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骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第五章・暮らしのアイディア改革
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旅支度・7

そんな事があってから、さらに3日の後。


お天気は快晴。

絶好の出立日和である。


ずいぶんとのんびりしたなあ。いよいよ、このキャンプともお別れだ。

あらためて見てみると、本当にやり過ぎレベルの居住空間だったとつくづく思う。

テントにトイレにシャワー室。最後の方にはキッチン専用テントまで設けていた。

圧力鍋だフライパンだシェーカーだ鬼おろしだと、調理用器具もあれこれ揃えた。

料理のレパートリーも増えた。

テントから少し離れた所に作った小さな石碑は、ジアノドラゴンほかの鎮魂碑だ。

あたしたちという存在を今も支えている、紛れもない礎。心を込めて供養した。

そして、これからもよろしくと。


備品関連は、朝食を済ませたのちに全て竜の遺産・十倍(ジアノレガシー・テン)で処分した。

建造物関連はほとんどタカネの固定制御下にあるので、出発の間際に消せばいい。

トイレの穴は埋める。いやはや、感慨深いなあ。


「楽しかったよね。」

「そうね。」


しみじみ語るあたしの傍らには、タカネが寄り添っていた。

いつもと同じように。

その事実が、あたしを支えている。そしてきっと、あたしもタカネを支えている。

それは決して、自意識過剰じゃないと思う。

そして、もうひとり。


「ゴメンねお待たせ。」


トイレから出てきたのは、リータだった。その場に現出した水の球で手を洗い、

小走りで近付いて来る。やっぱり、その小柄な容姿は幼女にしか見えないなあ。

…いや、ちょっと待って。

胸元からへその辺りまで大きく服をはだけた姿は、無駄に艶かしいんだけど。


「前、開いてるよ?」

「分かってる分かってる。」


ちょっとイタズラっぽく笑ったリータは、はだけた一番下の部分に指を当てる。


「見てて?」


そう言って、指を一気に襟元まで上げた。その動きに合わせ、まるでファスナーを

閉めるかのように服が閉じていく。ほんの一秒ほどで、継ぎ目も見えなくなった。


「おお、カッコいい!」

「でしょ?」


凄いハイテク仕様だよね。

新調したけど特に機能を追加していないあたしのスーツとは、まさに雲泥の差だ。


さすがは、タカネのこだわりの結晶だけの事はある。


=====================================


この3日間、何をしていたか。

もちろん、遊んでいたわけではない…とも言い切れないのがちょっと辛い。

いや、好きで遊…何にもしていなかった訳じゃないからね?

タカネがずっと頑張っていたので、邪魔をしないように過ごしていただけだから。

主にオセロとかやりながら。


タカネの仕事が終わったら出発する、というのはもう決まっていた。

だけどあたしたちの旅は、ほぼ身ひとつに近い。大きな荷物などがないのである。

強いて言えば、あたしの着替えと現金。それにリータの身の回り品くらいだ。

この身の回り品というのも、自作できないかを暇に開かせてあれこれ試してみた。

結果、アメニティグッズ系はほぼクリアできた。歯ブラシまで作れちゃったよ。

これの機能美には、リータも感動していた。…つまり、荷物はさらに減ったのだ。


だから近々出発するからと言って、手間ひまかけて準備をする必要がないのだ。

結果、あたしたち2人はかなり手持ち無沙汰になった。…いや、リータは何回も

タカネに呼ばれてあれこれ相談していたけどね。

つまり、ずっとダラダラしていたのはあたし一人…になるんかい。ショックだ。


まあ正直、失点を取り返そうと頑張るタカネに、余計な口出しはしたくなかった。

ナノマシンである事を忘れていたせいで遠回りをした…と本人は言ってたけど、

それを忘れてたのを悪い事だとは思わない。あたしだって忘れてたんだからさ。


彼女があらゆる意味で完全な人間になる事は、おそらく無い。

だけど、その心はもう人間と変わらない。それにあたしだって、普通の人間とは

ほど遠い存在だ。肉体がこの世界に降下できない以上、完全になれる日は来ない。


だったら、意外とお似合いかも知れないよね。うん。


=====================================


「調子は?」

「バッチリ。」


タカネの問いに、リータはぐるぐると左腕を回して答える。


「さすがに慣れたし、そうなるともう手放せないね。このスーツは。」

「でしょ?」


おお出た、タカネ渾身のドヤ顔。

最近、これを見るとキスしたくなって困る。あたしも大概だなぁ。


だけど、これに関してはいくらドヤっても足りない代物である。


あたしが背伸びした名前をつけるのも何かアレなので、単にリータスーツと呼ぶ。

これはずっと言ってた通り、あたしのボディスーツの素材をベースに開発された。

見た目はあまり変わらない。ちょっと分厚いのと、デザイン性に特化したくらい。

上に何かを羽織ったりしないので、これだけで成立するデザインを3人で考えた。

女性用のライダースーツっぽい感じだ。この世界基準では違和感バリバリだけど、

本人がこれがいい!と強く言ったんだからOK。

ココ・シャネルだって、既存の服の概念をぶっ壊したからこそ革命を成したんだ。

…すみません、例えが大き過ぎました。身の程を知ります。


見た目よりも性能だ!


