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骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第一章・捨てた世界と新たな世界
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検証

『本気ですか?』

「もちろん。」


何となく、ため息が聞こえたような気がした。


『立ち直り方が何とも極端ですね。もちろん、決して悪い事ではないと

思いますけど…』

「だから、あなたも全力で手伝ってよね。」

『やるしかないんでしょうね。』

「そう。」


ドラゴンを倒す。

いざ決意してみれば、これほど心が燃えるミッションもそうそう無いと

思えた。もちろん、方法など見当もつかない。どれほど時間がかかるの

かも分からない。それでも、いつの日にか絶対に成し遂げるべき目標に

定めておく。


…と立派なことを言うだけ言って、コソコソとここから去るって選択は

誰にでもできる。

そうじゃない。まずは挑む。

倒せないとしても、とにかく全力で挑む。現時点でのハードルの高さを

しっかりと見定めるためにも。それにはまず、何が必要だろうか?


ドラゴンの詳細なデータ?

違う。

それも絶対に必要になるのは間違いないけど、「まず」ではない。

何を置いても必要なのは、とことん己を知るという事だ。

今の自分に、どれだけの事ができるのかを。


================================


惨劇のあった河原から半分ほど下流まで戻ったあたりで、あたしは足を

止めた。正直、元の場所にはあまり戻りたくない。と言っても、墓標の

近くにも居たくはない。まずはこのあたりで、やるべき事をやろう!と

思った次第だった。


「さて、と。じゃ、いろいろ教えてもらうね。」

『変身のバリエーションの詳細とかですか?』

「まあ、もちろんそれもかなり重要なんだけど…」


確かに、2863年の暇に飽かしてタカネが作り上げていた「荒野拓美

バリエーション」は、大いに使えるツールではある。決して軽く見ては

いけないだろう。しかし、今は別の課題に目を向ける事にする。そう、

昨日はショックと憔悴のあまりほぼスルーしてしまった「あれ」に。


「昨日さ、水の球を作ってたよね?飲み水用に、って言って。」

『え?あ、ハイ。喉渇きました?』

「いやいや、今は大丈夫。それよりあれって、確か体組織のデータから

水分だけ抽出してまとめたんだったわよね?」

『そうです。それじゃあ、ちょっと出してみます。』


言い終わったと同時に、昨日も見たあの透明の水球が目の前にポカリと

出現する。…プレゼン用だからか、昨日よりひと回り小さかった。


「これ、例えば血でもできるの?」

『もちろん。…と言うか、体液なら何でも出来ますし、水よりも手間は

少ないです。』

「出せる?」

『出せますがやめた方がいいです。血の臭いを嗅ぎ付けて…』

「そうだね、キャンセル。」


いくら何でも、まだあいつとご対面は早過ぎるよね。


「じゃあ次。この水球って、あなたの制御で浮いてられるのよね。」

『もちろんです。』

「出した後って、どの程度まで干渉できるの?」

『当初の想定で2パターン、そして想定外が1パターンです。』

「ん?想定外って?」

『昨夜説明した「3度の故障を修理した時に偶然獲得した追加機能」の

ひとつです。経口摂取による融合と比べると地味だから、まだ説明して

いませんでしたが。』

「なるほどね。んじゃあ、3つとも説明してよ。」

『了解。実際にお見せしますね。』


同時に、2つの球が左右に等間隔で追加出現する。


「これって、当たり前のように複数出せるのね。」

