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骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第二章・ベズレーメの街
21/816

証の聖鱗

時は少しだけ遡る。



「…えげつない事するわよね。あの男、本物の衛士だったんでしょ?」

『多分ね。』


大きく見開かれた目に、あたしの姿が大きく歪んで映っていた。

仰向けに倒れて事切れた少女の顔は、どこまでも無念そうに見える。


「まあ、それだけあの聖鱗に価値があるって事か。」

『今までの人生を丸ごと捨ててもいい、ってくらいにはね。』

「あんまり理解できないなぁ。」

『何もかも捨ててきた人が言っても、説得力が無いわよ。』

「確かに。」


そんな言葉を交わし、あたしはパッと立ち上がった。


「さて。んじゃ気持ちを切り替えて、追跡と行きましょうか。」

『そうね。あの男は、ナイフの血のお洗濯も終わったみたいよ。』


近距離スキャンで索敵したタカネが、そう告げる。

すでに、外は夜の帳が下りていた。


「これから、あの鳥馬に乗って街を出るって事でしょうね。」

『おそらくはね。』

「追える?」

『もちろん。…出発したみたいよ。』

「じゃあ行こう。」


そう言って、あたしは裏口から衛士の詰め所を出た。

メインストリートからひとすじ奥まっているこの場所は、すでに人通りもない。


「どっち?」

『西。』

「つまり」

『向かって右よ。』

「オッケー。………じゃ、人狼融合(エヴォルフュージョン)!」


そのひと言と共に、両足に変化が生じる。

波打ちながら全体が延長され、やがて細くがっしりとした獣脚の形態へと。


「よし。GO!」


力を入れると同時に、あたしの体は音もたてずに高く跳び上がった。ほんの一瞬で

周囲の建物を跳び越し、数軒隣の屋根に軽やかに着地する。間髪をいれず、さらに

大きく跳躍。ようやく見え始めた星の明りに浮かぶ街が、飛ぶように流れていく。

目指すバリオは、足元に伸びるひと気のない道をまっすぐ疾駆していた。おそらく

第7城門から外に出て行く気だろう。衛士の立場を利用すれば、門番のチェックも

ほぼ素通りできる。


あたしはそうは行かない。下手をすれば拘束されてしまうし、悠長にチェックを

受ける時間自体がない。なので、ここは跳び越えさせてもらう。


頭蓋跳躍(スカル・ホップ)!」


はるか前方の空間に、ひとつの頭蓋骨が出現する。グッと足を強く踏み込んで、

一気にそこまで跳躍。爪を出してガッシリと表面を捉える。その時にはすでに、

もっと上方に次の頭蓋が出現していた。目を凝らせば、さらに上の方にもう1つ。


ホップ・ステップ・ジャンプ。


3つの頭蓋を踏み台にして、街を取り囲む鈍重な塀の上までひと息に駆け上がる。

槍を持ったヒマそうな警備兵の頭を一瞬で躍り越え、足を着けることなく外側へ。

半分ほど自由落下した所で待っていた、4つ目の頭蓋骨の上に音もなく着地する。


城門脇の扉が開き、単騎のバリオが外へと駆け出したのは10秒後だった。

闇の中に細く続く街道。右の側面は城壁のすぐ横から黒々と続く、岩の壁だ。

迷うことなく身を躍らせたあたしは、岩の壁の上へと着地した。そして、早くも

遠く小さくなっているバリオを追い始める。

付かず離れず。そして、けっして気付かれず。

エヴォルフの身体能力をフルに活用し、あたしは音もなくバリオを駆る男を追う。


村の周囲を徘徊していたエヴォルフを狩り、血液を摂取したのはほんの数日前。

なのにどうして、もう能力の融合が出来てるのかって?

