表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第七章・ムリョーカの王子
181/816

ラスコフ入国・2

感慨深いのはいいとして、あんまりモタモタしてるわけにも行かない。

人目が多くなると、リータの乗るGD-Xがやたらに目立ってしまうからだ。

さいわい、最後に取った宿はラスコフ側のゲートのすぐ近くだった。ほどなく、

その鈍重なシルエットが視界に入ってくる。


この旅、2度目の国境越えである。

最初はローカフからロドーラに入国するため、真夜中のランカ河を跳び渡った。

いわゆる密入国だったけど、横着をしたせいでコウモリの餌になりかけた。

あれからずいぶん経ってるけど、考えてみればずっと同じ国にいたんだよなあ。


美人が多いと評判の、ロドーラ。

確かに評判どおりだったけど、もう最近では何とも思わなくなってしまった。

自分の体形が他と比べて貧弱な事へのコンプレックスも、すっかり忘れている。


慣れたのもあるけど、何より()()()()()()()()()()()()がずっと一緒だからね。

ついついそっちに目が行く…って、ただの惚気じゃんこれ。


失礼。


それにしても、ここまで長居をすればそれなりに愛着も湧いている。

最初に辿り着いたローカフとは、いろんな意味でずいぶんと印象が違うなと思う。

だけど、それはしょうがない。

あの頃のあたしは、ここで暮らすという事への理解が足りていなかったからね。

だから無駄に混乱を招いたし、無駄に人を敵に回す事にもなっていた。

ベズレーメの街が嫌いなのも、今にして思えばほとんど言いがかりに等しい。

関わり方が下手くそだったんだから、あたしにもかなり責任があるって事だ。


まあ、だからって今さら、あの街を好きになれるとは思わないんだけどね。


何はともあれ。

ロドーラともお別れだ。


=====================================


どうやって国境の検問を通過するのか、って?


