表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第五章・暮らしのアイディア改革
103/816

快適な暮らし・13

はい、行き詰まった時には外に出て気分転換!

これ基本。


というわけで、雨の中のお散歩です。


=====================================


ちなみにテントは、タカネ自身と一体化している…というかタカネの臓器である。

内臓というより外臓。…いや、中にいるから内臓でいいの?ああ、ワケ分からん。

当然、彼女が外出するとなると接続管を切らなければいけない。そして一度切ると

生物としての機能を喪失し、「固定されている物体」に格下げとなるんだそうな。

こうなるともう、再び接続したとしても機能を回復することはできない。要するに

中にいると窒息死まっしぐらの血管…もとい欠陥テントになってしまうのである。


なので外出の際は、まず3人とも外に出てから接続を切る。戻るまではそのまま。

で、戻ったら膜を消してもういちど張り直す。ちょっと手間なんだけど、定期的に

張り直した方がタカネ的にも何かとイイらしい。もちろん、骨組みとか瓦屋根とか

トイレとかはそのままである。

…それにしてもトイレの骨壁、よくできてるなぁ。

部分成型ができるようになったのはけっこう前なのに、鱗ハウスを建造する際には

骨をそのまんま使ってしまってた。タカネのうっかりというやつである。…まあ、

家を建てるのは慣れてない頃だったからね。それにあれで露骨に失敗したからこそ

今の極上胃袋テントができたわけだし。


日進月歩。いい言葉です。

さ、行こうか。


=====================================


さて、3人の足にはあたしのボディスーツと同じ素材の長靴。

手には?

もちろん、傘。


どうせまた、ジアノドラゴンのあれこれで組み立てたんだろうって?

ハズレ。


むかしむかし、江戸時代末期の日本人は西洋の傘を「こうもり傘」と呼びました。

はい、ネタバレ。

この傘、ランカコウモリの骨と翼を使って作りました。翼の膜はあたしが使っても

全く飛ぶのに適さない代物だったんだけど、伸びるし強いから傘にはピッタリ。

鉤型に曲がった鋭い爪の、先端だけオミットして現出させれば…はいグリップ!

