意外な結果
本日、2本目の投稿になります。
何でフルパワーの貫通炎なんか撃ったか。
もちろん、力試しでも自然破壊でもない。単なる目印である。
川沿いの道を選ばなかった以上、できるだけ早く街道に復帰する必要性があった。
だったらとことん直進である。それが最短ルートなのは、小学生でも分かる話だ。
空から確認した街道とほぼ垂直に交わるラインで、レーザーのごとき炎を撃った。
何もかも貫通していったから、その痕を辿って行けばいい…という寸法である。
もし途中で止まっていれば、手前の穴2つを重ねたラインでもう一度撃てばいい。
同じ射線でまた目印ができるから、それを繰り返して街道に出ればいいって事。
もちろん、藪とか岩壁とかで歩く道を阻まれる事もある。そういう場合に限り、
あたしがミロスを背負って飛び越える。飛行は厳しいけど、その程度のジャンプは
それほど難しくないからね。
とにかく、そういう正面突破をやろう!という事になってたのだ。
思った以上に、炎の威力は高かったらしい。
何本かの木といくつかの岩、それに密集した植物の茎などを鮮やかに穿ちながら、
貫通痕はどこまでも途絶えずに存在していた。我ながら凄いな、これ。
思ったほど厄介な障害もなく、あたしたち2人はどんどんと先に進んでいく。
なんだかよく分からないものを撃ってしまった不安は今ももちろんあるんだけど、
歩みが順調過ぎてあれこれ悩む間がない。どうしましょう。
そうこうしている内に、森の終わりが見えてきた。え、もう着くの?
早過ぎません?…呆気なさ過ぎません!?
言い訳無用。
ガサガサと茂みを分けて出たのは、紛れもない公用の街道だった。
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「…!?」
出てきたその場所には、割と凄い人だかりができていた。
誰もいない事も想定していたので、あたしもミロスもちょっと面食らう。
ガヤガヤと騒がしかったため、森の木々の合間から出てきたあたしたちの存在は、
さほどの注目を集める事もなかった。ああ、拍子抜け。
「どうしたんですか?」
服についた葉っぱを払い落としたあたしは、近くにいた中年男性に問いかけた。
「事故か何かでしょうか。」
「いや違うよ、どうやら、でっかいザリディオが森から迷い出てきたらしくてな。
ちょうど 通りかかった商隊が襲われそうになったんだ。」
「ザリディオ、ですか。」
その名前に関してはオルラの記憶の中に、知識としてあるにはある。
国境沿いの森に棲むという、巨大な肉食のトカゲだ。ドラゴンとは違う、トカゲ。
地球で言うところのコモドオオトカゲを、3倍ほどデカくした奴と言えばいいか。
サイズがサイズだけに、バリオでさえ丸呑みにする。もちろん、人間も襲われる。
ただしこの生物は、肉食のくせに割と美味らしい。コモドオオトカゲとは違って、
危険なバクテリアとかも内在していない。食用トカゲの原種でもあるのだ。
だけどそんなのがいたと思うと、今さらながらに怖くなるね。
「で、誰か犠牲になったと?」
「いや、それがな。」
男性は、そこでちょっと微妙な表情になった。
「いよいよマズイって時に、森から何か分からん蒼い光が飛び出したらしくてな。
それに頭をぶち抜かれ、何もせんまま死んでしまったらしい。不思議な事だ。」
「…………へえぇ―――…………。」
おそらくあたしの表情は、彼に輪をかけて微妙なものになっていたに違いない。
いや、よかったよかった。あれはそういう手応えだったのか。ああ、うん。
安堵で、腰が抜けるかと思った。
「ありがとうございます。」
丁寧に礼を言い、あたしはミロスに向き直った。やっぱり、彼女も微妙な表情ね。
「とにかく、見に行ってみよう。」
「そうね。」
