


「人の顔色を読むのが得意と先ほど言いましたが、それは私の技能の副産物に

 過ぎません。私の本職は、似て異なるものです。」

「何です?」

「私は、骨相学を修めているんです。」

「え?それって、どういうお仕g…」


『ああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!』


疑問を最後まで口にする前に、いきなり耳鳴りのような声が頭に響いた。


『それかぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!』



本気で狼狽したタカネの合成音声は、あたしに対する超音波攻撃になり得る。


知りたくもない事実を、思い知らされた瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