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骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第五章・暮らしのアイディア改革
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快適な暮らし・11

「じゃあ、ちょっとやってみるね。」


そう言ったタカネが、傍らで見守るあたしたち2人に軽く手を振る。


「もうちょい下がって。」


あたしもリータもパッと飛び退いた。何だ、今度はどんな危ないもの出すんだ?

それに気付いたタカネは、ちょっと苦笑いを浮かべている。


「えーっと、まずは骨組み。」


位置を測るためだろう。無駄のないタカネにしては珍しく、手をかざしている。

やがて4mほど先の空間に、平行に並べられたジアノドラゴンの骨が現出した。

部分形成によって物干し竿のような綺麗な棒になってるけど、何度も見てるから

表面の質感ですぐ判る。文字通りの「骨組み」だ。


空間に固定できるので、縦向きの支柱は要らないらしい。相変わらずのSF仕様。

ものすごく高い位置にこれ出せば、さぞかし乾く物干し竿になるんだろうな…。

などと所帯じみた事を考えていたら、骨組みの真ん中へんに移動していたタカネに

手招きされた。


…え、これで終わり?

怪訝そうな表情を浮かべちゃったけど、とにかくリータと共にタカネの傍に行く。

同じ事をリータも考えたらしく、骨組みや周囲をキョロキョロと見ている。


「お待たせ。じゃあ、仕上げね。」

「仕上げ?」


と、次の瞬間。

ちょうど真上の空間に、オレンジ色の膜が出現した。それはドット増殖していき、

一気に骨組み全体を覆っていく。もちろん、あたしたち3人を包み込む形で。

あれよあれよという間に、骨組みは丸ごとその膜に覆われた。外界から遮断され、

視界が明るいオレンジ一色になる。おお、何かこの感じ、レジャーテントっぽい!


しかしまだ終わっていなかった。よくよく見てみると、足元を囲い込んだ骨組みは

わずかに地面から浮いている。側面を覆った膜はその隙間を回り込み、地面の上を

じわじわと埋めていく。どうやら、完全にすっぽり覆ってしまうつもりらしい。


「え、ちょっと怖いんだけど。」


自分たちの立つ場所に膜が侵食してくる様子に、リータが率直な感想を述べる。

すでにほとんど足場はなくなっていた。


「はい、じゃあ2人とも。」

「「?」」

「ジャンプ!!」


言われた瞬間、考える前に3人揃って飛び跳ねた。わずかに空いたその足場を、

膜が一瞬で覆い尽くす。着地したその床は、トランポリンみたいな弾力があった。

どうやら、これで完全に密閉されたらしい。


「オッケー。じゃ、締めます。」

「締める?」

「そう。」


直後、空間が一気にひと回り小さくなった。同時に、完全なボックス型になる。

どうやら、虚空に固定していた膜を縮め、骨組みにピッタリと密着させたらしい。

という事は、外から見れば完全なテントになったって事だろう。


「はい、完成。」

「おぉー。」

「これがテントね。」


珍しそうにそう言ったリータが、天面を仰いでホッとため息をついた。

つられて見上げると、ピンと張り詰めた天幕越しにわずかに星空が見えている。

ああ、ちょっと光が透過するんだ。これはいいかも。

投獄刑のような鱗ハウスの圧迫感から比べれば、ずっと快適な空間だ。しかも、

ほんのりと暖かい。暖房まで完備とは恐れ入ります。


「凄いじゃん、タカネ。」

「でしょ?もっと褒めて。」


いつも通り、ドヤるタカネ。

しかし、まだ賞賛の上乗せは早い気がする。


「快適なのはいいんだけどさ。諸般の問題はどうなったの?通気とか開閉とか…」


見た感じ、継ぎ目も縫い目も何にもない密閉空間だ。窒息する未来しか見えない。

今さらそれに気づいたらしいリータも、説明を求める視線をタカネに向ける。

そんなあたしたちの不安とは裏腹に、タカネはますますドヤる。


「じゃあ、どこでもいいから側面を手で叩いてよ。間隔を空けずに、3回ね。」

「?…うん。」


とりあえず端に移動する。床の踏み心地は実に心地良い。裸足になりたいなあ。

で、普通のテントなら出入り口になっていそうな場所に来た。もちろんその面は、

ピッタリと一枚成型で覆われてる。半信半疑ながら、言われたとおり叩いてみた。

1、2、3。


「!?」


いきなり目の前の膜に縦の筋が走り、パッと開いた。

ええ、自動ドア!?


「出てみて。入る時も同じように叩いてくれればいいから。」

「え…あ、うん。」


開いた出口から足を踏み出す。出てみると、いかに中が暖かいのかが実感できた。

と同時に、通ってきた出口がパッと閉じる。慌てて確認してみたけど、表面には

もはや継ぎ目も残っていなかった。


何だ、このオーバーテクノロジーは。

固定されている物質は確かにタカネの制御下にあるけど、こんな動かし方なんかは

できなかった。制御を放棄するか消すか、あるいは飛ばすかの三択が限界だった。

第一、締める時にもう動かしてたじゃん。なおさらこういう操作は無理のはずだ。


悔しいけど、あたしにはカラクリが分からない。ドヤるのも無理ない気がした。


「拓美ー?」


くぐもった声が中から聞こえた。

慌てて外面を叩こうとしたあたしは、ふと気がついてテーブルセットまで戻る。

置きっ放しにしていた手荷物を回収するためだ。いざ居住用の空間が形になると、

そういうのが不安になる。やっぱり日本人だなあ、あたしって。

とは言え、あたしの手荷物って、数着のリンネンの替え以外はほとんどが現金だ。

用心深くなるのは何にも不思議じゃないんだよ?