『そのくらい簡単です。』


幻のドヤ顔を見た気がした。


『さすがに体丸ごととなると同時に2体までが限界ですが、単純なもの

ならば50や100くらいは余裕で出せますよ。』

「お、実に頼もしいね憶えとくよ。じゃあ実践よろしく。」

『それではパターン1。これは昨日お見せした分解です。』


言い終わったと同時に、左端の球がもうおなじみのドットに変化。音も

たてずにその場で消失した。


『制御下にある間なら、物質として組み上げたものもこうして戻すのは

可能です。』

「なるほど。あたしの肉体の修復と同じ原理ね。」

『その通り。ではパターン2です。これは逆に、制御の放棄という事に

なります。』


今度は右の球が、前触れもなく球形を崩した。そのままザバッと地面に

落下する。うん、普通の物理法則。


『制御から離れた事により、物質は本当の意味で「ただの物質」として

完成します。後は見ての通り、重力に任せて落ちるだけです。』

「落としたのを戻すのは?」

『不可能です。制御を手放した時点で、二度と干渉はできません。』


なるほど。いわゆる覆水盆に返らずというやつかも知れない。…いや、

ちょっと違うか。


「よし。それじゃあ、お待ちかねのパターン3ね。」

『ハードル上げないで下さい。先に言ったとおり、これは偶然の産物で

しかありません。なので「何でこれが機能としてあるの?」的な質問は

無しでお願いします。』

「分かった。」

『これは制御下にある物質に対し、一度だけ運動エネルギーを付与して

任意の方向へと移動させる、というものです。』

「…ん?…うん?…なんかちょっと分かりづらい。」

『ひらたく言うなら、狙った方向に飛ばすって事ですよ。』

「最初からその言い方にしてよね。…ちょっと想像できないから、実践

してみてくれる?」

『では、最後の球を拓美と反対方向に飛ばしますね。』


それは、先の2つよりもずっと劇的だった。

パシュッという音を残し、水の球は想像を超える高速で川の方に向けて

射出される。一瞬で対岸に到達した球は、派手な水音と共に岩に激突。

盛大に破裂した。


「………」


予想だにしてなかったその結果に、しばしの間言葉が出てこなかった。


『これがイレギュラーのパターン3になります。』

「み、水魔法?」

『いやプログラムバグの成れの果てですよ。』

「いやいや、すごいじゃんコレ!」


本人はなぜか謙遜しているけれと、使い道が乏しいくせにやたら時間の

かかる融合能力より、こっちの方がよっぽど役に立ちそうだ。自分でも

テンション上がったのが分かる。


「これ速度は調節できるのよね?」

『もちろん。』

「最高でどのくらい?」

『マッハ1です。』

「え?」


ぶっ飛んだ数字キター!


「ちょっとした弾丸の初速じゃん!これ立派な武器じゃん!!」

『いえ、これはあくまでも設定上の最高速度ですよ?』

「どういう意味よ?」

『実際に弾丸を撃ち出せるのなら、確かに言うとおりの強力な武器に

なります。でも、忘れてませんか?射出できるのは、()()()()()()()

中の何かだけなんですよ。」

「え?え、えっと…」

『いかなる肉体の部位でも、そんな初速で撃ち出したらあっという間に

壊れてしまうのが関の山です。材質強度はそのままなんですから。』


確かにそこまでは考えてなかった。そして、謙遜の意味も分かった。

さっきの水の球でも、あんな程度の速度だから形を保ったまま飛ばせた

のだろう。人体パーツという制約がある以上、マッハ1は確かにただの

無茶な速度だ。水鉄砲では暴徒鎮圧は出来ても、ドラゴンと戦うための

攻撃手段としては全然威力不足だ。


「…ん?」


ちょっと待って。()()()()()()()()()()()()()…?


