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53.最後の仕事

「......昨日はよく眠れたわね」

4月30日、朝。

総統ミリアは可愛げなメイドの裸体を横に、久しぶりの目覚めの感覚を味わっていた。

未だにすぅすぅと眠る彼女をやや後ろ髪をひかれつつも起こし、どうにかベッドから立ち上がる。

「……今日は最後の仕事をしなくちゃね」

そういうと彼女は閣僚を会議室へと集めるよう命令した。



「で、総統。話とは何でありますか?」

そう聞く閣僚らの顔は絶望の色で染められていた。

「最早これ以上の戦闘に意味は無いわ、降伏しようと思います」

「な、なんですと。ベルンが落ちてもまだ我らは戦えますぞ!どうせ共和国同盟軍に降伏してもSPRSS党員と言うだけで即処刑です、せめて一人でも多く奴らを道ずれにして地獄へと行きましょうぞ」

「いいえ、これ以上罪のない市民の死人が出るのを私は望みません……まあ今更と言ってしまえばそれだけですが」

「……総統の意思には従います。では具体的にはどのようにするつもりなのでしょうか?」

「貴方も聞いて事があるでしょう?前線の指揮官が降伏したら同盟軍の兵士に嬲り殺しにされたって。私は弱い人間だからそんな事には耐えられないの。だから自決する事を決めたわ」

彼女の言葉で、室内は凍り付く。


「本当……なのでしょうか?」

何分経った頃であろうか、副総統エッカルト=ユンガーが恐る恐る尋ねる。

「えぇ、本当よ。……話を続けるわね。そのために後継者、つまりは次期首相と大統領の指名を行うわ」

「了解しました、でどなたをご指名になられるのでしょうか?」

「まず首相にレオンハルト=ボルネフェルト、君を指名する」

「私ですか……有難く拝命いたします」

「そして大統領にはエッカルト=ユンガー副総統、貴方を指名するわ」

「了解しました」

「この二人には私の死後政府の管理、つまりは降伏処理などを行ってもらうわ。よろしいかしら」

「……勿論です」

「では私は少し遺書を書いてくるわ。最も無事に後世に残るとは思えないけどね」

そういうとミリアはメイドに肩を担がれながら自室へと戻っていった。



「こんなものかしら」

ミリアは筆を置き、一息つく。

「じゃあこの遺書は貴方に託すわね」

「わ、私でありますか!?」

「そうよ、中身は個人的な事しか書いてないしね。一晩を共にした貴方が最適だと思ったのよ」

そういうとミリアはメイドへと遺言の入った封筒を渡す。

「これを渡すべき方はいるのですか?」

「私には家族は一人もいないからね……前戦争で全員殺されてしまったから」

「そうだったのですか……私が一生守り抜きます。絶対に敵に奪わせません」

「……ありがとう、じゃああなたは逃げなさい。西側に逃げてバイエルン王国軍へと降伏するのよ」

「了解しました。……さようなら」

「ええ、さようなら」

メイドは部屋から飛び出して地下壕の出口へと向かう。

そして砲撃の雨が降る街を駆け抜けて西を目指すのであった。



「さて、もう思い残すことは無いわね。君、そこのワインを取ってくれないか?」

「これでしょうか……どうぞ」

「ありがとう。最後はこれを飲むのと決めていたのよ」

それはブルタニア王国産の899年ワインであった。

「生まれ年のワインは人生の最後にと、ずっと残しておいたからね」

「そうなんですか……グラスをどうぞ」

「あら、ありがとう。じゃあ頂こうかしらね」

ミリアはグラスにワインを注ぐ。

そしてそこに胸元のロケットから取り出した粉を注ぐ。

「私が死んだら魔導爆弾で塵一つ残らず消し去ってね」

「了解……しました」

閣僚の一人が頷く。

「それじゃあ最後は一人で過ごしたいから、退室して貰える?」

「勿論です」

そしてミリアは暗い部屋に一人になる。



「……さて、終わりね」

そういうとワインを喉へ流し込む。

「ふふっ、やっぱりブルタニアのワインは美味しいわ」

瞬間彼女はぐたりと体の力が抜け、倒れる。

そしてそのまま深い深い沼へと彼女の意識は落ちて行き、命の灯火は消し去られたのであった。


とうとう主人公死す。

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