43.休暇 1
「撃て!」
「敵戦車沈黙しました」
「よし、次の敵を狙え……って不味いっ!右旋回っ!」
戦車の側面を魔導砲が掠める。
その瞬間エルンストの戦車からも魔導砲が放たれ、敵戦車は爆散する。
「大丈夫か!」
「砲手問題ありません」
「操縦手も同じく」
「無線手もです」
「装填手は……大丈夫だな?」
「はい、何処にも怪我はありません」
「今撃ったのはいい判断だったぞ、アウレール」
「ありがとうございます」
「さて、もうそろそろ奴さんの数も減ってきたな」
「そうですね、攻撃をあきらめて撤退している模様です」
「ふう……とはいえまだ戦いは終わっていない、気を抜くなよ」
「了解!」
「無事に帰って来れたな」
「そうですね、少尉」
戦場から帰ってきたエルンストとアウレールは、2日前の晩と同じように戦車の上で月を眺めていた。
「……手が震えているぞ、アウレール」
「すみません……昨日、僕は何人殺したんでしょうね」
「そんな事を考えていたらキリがないぞ、それに君は今までにも砲手を務めていたのだろう?」
「そうなのですが……今日、始めて自分の手によって人が死ぬのを見ました。敵戦車の魔導炉が暴走して爆発したとき、近くに歩兵がいたんです。その歩兵は暴走に巻きこまれて下半身を失っていました。それで……死ぬ寸前、彼は確かに私をじろりと睨んだんです」
「気にし過ぎだ、アウレール。第一照準器越しだったんだろ?」
「そうですが……私は彼の顔が今でも目の前にはっきりと見えます。絶望したような、憎悪の感情を出したような顔でした」
「……暫く君は休みたまえ。気を紛らわすくらいしか対処法が無い。明日一日休暇を与えるからどこかに出掛けてこい。渓谷とかがおすすめだ」
「……ありがとうございます」
「そうだ、ついでに小隊員全員に休暇を出すか。折角の機会だし」
「だ、大丈夫ですか?」
「問題ないさ、結局戦闘には勝利したし文句は言われても処分はされないさ」
こうして第1小隊の隊員は貴重な休暇を丸一日得ることが出来たのであった。
翌日、朝。
「さて、僕も行きますか」
エルンストは歩きやすい服を着て、リュックを背負い軍用車に乗り込む。
「しかし少し休み過ぎかな……まあその分仕事をすれば問題ないか」
そう呟きつつ魔導炉を起動させ、アクセルを踏む。
独特の振動が車体を震わせた後、エルンストの体は座席へと押し付けられる。
彼は一人師団を離れ、近くにある渓谷へと向かった。
短めで申し訳ありません<(_ _)>
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