黄
飯田神楽は瞬く間に人気者となった。
何処か幼さの残る美少年顔に、中性的な高めの声。
彼は転校してわずか2日で莉粘と同等かそれ以上の人気を誇っていた。
「飯田ってすげぇなぁ………俺もあんな感じにちやほやされてみたいなぁ………」
「下心丸出しだなアホ。俺はいっつもうるさくて仕方ないのに。」
いつものように刹那の机の周りに集まり話す琉と光輝。
光輝の斜め後ろの席に座る神楽のを囲むように女子達が集まり、騒がしいところが苦手な光輝は刹那のところに逃げて来ていた。
「これは…岩倉が妬きそうだなー!」
「あいつも複雑だろうね。」
「岩倉って、やけに目立つことに執着してるしな。俺はそあーいうの嫌い。」
光輝がそういいながら「んべっ」と神楽に向かって舌を出す。
彼のその姿を見て、琉と刹那は顔を見合わせて笑った。
「あっ、そうだ刹那!今日お前ん家に遊びに行ってもいい?」
「え?うん。別に構わないけど、今聖護いるよ?」
「マジで!?超ラッキー!去年の恨み晴らしてやるぜ!」
「今聖護さんいるんだ。なら俺も行こうかな。」
毎年格闘ゲームで聖護に負けている流は、今年こそ勝ってやろうと息巻いている。
それに光輝も加わり、放課後は皆で刹那の家に遊びに行くことになった。
次の科目の教師が入ってきて、クラスメイト達がちりぢりになる。
自分の席に座っていた刹那はぼうっと窓の外を見つめた。
そして、一週間後にせまったあの島へ上陸に思いをはせながら、静かに牢獄を睨みつけた。
ーーーーー
「オーイ刹那、かーえろーうぜー!」
「うん。」
いつものように一緒に帰る三人。
彼らが二階の廊下にを歩いているとき、突然人気のない教室から誰かの怒鳴り声がした。
「ーろよ!」
「ーと思うけど。」
三人は顔を見合わせ、視線を絡ませる。
聞きなじみのありすぎる声に、三人はこっそりと教室の中を覗き込んだ。
そして三人は揃って顔を歪めた。
「ーいで、ーよ!」
「でも、ーだし。ーでしょ?」
「それはっ……そうだけど………!」
中で言い争っていたのは莉粘と神楽だった。
だが、どちらかというと莉粘の方が一方的に怒りを神楽にぶつけているように見える。
怒りをあらわにする莉粘。神楽の方は三人に背を向けていて顔は見えないが冷静に聞こえる。
「これは莉粘の一方的な吹っかけだな。」という結論に至った刹那達はその場から去ろうとする。が、突然聞こえてきた単語に、ぴくりと(特に刹那と光輝が)動きを止めた。
「ー“技巧”なんだろ。そうじゃなくても、お前はー持っていた!」
そこで初めて神楽の声が聞こえなくなった。
刹那と光輝は唖然としていた。
(神楽が……技巧?)
(はぁ?……あいつ、何を根拠に?)
ぐるぐると思考が回転していく二人。
ただ一人置いて行かれた琉が、キョトンとした顔で二人と教室を交互に見ていた。
再び扉にへばりつくせつなと光輝。
状況の理解ができていない琉もとりあえず二人に倣うことにした。
「へぇ。ーこで?僕をーるのかい?」
「ーけど!でもーには十分すぎるー!」
「っち、肝心なところだけ聞こえない!」
光輝が鋭く舌打ちし、小さな声で毒づく。
刹那はただ無表情で中の会話集中していた。
「ーうなんだよ!お前がー俺の地位をーんだ!」
「僕は別にーよ。でも。」
突然、神楽の声がはっきり聞き取れるようになる。
三人は視線を絡ませる。
「口封じ、しなきゃ。」
突如ぞわりとする寒さの風が体を包む。
教室の中から風で机や椅子が飛ばされて壁にぶつかるような音がする。
三人は顔を真っ青にさせ、慌てて窓をのぞく。
そこには輝かんばかりの金色の光とともに、歯車だらけの、つるが巻き付いたボロボロの天翼を持ち、確実に空を飛ぶ神楽の姿があった。
三人は息をのみ、その場に固まる。
最後に彼らが見たのは、こちらを見つめる桃色に輝く神楽の瞳だった。
気がつくと、三人は学生玄関に立っていた。
刹那の家に向かう道のりの間、先ほどの出来事について、三人は一言も話せなかった。
「お帰りー刹那、と皆ーって、どうしたんだよ?!顔真っ青じゃん!」
出迎えた聖護が驚くほど、三人は疲れきっていた。
慌てて中にいれ、ストーブの前で暖かいコーヒーとココアを手渡すと、ようやく血の気が戻ってきた。
ふう、と一息ついた刹那達は、何事もなかったかのようにゲームを始めた。もちろん聖護は心配に心配を重ねていたので、確実に連勝しながら事情を聞こうとしたのだが、三人は「何もない」の一点張りで、聖護はとうとう諦めてしまった。
「っしゃ!光輝あとストック1~!」
「……………。」
「光輝、無言で連続攻撃してこないで。」
「はい、琉くんバイバーイ」
「おわぁぁぁ!?!?ちょっそれひっど!!おとなげなー!」
結局ゲームの勝敗は、無類の強さを誇り、刹那が3勝、聖護が5勝してこの日はお開きとなった。
帰り際、刹那は知香に頼まれていたSF小説を琉に手渡して、ひらひらと手を振る。
その時、背後から聖護の声がかかった。
「それで?なんで帰ってきたときあんなんだったの?」
「……………。」
聖護の問いに、刹那はゆっくりと振り向く。
そして声を出そうとしたが、なぜか音とならなかった。
驚く聖護に刹那は言った。
「こんな感じで喋れなくなるの。文字も無理。徹底的に口封じされたみたい。」
「!?ま、さか、………“技巧”!?」
コクりと頷く刹那を見て、今度は聖護が真っ青になる番だった。
刹那は聖護を残して、脇をすり抜け自室に戻る。
今だ固まる聖護に「ご飯できたら教えて。」と言い残し、ステップに足をかけた。
ーーーーー
『ふぅ、疲れたぁ……』
『あの姿になるのはやはり、力を使うのですね……』
暗闇で声がする。
若い男と女性の声。
『とうとう明後日。時というものは早いものだね。』
『もう、そんな時なのですね……ようやく、このお役目から解放される………』
女性のその言葉に、男性にしてはやや高めの声の彼が言った。
『それって、今の立場が嫌だ!ってこと?』
『いいえ。私にはこのお役目は重すぎるのです。ですから、早くあのようなものがなくなってしまえばいいのです。』
『あははっ!やっぱり面白いよね!』
楽しそうな笑い声がガラスドームに反響して響く。
女性の人影が右手に丸いガラス球を浮かべ、小さなため息をついた。
ぼんやりと光輝くそのガラス球をのぞき込み、男性の人影が言う。
『………なんで、いちいち記憶を戻すの~?めんどうでしょ。』
『もう一度、己の罪を苛ませるためです。もちろん、ここの記憶は取り除いて栄養にさせています。』
女性の話を聞きながら、男性はつん、とガラス球をつつく。
ふわりと浮かぶその球は、怪しげな光を保ったままどこかへ消え去った。
『ところで、あの子の様子はどうですか?』
『んーと……今ちょうど"生まれた"ところだよ。』
『ああ、あの日………』
どこか遠くを見つめる女性の人影。
それに倣うように、男性の人影も天井を見つめた。
やけに黄色く光る月が浮かぶ、幻想的な夜だった。




