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骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第二章・ベズレーメの街
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指輪

蛙の面に水、という古いことわざがある。

どんなにやっても相手が平然としていて、ぶっちゃけやるだけ無駄という意味だ。

相手が打たれ強いというより、相性が悪過ぎる…というニュアンスの方が強い。

火属性の怪物に火で攻撃するとか、フィクションで例えればそんな感じかな。


で、何でいきなりそんな話をしてるかというと。

今あたしが置かれているのが、蛙の面に水の見本例とも言うべき状況だからだ。


そう。

あたしは今、執拗なまでの拷問を受けている。かれこれ、もう2日。


=====================================


「ベッドで寝られるっていいなぁ…!!」


両手両足を目いっぱい伸ばしても、まだまだ余裕がある大きなベッドに寝そべり。

あたしは思わず、そう叫んでいた。


ここは、ベズレーメの街の中心にほど近い、小さな宿の一室。

「証の聖鱗」の落札金を手に入れて、ちょっとしたお金持ちになっていたあたしは

初めてここに部屋を取った。とりあえず、前金で10日分。気前よく払ったよ。


このベズレーメは、「ローカフ王国」という大国に属している城塞都市だ。

大きな川が分岐する手前にあるため、かなり昔から交通の要衝として栄えていた。

昔からいろんな連中が遠慮なく出入りしていたせいで、民族的な多様性については

国の中でもかなり抜きん出ているらしい。要するに、人種の坩堝(るつぼ)というやつだ。


そんなごった煮みたいな場所を単純な法で管理し切れる訳がないので、この街では

清濁併せ呑んだ治安の維持が基本となっている。綺麗事ではなく、結果的に治安が

守られていればいいという考え方だ。個人的に言わせてもらうと、そういう感覚は

割と好みだ。守られない決まり事よりも、節度のある無法の方が結果につながる。


そんなわけで、この街では治安維持のために3つの警察機関が活動している。


ひとつはギルド。いわゆる組合の総称で、狩人や戦士といったお仕事に就いている

つわものどもが所属する。まあ、営利活動をしている大規模自警団という感じだ。

ほぼ全てが「腕っぷしの強い一般人」なので、法からはかなり自由な立場にある。

ただその一方、国の保証がないため、お金が絡まないと動かないという人が多い。

まあ、その辺は仕方ないよね。先立つものが無いと、生活していけないんだから。


次に、衛士団。これは純然たる「国王の命を受けて務めを果たす」衛士の総称だ。

あたしの感覚で言えば公務員。街のお巡りさんとか、そういう立ち位置にいる人。

名目上はこの人たちが治安維持をしている事になってるけど、それだけではとても

まかない切れないのが現状だ。だからこそ、街全体のルールで棲み分けしている。

この人たちの受け持ちは、主に街の中で起こる小さないざこざへの対処かな。


そして最後に、都市総代の警吏団というのがいる。「総代」というのは、要するに

有力な地方貴族の事だ。王家に忠誠を誓っているけど、ベズレーメのような都市で

ほぼ完全な自治を認められている。ここだけの法律を定めるのも珍しくないとか。

その都市総代が、私設で抱えているのが警吏団。強力な後ろ盾があり、国の法に

こだわらない治安維持活動を行う事ができる。もちろん「黙認」って形でだけど。

かなり語弊があるけど、あたしが見たイメージはヤクザとかに近いかも知れない。


個人の強さで比べると、大体「ギルド>警吏団>衛士」って感じになるかな。

一般人がいちばん強いのかよって言われそうだけど、あくまでも一対一で戦ったり

した場合の話だ。組織としての名目上の発言力で言えば、きれいにひっくり返る。


そもそもギルドに属する狩人や戦士は、普段は人間ではなく獣を相手にしている。

このベズレーメの周囲は、川が近いだけあって大きな森や草原などが非常に多い。

当然、昔から物騒な獣がいたるところに跋扈しているのだ。国境から遠いこの街が

()()()()として発展したのも、人との争いではなく獣に蹂躙されないようにという

備えありきの歴史の結果らしい。

そんなわけで、城壁の中の話は衛士か警吏の領分になってる、って事ね。


何でそんな事を長々と説明するのかって?

そりゃあ、あたしの当初の目的が、他ならぬ「人さがし」だったから。


ドラゴンに喰い殺された、あの髪の長い女の子。

あの子が誰なのか。そして、どうしてあんな死に方をしたのか。襲われた時、

一緒にいたはずの人間は、どこへ行ってしまったのか。

とりあえずの根城を得た今、できるだけ早く調べたいと思っている。


じゃあ、誰に訊く?