もちろんあたしもタカネに訊いた。ドラゴンが何ヶ月もかかるって言ってるのに、

何でこっちはそんなに簡単に出来たんだ、って。


『エヴォルフは哺乳類だからよ。あと、体の大きさがほぼ同じだったというのも

 大きなポイントね。やっぱりサイズ合わせをしなくていいと、簡単なのよ。』


何?その雑な感じ。服のサイズじゃないんだからさ。


「同じ哺乳類って言っても、あたしは異星の生物よ?…そんな簡単でいいの?」

『何言ってんのよ。もうすでに拓美の体組織情報は、この世界の人間に合わせて

 ほぼカスタマイズ完了してる。そのための細胞は摂取済みでしょ?』


…ああ、あの時飲んだ、あの子の血か。なるほどね。さすが仕事が早い。

すでにここの人間とほぼ同じなんだという事実に、ちょっとだけ感慨が湧いた。



それにしても…


「本当に偏食の不摂生を続けるだけで、あんな見た目になってたの?あたし。」

『ええ。2863年の検証の成果よ。バリエーション42。』


ヤなバリエーションだなぁ。

顔を憶えられずギルドに入り込むために使った「囮の拓美(デコイ・オブ・ミー)」の1つだったけど、

その不健康過ぎる形相には自分でもちょっとドン引きした。まるで幽霊じゃん。

もう少し愛らしい姿なら、殺されたりしなかったのだろうか…などと考えてみる。

とは言っても、そもそも殺されてないんだけどね。

心臓を刺された瞬間、システムを切り替えた。血液を使わずに酸素を全ての細胞に

送って生命を維持するという、冗談にしか聞こえないチート機能によって。つまり

死にながら生きている「究極の擬態」だ。

埋められたら厄介だったけど、雑に隠されただけだったので手間が省けた。でも、

あいにくと殺害の事実をなかったことにする気はない。

刺された時のままの姿で「囮の拓美(デコイ・オブ・ミー)」をもう一体出現させた。

つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。


やるからには、徹底的に。

無力な少女を己の欲のために殺すなんて、許せるわけないでしょ?


=====================================


今日は、月は見えない。

星明りだけが寒々と降り注ぐ街道沿いの岩場を、あたしは影のように駆け続ける。

追っ手を気にしているのか、あの男はちらちらと背後を窺っているようだった。

しかし、振り向く顔の反対側の岩場を駆けているあたしは、その視野に入らない。


我ながら、この身体能力チートには驚かされる。

恐らく、本家エヴォルフも同じような機動性を発揮する事はできるだろう。でも、

ここまで長い時間、息も切らさずにというのは到底不可能なはずだ。

疲労や損耗などをリアルタイムでリセットし続けられるというのは、生物としては

規格外もいいところだろう。

とは言え、人間のアスリート能力だけでは、こんな風に追跡する事は無理だった。

きっかけをくれた、ロアムに感謝しなくちゃね。


そうこうしている内に、バリオは脇道に逸れていく。どうやら、その先に見える

古城が目指す場所らしい。恐らくは、それなりにアンダーグラウンドな所だろう。

それじゃあ、あたしも行きますか。


=====================================


相変わらず、あたしはジャージ姿だ。

ロアムの村でもらった古着は囮の拓美(デコイ・オブ・ミー)に着せてきてしまったし、大体あの格好で

入れてもらえるとは思えない。何でもいいからそれっぽい姿をでっち上げないと。

そう考えて辺りを見回し、あたしはひらりと跳び上がった。苔むした城壁を蹴り、

尖塔のひとつの屋根まで到達する。そこには、真っ黒な三角旗が掲げられていた。

手を人狼融合(エヴォルフュージョン)で変化させ、ためらいなく爪を出して紐を残らず切断する。

生地は手に入った。あとはセンスの問題だ。インドのサリーのようなものを適当に

でっち上げてみる。まあ、使い捨てにしてはいいモノ出来たんじゃないかな?

このへんのセンスはタカネブランドじゃないよ。

服飾デザイナーを目指して、真面目に勉強してた頃もあったのよね。…遠い昔に。

さて、服が出来たら次は中身よね。それも、とびっきり見栄えのするやつ。


「分かってるよね?いいわよね?ねえおタカさん?」

『誰がおタカさんよ…言われなくても分かってるってば。じゃあ、行くわよ。』


いつもより若干の間があったけど、いつも通りの感覚と共に肉体が変化していく。

背がグッと伸びて、出るトコが出て、くびれるトコはくびれて、髪がカールして…

おお、まさにリアルシンデレラ!さっきのアレとは対極なあたしの出来上がり!


『バリエーション24。別名「盛り過ぎ理想形」完了。』

「別名はいらない。」


手早くお手製ローブを身にまとったあたしは、入口へと向かった。


=====================================


この手のオークションは、なかば公然のものとして常時開催されているらしい。

「闇」なんて物騒な枕詞が付いてるけど、犯罪者が主催しているわけでもない。

要は、正規のルートで売れないものを「いろいろ見て見ぬ振りして売り買いする」

場というわけだ。このあたりは密約があるらしく、都市総代もギルドも衛士団も

売買そのものには介入しない。いわゆる黙認というやつだろう。

このあたりの倫理観というのは、そのまま受け入れるのが一番てっとり早い。


買い手が付くか分からない通常の品の出品には、出品料が求められるらしい。

だけど「証の聖鱗」を持ち込んだあたしは、まったくのフリーパスと相成った。

恐らく間違いなく落札される一品であり、運営側としても上客というわけだろう。

文無しのあたしにとっては、実にラッキーな展開だった。


それなりに注目を浴びるあたしは、モンローウォークで颯爽と歩く。癖になるね。

そうこうしている内に、オークション開始となった。あたしは目立たない席に座り

あの男の挙動をじっと盗み見る。やっぱり、それなりに落ち着かない様子だった。

やがて、大仰な煽り文と共に「証の聖鱗」出品がコールされる。あえてあたしは、

あの男よりも後からステージに上る。もちろん、相手はあたしが誰か気付かない。

ま、当たり前ではあるけどね。


仮面を少しだけ外し、笑みを浮かべながらじっくりと相手を見た。

顔を憶えられるかも知れないけど、それはあたしには問題になり得ない。


そう、あなたよね。

欲に心を染めて、ためらいなくあたしを刺し殺したのは。

自分の仕事を、誇らしいと思ってはいなかったの?

