表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第一章・捨てた世界と新たな世界
13/816

空中戦

高度、およそ300m。高い建物が無いから、とにかくパノラマ。

見渡せば森と草原のパッチワーク。見上げれば、遠く澄み渡った青空。

そして見下ろせば、怒りと殺意とに満ちたドラゴン。


第2ラウンドの開始と行こうか。


================================


頭蓋空域(スカル・フィールド)、展開。配置はランダムで。」


言い終えた瞬間、自分とすぐ眼下のドラゴンを含む空間に、無数の白い

点が出現する。目を凝らせば、そのどれもが頭蓋骨なのが判るだろう。

もちろん、あたしの。第三者的観点で見れば、もはや地獄かと思われる

ような狂った光景だ。


だが、そこはもう割り切っている。

この頭蓋骨は、別にどこかの誰かの遺体を墓から盗んだわけじゃない。

あたしの体組織の予備として生成が可能な、ただのカルシウムなどの

素材の塊だ。どう使おうとあたしの勝手なのだから。


「んじゃ、あいつの周囲にあるのは鮮血(ブラッディ)バージョンに。」

『えぇ…。本当にやるんですか?』

「何でも実践あるのみよ。」

『了解…』


気乗りしなさそうな口調だけれど、ここは押し通させてもらう。


「いい?」

『はい。』

「よっしゃ。じゃあ鮮血頭蓋弾(スカーレットバレット)、一斉発射!!」


号令と共に、ドラゴン周囲の頭蓋骨20個あまりが一斉に射出された。

狙うはもちろ、ん頭部の1点集中。回避の間すらも与えず、次々に着弾

していく。鈍い音がここまで届き、頭蓋骨はひとつ残らず木っ端微塵に

なった。そして、シャレにならない量の血しぶきが盛大に舞い上がった

のが見えた。今回の頭蓋骨は、重量を増すために中身入りだ。さすがに

脳や脳漿を入れるのは生理的にアレなので、中の空洞いっぱいに血液が

注入された特別仕様である。


攻撃を喰らったドラゴンの顔面は、もうスプラッターそのものといった

凄惨な有様だった。


「…残念。ここまでやっても全くのノーダメージみたいね。」


とにかく頑丈だな、あのドラゴンの装甲は。

音速は出せなくても、頭蓋弾(スカル・バレット)は時速600kmは出している

凶器のドクロだ。

ちょっとした岩くらいなら割る事が出来るという威力も、事前の実験で

確かめているのに。傷はおろか凹みも生じず、少しの痛痒を感じている

素振りもない。


『来ますよ!!』


その言葉を合図にしたように、顔をブルッと振って血をふるい落とした

ドラゴンは、こちらを向いて大きく羽ばたく。直下の地上は、さぞかし

盛大な血の雨になっているだろう。

一瞬の間ののち、大口を開け一気に上昇して突っ込んで来た。


周囲を囲んでいた残りの頭蓋骨も、その突進で次々と砕かれていく。


「うがい薬いる?酸撃(ストマック・ショット)!」


せっかく開けてるんだから、狙ってみる価値はある。さっきの攻撃と

同じ胃酸の球を出し、まっすぐ撃ち落としてみた。もちろん迫ってくる

口腔の中心目掛けて。音もなく飛び込むと共に、ドラゴンの突進体勢は

大きく乱れた。激しく咳き込むと、メチャクチャな軌道を描いて空中を

のた打ち回る。さすがにのどに直接飛び込み、細胞を焼く酸というのは

少しは効いたらしい。外側からではどうしようもないけど、攻撃方法は

ないわけではないって事だ。


初戦の戦果としてはもう充分過ぎるくらいだ。そろそろ撤退しよう。


ようやく混乱から立ち直ったらしいドラゴンが、少し距離を置いた位置

から睨んでくる。あとは、ここから離脱する方法を考えて…


「?」


ふと、ドラゴンが首を傾げたように見えた。

何となく、嫌な予感が走る。


次の瞬間。

ドラゴンは、その場でいきなり体を回転させた。太くしなやかな尻尾が

うなりを上げて振り抜かれる。でもこの距離では…


「まずい!あいつの周囲の」


言うのが遅過ぎた。

横一閃で振られた尻尾は、牽制用と足場を兼ねていたあの頭蓋骨を数個

一気に砕いた。タカネの制御が有効なのは、空間固定している間だけ。

粉砕されてしまえば、それはただの物体。無数の吹き飛ばされた骨片と

成り果て、分解も不可能となる。


「ぐっ!!」


砕けた頭蓋の骨片は、おびただしい散弾となってあたしに襲いかかる。

とっさに頭だけガードしたものの、被弾の衝撃によちバランスを崩した

あたしの体は虚空に投げ出された。

狙っていたかのように突進してきたドラゴンの口が、今度こそ迫る。


『掴まって!!』


AIとは思えない悲鳴と共に、胸元に頭蓋骨ひとつが出現した。反射的に

両手でしっかり抱きかかえ、グッと歯を食いしばる。


視界いっぱいの大口は、一瞬で飛び離れた。いや離れたのはあたしだ。

間一髪で逃れた事を悟ると同時に、あたしの呼吸が止まる。と同時に、

胸の奥からこみ上げた血をガバッと吐き出した。


本当に危ない時には迷わず使うよう釘を刺されていた、頭蓋離脱(スカル・エスケープ)だ。

胸に抱いた頭蓋骨を、他の移動時と比較にならない高速で射出して場を

離脱。もちろん、手を離して置いていかれたりしないようにするため、

あえて体の方向へと飛ばす。結果、今回は命拾いした。

