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骨身を惜しまず、挑め新世界!!  作者: 幸・彦
第五章・暮らしのアイディア改革
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快適な暮らし・10

食べながらじゃきちんと説明できない。

晩ご飯の後半は、けっこうな巻きになってしまった。ゴメンね。


というわけで、星明りの下での寝床開発会議です。

輝光石ランプの明かりが、いかにもキャンプって感じでテンション上がる。


「ああなるほど、レジャーテントね。」


タカネが、納得したような声で言った。


「言われてみればそういうのあるよね。あたしもすっかり忘れてた。」


いやいや、元AIが忘れるって何よ。限りなく人間に近づくのはいいんだけど、

そんなしょうもない欠点まで踏襲しないでよ。…まあ、それはいい。


「そもそもキャンプなんだから、いちいち建物として形にしようとする考え自体、

 常識からずれてたって事。できる事が多過ぎると、逆に見えなくなっちゃう。」

「なるほどね。」

「ええっと、それでその、レジャーテント?…ってどういう物なの?」

「平たく言えば、布でできた折りたたみ式の家よ。」

「………うん?」


リータには、根本的に想像できないらしかった。

幌のかかった鳥馬車があるんだから、おそらくテントに似た物はあるはずだ。

ただこの世界、本当の意味での「野宿で連泊」という機会があまりないのである。

ベズレーメの街からランカ河越えまではひたすら人目を避けていたし、積極的に

野宿をするか夜通し走るかだった。だけどそれは、あたしが非常識だったからだ。

普通の街道なら、簡易宿泊用の小屋というのはけっこうたくさん設置されている。

そんな立派なものじゃないけど、野宿なんて雨露や獣をしのげれば充分なんだから

国も積極的にそういうのを整備するらしい。盗賊の根城になったりもするけどね。


電車や車がなく、一日の移動距離がそれほど稼げない分、そういう点のインフラは

逆に充実しているのである。もちろん、ちゃんとした宿がある村もかなり多い。


未開の荒野を何十日も旅するのは、本当に限られた人間だけだ。そういう人たちは

ものすごくタフか、ものすごい大荷物を持っていくかの二択になる。

趣味としてのアウトドアの概念が生まれるはるか手前なんだから、仕方ないよね。

まあそんなわけで、どうやってテントを作ろうか。


「タカネ、テントのデザインとか、データとして持ってる?」

「あるよ。はい。」


相変わらず、手品のように虚空から何かを取り出すタカネは不可思議な存在だ。

慣れた手つきで、テーブルに並べられたのは…


「…うん?何これ?…カタログ?」

「す、透けてる紙…!?」


レントゲン写真みたいな透明フィルム状のシートに、図面がプリントされている。

今となっては涙が出るほど懐かしい、日本語で説明文が書かれていた。

書かれた文字が読めないであろうリータは、むしろシートの透明さに感動してる。


「こ、これどんな素材!?」

「ジアノドラゴンの横隔膜。それをA3サイズにして、データをプリントした。」


横隔膜なんかい、これ。聞いただけでしゃっくり出てきそう。


「なんで透明?」

「生々しい色は嫌でしょ?」

「ああ、うん。」

「だから色素を抜いた。けど、真っ白にはできないしね。」

「なるほどね。」


そんな部分に凝るより、透明でもいいからさっさと出そうって判断なんだろう。

思いがけず、すっごく地球文明的なものを目の当たりにした気分だ。


「ああー、なるほどね。自立させてその中に入るって構造なのか…。」


素材への興奮が収まったらしいリータが、プリントされた図面を見てつぶやく。


「確かにこれなら簡単だし軽いし、持ち運びも容易なんでしょうね。」

「そう。お金のない旅人の必須アイテムだったよ。」


モノを調べる仕事に就いてた人は、さすがに理解が早いし話も早いね。


「…だけどこれ、相当強い布が必要でしょ?」

「そうよね。だけどこの…」

「しかも、密閉するなら通気性も必要になるし。」


通気性?