そんなわけで、あらためて外面を3回叩いてみた。出る時と同じように筋が走り、

パッと入口が開く。いや、癖になるねこれ。


「はあいお帰り。」

「あ、うん。ただいま…」


疑問は山積みだけど、こういう挨拶って悪くない。ちょっと感傷的になるけど。


「それで…」

「どういう仕組み?」


どうやら、あたしが席を外している間にもリータに説明はされなかったらしい。

疑問の言葉の後ろを取られた。


「ひとりでに開く入口なんて、魔法でも使わない限り無理なんじゃないの?」

「そんな事ないよ。あなたにだってシステムは分かると思う。」


ええ、そうなの?

今のところ、あたしにさえサッパリなんだけど。

とにかく、どっちかと言えばあたしが訊く方がいいだろう。そう思って口を開く。


「ジアノドラゴンのナニかで出来てるのは判るけどさ。あんな風に操作できるのは

 ちょっと想像できない。どういう仕組み?」

「簡単な事よ。あたしが動かしてる。」


簡単に言ってくれるけど、それが分かんないんだよ。


「だけどあなたは…」

「ホラ。」


そう言って、タカネは自分の腰の辺りを指差した。

その指が示す先に目を向けたあたしとリータは、全く同じように首を傾げる。

露出している肌の部分から、なにやら細い管のようなものが伸びていた。それは、

足元まで降りて床面に融合しているように見える。


「何それ?」

「接続管。」

「…つまり?」

「骨組みは固定しているパーツだけど、膜は違うって事よ。」

「って、まさか…」


判っちゃった。


「もしかしてこれ、あなたの体の()()()()()()()なの?」

「正解!」


嬉しそうに言ったタカネは、パッと両腕を広げた。


「ここは、あたしの()()()()()なのでしたー!!」


=====================================


いや。

さすがにもう、出してくれと取り乱したりはしないよ?2人とも。

だけど、魂が抜けかけたのはあたしもリータも同じだった。


い、胃袋?


「つまりこの膜って、ジアノドラゴンの胃袋の組織で形成されてるって事なの?」

「そう。何でもかんでも喰らう生き物だから、胃は丈夫だよ?それこそ剣とかで

 貫こうとしても、半端な力じゃ全く通らない。抜群の弾力性と耐久性を実現。」


説明が、途中から通販番組みたいになってるよ。


「…じゃあ、あの出入り口って…」


我に返ったらしいリータが、あたしが出入りしたあたりに目を向けて呟く。


「つまり、心臓の弁みたいなものってこと?」

「やっぱり分かったでしょ?」

「まあ…」


そりゃ、元は検死官だからね。人体の仕組みには詳しいでしょうよ。

本人、分かったからって嬉しくないだろうけど。


「ちなみにあの開閉のシステムは、完全な反射行動として設定してるよ。だから、

 仮にあたしが寝てたとしても、叩けばちゃんと機能する。」

「誰かに外から叩かれたら、自由に入って来られちゃうかも知れないじゃん。」

「もちろんそれも大丈夫。」

「なんで?」

「あなたたち2人の体組織情報は記憶してるから、もし他の生物が触ったとしても

 いっさい反応しないように設定してる。」


まさかの生体認証自動ドア。

ハイテクと呼ぶにしては、あまりにも斜め上にぶっ飛び過ぎてるけど。


「…なるほど…」


リータは、唸るようにそう言って黙ってしまった。どうやら圧倒されてるらしい。

だけどあたしは、ツッコミ役を放棄するわけには行かないんだよ!


「じゃあ、通気は!?そもそもそれがクリアできてないと…」

「クリアしてるよ。」


そうですか。

降参。


「あなたが大きなヒントをくれたでしょ?」

「何だっけ…」

()()()()()ってフレーズよ。」


ええっ?

ただのキャッチコピーなんだけど…


「説明したように、この膜はあたしの体の一部として生きている。だから当然、

 細胞のひとつひとつが呼吸しているのよ。それを利用すれば、中と外の空気を

 穴を開けずに循環させるのは簡単だって事。」

「…なるほどね。」


言葉通りの()()()()()、ですか。恐れ入ります。

中が暖かい理由も分かった。要するに、タカネ自身の体温ってわけだ。


いやはや、ドヤるのも無理ないわ。


=====================================


総評のお時間です。


「で、どう?」

「「………」」


即答はできなかった。

概念で見れば、昨夜の鱗ハウスとあんまり変わっていない。むしろ、ドラゴンに

食べられた感はこっちの方がリアルかも知れない。何たって胃袋だし。

だけど、そのあたりの堅苦しい常識は捨てるのが、あたしたちの旅の信条だ。


問題なのは、どうやって作られているかじゃない。

居心地が良いかどうか、それだけ。


結論。


「文句なし。」

「同じく。」


こんな快適な空間に、誰がいちゃもんつけるかっての!


「よろしい!!」


過去最高に、タカネはドヤった。



住宅問題、これにてクリア!!


=====================================


さすがに、今日はいろいろあり過ぎた。もう寝よう。


寝転ぶと、床暖房みたいなふんわりとした暖かさが身を包む。もう布団いらずだ。

外は真っ暗になっていた。それでも、ほんのかすかな星明かりが室内を照らす。

ああ、まさにキャンプって感じだ。

今夜は、ゆっくり寝られそう。

リータはもう、かすかな寝息を立てていた。


「お手柄だね、タカネ。」

「でしょ?」

「だけど、これ胃酸とか出てこないよね?寝てる間に…」

「ないない。安心して。」


軽口を叩いたあたしは、小さく笑って目を閉じた。


「あ、でも…」

「ん?」

「拓美って、食べちゃいたいくらいに可愛いから、あるいは…」

「やめてエェッ!!」


ブラックジョークにも限度がある!!



忙しかった一日は、笑えないネタで幕を下ろした。


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