そりゃあもちろん、頭蓋跳躍(スカル・ホップ)で壁を軽やかに跳び越えて…

って、そんなワケあるかい。


堂々と通りますよ。

もちろん、実力行使なんて物騒な真似もしません。


実はあたしたち3人、ちゃんとした通行手形というのを持っているのである。

偽造品ではあるけれど、その一方で正規品でもあるという代物。


要するに、ライゾさんたちに譲ってもらったのだ。

彼らはローカフからラスコフへ行く予定だったけど、特賓館襲撃があったために

急遽帰国する事になった。その道中、襲われて命を落とした。

…という筋書きになっているので、彼らの持っていた手形が用無しになったのだ。

そこで、あたしたち3人用としてちょいちょいと細工を施してもらった。

元が本物だから、その辺は最低限の保証ってものがある。


それに、リアーロウ家の人間が使う手形なら、メルニィが持ってても変じゃない。

そう考えれば、そんなにあれこれ加工する必要もなかったのである。

顔写真なんてものは存在しないから、わざわざここでメルニィの姿は借りない。

彼女とその友人という名目で、さっさと通してもらうって寸法だ。


まあ、あんまり褒められた行為じゃないのは理解しております。

だけど、強行突破とか空から無断で、とかよりはずっとマシだろうと思ってます。

その辺は堪忍して下さいまし。


さあ、そろそろ行こうか。


=====================================


ここでそのまま列に並べば、目立って問題になるってのは火を見るより明らかだ。

何でかって?そりゃあ、こんな美人が…って、そうじゃない。

リータのGD-Xだ。

街中で乗り回したりはしてないけど、やっぱり誰の目にも奇妙な物なのである。

しかもフレームの材質が宝石みたいなジアノドラゴンのツノだから、ただ単純に

見た目だけでも価値がありそうに見えてしまう。まあ実際、値千金だろうしね。


なので、このまま国境ゲートに向かうわけには行かない。


「じゃあ、ちょっと待ってて。」


そう言ったリータは、恐らくは空き家と思われる建物の脇の道へ入っていった。

どこかにGD-Xを停めてきたらしく、すぐに小走りで戻ってくる。


「お待たせ。」

「じゃ行こう。」


身軽になれば、善は急げだ。

あたしたち3人は、無事に国境ゲートを通過。



ようやく、魔法国ラスコフへとその一歩を踏み出したのだった。


=====================================


魔法国と言っても、入った途端に世界がRPGに変わったりするわけじゃない。

生えている植物が変わるわけでもないし、あからさまに人が空を飛ぶでもない。

それまでと変わらない街道が続いているだけだ。別に拍子抜けもしないよ。


聞いた話では、魔法を扱える人間は国民全体の8%くらいらしい。1割未満だ。

たったその程度かよと言われそうだけど、8%と言えば1万人中800人である。

他の国に潜在的に存在する該当者は0.1%にも満たないらしいから、この数字は

けっこう脅威だ。そりゃあ、いろんな意味で他国から警戒されるだろうね。

あたしたちより強い魔術師ってのには、今のところ遭ってないんだけどね。


さて。


本街道はそれなりに人通りも多いけど、脇に逸れればすぐに人目はなくなる。

今回もそっち系のルートで進んで行きます。

何しろ、特使として何度も来ているライゾさんから地図も情報ももらっている。

旅の前半ではあれほど入手に苦労したアイテムを、まとめてゲットできたのだ。

幸先が良いってのは、こういうのを言うんだろうね。

…まあ、今までが悪過ぎたとも言えるけど。


じゃあ出発…じゃない。忘れちゃ困る。


「んじゃ、回収するね。」


そう言ったリータが、トライアルθを起動させた。

おお、SFエフェクトだ。ワクワクするなあ。


「GD-X、転送(トランスポート)。」


言い終わると同時に、ドット分解されたGD-Xが前部から順に現出していく。

後輪まで形成されるのに、わずか8秒ほどしか掛からなかった。


これぞ、GD-Xに搭載されている転送システムである。


もともと、完成当初はなかった機能だ。苦労の末にリータスーツを完成させた際、

本体にナノマシンを組み込むという発想をそのまま転用した。つまりフレームに

タカネの一部が宿っているのである。

知っての通り、リータのスーツやトライアルθはタカネ本体とリンクしている。

同じ原理で、GD-Xもリータのスーツやトライアルθとリンクしているのだ。

それによって、彼女がいる座標に丸ごと転送で呼び寄せる事ができるのである。


もともと、この機能はあたしの体でもできない事はない。原理的には可能らしい。

だけどこの転送は、全てのパーツをナノマシン単位で分解・再構成する仕組みだ。

そんな事を生きた脳でやってしまうと、再構成された時にはあたしはあの世行き。

同じような理由で、タカネでも不可能らしい。これは、ナノマシンを組み込んだ

非生物でしか使えない機能なのである。


だったら、ここで使うしかないじゃない。だって使いたいし、カッコいいし。


見るのは3度目だ。

先の2回は、ただ見たくて用もないのに遠くに置いて実践してもらった。

事実上、これが初の活用って事になるね。


いやあ、何度見てもカッコいいわ。ヒーローの専用マシンみたいで。


「さて。じゃあちょっと待ってね。」


言いながら屈み込んだリータのスーツの袖口に、小さなコネクターが現出した。

それを前輪のフレーム部分に強く押し当てると同時に、ぺちゃんこになっていた

タイヤに空気が入っていく。

さすがの転送(トランスポート)も、タイヤの中の空気までは持って来る事ができないのである。

だからスーツを変形させ、小型ドラゴンの肺を応用したポンプで空気を入れる。


タカネほどじゃないけど、リータもかなり何でもアリになってきたなあ。

あたしも、没個性キャラにならないように頑張らないと。

…いや、何を頑張るんだ?


つまんない事を考えてるうちに、後輪にも空気が入ったらしい。これで準備OK。



さあ、いよいよ出発だ。

まずはリータの故郷の村へ。

それから首都、リシュールへ。

矢でも鉄砲でも持って来ーい!!


…ゴメン、無駄にテンション高くて。


それじゃあ、行きましょうか。

タカさん、リタさんや。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