自分の着ているボディスーツを開示しようとしたあたしは、そこで固まった。

何かを出そうとしていた傍らのタカネも、同じように不自然に硬直している。


そうだった。


生き物は、呼吸をしなければ生きていけない。果てしなく当たり前の大前提だ。

通気性というものをまるっと無視できる体質に加え、仮に心臓が停止していても

細胞に酸素を送れるというデタラメ能力のせいで、その前提まですっぽ抜けてた。

ダメだ。考えれば考えるほど、自分の人間離れをいちいち痛感するばかりだ。


「そのへん、どうするの?」

「うーん、と…」


この世界の夜は危険だ。

密閉できない、あるいは鍵をかけられない状況で眠れば、何かに襲われる可能性は

かなり高いと言わざるを得ない。今まではごり押しでそういうのを避けてたけど。

ちゃんとした方法で野宿をするなら、やっぱり空間の密閉は必要不可欠な要素だ。

その点、昨夜の鱗ハウスは鉄壁の防御だった。あれなら軍隊に襲われたとしても、

昼まで寝ていられただろう。パーツに隙間があったから、通気も問題なかった。


チラッと目を向けると、予想通りタカネは目が泳いでいた。

いい加減、彼女の思考パターンも分かってきている。今この瞬間、どんな障壁に

ぶち当たって悩んでいるのかも。


さっきの横隔膜もそうだけど、きっとジアノドラゴンの体組織の何かを布として

現出させるつもりだったのだろう。しかし言うまでもなく、臓器の壁に空気孔が

都合よく開いてるわけがない。うかつに開ければ、強度がダダ下がりになる。

第一、穴の開いた布でテントなんか作ったら、雨露をしのぐ目的が果たせないよ。


いくら何でも、ジアノドラゴンの体のパーツでファスナーは作れない。だから、

開閉はもっとシンプルかつ安全なものにしなくちゃいけない。昨夜の反省から、

誰でも気軽に開けて出て行けるという機能も必須だ。


「うーん…」

「……」


参った。

行き詰まった。


タカネが黙り込んでしまった以上、何とかあたしかリータでとっかかりだけでも

見つけないといけない。そうしないと、話が進まない。

テント、いい案だと思ったんだけどなぁ…


「お茶入れてくるね。」


感情の抜け落ちた声でそう言ったタカネが、カタログシートを手に立ち上がる。

ああ、処分しに行くんだなと直感で分かった。まあ、地球のテントの設計概念じゃ

役に立たないもんね…。

残されたあたしとリータは、ほぼ同時にため息をつく。


「あたし、余計なこと言っちゃったかな。」

「いやいや、致命的な見落としだったからさ。」


気付かなかったら、下手すると窒息死してたんだよあなた。


「やっぱり、何もかもジアノドラゴンで賄おうって考え方に無理があるよね。」

「そうかもね。」


だけど、ここで認めてしまうのは何となく癪だった。

今言ったとおり、()()()()()()のは絶対に無理だ。そこまで都合よくは考えない。

それでも、テントごときで白旗を揚げるのは、どうにも負けたような気がする。

常識というものを無視した創意工夫こそが、あたしたちのモットーだったはずだ。


常識を無視するのは人間らしくないって?

うるさいな。

人間は考える生き物だ。こういう時に知恵を絞れるからこその人間なんだよ。

持ってる力を最大限に応用して、何が悪いってんだよ。


…誰にキレてるんだか、あたしは。


そうこうしてるうちに、タカネが席に戻って来た。

出されたお茶を手に取りながら、あたしは過去の記憶を辿る。


「呼吸、ねえ。そう言えば…」


いつだったか、ネットか何かの広告で見た、キャッチコピーが頭に浮かぶ。


「建築会社の宣伝文句にあったなあ。」

「どんなの?」

「呼吸する家、だったっけ。字面だけみると、けっこうなホラーだよね…。」


確か、通気性の高い建材か何かの宣伝だったと思う。もうあまり憶えてないけど。

エコロジーが声高に叫ばれていた時代の…

不意にタカネが勢いよく立ち上がり、あたしの回想は強制終了になった。


「それ、いいかも。」

「え、何が?」


何となく喋っていたあたしは、突然の言葉の意味がよく分からなかった。

我ながら間抜けだった問いかけに、タカネはにやりと不敵に笑う。

あ。

これは何かアイディアを考えついたな?


よし、聞こうじゃないか!

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