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骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第一章・捨てた世界と新たな世界
14/816

ドラゴンと、あたし

「それで、データは取れたの?」

『思った以上に取れましたね。翼を開いて飛行してくれたのも、嬉しい

誤算でした。』

「やったじゃん。」


まあ、あやうく死にかけたけどね。結果オーライというやつだ。


「で、どうだった?」


さすがに、自分でも声がうわずっているのが分かった。

危険な接触と激闘の末に入手した、ドラゴンの接触スキャンデータ。

これによって、あいつの肉体構造が分かる。そして知りたかった答えも

恐らく得られる。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()疑問の答えが。

場合によっては、あきらめなくてはならない。やはりあのドラゴンには

勝てない、と。


『予想通り、いやそれ以上と言える強大な生物ですね。』

「倒す糸口は?」

『さあ、どうでしょう。』


そこで変にもったいつけるなよ。

声を荒げそうになるのを抑えつつ、さらに質問してみた。


「どうでしょうってそれ、要するに分からないって事?」

『私には、あまり見当がつかない…という意味ですよ。』

「だから、結局どっちなのよ!」


のらりくらりのじれったいやり取りに、つい感情が逆立った。

しかし、あくまでもタカネは抑揚のない声で答える。


『私は、あなたほど型にはまらない自由な発想は出来ません。だから、

私だけでは可否の判断は出来ないと言ってるんです。分かるでしょ?』

「……あぁ、そういう事、ね。」

『ですが強いて言えば、現時点でもひとつ朗報がありますね。』

「何よ?」

『先ほど言った通り。あれが強大な生物だという事実です。』


それのどこが朗報なんだ。ってか、そんな事は最初から充分過ぎるほど

知ってるよ。


『そんな事は知ってると言いたいんですか?』

「分かってんのかい。」

『そっちは、私ほど分かっていないでしょう。』

「んん?」


いつになく挑発的…と言うよりも、何かこちらを試すような言い草だ。

ざわつく心を抑え、いま一度意味を考えてみる。


強大な、生物。

生物。

生き物。

・・・・・・・・・・・・・・・・


「生き物?」

『そうですよ。あれは紛れもない、私にも生態が理解出来る「生き物」

なんですよ。魔法とか超自然パワーで動いている、何か得体の知れない

怪物などではありません。』

「………………」


何気なくスルーしていたその言葉の意味が、あらためて理解できた。

そうだ。

すっかり慣れた事もあって忘れてたけど、この世界はあたしにとっては

完全な新世界だったんだ。

ファンタジーのドラゴンに似てる、という第一印象で納得してしまって

いたけど。そもそもあれがどういう存在か、強さ以外まともに検証して

いなかった。人語を解するかもとか炎を吐くかもとか、そんな偏見さえ

当初はあった気がする。


「そっか。あたしもまだまだね。」


思わず頭に手を当て、空を仰いだ。


「…で、それを朗報と表現したって事は……」

『そうです。』


ずっと淡々としていたタカネの口調に、そこで初めて力がこもる。


『どうやれば死ぬかについては解析できました。あとはあなたが考える

番です。』

「つまり…」

『「()()()()()()()()」』

『その通り。』

「なぁるほどね。確かにそっちは、あたしの領分だわ。」


笑みを交わせないのが、こんな時は少しだけ残念だった。


================================


上から見ると本当に見つけやすい。

そして、近づいても気づかれる事はほとんどない。


飛行能力は優れてたけど、さすがに地上にいるのが基本なのだろう。

相変わらす、圧倒的としか言えない巨躯の持ち主だ。


「じゃあ、行くね。よろしく。」

『くれぐれも気をつけて下さい。』

「分かってるって。」


そんな短い言葉を交わし、あたしは迷わず飛び降りた。

ウロコに覆われた背や、他の頭蓋骨の上にではない。普通に地面に足を

着ける。その音にドラゴンは敏感に反応した。向き直り、あたしの顔を

じっと睥睨する。


距離はおよそ20mほどだろうか。変わらぬ殺意。変わらぬ威圧感。

何だか、慣れてしまっていた。


「2日ぶりね。」


気楽な調子で、あたしはドラゴンに声をかけた。


「決着、つけに来たわよ。」


こちらを睨み下ろしていたドラゴンが、そのひと言を合図にしたように

動いた。大きく一歩だけ踏み出し、弾みをつけ一気に上半身をこちらに

繰り出す。それはまるで居合い切りかカワセミの狩りのような、一瞬の

捕食だった。目にも留まらぬ速さで開けられた顎が、狙い違わず目標を

その牙で捉える。


ゴリッという鈍い音と共に、鮮血が飛び散った。


=====================================


「思ったより低いわね。」

『静かに。』


陽光の全く差し込まない影の中で、あたしは小さく呟いた。

頭上からはゴリゴリという咀嚼音が聞こえるけど、今となってはもはや

気にならない。ここは、ドラゴンの足の間。真上に巨大な腹部を臨む、

暗く狭い空間だ。


囮の拓美(デコイ・オブ・ミー)