ずうっと皆で頭を悩ませていた、通気性と着心地の問題。しかしその解決方法は、

呆れるほど単純だった。タカネが取り乱したのも、ある意味では無理もなかった。

通気性のある素材を作り出せない以上、テントのように自ら通気してくれる素材を

何とかひねり出す必要がある。しかし、完全な生きた素材を維持しようと思えば、

常にタカネと接続して制御する必要がある。それは致命的な不自由を生む。


だったら、どうすれば良かったのか。

簡単だ。


スーツそのものに、タカネが宿ればいいのである。

そう。

本人も忘れていたけれど、彼女はもともと()()()()()()()()なのだから。


=====================================


この3日間、彼女が何をしていたか。

ひたすら個体数を増やし、リータ専用にカスタマイズしていたのである。


以前あたしが「自立」した時にちょっと説明を受けたけど、タカネの当初の総数を

100とした場合、あたしと宇宙船の管理は70くらいで事足りた。なので残りの

30は、あたしと同行する中で個体数を増やした。結果、傭兵集団と戦った時点で

180ほどに増えていた。そこでタカネは、その中から110ほどを竜人としての

ボディ形成に使用したのだ。結果、彼女は今ここにいる。残りの70はもちろん、

宇宙船であたしの本体の管理をしている。いわゆる宇宙(ソラ)タカネだ。


そして、これは今回初めて聞いた話。

竜人タカネの制御は当初、110を総動員しないと難しかった。でも慣れてきたら

90くらいで充分運用できるようになったらしい。慣れってあるもんなんだね。

なので手の空いた20は、以前と同じように個体数を増やす作業をやっていた。

うん、コツコツ貯金するタイプだねタカネは。


結果、現在の彼女の竜人サイドにおける総数は、150まで増えているのである。

…意外に増え方が少ないんじゃないかって?

そこはやはり、肉体があると無いとでは違うらしい。戦闘とかになれば、個体数は

多いに越した事はないそうだからね。そうそう貯蓄にうつつは抜かせないって事。


そして今回。

タカネ自身の提案で、リータのスーツに余剰個体を振り分ける事になったのだ。

3人であれこれ考えた結果、求められる機能を満たすためには最低限、50程度が

必要になると判った。竜人タカネの理想値が110で現在の総数が150だから、

残り10増やせば足りる計算だ。それなら、集中すれば数時間で足りるらしい。


だけどあたしは、それでいいとはあえて言わなかった。


「時間をかけて増やせるなら、もっと増やして。」


ここだけは譲らなかった。

当たり前の話だけど、リータには修復能力がない。怪我をすればそのまま残る。

最悪、何かの拍子であっさり死んでしまうような事だって、充分にあり得るのだ。


今思い返せば、あたしたち2人は結構、血みどろの戦いをくぐり抜けて来ている。

もちろんそんなつもりはなかったし、戦闘の経験なんてものも全くなかった。

それでも戦うしかなかったのが大半だ。それであたしが今まで生きてこれたのは、

ひたすらタカネの献身と、肉体チートがあったからに他ならない。

ここの生活ですっかり平和に馴染んでしまったけど、だからこそあらためて思う。

この世界はそんなに優しくはない。だから、できる事はしておかないと。


今さら急ぐ旅じゃないんだ。

そのために数日遅れたからといって、何が変わるわけでもない。

だったらいっそ、万全を期す事を考えよう。


こんなチートな解決方法が見つかったんだ。どうせなら徹底しよう。

その考えに、タカネもリータも同意してくれた。


分かってもらえただろうか?

あたしは3日間、ただダラけてた訳じゃないんだよ!!


=====================================


そんなわけで完成した、リータスーツ。

タカネ渾身のワンオフモデルである。

言えばすぐにいくらでも替えが出てくる、あたしのスーツとはモノが違う。


通気性の管理なんて、もはや基本仕様だ。内部温度の管理まで徹底している。

継ぎ目はないけど、あたしのスーツみたいに無理やり着るような代物じゃない。

部分的にドット分解できるので、着脱もトイレも自由自在なのである。しかも、

必要とあれば完全に消し去る事さえも可能らしい。正確に言えば、内在している

ナノマシンを格納できるスペースがあればいい。指輪でも差し歯でも構わない。

非常時には、かつてのあたしのように子宮に潜ませる事すらできるんだとか。

肉体との融合はもちろん不可能だけど、入るだけなら問題ないんだって。凄いな。

…どこからどうやって入るのかは…………うん、訊きっこなしだね。


総数80は伊達じゃない。肉体の修復などの管理をしなくてもいい前提において、

たかが服にこれだけの数を振り分けるのは、オーバースペックもいいとこである。

いいんだよ!ここで贅沢をしなきゃ、いつするんだ!


達磨大使のように壁に向いて集中し、ひたすら増殖のみに励んだ結果。

わずか2日あまりで、竜人側のタカネの総数はなんと100近く増えたのである。

だったらもう、出し惜しみなしだ。本体も120まで増やし、リータのスーツには

80を割り当てる。どうせ時間をかけたんだから、そのくらいしてもいいだろう。


うん?

最初に40の余剰があったのなら、それでもかなり余ったんじゃないかって?

まあ、そこは適材適所ってやつだね。予備に回した分もあるけど。


とにかく、最後の問題は解決した。


川を渡るためのボートを作るつもりが、瀬戸大橋を作ってしまったような次元で。

もはや出発あるのみだ。



さあ、いざラスコフへ!!

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