8.見習い将校ミリア、またとない機会を掴み取る
ダンツィヒ残党が都市を手に入れた頃、神聖帝国と共和国同盟の間では緊張が高まっていた。国境には両軍とも主力が展開され、いつ戦争が始まってもおかしくはない状態であった。
ある日、共和国同盟側で前線から少し後方で動員されてきた兵士の訓練が行われていた。
いつ始まるか分からない戦争に備え、多くの兵士が訓練していたのだが、未だ兵器の扱いに慣れないものが多い故に、事故は起きてしまった。
メンテナス中であった火薬式野砲を誤って暴発させてしまったのだ。砲弾はメンテナンスをしていた兵士を貫き味方の陣地へ着弾、多くの死傷者を出した。
これに対し共和国同盟は神聖帝国による砲撃であると主張、即時に武装解除し賠償金を払わなければ宣戦布告すると発表した。勿論帝国が呑む訳が無く、回答期限であった1日後に共和国同盟は神聖帝国へ宣戦布告を行った。
同時に前線では激しい戦闘が開始され、前戦争で用いられた魔導兵器も用いられた。
空では魔導船同士による空戦が行われたが、ダンツィヒの残存魔導船を接収した帝国側が量的、質的共に上回っており、1週間もすると空は帝国のものとなった。
制空権を失った共和国同盟側は魔導船からの激しい砲撃とそれと同時に押し寄せてくる帝国軍に前線の一部を突破されてしまう。
すぐさまに穴を埋める事には成功したものの、じわりじわりと前線が後退していった。
「我らが同盟軍は帝国の前線を突破できるのではなかったのかっ!故に宣戦布告を行ったのであろうがっ。なのに現在の戦闘での敗北はどういう事だっ!貴様ら軍はどう責任を取るつもりなのだっ!」
日が完全に暮れた頃、共和国同盟盟主国、ポーレン共和国首都クラカウの中心に位置する建物で一人の男が怒り狂っていた。
彼の名はボレースワフ・ピェールフシ。ポーレン共和国の首相である。
「首相、落ち着いてください、まだ打開することは可能です。我らが同盟軍を信用ください」
首相をなだめるこの男は同盟軍最高司令官、ヤン・ソビェスキ元帥である。彼は前大戦において、幾度も数的不利な状況で勝利し、英雄と謳われた人物である。
「早急に戦争を終わらせる必要があるのだ!たった一日戦争をするだけでどれほどの金が飛ぶか知っているのか。貴様らは魔導船による綿密な地上支援とやらであっという間に帝国を降伏させることが出来ると言っていたではないかっ!だからこそ開戦を許可したのだぞっ」
「首相、起こってしまったことはもうどうしようもありません。今は同盟国内に侵入している帝国軍に対し如何に対処するか説明させていただきます」
「……分かった。話してみろ」
こうしてクラカウの夜は更けていった。
「共和国同盟が神聖帝国に宣戦布告しただと?エーミール、それは確かな情報か?」
「はい、閣下。確実な情報です」
ミリアは地下施設の中央部に作られたばかりの司令部にて驚愕した。
「共和国同盟も学習という事をしないのか……前大戦であれほどの死人を出しながら勝利できなかったことを覚えていないのか」
「まったくです、しかしこれは私たちにとってまたとない機会になりますね」
「その通りだ」
ミリアは大きく頷く。
「現在私たちの目標は付近の都市国家を統一することである。しかし一気に戦争を仕掛けてると大国が介入してくるリスクが高い。そのために今までは少しずつしか潰していけなかったが……神聖帝国、共和国同盟の2大国が動けない今は急速に勢力を拡大することが可能となる。まさに天から与えられし幸運だな」
「では、今すぐにでも動きますか?」
「いや、しばらく戦況を観察してから動こう。万が一の事に備えるべきだ」
そして開戦から3か月後、戦線は完全に膠着していた。
神聖帝国は共和国同盟内にかなり侵入したものの、現在では地の利で勝る同盟国軍を突破できずにいた。また同盟国の魔導船を駆逐した帝国軍の魔導船も、同盟国が急遽魔導船から流用し設置した対空魔導砲により、少なくはない数が落とされており、容易に出撃出来る状況では無かった。
しかし共和国同盟側も少なくない兵力を失った今、反抗作戦を行う余裕などなかった。
「やはり膠着したか……よし、これで2大国が介入する可能性はほぼ零になった。これで気兼ねなく攻撃が出来る」
司令部にてミリアはニヤリと笑い、残存する勢力のうち最も大きな勢力であるミュンヘン同盟に対して宣戦布告を行うよう命令した。
文が少なくて申し訳ありません。一応何とか書くことが出来ました。
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