気を取り直し、人だかりの方へと分け入ってみる。
無理やり最前列にまで辿り着いたあたしとミロスの視界いっぱいに、馬鹿でかい
ザリディオの死骸が威容を晒した。…いやこれ、ほとんど恐竜サイズじゃん。
べったりと寝そべるその巨体は、街道をほぼ塞いでしまっている状態だった。
それで、こんなに混雑してるって訳なのか。
要するに、これ全部あたしが原因なのね。
街からそこそこ離れた場所なので、衛士とかもまだ頭数が揃っていない感じだ。
来たとしてもどうするよ。ブルドーザーとかクレーンとかが無いと、撤去するのは
おそらく大変だろうね。
「厄介なのは、自然死じゃないって事なんだよな。」
すぐ隣に立っていた痩せぎすのおじさんが、そんな事を教えてくれた。
「明らかに死因が変だから、うかつにバラしたりすると問題になるかも知れねえ。
頭の痛い案件だよ。まあ、そんな簡単にバラせる代物でもなさそうだが。」
「そうですね…。」
ここは曖昧に相槌を打っておこう。下手な事を言ったらトラブルになりそうだし。
ちょっと離れた場所に、鳥馬車が何台も停まってる。多分あれが、襲われたという
商隊の一団なんだろうな。あれやこれやと話してるのが、切れ切れに聞こえる。
通れない事はないけど、当事者だからすぐに去るってわけにも行かないのだろう。
と、あたしの隣に立っていたミロスが、不意に彼らの方へと駆け寄っていった。
あれ、どしたの?…もしかして、ヒッチハイクとか?
ほどなくして、ミロスは足早にあたしの元へ戻ってきた。
「何か分かったの?」
「ええ。でも、今はそれより…」
「へ?」
いきなりあたしの腕を掴んだミロスは、そのまま高々と真上に掲げた。
「皆さぁーん!」
どこから出してるんだって大声に、場の注目が一気にあたしたちに集まる。
「このザリディオを仕留めたのは、あたしの連れです。彼女でぇーす!!」
…え?
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もちろん、最初は笑われた。嘘つけよ!って感じで。
だけど、ミロスはいつになく激しく主張した。あたしの方が出遅れたのは珍しい。
もたもたと見守っている間に、彼女はこんな事を言い出した。
「仕留めた者の責任として、この死骸も見事に彼女が処理してみせまぁーす!!」
え。
あたしがやるの?
あらためて注目されたあたしは、たぶん目が泳いでいたと思う。
自分で言い出したなら、もっと堂々と振る舞っただろうなって自信があるけど。
ミロスが行動の起点になった場合、自分でも意外なほどアドリブが利かない。
新たな発見だなあ、これ。
「そこまで言うんならやって見せてくれよ、嬢ちゃん。」
「ああ。もしそれが仕留めた証拠にもなるってんなら、あんたは大手柄だからな。
報奨金も出るだろうぜ。何せ、こんなでっかいザリディオだからよ。」
話し込んでいた衛士とハンターらしきおじさんコンビが、そんな事を言った。
報奨金?
マジで?
その言葉を聞いた途端、あたしの動揺はピタリと収まった。
いや、別にお金に目が眩んだとかじゃないんだよ。と言うか、いっぱいあるし。
だけど、手元にあるのは正直言って胸糞悪い手切れ金だ。それとは別に旅の資金が
手に入るとなれば、気分的にも大いに励みになる。
よろしい。やってやろうじゃないか。
とくと見よ。
「そっち側の人、危ないからちょっとどいてもらって。」
あたしのその指示を聞いたミロスが、死骸の反対側の人たちの方へ走って行った。
ほどなく、そこに立っていた全員が左右の脇に退避したのを確認する。
いつの間にか喧騒は止み、静まり返っていた。
さて。じゃあ、始めようか。
マグロ…じゃなくて。
アンコウ…でもなくて。
巨大トカゲの、まるごと1匹解体ショーだ。
お代は見てのお帰りに!!