まあ、だからこそ殺人にまで手を染めたのよね。

なんか、すごい残念。まだそれほど多くの人には会ってないのに、こんな顛末は。

仕方ないよね。

あ、あのナイフはそこに携えてるのね。

ロアムに借りたナイフと、ほぼ同じ形のホルスターに収めてあるみたいね。

あれ、日本刀の鞘と違って、けっこう刀身との間に隙間があるんだよね。

つまり、空間が。

だったら好都合。


白熱したオークションは、ほどなく終了を迎えた。

だけど、本番はここからだ。


落札者が大喜びで質問に答えている中、あたしとあの男は控え室へと案内される。

相手の部屋を確認したあたしは、素早く行動を起こした。案内人に礼を述べると、

彼女が立ち去ったのを見計らって部屋の外を窺う。さいわい人はほとんどいない。

向かうべき場所は2箇所だ。


『拓美。』


足音を忍ばせて駆け出そうとした瞬間、声が聞こえた。


「何よ。」

『時間切れですわよシンデレラ。姿を元に戻して、運動性に特化させるから。』

「ええ、もう?」

『当たり前でしょう。その姿でウロウロしたら、いろいろ台無しになるわよ?』

「……」


この姿、めっちゃ気に入ってたんだけどなあ。

ま、仕方ないか…

お馴染み過ぎるジャージに着替え、あたしは深いため息をついた。



ちょっと締まらないけど、きっちりやる事はやるよ!



=====================================


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


5日前に起こった、非公式オークション会場における殺人事件。その容疑者である

もと衛士「ジャレジ・ミッコ」が死亡した事が明らかになった。


同容疑者はオークション会場となったハウゼル城にて、自分と同じ「証の聖鱗」を

出品した女性(身元不明)を殺害した疑いが持たれていた。当時、密室だった彼の

控え室に女性の遺体があり、彼のナイフに女性の血が付いていた事により、罪状は

ほぼ確定。即日逮捕となった。また翌日、彼の駐在していた衛士詰め所において

「証の聖鱗」を持ち込んだとされる少女の遺体が発見。傷の形が一致したために

これも同容疑者による犯行であると断定された。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


晴れ渡った青空の下。

人でごった返す広場に張り出された日報を、あたしはじっと読んでいた。


「すごい。もうこんな難しい文章でも読めるのね。」

『言語解析なら、これだけ時間をかければ十分過ぎるのよ。』

「なるほどね。」


さて、続きだ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


またオークション当日、2枚の「証の聖鱗」の落札金が忽然と消えていた。

護衛を担当していた2人が気絶させられ、何者かに強奪されたらしかった。

現場に落ちていた毛髪から、これもジャレジ容疑者の仕業であるとされた。


ハイ、それはあたしです。

オークションが済むと同時に、あたしは落札金を管理している控えの部屋に赴いて

護衛2人に当て身を食らわせた。そして、2枚の聖鱗の落札金を頂く。


ゴメンねおじさんたち。でもまあ、怪我はしてないだろうから許して欲しい。ね?

髪の毛に関しては、刺された時に腕を引っかいた爪に残った、皮脂と血液を捕食し

あの男の毛を限定的に腕に生やした。そしてそれを抜き、現場にばら撒いた。

もはや人間なら、待ち時間ほどんどなしで融合できる。そのチートぶりが怖いよ。


その後は、お察しの通りだ。

あの男の控え室前まで行き、奥のロッカー内にある空洞を狙い「あの体」を出す。

もちろん服は出せないから全裸。そして、刺し傷のオマケ付きだ。実体験から、

刺入部の形状再現もバッチリ。

あとは逃がさないよう、「オペラ歌手の声量」モードで悲鳴をあげ、人を集める。

出せた声のでかさが想像を超えていたので、かなりビックリしたけどね。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


ジャレジ容疑者の身柄は都市総代に引き渡されたが、まもなく死亡が発表された。

自殺か謀殺か、もしくは拷問死か。その真相は不明である。

殺された2人の女性の身元も、そしてジャレジに持ち去られた落札金のありかも。

全ては、今も謎のままである。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


その2人なら、ここにこうして1人で元気にしてるよ。

持ち去られたお金は、きっちり消費として社会に還元してるよ。チビチビとね。

今はこの、手の中の買い食い品として。


ああ、焼き鳥がオイシー!!

食べるってやっぱりサイコー!!

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[良い点] タクミはおかねを手に入れた! [気になる点] 新天地での初めての接触がキョーレツだったからこそ手に入れられた頼もしさと、ならざるものへと向かいそうな不安をなんとなく感じつつ、次へ進みます…
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