表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第六章・燃えろ転生ヒロイン
118/816

処遇

あたしの名前は、二階堂 環(にかいどう たまき)


名前で分かる通り、れっきとした日本人だ。

…いや、日本人()()()という方が正しいのかも知れない。


家族は、両親と妹がひとり。家族の仲は悪くなかった。むしろ、とても良かった。

昔から勉強はそこそこ出来たし、特に語学系に強かった。だから大学を卒業後、

アメリカの首都ハングトンに1年留学した。人生の中で、一番楽しい時間だった。


帰国後、あたしは就職した。

東京にある小さな不動産会社だ。名前は、荒野不動産。経理部に配属されたけど、

実質的には創業者である会長・荒野耕造氏の専属秘書みたいな事をやっていた。

大雑把な性格の耕造氏は、数字に明るいあたしを何かと重宝してくれた。


「うちの金庫が空っぽにならないのは、二階堂さんのおかげだね。」


そう言って豪快に笑う耕造氏は、本当のおじいちゃんのように思えた。

学生時代も社会人時代も、大した事はないながらも幸せだったと思う。

あんまり大きな事は成せない人間なのは、自分でも何となく分かっていたから。


だけど、あたしは長生きはできなかった。

26歳の夏。会社の健康診断で要再検査という結果になり、病院へ行った。

告げられたのは、最期まで憶えられなかったくらい、複雑な名前の難病だった。


それから後は、ずっと病院だった。

27歳の誕生日の、わずか4日後。


あたしは、この世を去った。

どうせなら誕生日も命日も同じ方が良かったな、なんて思いながら。


両親と妹は、最期まで奇跡を信じていた。

死への恐怖より、その思いに応えられない無念さの方が大きかった。


ごめんね、みんな。


=====================================


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


=====================================


「…とんでもない事をしてくれたな。」


頑丈な格子越しに苦々しい顔をしているのは、父というの名の他人だった。

ほんの一日前は、ボクシングのセコンドのようにあたしを鼓舞していた人物だ。

大丈夫。お前ならやれる。18歳の門出を、鮮やかに飾って来いと言って。


すみません、ベステュラ様。

結果的に、家から忌まわしい魔法使いを輩出する事になってしまいましたね。

言い訳の言葉もありません。

と言うか、何でこんな事になったのか、あたし自身が分かっておりません。


この人は、あたしの父だ。まぎれもない実父だ。

ただし、オルラ・ベステュラとしてのあたしの、だけどね。


あたしには、2つの人生の記憶がはっきりある。

地球人のOLだった二階堂環と、ルネリオ人の貴族令嬢であるオルラの。

ごっちゃになるかと言えばそうでもない。きちんと頭の中で分別ができている。

両方足しても50年にもならない記憶だ。それほど大したものじゃないって事。


しかし現状。

オルラの方の人格はほぼ消滅しており、彼女は記憶としてしか残っていない。

今の自分は、ほぼ100%「環」だ。オルラとしての人生は全て記憶しているし、

言語も普通に使える。しかしオルラの感情らしきものは、いっさい残っていない。


当たり前の話だけど、目の前の人物に何かの感情が湧く事もない。

罵られようが嘆かれようが、どうとも感じようがない。


「…いつからだ。」

「は?」

「そのおぞましい力を、いつから持っていたのだ。」

「今回が初めてです。」

「ふざけるな!!」


怒鳴られた。

嘘は何も言っていないんだけど、信じろという方が無理なんだろうな、やっぱり。

将来を嘱望されたベステュラ家の長女は、呪われた存在になってしまったらしい。


泣かないで下さいよ。

泣きたいのはあたしも同じです。


…いや、まだそうでもないかな。

何しろあたしはほんの数時間前、都内の大病院のベッドにいたのだから。

心電図の音がフラットになる直前までの記憶は、はっきり残っているのだから。


死なずに済んだと、あるいは喜ぶべきなのかも知れない。

こんな牢獄で、父親ヅラした男性に嘆かれているような状況でなければ。

…そう言えば、最期に目にした()()()()()()()()も泣いてたっけなあ。

あたしは、親不孝の権化なのかも知れない。


=====================================


「やむを得ん。」


まともな愁嘆場にもならない、乾いた面会時間の果てに。

ベステュラ氏は、吐き捨てるようにそう言った。


「お前には死んでもらいたいのが正直なところだが、さすがに世間体が悪い。」


死ねってか。仮にも…ってか実の親子なのに、ずいぶんだね。

ついさっき死んできた人間には、まったくもって悪い冗談だよ。

腕が熱を帯びそうになるのを、意志の力で抑え込む。


「だが、このまま家に置く事などできん。それは分かるな?」

「はい。」


あたしだって居たくないよ。あんな他人だらけの場所には。


「だから、お前のような忌み子に相応しい場所へ送る。そこで生きていけ。」

「分かりました。」

「ミロスを供につけてやる。家財を運ぶ時間はないから、こちらで全て処分する。

 それなりの支度金は渡すから、後は自分で身を立てる事だ。いいな?」

「…」

「分かったな?」

「はい。」


ミロス。あたしの従者だ。同い年の少女だね確か。…気の毒だなぁ。

私物は全て処分するっていうのは冷酷に聞こえるけど、まあご勝手にって感じだ。

何を持ってるかは記憶にあるけど、言うまでもなく何の思い入れもない物ばかり。

病室の水差しの方が愛着があるくらいだ。


とにかく、あたしの処遇はそんな感じでまとまった。


どこへ行けと言われたのかは、およそ分かった。おそらくベステュラ氏としては、

その名を口にするのも嫌だったのだろう。


こんなあたしが向かうべき、呪われた場所。



魔法国・ラスコフだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 新しい仲間ゲットだぜ!のフラグかな?
2019/11/28 16:29 謎の百合好き
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