7.見習い将校ミリア、都市を手に入れる
艦隊が地下採掘所に着いてから早1か月。
ミリアは悩んでいた。
現在、地下居住区及び地下作物栽培施設を拡大中である。工事は順調に進み、ダンツィヒから逃れてきた人は徐々に自分の家を持つようになっていた。
また、避難民の中の技術者が集まり工房を建設、少しずつ小型の魔導機械の生産も始まっていた。魔石や金属が採掘でき、食料も栽培できるこの地下施設に、人々は確実に順応し始めていた。
では一体ミリアは何を悩んでいたのか。それは如何に帝国へ復讐するか、そのためにどう行動すべきか、である。
このまま地下施設で暮らしていっても確かに生きてはいける。しかしそれでは帝国に復讐しようがない。彼女は誓ったのだ、帝国を血祭りに上げてやると。
ミリアは帝国に復讐するための第一歩として近隣都市国家の乗っ取りを考えていた。現状では余りにも人が足らないからだ。
この地下施設の付近には森が広がっているが、そこから少し外に行くと平原が広がっており、無数の街が存在する。それらはそれぞれが自治を行っている都市国家であり、日頃から小規模な戦いが起きている。そこでどさくさに紛れてどこかの都市国家を乗っ取ってしまおう、というのだ。
現在、いくら弱体化したとはいえ最新鋭の軍艦を所有するダンツィヒ軍はそれら都市国家に対し圧倒的な戦力を持っている。よって落とすのは簡単なのだが、如何せん我らは数が少ないため、まともに占領し続けることが困難なのだ。
その為にミリアは、悪辣な統治者によって抑圧された民を開放することにした。勿論それは建前で実質的にはダンツィヒに併合するのである。しかし民の待遇を改善したならば、少数でも統治することが出来るだろうとミリアは考えたのだ。
ミリアは計画にぴったりな都市国家を既に見つけていた。
軍の拡大により増税を繰り返し、民衆からの反発か強まっているローゼンハイムという都市国家である。
さていざ計画を実行しようか、というところまで来ているのだが一つだけ問題がある。
この辺りにダンツィヒの残党がいるという事が帝国や共和国同盟といった大勢力に知られてしまう事である。彼らはダンツィヒの技術を欲している。故に、本国を失ったミリア達は彼らに狙われているのだ。
「エーミール、君はどう思う?攻撃すべきか中止すべきか」
ミリアは正式に副官となったエーミールに問う。
「閣下、こんな言葉があります。『やらなくて後悔するよりも、やって後悔したほうがいい』私は攻撃すべきだと思います。」
ミリアは頷く。
「そうだな……どうせならやってから後悔しようじゃないか。ブリュンヒルドの船員に召集を掛けろっ!我らはこれよりローゼンハイムを攻撃する」
ローゼンハイムを一人の男が歩いていた。
彼は今日職を失ったばかりだ。もともとパン職人だった彼は、重税が課せられたせいで店の売り上げが下がりクビになってしまったのだ。
「なんで俺がクビにならなきゃいけないんだ。必死に修行してようやくまともに暮らせるほどの賃金を得たと思ったのに……なんで今更」
男は思わず愚痴を漏らす。
「くそっ、どうせあの城に住んでる奴らはさぞ良い生活をしてるんだろうな。……あんな城なんて吹き飛んでしまえ!」
そう男が言った瞬間。
ローゼンハイム城は爆発した。
「さすが大口径魔導砲、威力がこれまでのとは違うな。しかしまさか城を一撃で崩壊させるとは」
ミリアはブリュンヒルドの予想以上の魔導砲の威力に驚いていた。
「閣下、統治者を文字通り消し去ったので地上に降りましょう。そして民衆の開放を宣言するのです。」
「そうだな……しかし私がしても威厳に欠けるな。エーミール、君に私の代理で勝利宣言をしてもらおう」
こうしてローゼンハイムの街はミリア率いるダンツィヒ残党に占拠された。
一つの街を手に入れたことで随分とダンツィヒ残党は楽になった。非常に少なかった人的資源は一気に3~4倍近くに増大し、生活必需品の生産や魔導機械の製作などに多くの人を割けるようになった。ここまではミリアの想定内だったのだが、予想に反して周囲のいくつかの都市国家が恭順を示してきたのだ。どうやらたまたまローゼンハイムにいた商人が、城が一撃で破壊されたのを目撃し周囲の都市にその情報が広まったようだ。
ダンツィヒ残党は恭順を快く受け入れ、防衛をしてもらう代わりに一定の富を渡すことを相手に認めさせた。
こうしてダンツィヒ残党は人的資源とある程度の資金源を手に入れたのであった。
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あと作者が高熱を出してしまったので今日は一回しか更新できないかもです...<(_ _)>