しかしこれは、言うなれば頭蓋弾をゼロ距離で喰らったようなものだ。

受けるダメージで考えれば、砲丸で思い切り殴られるのと変わらない。

肋骨がほぼ全て折れ、肺がつぶれたのが激痛と共に実感できた。


『拓美!』

「!?…っ、まだ来るか!!」


肺も骨もすぐに修復されたものの、危機的状況はまだ続いていた。

一瞬でかなり距離を取っていたにもかかわらず、こちらを捕捉してまた

迫ってくる。出せる限りの頭蓋骨を障壁として出すも、速度をわずかに

減じさせる事すら出来ずに砕き散らされていく。


「ヤバい!…仕方ない。”猫よけ”出して!!」


そう言い終えると同時に、無色透明な水の玉が出現。今度のはデカい。

それをあえて飛ばさず、そのままあたしの目の前に滞空させておく。

果たして、突進してきたドラゴンは球の20mほど手前で急停止した。


「…やっぱ、これは突破しようとは思わないか。」

『まともな嗅覚を持つ生き物なら、当然ですよ。』


そう。この球体の臭いは凄まじい。ちなみにあたしは、今だけ嗅覚を

完全に遮断してるけど。

この水球は、尿素に分解される前の液体アンモニアの塊だ。この臭いを

気にせずに突進できる生き物など、そういないだろう。傍にいるだけで

目もすごく痛くなる。これだけは、それっぽいネーミングがどうしても

思い浮かばなかった。


ひとまず相手の勢いは削げた。でも状況の打開には至っていない。

アンモニア球で牽制してるものの、こんな頼りない障壁はそうそう長く

持たない。逃走するにしても相手の機動力をどうにかして削がないと、

すぐ追い付かれるだろう。


そしてどうやら、相手は微塵もこのあたしを逃がす気はないらしい。

その場で滞空しつつ、どこか余裕を感じさせる静寂を保っている。

アンモニアを警戒すると言うより、獲物を前にした嗜虐心だろう。

捕えたネズミをじっくりと甚振る、ネコのような陰湿さを感じた。


「獲物はすでに手の中って事ね。」

『…実際、今のこの状態からの離脱は無理ですよ。』


ちょっと調子に乗り過ぎた。そしてドラゴンをかなり侮っていた。

人間のような知性こそ持っていないものの、学習能力と対応力が凄い。

この短時間で、あたしのお株を奪うような芸当までやったのだから。


さすがだよ、ドラゴン。

そうやって勝ち誇ってるのも、強者の余裕ってやつだろうね。

だけどね。

こちらを「タネ切れ」と判断するのだけは、まだ早い。


『どうしましょう?瞬間的な加速はともかく、航続距離と小回りでは

負けてますよ。』

「みたいね。あいつがここまで空に強いとは、正直思わなかったよ。」

『このままでは、逃げられないかも知れません。』

「このままじゃ、ね。」

『…何か方法が?』

「当然。」


言葉を交わしつつ、あたしは目の前のドラゴンをあらためて凝視した。


「いいわね?」

『ええ。さすがですね、拓美。』

「お世辞は逃げ延びてからで。」

『じゃあ、やりましょう。…次か、その次のタイミングで。』

「よろしくね。」


滞空するドラゴンが、ゆらりと尾を振った。そろそろ時間切れらしい。

あたしをじっと見下ろすその眼に、あらためて剣呑な光が宿った。

瞬間。


頭蓋拘束(スカル・ロック)!」


叫び声を合図に、かつてないほどの大量の頭蓋骨が一斉に出現する。

どこに?

優雅に羽ばたく、ドラゴンの両翼の付け根部分だ。それも、羽ばたきが

わずかに停止する「打ち下ろし」の瞬間を狙って。


確かにドラゴンの体とこのあたしの頭蓋骨では、重さも強度もまったく

勝負にならない。いくらぶつけても傷もつかず、突進されれば一瞬で

砕かれてしまう。

だけど、それは「突進のスピードが乗っていれば」って前提ありきだ。

いくら強度が違っても、押すだけでそうそう容易く砕く事は出来ない。

そして空間に固定された頭蓋骨は、()()()()()()()()()()()()()()


加速をかけていない滞空の状態で、羽ばたいている翼の、一番動きが

小さい付け根。そこを頭蓋の群れで固定すれば、どうなると思う?

その状態で翼を難なく動かし、滞空していられるか?


狙いは的中した。

翼を固定されたドラゴンは、慌てて左右から背中を窺おうとしている。

でも、そんな事してる余裕あるの?あんたの、その図体で。


やがて、ドラゴンのデタラメ揚力は消失した。

ほぼ無視されていた重力が、今さら激しく自己主張をしたのが分かる。

あとは、やる事はひとつだ。


「拘束解除。飛べるもんなら飛んでみろ!!」


一瞬で、ギプスのごとく翼の付け根を覆っていた頭蓋骨は消失した。

飛行維持のための体勢を崩していたドラゴンは、そのまま真っ逆さまに

落下していく。慌てて羽ばたこうとしているのが見えたが、もう遅い。

ズシン!という轟音と共に、盛大な土煙が舞い上がった。


ちょっとしたクレーターが穿たれ、その中心でドラゴンは仰向け姿勢で

完全にのびていた。尻尾がピクピク痙攣している。やはり、この程度で

死にはしなかったらしい。

まあ、いいか。


初戦は、あたしたちの勝ちだ。


「じゃ、帰ろっか。」

『賛成です。』



こうして終わってみれば、やっぱり楽しいゲームだったよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