傘の設計図データもタカネは記憶していたらしく、ちゃんと折り畳める代物として

作ってくれた。そうそう、こういうのこそが有益な情報だよね。武器とかよりも。

さすがにワンタッチのジャンプ傘じゃないけど、そこまで望んだら怒られます。


トイレットペーパーで挫折していたタカネも、この傘の出来は会心だったらしい。

やっぱり彼女は、ドヤってる方が可愛い。そっちの方がずっと好き。


=====================================


雨音を聞きながら歩くって、いつ以来だろうか。

2863年ってのは大前提としても、地球にいた頃からそんな機会は減っていた。


ネット時代は円熟し、家に居ながら何でも手に入るようになっていた。

天気予報の精度はどんどん上がり、出先で雨に降られる事もなくなっていた。

主だった通りには、採光式の屋根が張られていた。当然、雨なんか落ちてこない。

音もほとんど聞こえなかった。


地球における降雨は、自然現象であるという以外の意味を剥奪されていた。


ああ。

何だか、恵みの雨という言葉の意味が実感できたような気がする。


曇り空の下、木々の緑はしっとりと濡れてその鮮やかさを増していた。

乾いていた石や岩の表面も、嘘のように複雑で美しい艶を湛えて輝いている。


どれもこれも、ごく当たり前の光景なんだけど。

どうしてあたしは、泣きそうになってるんだろうか。


単なるノスタルジーじゃないだろう。

あたしの記憶の中にある雨の光景は、もっともっと殺風景だったから。

こんな風に濡れた木々の間を歩くためには、本当に遠出をしなきゃいけなかった。

自然は、()()()()()()()()()に成り果てていた。


やっぱりあたしの故郷は、どこかで何かを間違えたんだ。

滅びなかった代わりに、何か決定的なものを失ってしまったんだ。


だから、あたしは愛想を尽かした。

そして今、やっとここに至って。

そんな故郷を、悲しいと思えた気がする。


後悔じゃない。むしろ逆だ。

あたしは、ここに来てよかったとあらためて感じた。


=====================================


「雨、か…」


あたしとリータのすぐ後ろをゆっくりと歩きながら、タカネはポツリと呟いた。


「そう言えば、こんな風に歩くのは初めてよね?タカネも。」

「…そうね。こうしてじっくり見るのは、()()()()()()。」


言葉の重さが違う。

彼女はあたしたちよりも圧倒的に長い時間を体験しているけど、雨の中で歩くのは

生まれて初めてなのだ。もはや、その感覚は想像すらできない。


「大量の水が、少しずつ少しずつ空から落ちてくる。ホントに不思議な現象よね。

 理屈でプロセスを知っていても、こうして感じ取るのとは全然違う。」

「言われて見れば、不思議よね。」


リータにとっても、タカネの言葉はやはり新鮮だったらしい。

どこの世界でも、小さな子供はこういう何気ない事に大きな感銘を受けるものだ。

タカネも、実質的にはまだ0歳児である。経験の少なさという点では同じだろう。

だけど、こんな落ち着いた大人の女性の姿で言われると、ギャップに悶える。


…ごめん、ちょっと俗っぽくなり過ぎました…。


=====================================


そろそろ戻ろうかと思った頃。


相変わらず興味深げにあちこちを見ていたタカネが、不意に素早く手を伸ばした。

そして、すぐ脇の木の枝から何かを掴み取る。弾みでパッと水滴が舞い散った。


「!?」

「何かいたの?」

「ええ。」


タカネが差し出したのは、木の表面の一部分…

いや、違う?


「うん?…トカゲ?」


よくよく見ると、小さな頭がキョロキョロと動いている。全長30cmほどある

細長いトカゲだった。木の皮に見えたのは、体表の色が変化していたかららしい。

どうやら、カメレオンのような能力を持っていると思われる。


「ミクリス・ドランっていうトカゲの一種ね。体の色を変えて、風景の中に完全に

 溶け込んでしまうのが特徴の珍種よ。よく見つけたわね。」


リータの説明にあたしも頷く。すぐ脇を通ったのに全然気付けなかったし。


「へえぇ。体色同化の能力ね。それは便利かも…」


ニヤリと笑ったタカネの顔が怖い。完全に捕食者のそれである。

リータも同じ事を思ったらしく、慌てて早口で告げる。


「い、いやちょっと待って!この種は個体数が凄く少ないから、殺すのは待って!

 今のままでも充分アレだと思うし、無理に食べなくても…」


そんな中、最も身の危険を感じたらしいトカゲが、ひときわ激しく身をよじった。

そして、するりとタカネの手をすり抜けて逃げていく。パシャパシャという水音を

かすかに残し、その姿は木々の合間に見えなくなった。


「あぁ、逃げた。」


ホッとしたけど、どう言えばいいか分からない。中途半端な言葉になったかも。


「ざ、残念だったね。でも…」

「いや、大丈夫よ。ホラ。」

「?」


そう言ったタカネが、ひょいと指で摘みあげたもの。

それは切り離されてなおピョコピョコと動いている、尻尾の先端だった。


おお、本物のトカゲの尻尾切りだ。さすがに初めて見たよ。

と言うか、そんなものまで存在してるのかこの世界。つくづく地球に似てるね。


「んじゃ、いただきます。」


え、ちょっと。


止める間もなく、タカネはその尻尾をにゅるんと呑み込んだ。尻尾の踊り食いだ。

スプラッターな捕食とはちょっと違う、独特の不気味さがあるワンシーンだった。

爬虫類は平気なリータも、さすがにかなり引いていた。


「…で、どう?」


絵的なアレはさて置き、能力を取り込むという意味では今のは興味をそそる。

もしかすると、有名映画の宇宙人みたいな不可視化ができるようになるとか!?


待つこと、数分。

小降りになった雨の中、佇む3つの傘。


………………………………………………………………………


「ダメね。」


ダメなんかい!!