「ねえ。」

『はい?』

「いままで液体系ばっかり考えてたけどさ。いかなる部位だろうとって

表現をしたという事は…骨とかでも出せるの?」

『当たり前ですよ。ちょっとやってみますか?』

「え、…ちょ!ま、待って待って。地味なやつにしてよね!」


地味な骨って何だよ?というセルフツッコミが間に合わない。

しかし、さすがはタカネ。言いたい事は分かってくれたらしい。

出現したのは白く細長い、まさしく”地味な骨”だった。


「ええと、これってどこの骨?」

『橈骨です。簡単に言うと肘から先の腕の、骨の細い方。』

「なるほど、コレね。」


自分の左腕をふにふにと右手で触りながら、あたしはその橈骨とやらを

凝視する。考えてみればシュールな光景だけど、もはや今さらだ。

ええっと、速度の問題はとりあえず棚上げして。


「ところで、この空中への固定ってどのくらいの強さでやってるの?」

『空間への固定は絶対的処理です。ちょっとその骨、どちらかの方向に

押してみてください。』


言われたとおり端っこの部分を手で押してみたけど、なるほどビクとも

しなかった。


『私が制御している状態のものを、力づくで動かしたりずらしたりする

事は設定上不可能です。解除しない限りは、ずっとそこに浮かんでいる

事になります。』

「へえー、それはすごい。じゃあ、骨の壁とか出来ちゃうんだ。」

『まあ可能ではあります。ただ…』

「ただ、何?」

『さっきも少し触れましたが、固定が絶対でも材質本来の強度自体は

変わりません。

 その橈骨、石か何かで思いっきり叩いてみて下さい。』


言われたとおり、大きな石を抱えて橈骨くんに振り下ろしてみた。

ゴキッという音を立てて真っ二つに折れ、そのままぽとりと落ちる。


『見ての通り、強度を越えた衝撃を受ければ破損します。それで形状が

変わったりバラバラになったりした場合、もう制御で固定しておく事も

不可能になります。』

「なるほど。まあ、何事も万能とは行かないもんだよね。」

『バグの産物と言うより、そもそも本来の用途と程遠いですからね。』


そりゃそうだ。

もともとあたしの体の構成と維持・修復が目的のナノシステムだから。

水の球ですら、本来の目的から見て邪道な応用もいいところだろう。


だけど、同時に思う。

機能の応用なんて、まったくもって使う人間の工夫次第じゃないかと。

目的のためには手段を選ばず…とはちょっと違うけど、でも似たような

もんだ。大事なのは「これは○○○をするためのもの」的なお仕着せの

定義でなく「それで何ができるか」という疑問への自由なイメージだ。


今さら、はるか過去の地球の常識や倫理に囚われるな。

少なくともここでは、あたし自身がルールだ。変な遠慮は全部捨てろ。


「…よし。」


何となく次のステップに進めそうな感じだった。


「ねえ。」

『何でしょう?』

「人間の体の部品で一番硬いのって確か、奥歯だったっけ?」

『ええ。歯のエナメル質です。水晶くらいの強度はあります。』

「それ、水の球みたいに成分だけで凝縮できるの?」

『残念ながら、凝縮は無理です。』


答える声に、残念さと悔しさが入り混じっていた。


『質量を持った物質が存在する空間には、体組織を重ねて構築する事は

出来ません。それと同様の理由で、構築した体組織を無理やり押し付け

圧縮する、というプロセスも不可能なのです。同じように、血中鉄分の

凝縮も厳しいですね。』

「じゃあ、水は?」

『液体に関しては、すぐ隣に出せば自然とくっついて大きくなるので、

ああいった塊にする事が可能です。あれは例外だと思って下さい。』

「なるほどね。」

『ご期待に沿えず、申し訳ない。』

「いいよいいよ、別に。」


正直な話、そこまで都合のいい期待はしてない。


「じゃあ原形のままでいいからさ。奥歯を出してみてよ。あたしの5m

前方に。」

『?…あ、ハイ。』


すぐに、目の前の空間に小さな白い物体が現れたのが見えた。

軽く頷いたあたしは、右の手のひらを開いてかざす。


「んじゃあ、その奥歯で撃ち抜いてみてよ、この手を。」

『え!?』

「空中分解しないギリギリの速度をざっくりと計算してさ。その程度は

余裕で出来るでしょ?」

『いや、それは…その…出来なくはないですが。』

「あ、もちろん痛覚遮断の上でよ?痛いのはヤだから。」

『それはもちろん…。ですが、貫通できる保障はありませんよ?』

「中で止まった時は、お手数だけど手のひらを再構築して摘出して。」


『………………拓美。』

「ん?」

『色々、振り切れて来ましたね。』


もし顔があったら、たぶんニヤリと不敵に笑っていたのだろう。

彼女に代わり、あたしが口を歪めてニヤリと笑う。


「じゃ、やってみてよ。」

『了解。シュート!』


次の瞬間。

音もなく放たれた奥歯は、あたしの手のひらを一気にぶち抜き、そして

木っ端微塵に砕け散った。

小さく開いた風穴から、一拍遅れて血が噴き出す。

下ろした手のひらに視線を向けると同時に、傷はきれいに修復された。


「…うん、名づけて”奥歯弾(トゥース・バレット)”ってとこかな。」


威力は、それほどのものじゃない。銃弾よりもずっと劣るだろう。

もちろん、あのドラゴンに通用するとも思っていない。


だけど、覚悟してろよ。



これからのあたしは、ただの無力なエサなんかじゃあないぞ。

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