50.終わりへの道
「それでね、あの子もとうとう好きな子が出来たんだって~」
「まあもう17ですからね、軍隊にいれば出会いも多いでしょう。でお相手は誰なんですか?」
「それがね、部隊の…」
「失礼します」
急に部屋にノックの音が響く。
「あら、何かしら。お話の途中なのに」
「実は陸軍総司令官が火急の用があると官邸に来まして……」
「それじゃ私もさっさと行かないとね。エルンスト君、お話に付き合ってくれてありがとう。それじゃ」
そういうと余りに細い体を引き摺るようにしてミリアは部屋を出た。
エルンストは女性兵士と共に部屋に残された。
「えっと……私はどうすれば?」
「もうお帰りいただいて構いませんよ。今日は総統閣下のお話に付き合ってくれてありがとうございました。閣下が私達以外に笑顔を見せたのなんて久しぶりですよ」
「そうなんですか……しかしあそこまで痩せ程っておられるとは」
「仕方ないのです。あまり大きな声では言えませんが……戦況が悪化し始めた時に丁度宰相を暗殺で失いまして」
「ええと、APの創設者の内の一人でしたよね。2か月ほど前ですかね、新聞で見ました」
「えぇ、そうです。余り表には情報を流さないようにしていたのですが……彼は総統閣下の恋人だったのです。それも10年以上付き合いがある。実はAP創設前からの付き合いだったそうですよ」
「そうなんですか……それであのように体調を崩されたと」
「はい、あれ以来総統閣下は心身ともに衰弱なされて……まるで10代の乙女の様に振る舞っておられます。私達にも随分と話し掛けてくださいまして……」
「なるほど……」
エルンストはふぅと一息つく。
「では帰ります」
「あ、ちょっと待ってください。ええと今日付けでエルンスト中尉は大尉に昇進となります。これが書類です。……じつは勲章授与の時にするべきだったのですが」
「いえいえ、問題ないですよ」
「配属は原隊復帰後に通達されるのでそれに従ってください。……あ、それと総統閣下の状態を誰にも口外しないでください」
「勿論ですよ……では」
エルンストは敬礼をし、部屋を出た。
ベルンから東方へ向かう汽車は、暗闇の中を掛けていた。
その客車のある個室の中に、エルンストは一人でいた。
左手には代用コーヒー、右手には古びた小説。
部屋の灯りは消され、窓から月の光が僅かに差し込むだけである。
彼はぼんやりと小説を読みながら、今日の事を思い出していた。
爆撃された街。
衰弱した総統。
そして町全体を覆う暗い、暗い空気。
「……本当に終わりか」
彼は呟く。
その顔には絶望でも失望でもなく、ただ終わりまで全てを理解し受け入れた、そんな悟りの表情だけがあった。
彼はコーヒーを少しばかり口に含む。
「……やはり不味い」
そう言いつつも、再び口を付ける。
幾度が飲んだ後、彼は空になったコップを備え付けのテーブルに置き、ベッドに横になる。
ベッドの中、月明かりのみで彼は小説を読み続けた。
何分経っただろうか、彼は既に夢の世界へと旅立っていた。
無表情な彼の寝顔。
そこに一粒の涙がツーッと流れた。
短めですみません<(_ _)>
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