手がかりはあの指輪だ。だけど、街往く人を一人ずつ呼び止めて尋ねていたのでは

何年かかるか分かったもんじゃない。ある程度、効率的な探し方をしないとね。

なら、先に挙げた3組織のいずれかに訊きに行く。それがセオリーだろう。


「証の聖鱗」の事を質問しに行ったギルドは、そのまま衛士にたらい回しにした。

ギルドから丸投げされた衛士の男は、あたしを刺殺してネコババしようとした。

だったらもう、消去法よね。

宿を決めた次の日、あたしは朝から都市総代の警吏棟を訪ねた。


=====================================


「すみません。」

「おう。どうした、嬢ちゃん独りか?」


重い木戸を開けて入った警吏棟の受付は、銀行の窓口みたいな雰囲気だった。

雑然としたギルドとは、やはり違う。

応対してくれたのは、立派なヒゲを蓄えたおじさんだった。コワモテだけれど、

どこか人の良さそうな感じもある。


「これを拾ったんです。持ち主が誰か、調べてもらえればと思って。」


それだけ言って、問題の指輪をカウンターに置く。あらためて明るい場所で見ると

かなり格調高いデザインに思えた。それは、ヒゲさんも同じだったらしい。


「ううん、上物だね。こういう彫り物ってのは、家紋とかの場合が多いが…」


そう見立てつつ、ヒゲさんはあまり心当たりがない様子だった。


「悪いけど、ちょっと借りるよ。判るかも知れない人間に見せてくるから。」

「いいですよ。だけど、後で返して下さいね。」

「ああ。じゃ、ちょっと待っててくれ。」


大事そうに指輪を持ったヒゲさんは、背中を丸めて奥へと引っ込んでいった。

5分ほど経った頃、長髪の男性と共に戻って来るのが見えた。急ぎ足なのが判る。


「お待たせしました。」


声をかけて来たのは、長髪の男性だった。近くで見るとかなりの高齢だ。


「これを、どこで?」

「川べりです。」

「どのあたりですか?」

「さあ…」


何となく詰問口調の長髪に、あたしはちょっと言葉を濁す。でも嘘は言ってない。

拾ったのが川べりなのは事実だし、どのあたりと問われて説明に困るのも事実だ。

そのやり取りで、長髪の表情がかすかに歪んだのが分かった。

どうやら、何かを知っているらしい。だとすれば、ここからは言質が欲しいよね。


「とりあえず、それの見当は付いてるんですよね?」

「ええ。…ですが、この場であまり詳しくはお話できませんので。」

「どこでなら聞けますか?」

「……」


今回は、相手ははっきり不快そうに眉をひそめた。

首を突っ込むなって事?いや、()()()()()()()()よ。今さら退けるわけがない。


妙に張り詰めた場の空気に、ヒゲさんが不安げな表情で両方の顔を見比べている。

この人、ホントに気のいい小物って感じだなあ。


しばしの沈黙ののち。


長髪の男は、そっと手をカウンターに置いた。カチリという小さな金属音が響く。

そこに置かれていたのは3枚の金貨だった。ヒゲさんの目がまん丸に見開かれる。

ふらりと訪ねてきた少女に開示するには、おそらくあまりに高値なのだろう。


「あとの調査はこちらで請け負います。あの指輪は、こちらで買い取るという事で

 いかがでしょうか?それでしたら」

「お断りします。」


食い気味に突っぱねた。

決意の固い成金少女をナメるなよ。


もはや誰にでも分かる敵意を顔に出す長髪男の隣で、うろたえるヒゲさんの顔芸も

すごい事になっていた。


「…でもまあ、今日はとりあえず帰ります。指輪を返して下さい。」

「あれは、こちらで管理を…」

()()()()()()()()()()()()()()()。どっちかでお願いします。」


いい加減、ゴリ押しはやめようよ。

腕を組んで睨み据えると、相手はかすかに身を引いた。小さく舌打ちをしたのは

聞き逃してないよ。


「…失礼しました。では、お返しします。」

「どうも。」


金貨のすぐ脇に置かれた指輪をさっと手に取り、あたしは腰を上げた。


「じゃ、失礼しますね。」


そう言い捨て、さっさと踵を返して出口に向かう。

もう、振り返ったりはしなかった。


『…睨んでる睨んでる。』

「まあ、そうでしょうね。」


歩調を落とさず、そのまま木戸を通って外に出る。陽光が少し目に沁みた。

まあ、手がかりは掴んだ。エサも投げ込んだ。後は、どう食い付いてくるかだ。

とりあえず、お昼でも食べに行こう。

そう思って歩き出し、警吏棟と隣の建物の間に身を重ねた瞬間。

強烈な衝撃が、首筋に走った。


ずいぶん早いな。まさか、このタイミングとは。

倒れ込むあたしの手から、指輪がこぼれて円を描くように転がる。



そして、次に目を開けた時。

見えたのは、暗い部屋の黒い壁。そして、皮袋を被った大柄な男の姿。


あたしの体は、鈍重な椅子に鎖で縛り付けられていた。

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