それはこの星へ来た最初のあの日。このドラゴンに襲われ、崖の上から

飛び降りたあたしを救うため、咄嗟にタカネが講じた緊急措置だった。

今のあたしと全く同じボディをすぐ背後に作り、前方、つまりあたしの

背中めがけ高速で射出する。当然、ぶつかった事によってあたしは前へ

弾き飛ばされた。あの時、跳躍の際に感じた衝撃はそれだったのだ。

そして、ぶつかったボディがあたしの身代わりとなって喰われた。

今回、もう一度それをタカネにしてもらった。本人は嫌がってたけど。

ただし今度は逃げるためではない。一気に距離を詰めるための手段だ。

捕食の瞬間、背後にボディを作り、背中にぶつけて前へと潜り込む。

ギリギリ顎の下の空間をすり抜けたあたしは、そのまま必殺の間合いに

踏み込んでいた。


「じゃあ、やるね。」

『あくまでそっとですよ。触れるか触れないか、という程度でも十分に

足りますからね。』

「はあい、ママ。」


心配性のお母さんのような口調苦笑を浮かべ、あたしは小さく頷く。

そして目の前にそびえる、大木のようなドラゴンの脚の表皮部にそっと

指を触れた。前の時のように力任せにしがみつくのではない。本当に、

皮膚同士で触れるだけ。おそらく、たとえ接触相手が人間でもほとんど

気付かないくらいの軽いタッチだ。

もちろんドラゴンに察知される事もない。ひたすら咀嚼音が聞こえる。


一度しっかりスキャンし終えている肉体であるため、この程度の接触で

大丈夫、という事らしい。そのまま暗い影の中、20秒あまりの時間が

流れる。


この危険な場所に身を置きながら、今のあたしには恐怖も嫌悪感も何も

なかった。この場で一体何を思えばいいのだろう。

…自分でも驚くしかないんだけど、今、ドラゴンに対して感じるのは、

紛れもない親しみだった。


出会い頭、唐突に半身を喰われた。

しかしあれは、肉食の生物としては当然の捕食行為だったのだろう。


さらに追われた末、今度は囮の体を丸ごと喰われた。

でもあれは、そして今喰われている体も、実際のあたしの体ではない。

そういう形状を持っているだけの、骨と肉の塊とでもいうべきものだ。

絵的には残酷だけど、そこに本当の意味での”残酷”は存在しない。


と言うか。

少なくとも今のあたしには、それを残酷だと責める資格はない。

骨だの血だの胃酸だの、戦うために肉体の部品を片っ端から使い捨てる

このあたしには。

そう、。

「似たもの同士」というのは、案外こういうのを言うのかも知れない。


生きるために、貪欲であること。


小さくまとまってしまったお利口な地球に、どうにも馴染めなかった。

自分の力で新世界を生きてみたいと思ったのは、単に嫌気が差したから

だけじゃない。それは確信がある。


飢えた獣のように意地汚く貪欲に、そして懸命に生きてみたかった。

血を流しながら、何かを勝ち取っていくような生き方を。

荒野耕造の孫として、選んだんだ。


ねえ、ドラゴン。

…あなたも、きっと今日まで貪欲に生きてきたんでしょ?

数え切れないほどの命を、己の糧に変えながら。


あの、豊かな髪の女の子も。

今あたしの指が触れている、巨体の一部になっているんでしょ?


今さら責める気なんて起こらない。

だって当たり前の事なんだから。

生きるためには。


今日、この場へ来る前に、タカネに問われた。

どうして、そこまでしてドラゴンを倒す事にこだわるのか、と。

人間がいることが判ったのだから、さっさとそっちを目指したら、と。

もっともな疑問だ。

絶対にあなたを殺さなきゃいけない理由なんて、どこにある?

あの子の無念を晴らすため?

残念だけどそこまで親しくもない。恩義を感じてもいない。と言うか、

話した事さえないし。

竜人の力を手に入れたいから?

戦争とかしたいってわけじゃなし、そこまで物騒な力も欲していない。


あたしは、証明したいだけ。

このちっぽけな人間でも、この世界で生き抜けるという事をね。

このドラゴンが、世界最強かどうかなんて分からない。あるいはもっと

強い何かが、いくらでもいるのかも知れない。

だけど、あたしにとって「はるかに強い」存在なのは間違いない事実。

だったら、もしそれをあたしの力で倒すことが出来れば。

生態系ピラミッドの絶対的順位を、ひっくり返す事が出来れば。


これから先、何にでも立ち向かえるという確かな証明になる。


そうでしょ?


もう、今さら恨みなんてない。

生物としてのその強靭さを、心から尊敬する。


だからこそ。

ここで生きるあたしの糧になって。


『…拓美、大丈夫?』

「え?」


空いている方の手で頬に触れ、自分が泣いている事に気づいた。

何か最近、泣いてばっかりだなぁ。

誰のための涙?


決まってる。

ドラゴンと、そしてこのあたし自身のためのだ。


「大丈夫。それで?」

『解析は充分。完了したわよ。』

「分かった。」


よし。

今日、ここで決着だ。

ドラゴンと、あたしの。


そしてあたしは、前に進む。

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