「体色を自分の意思で変えるというより、皮膚の色素が周囲を真似るだけみたい。

 だから変色も遅いし、ちょっと動けばすぐにずれて輪郭が判っちゃうのよ。」

「ああ、そりゃ大して意味ないわね。」


どっちかと言うと、じっと身を潜めて外敵をやり過ごすための能力なのだろう。

素早く動ける上、そもそも外敵なんて存在しないタカネにはほぼ用無しの機能だ。

まあ、そんな事もあるよね。


「じゃ、ぼちぼち帰ろう。」


大した成果はなかったけど、決して無意味な時間じゃなかったと思う。

それは、きっとタカネもリータも同じだ。


こんな時間が、きっとあたしたちを豊かにするはずだから。


=====================================


テントに戻った頃には、もう雨はほぼ止んでいた。

早々と雲は切れ、少し傾いた太陽がチラチラと光を注いでいるのが見える。

気がつけば、そろそろ夕方になりつつあった。


「さて、じゃあテント張り直すね。」


タカネがそう言った直後、テントの膜は骨組みだけを残してきれいに溶かされた。

今回は張り直しなので全てタカネに任せ、あたしたち2人は外で見守る事にする。

外から見ると、胃袋がテントの形になっていくのはひと味違う壮観さがあった。

出来上がったのを確認し、入口を開けて中に入る。


「ただいまー。」

「はあいお帰り。」


ああ、やっぱりイイなあこのやり取り。…まあ、一緒に出かけてたけど。


「それじゃあ、ひと休みしたら拓美とリータで食事の用意をしてくれる?」

「あ、うん。」

「外はまだ濡れてるから、作ったものを中で食べましょう。」

「そうね。」


あたしも、ちょっとずつだけどお料理のレパートリーは増えてる。

手料理を食べてもらうって、思ってた以上に嬉しくてテンション上がるよね。

…うん、やっぱりあたしは()()()()なんだね、たぶん。


=====================================


今日のメニューは、シンプルなポトフです。

うろ覚えだったけど、リータがかなり上手く再現してくれた地球の家庭料理だ。

体も冷えたし、これであったまろう。


さて、できた。

タカネが待ってるから、冷めないうちに…


「「…あれ?」」


振り返ったあたしとリータの声が、きれいにハモった。

そのまま、2人してその場に棒立ちになる。


テントがない。

瓦屋根とトイレは残ってるのに、テントだけが無くなってる。


え?何で?

何の音も気配もしなかったじゃない。


テントどこ行った?

って言うか…


タカネはどこ行ったの!?


さっと血の気が引くのが判った。

いきなりの事態に、思考も感情もついて行けてない。

それでも、あたしは何とか口を開いた。そして、少し震えた声を上げる。


「た、タカネ…」


返答がない。


「タカネ!!」


叫んでいると自覚する前に、あたしは駆け出そうとした。

と、その瞬間。


「はい?」


何事もなかったかのような返答と共に、タカネが虚空からひょいと顔を覗かせた。

肝をつぶしたあたしは、もう1回棒立ちになる。


え?


彼女が顔を出してるのは…

テントの入口?


「タクミ。…よく見て。」


感嘆したようなリータの声に、あたしはあらためて目を凝らした。

そして、思わず口をポカンと開ける。


テントは、無くなったわけじゃなかった。変わらずそこに鎮座していた。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「すごいでしょ?」


出た、ドヤ顔。


「あたし自身に使ってもほぼ意味ないけど、動かないものならここにあるからね。

 カモフラージュにはもってこいでしょ?これぞ隠蔽(ステルス)テントって感じで…」

「びっくりさせないでよ!!」


あたしは、我慢できなかった。

そのままタカネに駆け寄り、押し倒す勢いで抱きついた。もちろん倒れないけど。


「どっか…行っちゃったかと思ったじゃない!!」

「そんなワケないでしょ?」

「バカ!バカタカネ!!」

「ごめんごめん。」


不覚にも、取り乱してしまった。

器の乗ったトレイを持ったまま、リータは苦笑いを浮かべていた。


お見苦しいものをお見せして、どうもすみませんでした。



すごいね、トカゲのステルス。

まったくもって、恥かいちゃったよ。



夕焼け空に立ち昇る、雨上がりの空気が心地良かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