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骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第一章・捨てた世界と新たな世界
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新天地・1

「2800年…ね…」

『正確には、2863年と4ヶ』

「いや、いいから。」


地球を旅立ってから、まさかそんな凄まじい年月が経っていたとは。

なかなかに衝撃的な事実だった。

同時に、そんな時を経て当然のようにあたしを覚醒させたナノマシンに

敬服の念を抱く。多分クマムシでも死んでるよ、そんな年数。

まあ、宇宙を旅するなら受け入れるべき「天文学的数字」なんだろう。

気持ちを切り替えるしかなかった。


「もはや全てが遠い昔って事ね。」

『ええ。地球からの通信が届かなくなってからも、既に2853年ほど

経過していますから。』

「ほぼ無かったも同然じゃん。」

『だから退屈していたと言ってるんですよ。』

「ゴメン。」


さすがに、今ここは素直に謝るべきだろうなと思った。

それより、気になる事をきっちりと確認しておかなくては。


「船体状況は?…確か電池は、何事もなければ5000年くらいはもつ

設計だったはずだけど。」

『いえ何事かありましたよ。故障が3回です。修復しましたけどね。』

「え、そうだったの。…それじゃ、電池は!?」

『ご存知の通り、本来の耐用年数は5000年だったはずですが…』

「な、何年になったの?」

『修理と改造により、25000年になりました。』

「延びたんかい!」


靴屋の小人ここに極まれりである。


「それは何よりな話なんだけどさ…どうして故障したか判明してる?」

『一件につき、2万回以上検証してますよ。する事なかったから。』

「…うん。それで?」

『やはり、初期設計段階でいくつかのパーツの質を落とされていた、と

いう事らしいですね。経年劣化が、ナノマシンによる管理限界を超えた

ようです。』

「やっぱりかぁ…。」


充分注意したはずだったけど、完璧とは行かなかったようだ。もっとも

3回ならばましな方だったと考えるべきだろうか。


「これからも起こる可能性は?」

『最後に起こったのは2100年前です。その後は、不安要素は可能な

範囲で徹底的に消しました。なので同じような故障はまず起こらないと

思われます。』

「そこまで対策済みなのね。」

『何しろ…』

「他にする事がなかったから」

『その通りです。』

「ありがと。」


さすが自己成長型。伊達じゃない。

しかも延々2800年以上もの期間アップグレードを繰り返したなら、

もう開発者にも想像できないほどの性能に到達しているのだろう。

亀の甲より年の功という奴なのかも知れない。…いや、違うか。


まあ、問題が解決してるならそれでいい。

とにかく、今は己が完膚なきまでに天涯孤独になってるのが分かった。

あとは開き直るだけだ。

そう。


「で、新天地っていうのは?」

『地球と同様、ひとつの恒星の周りを回っている惑星です。サイズ面で

比べてもほぼ同じ。現在、その衛星軌道上まで来ていますので。』


返答と同時に、ひとつのウィンドウが意識下で展開された。船外カメラから届いた

映像が投影される。

すでに視界いっぱいに広がっている惑星の地表は、まさしく記憶の中に

ある地球にそっくりだった。

雲も出ている。地球と比べてずっと面積比は小さいものの、海もある。

陸地を見れば、緑が茂っているのも判別できる。もはや生物がいるのは

間違いない雰囲気だった。とぼけて「地球です」と言われても、何だか

信じてしまいそうなクオリティだ。

今現在、宇宙船はこの惑星の小さな衛星になっている。


「おぉ…、よく見つけられたわね、こんな星。」

『2863年間の成果ですよ。』

「お見それしました。」


素直な賛辞を送り、あたしは映像を凝視した。


「じゃあ、これから着陸?」

『そんなわけないでしょう。』

「冗談だってば。」


軽口叩くくらいには、テンションが上がっている自分が恥ずかしい。


ちっぽけな棺の如きこの宇宙船で、大気圏突入や着陸なんかはそもそも

不可能だ。一瞬の流れ星となって、華やかに燃え尽きて終わり。

だからこそここでナノテクノロジーの本領を発揮する。


「準備は?」

『終わっています。座標も確認済みです。』

「じゃあ、ナノポッド射出!」

『了解。』


振動は感じないけど、船体底部から小型のポッドが射出される様子が

映し出された。

耐熱素材でできているものの至って軽い代物だ。仰々しい大気圏突入は

せず、のんびり自由落下していく。数分ののち、ポッドは眼下の地表に

到達した。接地と同時に全体を覆う緩衝材が弾けて、中身が露出する。

野球のボールと同じくらいの大きさの金属球だ。パッと見だとのっぺり

しているけど、表面に目に見えない無数の孔が開いている。


『では、ナノマシン一次展開を開始します。』


号令と共に、環境解析用ナノマシンが孔から放出されていく。…数分の

解析時間がやたら長く感じられた。やっぱり、多少はあたしもそわそわ

しているらしい。


『解析完了。いいですね。地球との相似性90%以上です。…それも、

大気中に人工的な放射性物質の影響が感知されません。核開発より前の

理想的な環境ですよ。』

「いいね。」


願ってもない…というか、いささかでき過ぎとも言える好物件だった。

…ほんの少しだけ、もと不動産屋の血が騒ぐ。


「大気の状態は?」

『さすがに組成は少し違いますが、誤差の範囲内と言っても差し支えは

ありません。あらかじめ最適化しておけば、問題なく呼吸できます。』

「どのくらいかかるかな」

『もう終わりましたよ』

「早!」

『あなたの肉体に関しての事なら、誰よりも詳しく知ってますから。』

「…そういう言い方はやめて。」


とにかく準備OKという事らしい。なら、善は急げだ。


「じゃあ、まずは映像で確認ね。」

『了解。ナノマシンからの映像を、多元編集します。』


ほどなく、着陸ポイント周囲の映像がモノクロで展開され始めた。

そして赤・緑・青の順で色彩が構成されていく。

出来上がった映像はまさに緑の草原だった。森の中にぽっかりと空いた

空間らしく、かなり背の高い広葉樹にぐるりと囲まれているのが判る。


「うんうん、イイ感じ。…人とかはいない?」

『環境解析だけですから、そこまで判りません。どんな生物がいるかに

ついては、現地まで赴いて直接調査しないと。』

「わかった。」


今この段階で何もかも判明したら、面白味も何もない。「未知を既知」

にしてこそ、新世界探検と言うべきだろう。ネタバレ禁止!


『いいですね?』

「オッケー。」

『それではプレボディ試作に移行。ナノマシン、二次展開開始。』


いよいよだ。

動いていないはずの心臓が高鳴っているような感覚を覚える。


『展開終了。これより、肉体構成を開始します。』


(感覚的に)息を呑み、その推移を見守る…ってほど大袈裟でもない。

草原の真ん中に、デジタルモザイクのようなドットが無数に出現する。

次の瞬間には人の形に収束し、細部が形成されていく。最後には色素が

定着し、10秒くらいで「それ」は完成した。


…あたし自身の感覚では、ひと眠りする前に見て以来。

実際の時間経過で、2863年振りに目にする、なじみ深い少女の姿。


()()()()()()()だった。

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